元々一発ネタのつもりだったのに何してんでしょうね。
しかもそんなときに水着回て。
いや、今回は前置きみたいな感じなんですけどね。
そして、わたしは観測する。
彼らが去った後の、封鎖の迷宮を。
「……」
「納得できませんか。ヴァイオレット」
この二名は、BBから生まれ出でたアルターエゴ。
ヴァイオレット――この階層の衛士であり、BBのブレーン。
ノート――未だ謎多き、アルターエゴで最も注意すべき存在。
そして、ノートによって人形と化しているサーヴァント・バーサーカー。真名は呂布奉先。
ラニ=Ⅷと契約したサーヴァントであり、死亡によるパスの断裂が原因でノートに奪われた。
「……完全なる世界。完全なる管理。彼らは、賛同してくれないのですね」
「ラニ=Ⅷの迷宮でそれは分かりきっていたでしょう。そんな今更の確認のために、私もSGを奪われたのですよ?」
「元より、私が頼んだことではありません」
「……貴重な宝具も一つ果てました。『
「貴女が適切な宝具を取り違えるとは思えません。それは“防御にも使える宝具”なのでしょう」
「まぁ、それはそうですが……奇襲という性質に特化した宝具です。防御に使えば、相手の奇襲を瞬時に解析、適した防御を行えるので、使いどころは間違ってません。ですが、聖女の旗のような、呪いの護りに特化した宝具ではありません」
『
聖杯戦争において一体のアサシンが所有していた宝具か。
その性質は奇襲。攻撃に使用すれば、相手の隙や弱点を見抜き、時に剣、時に槍、時に銃弾と変幻自在に形を変える宝具。
そして防御時の性能は、ノートの言葉の通りだ。
展開しておけば、呪いに対してでも、対軍相当の魔力にも、適切な形で対応出来る。無論、耐久力に限界はあるが。
「まあともあれ、貴女の目的に近付いたのでは?」
「そう、ですね……或いは、そうなのかもしれません」
ヴァイオレットの目的……?
一体それはなんなのか。
SGを彼らが取ったことに、関係しているのか。
「……選択は、重要ですよ」
「……分かっています。しかし、これは――」
「そうですね。それで上手く行くのであれば……私にとってもそれ以上はありません」
ノートは言葉と同時に、バーサーカーを泥へと変えて収納する。
これが、ノートの宝具の力。
英霊を黒に染め上げ、更に自身の元へと還元さえ可能とは。
「決断にはまだ、猶予があります。それまでは、“貴女”は“貴女”であれば良い」
「……そうあろうとは、思っています」
「しかし、そう
「此処で切るべき札ではないと……判断したまでです」
「そうですか。機会を考えるまでもなく終わらせられたでしょうに。そこまで貴女は……」
「行きますよ。次の迷宮の準備をしなければ」
「おや、何か準備が?」
「BBからの達しです。十七階は、彼らへの――」
「ああ、なるほど――」
意図的に論点を隠したような会話。
これ以上の観測は必要性が薄いと判断。
通常観測及び探索を再開する。
+
十六階の攻略を完了させた翌日。
いつものように生徒会室に集まって、ブリーフィングを行っていた。
「――という訳で、今後はハクトさんたちに何人か護衛を付けておいた方が良いと思います」
「そうだな。ヴァイオレットは相当の強敵と見える。今回も、二人の英霊の補助があってこその攻略だった。今後も必要かもしれんな」
ブリーフィングでの結論は、その一点だ。
十六階ではヴァイオレットだけでなく、ノート、そしてバーサーカーの襲撃もあった。
アタランテやジャックの補助がなければ、攻略は不可能だっただろう。
今後もそういった、不測の事態が起こる可能性は極めて高い。
「……ラニちゃん、大丈夫?」
「……はい。一晩考えを纏めて、落ち着きました。彼がノートの泥に呑まれたというのなら、それは救うべきです」
即ち――倒すと。
ラニは、かつて契約していた相棒への“最善”を導き出していた。
「
「心配はいりません、アサシン。しかし――貴女では彼との相性は最悪です。相手をしては駄目ですよ」
ラニは心配そうなジャックに微笑みを向け、その頭を撫でる。
ジャックは“特定の条件を満たした相手”に対しては圧倒的に有利なサーヴァントだ。
だが、あのバーサーカーはその条件を満たしていない。『
そのことはジャック自身分かっているのか、撫でる手を受け入れ心地良さそうな表情に変わりながらも、忠告にはしっかりと頷いた。
「それでは、今回は――」
レオがメンバーを見渡しサーヴァントの選出を行おうとしたとき。
「――ん?」
テーブルの上に、一枚の紙切れが落ちてきた。
とりあえず、一番近くの僕がそれを手に取る。すると、自動的に音声が流れてきた。
『あーあー、テステス。
どうも、旧校舎の哀れな子羊の皆さん。今日も今日とて元気いっぱい、真夏の夜の夢の後、BBちゃんです!
十六階での健闘お疲れ様です。やっぱりセンパイの悪あがきは見ていて飽きませんね。
そんな訳で、約束通り頑張ったセンパイのために準備していた水着イベントを解放しました!
サクラ迷宮十七階はそう! 海です!
今回ばかりは無礼講、私たちからのあらゆる攻撃行為、戦闘行為、その他妨害行為はありません。
センパイたち一組で来るのもなんですから、旧校舎の皆さんでどうぞ!
たっぷりイチャイチャ、たっぷりグサグサされてくださいね!
時には優しい小悪魔ヒロイン・BBちゃんより』
「……」
以上。BBの声とまったく変わらない文で手紙が綴られている。
水着。正直、冗談だと思っていたのだが。
「何それ、完全に罠じゃない。ちょっと見せて、ハクト君」
「あ、ああ」
半信半疑どころか疑いしかない凛に紙切れを渡す。
多分、何かこの紙に仕組みの一つでもあるんだろうと疑ってのことだろう。
暫く凛はそれを眺めて――呆れたような表情へと変わった。
「……? どうしました? ミス遠坂」
「…………これ、罠じゃないわ。こんな下らない紙に、こんなもの仕込んでくるなんて」
テーブルに投げっぱなされた紙切れ。特にそれに、変わったところはないが……
「
「……契約文か。確かに、こんなものに仕込む術式ではないな」
見たところ、凛とユリウス以外知っている様子はない。
すると、それを察したのか、凛は再び紙を手に取り、口を開く。
「書いた本人に破れない契約を刻む術式よ。ネットでの武器とか薬の違法取引で、取引相手の情報を明かしませんって形で利用されるわ。最も、これ自体違法術式だし、厳しすぎるって理由で最近は殆ど使われないけど」
「良く知ってますね、ミス遠坂。使ったことが?」
「ないわよ。私は信頼するスポンサーしか使わないもの」
どうやら、随分と物騒な術式らしい。
破ることが出来ない契約を結ぶ……
「その契約って……破るとどうなるの?」
「破れないのよ。どういう仕組みかは分からないけど、最悪次代にも縛りが受け継がれるって聞くわ」
なるほど……だとすれば、違法術式たる所以も納得できる。
自身だけでなく、その子や更にその子……と転々と続いていく契約。
場合によってはそれらの生涯まで束縛しかねないものなのだろう。
「ほぅ、
「そう……なんでしょうか。お母様の考えている事は、本当に分かりませんから……」
最早生徒会には疑いの色しかない。
さて、どうするべきかと考えていると――
『信じてませんね? ま、その警戒も当然だと思いますけど』
それを承知の上で設定していたのか、はたまた盗聴でもしているのか、BBの声が聞こえてきた。
『じゃあ、しょうがないですからそっちのサクラにこれを渡します。結構時間を掛けたんですから、ちゃんと楽しんでくださいって』
「え――」
再び声は途切れる。自然と視線は、桜に集まった。
「……サクラ、何が?」
「えっと……これは……旧校舎にいる全員分の、水着ですね」
「は?」
それは……BBが用意したという事か?
手を入れる場所が違うというか、なんでこんなところにそんなに力を……
「……
「ま、
「……時々、お母様の力の入れ所は間違いすぎてるんじゃないかと思います」
うん。全力で同意する。
ここまでしているという事は、やはり本気なのか……?
「だけど、時間稼ぎって可能性もあるわよ。やっぱり――」
『あ、それはないです。私、今ちょっと作業を中断して十七階にいるので』
「えっ」
『皆さんが水遊びに興じてる時に私だけ掘削作業とか、イジメにも程がありますし。という訳で、息抜きにはもってこいですよ?』
手紙に書かれていない言葉が出てくることを、もう誰も気に掛けている様子は無い。
ここまで露骨に娯楽を提供しようとする時点で怪しいのだが……
全員の疑心の色は抜けず、寧ろ更に濃くなっていく。
「……分かりました。BBがいるというのが気になりますが、一日くらい皆さんにも休息は必要です」
暫く考え込んでいたレオだったが、やがて一つ溜息を吐くと決断を下す。
「生徒会室を緊急モードに移行。迷宮十七階を旧校舎の状態と適応させてください。生徒会は今日一日、休日とします」
「本気? ってか、それ何の意味があるの? 休息ってのは別の問題として、そうまでしなくても迷宮には潜れるわよ?」
「“迷宮に潜る”以上観測が必要になるでしょう。それに、サクラやカレンが迷宮に潜って、以前のカレンのような問題が起きてもいけませんし」
「え!? い、いえ、私たちは別に……」
「良いですか。僕は『生徒会は休み』と言いました。サクラやカレンもその一員です。楽しまなくて、どうするんですか」
レオの言葉に返す手立てがなくなったのか、桜は肩を竦めて黙り込んでしまった。
「物好きですね。AIなど放っておけば良いものを。まあ、たまの休みですし、ありがたく頂戴しましょう」
一方でカレンは、なんら抵抗は見られない。
予想していたことではあるが。桜と違ってカレンはあまり職務を重視していない傾向にある。
レオはその答えに満足げに頷く。同じ役割を持ったカレンがあっさり肯定してしまい、桜は観念したように首を横に振った。
「……分かりました。では、迷宮内で何があっても良いように、健康管理AIとして付いていきます」
「お願いします。ミス黄崎、生徒会外の皆さんに声を掛けてきてもらえますか?」
「オッケー。遊びは人数が多い方が良いもんね」
白羽さんが部屋を出て行く。もう、すっかり休日ムードである。
「
「海水浴……海岸で遊戯に耽る娯楽ですね。きっと、ジャックは楽しめると思います」
「……
「そう……ですね、はい。楽しみます」
まあ、たまにはこんなことも良いだろう。
BBが何を企んでいるかは分からないが、楽しむべきことはしっかり楽しむべきだ。
「海水浴……」
「ん? メルト、どうかした?」
「いえ、なんでもないわ。今日くらい、楽しみましょう、ハク」
「……? ああ」
レオやユリウス、ダンさんは生徒会室のモード移行に移っている。
随分大掛かりな作業だ。しかし、三人がかりであればすぐに終わるだろう。
「ランサー、貴方は海で泳いだことは――ないわよね、当然」
「ああ。沐浴ならば経験があるが、それとは違うのだろう」
「全然違うわよ……ってか、それ脱げないわよね、アンタ」
きっとこれから始まることは、楽しいことに違いない。
そう信じていても――何となく、引っかかるものがあった。
「海、即ちビーチライブ! 腕が鳴るわね!」
「いたんですね、エリザさん」
「何よそれ!? 衛士じゃなくなった途端影薄くなるの!?」
というかそれは、BBがこんなものを用意した時点で想像して然るべきだったのかもしれない。
この決して安息できない安息の時間は――図らずも“彼女”との二度目の邂逅になるのだった。
『
ノートが頂戴した宝具の一つ。
普段は掌大の木馬の形だが、奇襲という性質に反応して変幻自在に姿を変える。
長い時間を掛けての奇襲作戦にも対応し、神話では巨大な木馬と化して兵士を収納した。
ギリシャ神話の知将オデュッセウスの宝具。
『
違法術式。書いた内容を契約として確定させる術式。
どっかの黒子が二度目の謀殺をされた際に有効活用されたアレの術式版。
『ゲッシュ』
誓い。誓約。禁忌。ケルト神話において、祝福を得る代わりに立てる誓い。
どっかの黒子とかその大先輩の猛犬の死因になった。
さて、二つほど今後出てこないだろう固有名詞が出てきましたが、特に進展はない回ですね。
小休止回みたいな感じ。
次回はまだ書いている途中ですが、なんかガウェインファンの皆さんすいません。
いや、CCCの彼なら平常運転か。うん。