Fate/Meltout   作:けっぺん

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お気に入りが二千件に到達していました。
記念に何かやろうかなと思いましたが、何も思いつきません。
本作オリジナルのプロフィール表でも活動報告に載せておきましょうか。


Foolish World Manager.-1

 

 

 翌日。簡単なブリーフィングを済ませ、今回の作戦を決定した後、僕たちは迷宮の十六階に潜っていた。

 衛士ごとに構造の異なる迷宮。

 ヴァイオレットの階層に来て、最初に目に入ったものは、壁だった。

 道に沿って続いている、石造りの高い壁。

 今までの迷宮は、道を踏み外すようなことは出来ないまでも見えるような壁はなく、遠目にルートが確認できるような構造だった。

 しかし、この迷宮は違う。壁はひたすら続いており、遠見の術式の効率が非常に悪い作りにもなっているようだ。

『これは……先の解析も骨が折れるわね。サクラ、負担は大丈夫?』

『はい……カレンとカズラの補助がなければ厳しいですけど、まだ大丈夫です』

 五階層よりも、空気が薄くなったような感覚。

 息苦しさというより……堅苦しさか。

「とりあえず、先に進んでみるか」

「ええ。衛士に会わないことには何も始まらないわ」

 周囲が見えないというだけで、随分とストレスが溜まる。

 エネミーは普通にいるものの――それらは以前十三階で見たような、耐久性に重きを置き、かつ規則的な動きをするようなものばかりだ。

 筋力値が平均よりも低いメルトでは一撃二撃で倒すことはできないが、それでも動きを良く見ればダメージを受けるほどのものではない。

 強いて言えば、ここまで迷宮を進んできてなんとなく分かったことがある。

 若干ではあるが、道が今までよりも狭い。

「っ……戦いにくいわね……」

 その差はサーヴァントの戦いにおいて、かなり大きなものらしい。

 早く広場に出れればと思うが、延々と狭い道が続いている。

 攻撃を避けるのが難しい以上、エネミーとの短期決戦が重要だ。

 弾丸で動きを止め、その隙にダメージを与える戦法で損傷を最小限に抑える。

『これで九体目か。随分と多いな。まだ衛士が顔を見せてすらいないとは』

『今までの迷宮と照らし合わせた限りでは、まだ序盤だが……』

 いつまで経っても景色の変化がない。行っても行っても、壁が続くばかり。

 もしかして、ずっと続くのではないだろうかという考えが浮かび、いつかの永遠の暗闇を思い出す。

 BBの生み出したエゴであるヴァイオレットならば、同じことをしても不思議ではない。

「……」

 あまり思い出したくない記憶だ。きっと、ヴァイオレットはそんな事しない。

 ようやく十体目のエネミーを倒す。その時――

 

『――ノルマ達成を確認。転移します』

 

「え?」

 ヴァイオレットの声が聞こえ、視界が瞬間的に切り替わった。

「これは……」

 壁があるのは変わりない。今までと同じような景色だ。

 だがすぐ近くに見えていた曲がり角が無くなったのが転移の証拠だ。

『――どうやら、一定数のエネミーを倒すまで先に進めない構造だったようですね。その先も、道が続いています』

「面倒ね……また倒せっていうの?」

 一定数エネミーを倒して先に進む。それを繰り返すフロアなのだろうか。

 だとすれば、この道の狭さでそれをし続けるのは大変だ。

 メルトの愚痴に賛同する――と。

『口答えは許可していません。ノルマ、一体追加します』

「は――?」

 またしても聞こえてきたヴァイオレットの声。

 ノルマを追加したとは……まさかとは思うが、今のメルトの言葉が引き金になったのだろうか。

「ちょっと。今のだけで増やすって何考えてるのよ」

『口答えは許可していません。ノルマ、一体追加します』

「話聞いてる? 貴女――」

『口答えは許可していません。ノルマ、一体追加します』

「いい加減に」

「メルト、ちょっと静かに」

 多分。いや、絶対にヴァイオレットは本気だ。

 このままでは、五分と経たない間にノルマが二倍にも三倍にもなってしまう。

 しかし……何故迷宮にノルマなんかを設定しているのだろうか。

 もしかすると、SGに関係しているのか?

「――ヴァイオレット」

『なんですか? 質問は制限してはいませんが、内容によってはペナルティを科します』

「何故迷宮にノルマを?」

『その疑問は不要です。ノルマはこの迷宮のルール。その他、出力の制限や宝具の真名解放禁止などのルールがありますので悪しからず』

「……破った場合は?」

『そのような思考は最初から存在しなくて良いものです。反骨精神が芽生えたと此方で判断した場合、進路の封鎖やルールの追加等も考慮しております』

 進路の封鎖か……先に進めなくなるのは問題だ。

 後付のものであれば、時間は掛かるが生徒会のバックアップで壁を取り除くことも出来る。

 だが相手はヴァイオレット。彼女はBBから絶大な信頼を得るほどの存在。術式の実力も相当なものだろう。

『貴方とメルトリリスは優秀です。今の貴方たちでは、八十点というところでしょう。しかし、それでは足りません。私は貴方たちを優秀を超えた、秀才にしてみせます』

 坦々と言葉を並べるヴァイオレット。その物言いに――何やら既視感(デジャヴ)を覚える。

 サクラ迷宮も序盤、ラニの迷宮で似たようなことがあった。

 ラニチェックと銘打った試練の数々を潜り抜け、それらを否定しきった先にSGを手に入れたのだ。

『どうも、どこかで見た感じですね』

『そうでしょうか。私はまったく覚えがありませんが』

『ホムンクルスって都合悪いこと忘れられるの?』

 どうやら当の本人は忘れたい出来事らしい。

 まあ、凛やラニにとっては衛士であったときの一連の出来事は黒歴史なのだし、それは今までの迷宮攻略で理解している。

 その対策として考えたものは一つ。

 決して言葉にせず、放っておくことだ。

『そうすることで、貴方はBBにふ――いえ。私が管理するに相応しい存在になるのです』

 そう言って、ヴァイオレットの通信は切れた。

『……やっぱり、衛士になっても変わらないわね。マスター(マネージャー)の頃からこうだったわ。オフの時間まで予定ギッシリ詰めてきてたもの。なんでもかんでも管理管理ってうるさいったらありゃしなかったわ』

「管理……管理願望か?」

『ハクトさんの記憶情報を削除します』

『いや、落ち着いてラニちゃん。白斗君真面目だから』

 その通りだ。此方は至って真面目である。

 何せ、SGが誰かと被っているという可能性がゼロである筈がないだろう。

 秘密というものは確かに多種多様だ。それは今までの迷宮――合計十五階分で被りが一切なかった事から明らかである。

 しかし、それでも一人ひとりのSGが完全に違うということもあるまい。

 誰かを管理したいという願望を持ってる人が一人とは限らないし、服飾を外すという癖を持ってる人が一人とも限らないし、自身の知識や実力を誇り誰かに示したいという願望を持っている人が一人とも限らない。

 勿論、ほんの一例だ。誰かを指している訳ではない。

 ――先ほどより、空気が薄くなった気がする。気のせいだろうか。

「っ――」

『ちょっとラニ、何してんの!?』

『……いえ、少し迷宮に送り込む要素を節約しただけです。今後大きな術式を組む際に誤差に表れるかもしれないので』

『そんな言い訳はいい、早く元に戻せ――』

 ……どうやら、ラニの善意によるものだったらしい。

 決して嬉しい善意ではない。そろそろ、思考の内でもラニをからかうのは止めておこう。

 ラニや桜は意識の上下での思考の変化に敏感だ。察されてしまったのだろう。

 

 

 この迷宮の道は、ノルマが定められておりそれを達成しない限りは永遠に道がループするような仕組みになっているらしい。

 生徒会室の観測によってそれを確認し、増えた分のノルマ数エネミーを倒し終えたのは三周目に入ってからだった。

『――ノルマ達成を確認。転移します』

「やっとね……長かったわ」

 ノルマが増えた原因はメルトにある気がするのだが、まあ言及はしないようにしよう。

 今までのエネミーを倒していた二つの道は、迷宮の東側と西側に形成されていたものだ。

 そして二度目の転移。迷宮の中央に位置する、壁のない開けた道に出た。

 ようやく見ることができた、迷宮の意匠。

「――鎖?」

 深い海。そして、その底に突き刺さる無数の鎖。

 ノートの宝具とは違う、冷たく凍りつくような感覚だ。

「来ましたね。貴方ならば、きっと問題はないだろうと思っていました」

 少し歩いて見えてきたシールドの前に、ヴァイオレットが立っていた。

「先程までのものは、ここに来るための試練のようなものです。貴方たちが定められたことをこなせるか。指示の内容をしっかりと理解して行動できるか」

 どこか機械的な無表情を貫いている事が多かったヴァイオレットだが、今の表情には微笑みが見えた。

 その穏やかな笑みは、先程まで散々にノルマの名目でエネミーをけしかけてきた相手とは思えない。

「それは――管理者として?」

「その通りです。私ならば、貴方を完全に出来る。いいえ、そうしなければなりません」

「……決まりね」

 いや……そうだろうか。

 確かに、このヴァイオレットの思考はラニのそれに酷似している。

 実際に対話していて、五停心観も反応していることから今の言葉にSGが隠されているのは明らかだ。

 しかし――何かが違う気がする。

 ラニの管理願望と決定的に違うことを既に一つ発見している。

 ラニの場合、彼女の指示や思考を否定する言動によって秘密が露呈した。

 指示を強制するような仕組みも迷宮になかったのは、否定されるとは考えていなかったから。

 そこがヴァイオレットと違う。ヴァイオレットの場合、否定を考慮に入れている。

 入れた上で――完全に禁止しているのだ。

「勿論、完全に賛同は出来ないでしょう。しかし、それでも構いません。私の管理下にいれば、自然とその思考はなくなっていくでしょう」

 否定したいのならしても構わない。

 その分、管理下における自由が減るだけ。

 管理を望んでいるわけではない。管理は彼女にとって、前提なのだ。

「どうしたの、ハク? SGは分かったじゃない」

「……いや、多分違う。まだ確信には至れない」

 怪訝な表情で首を傾げるメルト。まぁ……これはラニのSGとの相違点を探したことで至った考察だ。

 管理願望がSGであると思っていれば、その考えは浮かびもしないだろう。

「……仮に私のSGを取得したとしても、この体は本体です。逃げることは相当に困難だと思いますが」

「っ……」

 分身(エゴ)ではなく、本体――カズラと同じか。

 ここで手を出そうと考えているのだったら、SGを抜いてシールドを破壊してもそれで終わりではない。

 いや、生徒会の補助があれば、帰還は不可能ではないか――

「――不可能です」

「え?」

「帰還、即ち私の管理から逃れようとする行為。私は反骨精神に応じて対処をすると言いました。ならばそれを感じ取るために迷宮に仕掛けをしておくのは当然でしょう。この迷宮は、感情の機微に敏感です。貴方の感情の動きは、そのまま私に伝わります」

 読まれていた――?

 思考の内容を読み取るものではない。恐らくその機構で読み取れるのは、思考の分類だけ。

 それでも大きいか。ヴァイオレットは“管理”を徹底するため、あらゆる面から僕たちを追い込んできている――!

「ルール追加、外部からの転移及び術式を排除。これで、逃げるという気もなくなります」

『ッ……! しまっ……』

 坦々と、しかし確実に事を進める。

 そこに生じる隙は見当たらない。丁寧というレベルではない。細かいことからすべてが計算し尽くされている、ラニを超える完璧な策略。

 BBが最も信頼しているブレーンに相応しい詰めの徹底。

 此処で快進撃は終わり――BBが本気であることが否応にも理解できる。

「東西の道へのポータルは残っていますが、十五階(うえ)への道は塞ぎました。貴方が逃亡しようというのならば、十七階に下りれば可能性はあるでしょう」

 それは、僕たちに対するヒントではない。

 絶望的状況を理解させるための決定的な一言だ。

 十七階に下りるには、SGを取得し、前方に立つヴァイオレットを超えなければならない。

 それが如何に難しいことか。以前ヴァイオレットの能力を見ている以上想像に難くない。

 動きを停止させる魔眼。あれがある限り、逃げることができない。

 どうするべきか……手段がない訳ではない。だが、SGを掴まないことには動きようがない。

 五停心観の脈動は一体何を指しているのか。それを見つけるのが最優先だ。

 

「――絶体絶命……いえ、或いは楽園への誘いでしょうか。さすがの手際ですね、ヴァイオレット」

 

 SGは何なのか、定まらない考察に沁み込んでくる昏い闇夜。

「ノート――」

「はい。こんにちは、センパイ」

 床に広がった影から浮き出るように出現したのは、BBが信頼するもう一人のアルターエゴ。

 ラニのバーサーカーやアルジュナを倒すほどの凄まじい戦闘力を持ち、数多の宝具を武器とするノートだった。

「……どうやって此処に? 先程ルールを定めた筈ですが」

「はい。ですからその前に。貴女とセンパイの戦いが気になりまして」

 飄々とした笑みを浮かべるノートに対して、ヴァイオレットの表情は渋い。

「センパイに集中するあまり、気付きませんでした? 駄目ですよ。それでは足を掬われます」

「……貴女に言われるまでもありません。それに、BB(こちら)側である貴女ならば邪魔しなければ問題は少ない」

「そうですか。ならば良かった。邪魔なんてとんでもない。一応、お手伝いをするつもりです」

 まさか……ヴァイオレットに加えてノートまで?

 だとすると、それこそ手の付けようがなくなる。

 SGを取れても、先に進むのが不可能に近くなってしまう。

「それは建前でしょう。本当の目的を話しなさい」

「ふふ。つくづく抜かりのない人。ええ、話しましょう。私の“作品”がようやく完成しまして。それをセンパイにお披露目しようと」

「作、品……?」

 その単語は、何ら不思議でもない至って普通の単語だ。

 しかし、嫌な響きを感じる。直感で、この上なく不吉に思える――

「下らない。私への援助と関係があるのですか?」

「はい。必ずや(あなた)を護る守護者(ガーディアン)になりましょう」

 信用をしていないヴァイオレット。

 それを気にした様子も無く、ノートは此方にそっと右手を向ける。

「我ながら、とても良く出来ました。この出来には、きっとセンパイも感嘆しますわ」

 雪のように白い指先から、影が伸びる。

 糸ほどの細さ。だが、床に落ちると広がり、その後重力に逆らい昇っていく。

 二、三メートルほどの高さにまで昇ると、影は形を構成していく。

「一切手を抜かず、頑張って創ったんです。どうですかセンパイ、私の()()()は」

 影は形を形成すると、質量と色が加わっていく。

 ――見覚えがあった。

「ちょっと……これって……」

『何故……そんな……』

 メルトやラニの驚嘆。いや、ラニのものは悲嘆――その動揺は、全員共通のものだろう。

 変わり果てたその姿に、特徴的であった燃える炎のような鮮烈な赤色は一切ない。

 血のような濁り黒ずんだ赤色に染まった肌、髪、鎧、矛。そして、その上から全身を覆うように影の黒が蠢いている。

 狂気に溺れた双眸は更に堕ちていた。例えるならば、底のない血の海。怖気が走るほどの、信じられない狂気。

「――――バー、サーカー」

 かつて主を守り、その使命を全うした勇将・呂布奉先は、

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッ!!」

 全てを忘却し血に溺れ呼吸を止めて黒に化け――完全なる敵へと反転していた。




呂布「我、復活!」
という訳で、黒化呂布さんです。仲良くしてあげてください。
知らない方のために補足しておくと、黒化とはstay nightのHF(桜)ルートやプリヤで猛威を振るう闇堕ち形態です。
HFではバサカさんや騎士王さんが被害に遭われてます。
味方の戦力が増えたんだし、やっぱり敵も増やさないとね。


では、ここから下は外典の感想をつらつらと。ネタバレ注意です。



衝撃のラストでした。まさかああなるとは。
サーヴァントの脱落は、カルナさんとジャンヌ、シェイク辺りは予想通りでした。
モードさんはどう脱落するか想像も出来なかったですが、自分なりに王の在り方を理解しての綺麗な終わり方でしたね。
そして、結局大勝利はアストルフォとジャンヌが半分こみたいな感じですか。アストルフォは今後の作品群に出てきそう。
獅子劫さんの戦死は意外でした。なんだかんだで生き残ると思ってたのに……
衝撃が数多ありましたが、一番はフランちゃんの超大番狂わせですね。
「やっちまえ!! バーサーカー――――!!」
外典で一番の名言を選ぶなら、迷い無く私はこれにします。カウレス君の成長が見て取れ、フランちゃんとの関係を一言で表した最高の言葉です。
外典はこれで終わり。次はfakeですね。此方は買うのが少し遅れそうですが、必ず手を出したいと思います。

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