メルト「なんで貴女がそれ言うのよ」
カズラ「和服属性があるのは私だけなので」
メルト「私の立つ瀬なくなるわ。メインヒロインらしいことしないと」
カズラ「なら綿でも被ったらどうですか? 未年だけに。どこかの真祖も二年前にやってましたよ」
メルト「……」
カズラ「っと、お年玉の代わりに皆様に言伝がありますよ」
『 水 着 は ま だ で す 。 』
『……』
ヴァイオレットの冷徹な目は、此方を鋭く見据えている。
それは今度こそ、正真正銘の敵を見る視線だ。
『という訳で、衛士はヴァイオレットでした』
BBの紹介で、拍手喝采に包まれるスタジオ。それに対してヴァイオレットは一切反応しない。
『彼女のエゴは管理。あらゆる存在は管理の下に成り立つのです。管理の手から逃れた存在の末路なんて、皆さん、想像すらもしたくないですよね?』
そんな、誰にとっても必要な現象をヴァイオレットは司っているらしい。
カズラに教えてもらった情報を思い出す。
ヴァイオレットは、サクラメントや余剰魔力――月の裏側のリソースの管轄をBBから一任されているエゴだ。
恐らく、BBがエゴの中で最も信頼しているのが、このヴァイオレットなのだろう。
『そう、上には上がいます。そして、私は現在、頂点を目指してるのです。残念ながら今の私は最強ではありません。しかし!』
BBの表情には一切の不安が見られない。寧ろ、自信に満ちていた。
『ムーンセルを飲むことで、私は頂点に立つ! それは決して不可能ではないのです!』
高らかに宣言するBB。そして、ヴァイオレットはその結果を信じている。
なるほど、ヴァイオレットは確かにBBのブレーンだ。
BBはヴァイオレットを信用し、ヴァイオレットはBBを信用している。
そしてその信頼に足る力をどちらも持っているのだ。
『ヴァイオレットは貴方たちを管理する。ヴァイオレットを管理する私が最強になれば、貴方たちは太刀打ちする気すら起きなくなります』
「だけど、まだ至ってないなら――」
『ええ。センパイに希望を見せてあげると、可能性はあります。精々、頑張ってくださいね、センパイ。でも、私がせっかく作ってあげた娯楽を無為にしてはダメですよ?』
BBのそれは――心からの言葉か?
もしくは、時間を少しでも稼ぐための手段か。
後者であるならば、BBは焦りを隠しているという事だ。
出来れば、そちら側であってほしいと祈り――
『そ――楽し……』
『ッ』
不意に、BBの様子が変化した。
『わた……ここ――もうすぐでわたしわあのばしょえ――』
いつも付いていけないほどのテンションだったBBとはまるで違う。
言葉ではなく、単語でもなく、文字を一字一字纏まり無く発しているだけのような。
『そおすればわたしわ――さいご――はく――ゆ――』
「BB、何を――」
『BBっ』
焦りの色を表したヴァイオレットが声を荒げる。
それにびくりと体を震わせるBB。きょとんと、その首が傾いた。
『あ、れ……? 今、変なブランクありました? ヴァイオレット、映像乱れてませんでした?』
『……問題ありません。しかし、そろそろ終わらせた方が良いかと』
『そう、ですね。それでは、センパイ。今回はここでお別れです――と、その前に』
どうやら、BBは元の調子を取り戻したらしい。
僅かながら自分が安堵していたことに――疑問を持った。
BBとは敵同士だ。なのに、何故こんなことを……
『旧校舎の憐れな囚人の皆さんに朗報です――私は、勝利するでしょう。
BBの様子は、それでも少なからずおかしかった。
彼女に何が起きているか分からない。今の彼女が帯びているものは、どこか、とても深い――
『たとえ何が障害として立ち塞がっても、突破してみせる。あんな強いもの――強いだけ、なんです』
『BB、落ち着いてください。貴女は勝ちます。ですから、余裕を崩さないでください』
普段通り。しかし、決定的に何かが違う。
大きな真実に気付いてしまったような。それでも、それに相当する決意をしたような。
穏やかな声で諭すヴァイオレットに、BBが視線を動かす。
『ッ……ヴァイオレット……』
『少し、休息を取ってください。此処より先は、万全で挑むべき壁です』
『……少しだけ、休みます。センパイ、しっかりとヴァイオレットの迷宮で、彼女に管理されて、くださいね』
そんな、いつもと同じ悪戯心の篭った笑み。
此方を弄ぶような言葉を最後に、異質なBBチャンネルは幕を閉じた。
ジャックされていた視界が元に戻っていく。
皆の表情は硬い。それは、僕も同様だ。
BBの様子だけではない。BBの自信に不安を感じていた。
「……ムーンセル中枢の壁は、一体どれくらいの防御力なのかしら」
「……基本的に、メルト以外は立ち入り出来ないようになってる……筈だけど」
「ええ……踏み込むという概念が存在しない場所よ」
「……え? メルトちゃん、中枢にいた事あるの?」
白羽さんの疑問は、ある意味当然のものだろう。
サーヴァントは聖杯戦争をマスターが勝ち抜くための剣であり、言ってしまえばその時までの関係だ。
「サーヴァントの知識にあるものかも知れんが。優勝サーヴァントのみの特権だろうか。アーチャー、どうかね?」
「特に何も。ムーンセルに関する知識ってのは旦那が知ってるような常識と、ムーンセルを裏切るなって絶対命令だけだ。優勝特権だろうな」
「ああ、それは――」
これを話すべきかは迷ったが、皆が協力してくれる以上、出来る限りの情報提供はするべきだ。
まず始めに、僕の素性。
異常の発生したNPCが自我を持った存在であること。
故に、地上に本体はなく、聖杯戦争勝利後もムーンセルに残っていたこと。
そして、メルトについて。
ムーンセルに異常が知られ、消されるべき運命だった僕。
メルトがそれを助けてくれた。ムーンセルをドレイン能力によって超越し、消去の運命を否定してくれた。
「……は? え、何? どういう事?」
「えっと……どこか分からない部分があったかな」
「いや、サーヴァントがムーンセルを超えるって……」
「私の真骨頂は吸収にあるわ。ムーンセルとの戦いは力勝負よ。少しでも超えた時点で、ムーンセルは負けを認める。吸収能力と相性が悪かった訳ね」
皆が愕然としているのも当然だろう。僕も、メルトの力がそこまでのものだとは思っていなかった。
しかし事実、メルトはムーンセルのレベルを超えた。兆に届く数値に立つ、最強の存在にまでなっていたのだ。
「ぬ、しかしだ。今のお主は一介のサーヴァントのレベルであると思うのだが」
「その通りよ。月の裏側に来るためにサーヴァント階位を引き下げたの。裏側は観測していない以上、入る手段もないから」
「じゃあ、どうやって?」
「令呪による召喚と同等の命令を私自身に発動させたのよ。令呪命令が通用するように階位も下げて。抵抗すら出来ないようにレベルを出来る限り下げて、対魔力も返上。それでようやく月の裏側に
そういう事か……
サーヴァント階位を下げたメルトはid_esを再び失い、メルトウイルスはドレインスキルに格下げされている。
記憶が戻ったことで確認してみたが、ドレインスキルによって取得していたスキルはほぼ失っていた。
そして低下したステータスに加えて装備された拘束具が、メルトのステータスを初期化していたのか。
「なんか、色々訳が分かりませんが……ともかく、BBはその中枢に入る手段を持っているのでしょうか」
「そんな筈……でも、可能性はある。だから、あそこまでの自信を持ってるんだと思う」
だから、一刻も早く中枢に向かわなければならない。
今日は残りは休息に使うとして、明日からまた迷宮攻略に戻らなければ。
「ところで王様。私、そろそろ休みたいのだけど」
そんな心情を知って知らずか、メルトが要望を出した。
「っと、そうですね。では……早急に彼女の処遇を決定しましょうか」
エリザベートに目を向けるレオ。
そう、彼女の処遇について話し合っている最中だった。
「ハクトさん、彼女は、自身も認める悪です。それでも、助けるのですか」
「ああ。きっとエリザベートは変われる。僕はそれを信じてる」
「ハク、ト……」
それに、本来が悪であった存在が変われるという事を僕は知っている。
メルトやリップがそうであるように。
「――分かりました。ハクトさんを信じましょう。彼女の旧校舎での活動を許可します」
「ちょっ、レオ、本気?」
「はい、勿論。ミス遠坂とラニには頭の痛い話でしょうが。それに、ハクトさんの頼みであれば、彼女も断りはしないでしょうし」
レオはいつも通りの柔らかい笑みで、エリザベートの存在を容認した。
元々そのつもりだったのか、今までの話で変化があったのか。
凛とラニは複雑な表情だ。当然といえば当然だが、今回は許してほしい。
「私は……本来ならば反対するところですが。聖杯戦争でハクトさんの手助けをすると誓いました。ハクトさんが言うのであれば、私は構いません」
「ラニまで……はあ、分かったわよ。その代わり、アンタが何かしたら、私が承知しないからね!」
ラニが認めてくれたことで、ようやく凛も折れてくれた。
これで、エリザベートを拒む者は誰もいない。
「エリザベート、表側に戻るのに、力を貸してくれないか」
「で、でも、私は誰とも契約してないわ。魔力だってすぐに……」
「それは旧校舎のリソースで賄えます。サクラ、彼女にパスを」
「は、はい……!」
旧校舎内のリソースは表側ほどではないがサーヴァント複数の存在を許容出来るほどの容量はある。
エリザベート一人ならば、余裕があるだろう。
「パス、繋がりました。これでエリザベートさんは契約せずとも現界は可能です。戦闘や宝具使用ともなると賄い切れるか不安なところですけど……」
「その時はその時です。また考えましょう。それに、ヴァイオレットを突破すれば旧校舎のリソースに更に余裕が出来るかもしれません」
そうか……ヴァイオレットは月の裏側のリソースを管理している存在だ。
つまり、今の旧校舎のリソースも彼女に管理されている。
彼女を突破すれば、リソース量の操作も出来るかもしれない。
「これで、貴女を引き入れる準備は整いました。改めて、我々の仲間になってくれますか?」
「あ……ぅ……」
レオの勧誘にしばらく逡巡していたエリザベートは、
「しょ、しょうがないわね! いい、ハクトがどうしてもって言うからよ! 貴方たちに屈した訳じゃないんだからねっ!」
頬を紅く染めながらも宣言した。
レオやユリウス、ダンさんや白羽さんといった初めて見る顔が幾つもあるからか。
それとも凛やラニに対しての気まずさが残っていたりするのだろうか。
「はい。僕たちに屈しない貴女の強さは分かってますよ。ハクトさんのために、頑張ってくださいね」
「勿論よ! 全部私に任せなさいっ!」
「レオ……アンタ、乗せるの上手いわね」
自身ありげに胸を張るエリザベートを見て脱力した様子の凛。
確かに、エリザベートは単純だがその力は本物だ。事実、バーサーカーの宝具を模倣できなければ負けていた。
彼女は大きな戦力になってくれるはずだ。
「さて、では一旦休息としましょうか。ハクトさんとメルトさんは、ゆっくりと休んでください。エリザベートさん、よろしければ、部屋を用意しますが」
「その必要はないわ。ハクトと寝るから」
「えっ」
「えっ」
その後紆余曲折あり、十分ほどした後に個室へと戻ってきた。
決戦のあった一日はとても長く感じた。
しかし、これでまた表側に大きく近付くことができたのだ。
そして、皆は真実を知ってなお、協力してくれる。
十分に波に乗っているといえるだろう。勿論、それで油断することもないのだが。
明日に向けて、ゆっくり休もう。そう思っていたのだが、やはりそんな悠長さを許すほど神も甘くはないらしい。
「――出て行きなさい」
「なんで? ハクトが認めてくれたのよ? 貴女にどうこう言われる筋合いはないわ」
「貴女が勝手に言ったことでしょ。ハクはそういう事断れないのよ。それが短所であり長所なの。分かるでしょ?」
目の前では、今にも棘と槍がぶつかり合うキャットファイトが開始しかけていた。
結局どういう状況なのかよく分からないが、エリザベートがレオたちに遠慮して部屋の手配を断ったのは分かる。
それでこの部屋に来たのだろうが、そうだとすれば別にエリザベートを追い出す理由はない。
「ハクは内心嫌がってるわ。嫌われないうちに出て行くのが吉じゃないかしら」
「あら、そうなのハクト?」
「え……?」
いきなり話題を振られた。
別に僕はエリザベートがいても構わないが、寧ろどうしてメルトがここまで拒んでいるのかが分からない。
「私のことは嫌い……?」
「っ……」
徐にエリザベートは近付いてきて、上目で見つめてきた。
「ちょっ、ハクから離れなさい!」
それを止めようとするメルトだが、メルトの筋力ではエリザベートに遠く及ばない。
「嫌い、じゃないけど……」
「じゃあ、好きって事よね?」
「え、あー……」
ちらりとメルトを見る。
見なくても分かっていたが、視認することで殺意のような何かはよりはっきりと感じれるようになった。
……どう答えるべきだろうか。
安易な回答は危険だと第六感が警告している。
というか、どう答えてもダメだ諦めろと告げているような気がしてならない。
「……なんて、冗談よ」
「え?」
一人戦慄していると、エリザベートはくすりと笑って離れた。
「貴女たちの関係はさっきの大演説でイヤってほど聞いたわ。邪魔するのは、今はやめといてあげる」
「貴女……人をからかうのもいい加減に……」
「はいはい。じゃ、部屋を借りてくるわ。また明日ね、ハクト」
「あ、ああ……」
上機嫌そうに尻尾を揺らしながら、エリザベートは部屋を出て行った。
「……寝ましょ、ハク」
どうにも釈然としないといった風なメルトだが、大きく溜息を吐いてベッドに向かう。
依然エリザベートは良く分からない存在だ。一つ確信しているのは、随分メルトと似ている事くらいか。
同属嫌悪というものだろうか、と苦笑しながら僕もベッドに向かう。
ダメージが大きいことに変わりはないのだ。しっかりと休まなければ。
そんな訳で、あけましておめでとうございます。
今年も本作完結を目標に頑張っていきたいと思います。
外典五巻読みました。
感想は店頭販売一週間経過した次の更新のときに語ろうと思います。
とりあえず、読んでて最初に思いついたネタだけここに置いておきます。
↓ネタバレ注意:外典五巻の簡単なあらすじ↓
皆さんお待ちかね!
遂に
しかし怒りに燃える“黒”のアーチャーは、地球と人類の未来を懸け、最大最後のサーヴァントファイトをアキレウスに挑みます!
英雄武闘伝アキレウス『さらば師匠! “黒”のアーチャー、暁に死す』にレディー・ゴーッ!