Fate/Meltout   作:けっぺん

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三回戦開始。
結構短め。
タイトルがひらがななのは仕様です。


十六話『あんさつしゃ』

 

 生存の為の搾取。

 

 繁栄の為の決断。

 

 その行為は野蛮ではあるが――

 

 否定する事も、またできない。

 

 

 ……死の淵でこそ、得るものもあるだろう。

 

 

 +

 

 

 死を悼め。

 

 失ったものへの追悼は恥ずべきものではない。

 

 死は不可避であり、

 

 争いがそれを助長するのなら、

 

 死を悼み、戦いを憎み、

 

 死を認め、戦いを治めるがいい。

 

 

 +

 

 

 二回戦の翌日。

 拭いきれていない迷いと、恥じない戦いを、という決意を両立させながら迎えた三回戦の一日目。

 僕は、異常でしかない光景を目に映していた。

 廊下に倒れる、マスターたちの屍。

 奇妙な悪寒。

 サーヴァントを呼ぶ間も、構える間もない。

「ッ――!」

 何か、強い力に引っ張られるように後方に跳ね飛ばされる。

 壁に激突する、その瞬間視界が暗転する。

 そして、次に足を付けた場所は、どこか見覚えがあった。

 いや、間違いなく、昨日ダンさんと激戦を繰り広げた決戦場だ。

 恐らく、何か不正規(イレギュラー)な手段で転移させられたのだろう。

 ここが決戦場という事は、敵がいる!?

 ――気がつくと、目の前に「死」を体現する赤い男性が立っていた。

 凄まじい程の悪寒を奔らせるその姿は、暗殺者(アサシン)そのもの。

 だが、目の前のそれは通常のアサシンの様に、気配遮断をするまでもない。

 それをせずとも真正面からの激突で一瞬にして命を奪えるような技術を持っているのを確信した。

 今一瞬でも目を背ければ、命を絶たれる。

「――脆弱にも程がある。魔術師とはいえ、ここまで非力では木偶にも劣ろう」

 辺りに転がるマスターたちをゴミを見るような目で眺めながら、男性は低い声で呟く。

「鵜を縊り殺すのも飽きた。多少の手応えが欲しいところだが……小僧、お主はどうかな?」

 ゆっくりと男性は戦闘の体勢に移る。

 中国の武術を彷彿とさせる構え。

 それに対して、対処をする暇さえなく、男性の姿が一瞬にして近づいてくる――

 そして次の瞬間、ガキン、という音と共に、男性は元の位置に戻っていた。

 身体には何ら問題は見られない。

 どうやら無事の様だが、一体何が――

「ハク、大丈夫?」

 メルトだった。

 身体を安心感が包んでいく。

「――ほう、少しは気骨のあるものがおる。よく踏みとどまったな小僧」

 男性は構えを解く。

「時間切れとは興醒めだが、殺しきれぬのでは仕方ない。舞台裏ではこれが限度よ」

 そして、邪悪な笑みを浮かべながら男性は言う。

「お主とは、またいずれ()りあう事になるかもしれんな。楽しみにしておこう」

 

 

 そして気がつくと、元の廊下に戻ってきていた。

 だが、安堵するのはまだ早い。

 異常はまだ、続いていた。

 校舎内だというのに、漂うこの冷たい気配は――

「……その実力で、どうやって逃げ延びた?」

 漆黒。

 服から目、髪まで、その一色で身を包んだ男。

 この姿には見覚えがあった。

 仮初の学校生活で、葛木という名で教師の役を担っていた筈だ。

「ただの雑魚かと思ったが。上級のサーヴァントを引き当てたか、それとも爪を隠した腕利きか――」

 男は、その刺し貫く様な視線で此方を捉える。

 この状態では逃げられないと確信した。

「どちらにせよ、あの魔拳から生き延びたのだ……ここで始末するに越したことはない」

 そのとき、男の纏う雰囲気が変貌した。

 強烈な殺気は怜悧な刃物のように研ぎ澄まされ、ただ一点に向けられる。

 視線は此方の首を見据えている。

 一歩一歩近づいてくるそれに圧倒され、動くこともままならない。

 汗が一滴零れ落ちた、その時、

「――ふぅん。やっぱり貴方がマスターを殺して回ってる、放課後の殺人鬼だったのね」

 一筋の光が差した。

「……遠坂 凛か」

「あら、私の事はご存知なのね。さすが世界に誇るハーウェイ財団の情報網」

 凛は余裕を持って男の背中を見据え、男は背後を振り向かずにただ立っている

「それとも、ちょっと派手にやりすぎたかしら。ねぇ? 叛乱分子対策の大元、ユリウス・ベルキスク・ハーウェイさん?」

 男――ユリウスは薄い唇を歪めてかすかに笑う。

「……敵を援けるとは、随分気が多いな。この男を味方に引き入れるつもりか?」

「まさか。そいつは私の仕事とは無関係よ。殺したいなら勝手にしたら?」

「っ!」

 差した光は雲に覆われ、隠れていく。

 やはり、万事休すか――

「――テロ屋め。その隙に後ろから刺されるのではたまらんな」

 ユリウスは笑みを零しながら、廊下の壁に向かって歩を進める。

 そして、もう一度冷たい視線が此方に向けられた。

「確か、シドウといったな……覚えておこう」

 殺意の篭った瞳で見据えたまま、ユリウスは壁に溶け込むように消えていった。

 その瞬間、殺気が消え去り、力が抜けた僕は床に膝をついていた。

管理者側(システム)のキャラクタープロフィールをハッキングして好き放題やってた、か。この手の反則をやってこられると、校内でも気を抜いてられないわね」

 凛は独り言のように呟いて、此方を振り返る。

 感謝しようと思ったところに向けられるその冷たい視線は、ユリウスに向けられていたものと変わらない。

「……なによ、その目は。別に助ける気で出てきたわけじゃないわ。ハーウェイの殺し屋に挨拶したかっただけ」

 凛の視線は、ある意味ユリウスよりも恐ろしく感じる。

「貴方も私にとってはただの敵。どこで死のうが知った事じゃないわ」

『テンプレ乙』

 メルトが何か言っているが、多分今の空気に合わないものと判断し、スルーする。

「……ま、二回戦を勝ち抜いたのは意外だったけど。ちょっと見直したわ。精々三回戦も死なないようにね」

 踵を返して去っていく凛に、結局何も言うことが出来なかった。

 

 

 その後、しばらくの間、個室で休み気を落ち着けていると、携帯端末の音が響く。

 次の対戦相手の発表のようだ。

「メルト、行こう」

「……」

 メルトは個室を見回していた。

「……メルト?」

「あぁ、ごめんなさい。行きましょう」

 この個室を改築したとき、何かが無いのを不満だといっていたが、そろそろそれが恋しくなったのだろうか。

 後で何が必要なのか聞いてみるのもいいだろう。

 そう思いながら、一旦対戦相手を見に行くことにした。

 

 

 掲示板に張られた紙。

 いつもと同じように二つの名が記されている。

 一つは自分の名前。

 そして、もう一つは――

 

『マスター:ありす

 決戦場:三の月想海』

 

「……こんどの遊びあいては、お兄ちゃんなんだ」

「ッ――!?」

 背後から声が掛けられる。

 振り向くと、そこには、恐らく十にも満たない小さな少女が居た。

「お兄ちゃん、……あたし(ありす)のこと、覚えてる?」

 唐突に聞かれ、返答に戸惑う。

 白いドレスに身を包む少女は、確かにこの校舎で何度か見かけた。

 しかし、彼女が聞いているのはその事ではない気がした。

あたし(ありす)、お兄ちゃんなら、お友達になってくれそうな気がしてたの。やっとあたし(ありす)も、お友達ができるって」

 少女の表情は、悲哀そのものだった。

 その悲しみに、やはり僕は覚えが無く、焦りを一層助長させる。

「だからお兄ちゃんが行っちゃったときは、かなしかったし、さびしかった。でもね……」

 瞬時に少女は仮面を嵌めたような無表情へと変わった。

 焦りが、一瞬にして気味悪さへと変貌する。

「ここに来るとちゅうで、あたし(ありす)あたし(アリス)に出会ったの」

「……え?」

 思わず聞き返した。

あたし(アリス)あたし(ありす)のただ一人のお友達。やっと出来たあたし(ありす)の、あたし(ありす)だけのお友達」

 益々困惑した。

 目の前の少女が何を言っているかわからない。

「だからお兄ちゃんの事はもういいの。あたし(アリス)さえいれば、あたし(ありす)はまんぞくだから」

 あどげなく笑う少女の言葉の意味は分からず、しかしそれを知って知らずか続けられる。

「でも、次の遊びあいてなんだよね……しょうがないから、遊んであげる」

「え……あ……うん」

 返事を待つように言葉を止めたので、一応返すと、少女は更に笑みを深くする。

「おねがいだから、すぐにきえないでね。あたし(ありす)はかなしいし、あたし(アリス)はつまんないから」

 背筋に、何か悪寒が走る。

 見た感じは、儚げな印象の、人形のような少女なのに。

 ダンさんのような凄みも感じられないのに。

 ありすの言葉は、何故かとてつもなく恐ろしく感じた。

 ありすが去っていくと、メルトが実体化する。

 彼女もあの少女に不可解なものを感じ取ったのか、慎重な面持ちをしている。

 が、

「ふふ……」

 口元が吊り上げられる。

「見つけた……」

 口が、その言葉を紡ぐ。

「ハク、三回戦、とっても面白くなりそうね……!」

 何故かメルトは今までとは比べ物にならない程の意欲を見せている。

 ……メルトの言葉は、ありすとはまた違う意味で、何故かとてつもなく恐ろしく感じた。




メルトもありすも自重しろ。
ありすの一人称用のルビ付き「あたし」は面倒なんだぜ?

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