アレ完全にOUTだ。尻尾が。
そういえば、「貼る下着」なるものを某ニュースで見ました。
当然メルトを想起しました。
メルト「遂に私の時代が来たのね。青とか銀はないの?」
こんなん思い浮かびました。茶番とかで取り上げたいですね。
狂気の笑み。その口元から、乱杭歯が覗く。
エリザベートが背にした城は低く不快な呻りを上げ始め、それが或いは合図だったのかもしれない。
戦いの始まりは、エリザベートの大振りな一撃だった。
遠い距離、そしてメルトの高い敏捷性を利用し、距離を詰めるふりをして誘い込む。
接近ではなく後退。近付いたメルトに自身の攻撃が最大の威力を発揮できる距離で、槍を振るう――!
「ッ」
咄嗟に盾を展開する。
僅かに速度の鈍った攻撃――その隙にメルトは跳躍し、槍を躱す。
そしてそのまま繰り出される、重力を乗せた刺突。
「――甘いのよっ!」
しかし、エリザベートの武器は槍だけではない。
「くっ……!」
メルトの刺突は尾で受け止められた。
メルトを超える耐久に、幻想種である竜の鱗。
その二つの相乗は強力だ。メルトは筋力に秀でたサーヴァントではなく、敏捷性と正確さを武器とした堅実なサーヴァント。メルトの攻撃では、正攻法であの鱗にダメージを与えるのは難しいだろう。
ならば、そこを補うのがマスターである僕の役目。
この心の深層にヴァイオレットはおらず、エリザベートは単独で戦っている。
術式でステータスや技量の差を埋めることが出来るのは、此方だけだ。
「メルト、合わせて!」
「――ええ!」
その一言だけで此方の意図を把握したのか、もう一度メルトは接近する。
「分からないのかしらね。私には敵わないって!」
槍を構え、その攻撃を受け止めようとするエリザベート。
ぶつかり合う寸前に、術式を紡ぎ終える。
「
これは以前、ローズとの戦いで使用した強化とは反対に、瞬間的に多量の魔力を送るという術式だ。
極僅かな時間のみの、爆発的な強化。
効率は悪いが、相手が力を重視したサーヴァントであれば不意を突く攻撃に繋がる。
「はっ!」
「ッ――!?」
大幅に上昇した筋力による一撃が叩き込まれる。
その瞬間強化の術式は役目を終える。込めた魔力の量を考えれば、あまりにも短すぎる時間。
ながら、その魔力量に相応しい威力は油断していたのだろうエリザベートを簡単に吹き飛ばした。
自身が召喚した魔城の城壁に激突したエリザベートは、しかし大きなダメージを受けた様子はない。
やはり外部からの衝撃にはとことん強い。これで倒すには、百あって足りるかどうか。試そうとすればそれまでに魔力が枯渇してしまう。
勝つためには、何かしらエリザベートに対して有効な手段を見つけなければ。
真正面からぶつかるだけでは駄目だ。それでは火力が足りず、攻めるに攻めきれない。
「う、くっ……中々やるじゃないの。でも、今の油断は一回限り。これで私を倒せなかったのが貴方たちの決定的な敗因となるわよ」
「そうかしら。私とハクの力を甘く見ないことね。ただ力任せなんてのは、私たちの戦い方じゃないわ」
確かに、その通りだ。
それはメルトが力技に向いていないことから必然であり、僕がマスターとしての役割を果たすにおいて最も重要なことは、劣る力を強めてバランスを調えることではない。
メルトの優れた点を更に補強し、力を補うこと。それが、メルトの補助として最も高い効果を発揮する。
「ふうん。力任せじゃなくて私の鱗を貫けるというの? だったら見せてもらおうじゃない、ただし――」
エリザベートが態勢を立て直し、思い切り槍を振りかぶる。
投擲――そう予測し、咄嗟にメルトの敏捷を強化。投げられる前にエリザベートに接近する。
「ふっ!」
「ッ!」
しかし――それは陽動に過ぎない。
エリザベートの真の狙いは、またも接近してきたメルトに対する攻撃。
軽いステップで後退したエリザベートが、くるりと回る。
槍ではない――エリザベートが武器として振るおうとしているのは、尻尾――!
「くっ――」
盾を展開し、先程と同じように威力を軽減しようとする。
しかし、勢い良く振るわれた尾は盾の存在すら無かったかのように
否――すり抜けたのではない。確かに盾は展開し、防御をしようと立ちはだかったのだ。
それを物ともせず、抵抗なく通り抜けた。盾は粉微塵に弾け飛ぶ。つまりは――破壊されている。
「なっ……、ッ、これは……」
それだけではない。
電流のような鋭い衝撃が、魔術回路を逆流していく。
メルトへの魔力供給――問題ない――いや、しかし盾が破壊されたという事は――
「が……っ!」
「メル、トっ!」
決定的な隙を突かれ、強烈な尻尾の一撃がメルトに叩き込まれた。
エリザベートに攻撃したときとは違う。メルトは耐久が平均より低く、打たれ弱い。
たった一撃。されどその一撃は筋力の高いエリザベートが勢いに乗せて繰り出したものだ。ダメージが小さいはずがない。
「回復を――ッ!?」
――紡げない。
術式を紡ごうとしても、思うように魔力を操ることが出来ない。
「あら、引っかかったのは子ブタの方だったのね。サーヴァント思いだこと。まぁ、あの程度の防御術式じゃ無意味に等しいけど」
不敵に笑うエリザベート。
彼女が、何かしたのか……?
「高貴なる竜が手を下してあげようってのに防ごうなんて無礼も甚だしいわ。小細工をせずに、ただ跪くだけで良いのよ」
次の瞬間には、エリザベートはすぐ直前にまで移動していた。
「ッ――うぁ――!」
鳩尾を蹴り飛ばされ、転がった先で鈍い痛みに蹲る。
どうにか起き上がろうとしたが、後頭部を襲う更なる硬い衝撃のせいでそれは叶わない。
「くっ……」
「勝負アリね。本気の私の前じゃ、所詮貴方たちなんてこんなものよ」
後頭部に押し付けられているのは、エリザベートの足だった。
完全なる勝者の証明。メルトも大きなダメージを負い、ほぼ無傷のエリザベートと戦える力はない。
そして、僕自身も、術式の使用を封じられている。
恐らくあの尻尾による攻撃は、守りを打ち破った上で動きを制限するもの。
守りに入ってはいけない、防ぎようのない攻撃だったのだ。
いつまでもその状態が続くということはないだろう。長くても後数十秒もすれば、自然と回路を縛る電流は消えていく筈だ。
しかし、その時間はあまりにも長すぎる。たとえあと五秒だろうと、エリザベートの槍が僕の心臓を突き刺す方が早い。
「じゃ、さよなら。安心しなさい。すぐには殺さないわ。たっぷり泣かせて、私を愉しませながら弱っていく様を最期まで見届けてあげるから」
無情な死刑宣告。やがて死ぬことに変わりはない、少なくとも、終わりの宣言。
そして、その槍は振り下ろされ――
「
「ッ――甘いわよ!」
槍が下ろされる寸前に、飛んできた斬撃。
それを対処するためにエリザベートは槍の軌道を変えた。
「チッ……この……っ」
二、三、四と連続で迫り来る斬撃。さすがに対処しきれなくなったのか、後頭部から足を離しエリザベートは距離を取った。
その間に立ち上がる。それと同時に、魔術回路を制限していた電流は引いていった。
すぐさまメルトに回復術式を発動する。
大きなダメージを負った体に鞭打って助けてくれたメルトを、一刻も早く楽にさせたい一身で。
立ち上がりつつもふらふらとしていたメルトだが、傷が癒えたことでそのスピードを取り戻し、駆け寄ってくる。
「ごめんなさい。ありがと、ハク」
「ううん。こっちこそ」
これで、万全とはいかないが戦いは振り出しに近い状態まで戻った。
「メルト、慎重に。あの尻尾も十分脅威だ」
「ええ。守れないとなると、避けるしかないわね」
正真正銘の全力。そう豪語するに相応しいエリザベートの力。
これに勝るにはどうすればいいか。
彼女には、リーチの長い二つの武器がある。
槍と尻尾。対して、メルトにはその長さに勝る武器がない。
遠距離攻撃である『踵の名は魔剣ジゼル』でも、直撃しなければ大したダメージは見込めないだろう。
「驚いたわ、生きてたのね。思ったよりしぶといじゃない。そうでなくちゃ甚振り甲斐がないけどね」
依然エリザベートが優位であることに変わりはない。
だが、何かしら有効な手段がある筈だ。それを見つけないと……
「寧ろ、今ので殺しきらなかったことを後悔することになるわよ、エリザベート」
「そうかしら。たかがこの程度の攻撃しか出来ないのに良く吠えるじゃない。さっきの傷を簡単の治して見せれば、その口も塞がるかしら?」
「え……?」
まさか、マスターもいないのにそんな事が……?
「この城は私の居城。私の全ての源である女の血液が幾らでもあるわ。私の傷を自然と癒す、絶品の魔力タンクよ」
先程の瞬間強化で与えた傷――と言っても、軽微なものだが――を、エリザベートは僕たちの目の前で回復して見せた。
そんな事がいつでも出来たというのにしなかったのは、やはり余裕によるものか。
「鮮血は湯水の如く使ってこそ美しさの糧になる。この城に血がある限り、私は完璧よ」
厄介な……あの城には、エリザベート専用の魔力タンクとなる血液に満ちているようだ。
それを消費することで傷を受けたとしても治癒に使えるという事らしいが……その総量は如何ほどか。
場合によっては、城を破壊してからでないといつまで経ってもエリザベートを倒すことが出来ない。
圧倒的な防御力を誇り、自動的に傷を癒す手段まで所持している。かなりメルトと相性が悪い。
城を破壊しようにも此方には対城兵装の持ち合わせはない。
一応、分類としてはバーサーカーの宝具である『
メルトの宝具を解放するか――対界宝具としても機能できるメルトの宝具ならば、あの巨大な城を吸収し尽くすことも可能かもしれない。
だが、それをするにおいて一つ考慮しなければならない問題がある。
ここはエリザベートの心の中だ。そして、対界宝具として戦闘に使用できるメルトの宝具ではあるが、本来の、正確な分類は心を溶かす対心宝具。
心に直接浴びせてしまった場合、何が起きてしまうか分からない。最悪この空間自体が消えて無くなってしまう可能性がある。
「……ハク、どうする?」
「……思った以上に、勝つのは難しそうだね」
宝具の使用は避けておいた方が良い。使って何かが起きてからでは遅いのだ。
だとすれば――必然的に、勝率の低い方法を取るほかになくなる。
即ち――
「回復する前に、あの鱗を突破する。それしかない」
「……途方もないわね。少なくとも、私一人では不可能よ」
「なら、僕がサポートする。まずは隙を見出さないと……」
「命乞いの算段かしら? 聞くくらいならしてあげるわよ?」
絶対的な有利に微笑むエリザベート。その瞳は、勝利を疑っていない。
「まだだ、エリザベート。命乞いをするほど、追い詰められてはいない」
「そう。それは良かったわ。ここまで私の手を煩わせるんだもの。散々愉しませてくれないと割りに合わないわよ」
「安心なさい。新鮮な敗北を、それこそ満足するまで刻んであげるわ」
「あら、私の気持ちを代弁してくれるの? まったくその通りよ。強運で生き残ってこれたのも、これで終わりにしてあげる」
二人のサーヴァントが互いに皮肉を言い合う中で、僕は戦法を考える。
あの凄まじいまでの耐久性に勝つには、どうすれば良いのかを。
しかし、
「ッ……?」
その思考を、何かが阻害する。
耳の中に、どろどろと流れ込んでくる、不快極まりない音。
聞き覚えのない音だった。そして、二度と聞きたいとは思わず、しかし一向に止まらない。
「――あら、やっと効いてきたのね。やっぱり、貴方みたいな人畜無害なブタにはキツいかしら?」
「え――ハク!?」
「……っ」
――頭が、痛い。
耳から入り込んで、脳を侵す不協和音。
当たり前だ。調和を求めて放たれているものではない。頭の中がいっぱいになって、ようやく理解した。
悲鳴だ。先程から鈍い音を上げていた城の中から聞こえてくる、悲痛な叫び。
百や二百という、捕えられた少女がただ自らの保身のために上げる、助けを求める悲鳴。
「私にとっては心地良いオーケストラよ。これを聞いていると、頭痛を忘れることが出来るの」
この悲鳴は、あの城が宝具として起動してから、ずっと聞こえていたのだろう。
思考をじわじわと蝕み、ようやく自覚できるほどにまで侵食されたのだ。
「そこのサーヴァントもその内呑まれるわ。こんな状態で私を倒そうなんて、随分自信があるじゃない」
「くっ……」
――まだ、戦える。
何もしていなければ我慢できない程度の頭痛があるだけ。
術式を紡ぐのに支障がなければそれで良い。
これが更に脳を侵していくものならば、何も分からなくなる前に決着を付けるまでだ。
なんでうちのエリちゃんこんなに強いの?
まるで完璧なサーヴァントみたいじゃないか。
攻撃スキルは適当に解釈しています。自動回復スキルはお城の効果。
お城の現状発揮されている効果は
・エリちゃんの自動回復
・相手への精神妨害、エリちゃんの頭痛緩和
ですね。何このバランス良すぎるサーヴァント。