Fate/Meltout   作:けっぺん

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更新遅れてすみませんでした。
ハクを爆発させに月まで行っていたって事にしといてください。


No Past.-6

 

「……」

「……えっと、ハク、ごめんなさい」

「……うん。大丈夫」

 旧校舎に戻ってきたが、どうにも生徒会室に戻ろうという気が起きない。

 先程の、とてもじゃないが子供には聞かせられないようなメルトの大演説が原因だ。

 この校舎に入ることすら抵抗がある。

 出来れば、このまま校庭に居続けたいと思えるほどに。

「……」

 そんな心境を知るわけもなく――

「はぁっ!」

「――――ゥウ!」

 リップとフランは、頑張っているようだった。

 一歩強く踏み出したリップの拳を、フランは鎚で上手く受け流して回避する。

 この二人の鍛錬が始まったのはエリザベートの迷宮を攻略し始めた頃だ。

 アサシンが倒れてからも、リップは武術に励んでいる。

 教わったことは、決して完全ではないだろう。だが、総合したものを自分なりに解釈して、出来る限りのことをしているのだ。

 そして、その鍛錬をフランが見つけ、手伝い始めた。

 毎日のように――いや、もしかすると数時間ごとくらいに行っているかもしれない鍛錬。

 最初の頃の、アサシンに教えを受けていた頃よりもその動きは素早くなっている。

 振りかぶられたフランの鎚をリップは受け止めることなく回避し――どうやら、終了したようだ。

「……ふぅ」

 構えを解き、納得したように頷くリップ。

 と、よほど集中していたのか、たった今此方に気付いたらしい。

「ハクトさん!」

「あぁ、頑張ってるね、リップ」

 ――うん、普通だ。リップには伝わってない。

 生徒会室にはいなかったのか。ああ――安心した。

「はい。アサシンさんに教えられたこと……無駄には出来ませんから」

「そうか……」

 リップは思った以上に意欲的に、鍛錬を行っているようだった。

 理性を失っているフランも、心なしか微笑んでいるようにみえる。

「ところで……ハクトさん、いつもより早いですね」

「う、うん。メルトが、すぐにSGを把握してくれたから……」

「……そういう事よ」

「そうなんですか。まぁ……エリさんだし……しょうがないよね」

 エリさん……リップは、エリザベートの事をそう呼んでいるのか。

 また聞きなれないというか、ある意味リップらしくはあるが。

 この月の裏側においてリップとエリザベートは面識がなかった筈だが、ということは僕の知らない月の裏側――リップの生前に関わりがあったのだろうか。

「ところで……ハクトさんはもう部屋に戻るんですか?」

「いや………………生徒会室に戻るつもりだけど」

 できれば行きたくないのだが、そうもいかない。

 もう吹っ切れてしまうしかないのだ。

「な、なら、一緒に行きましょう!」

 何故か思い切ったような様子で、リップは誘ってきた。

 別に僕としては断る理由はない。

 寧ろ、リップと一緒に入ることで話題が傾いてくれれば理想的だ。

 ……決して、リップを利用しようとしている訳ではない。

「勿論、構わないよ。行こう」

「はいっ! あの……フランさん、ありがとうございます」

「ウィィ……」

 リップの感謝の言葉に頷くと、フランは姿を消した。

 ジナコのところに戻ったのだろう。

 そういえば……ジナコも先程の光景を通信で見ていたのだろうか。

 ……その場合、この校舎内での肩身は余計に狭くなる。

「さあ、行きましょう」

「あ、あぁ……」

 どうせ、行かなければならない。

 時間を無駄に出来るわけではないのだし、だったらさっさと行ってしまった方が良いのだろう。

 そう吹っ切れたつもりでも――やっぱり足取りは重かった。

 

 

 生徒会室の扉を開けると同時に、いつもとは違う生暖かいような冷たいような、不思議な視線が一斉に向けられた。

「っ……」

 正直、もうやだ。帰りたい。

 自業自得――業ではないが――ひどく居心地が悪い。

「いやーなぜハクトさんはリップさんと来たんでしょうね」

「姉妹同時ってさすがだねー」

 レオと白羽さんの棒読みな指摘が胸に突き刺さる。

 別に何をした訳でもないのに、何も言えない。

 しかも、レオはともかく白羽さんのそれにはもっと暗く鋭いものを感じる。

「……? 何か、あったんですか?」

「ううん、リップは何も知らなくていいの。純粋なままで」

 いつも通りの明るい声に戻り、保護者のようにリップに笑いかける白羽さん。やっぱり、分かっていてからかっているのか。

「ハクがリップとなんてありえないわ。だって」

「これ以上問題発言をしないで……」

 ただでさえ現状針穴ほどしかない肩身をこれ以上狭くしないでほしい。

「まぁ……休息中(オフ)の時の行動は制限せんよ」

「……」

「……迷宮探索に支障が出なければな」

「……」

 ダンさんとユリウスは、もしかすると此方を気遣おうとしてくれているのかもしれない。

 しかし、寧ろダメージは増す一方である。

 まぁ、自分自身、どう扱ってもらえればいいのか分からないのだが。

「…………先程、生徒会室は十五階探索時の情報を削除しました。なので、一切私たちは言及しませんので、そちらも蒸し返したりしないよう」

 一切するつもりはない。

 レオたちも、言及――直接的に言ってはないのは確かだ。

 此方とて、攻められるべきことをやっている訳ではないので、気にしなければ良い。

 うん、それで良いんだ。いつも通りの生徒会で。

「では、ハクトさん弄りはこのくらいにしておきましょうか」

「……うん。そうしてほしい」

「大分ダメージ大きいね」

 席に着く。この椅子、ここまで重かっただろうか。

「さて、メルトさんの活躍で、最後のSGを入手することが出来ました」

「迷宮の最奥部に、エリザベートのレリーフが出現しています。これからハクトさんたちには、レリーフへの潜入を行ってもらいます」

 とりあえず、気持ちを改めなければ。

 今回からはキアラさんが不在の状態でレリーフに潜入しなければならないのだ。

「サクラのサポートの上で、細心の注意を払います。良いですね、サクラ」

「……」

「……サクラ?」

「――、は、はい! 問題ありません、キアラさんの頃の経験を応用します」

 少し桜の様子が変だが……どうしたのだろうか。

 迷宮に入る前からなので、迷宮内の出来事が原因という訳ではなさそうだが……

「しっかりしてよ。貴女が鍵なんだから」

「はい。すいません……」

「桜、どうかしたのか?」

「っ、な、なんでもありません。任せてください」

 やはり……月の中枢においても、彼女がここまで変になったことはなかった。

 絶対に何かがある。

 思い当たる節はないが、僕たちの与り知らないところで何かしらあったのかもしれない。

 それは聞けば答えるのだろうが、そこまでの強制をするつもりはない。

 必要な事であれば、自己申告するように。少なくとも、中枢ではそう取り決めていた。

「準備が出来次第、ハクトさんはもう一度迷宮に。活躍次第では、先程のことは不問とします」

「……うん」

 普通のブリーフィングの流れになっていたのに、何故蒸し返したりするんだろう。

 まぁ、言われずとも全力を尽くす覚悟だ。

 何より、表に帰らなければならない最たる理由が出来た。

 皆を騙し続けている以上、完遂するのが義務だ。

 

 

 ――……いたいの、だるいの……

 

 ――ただでさえ頭が痛いのに、これ以上私の頭をかき回さないで……!

 

 

 時間が引き延ばされていく感覚。

 アンデルセンの言っていたことは本当だった。

 レリーフに手を触れて、万色悠滞を起動させると――レリーフの構造が分かっていく。

 細く、小さく、それこそ無限に枝分かれするエリザベートの心。

 桜のサポートによって正解のルートを導き出し、その道筋に浸透させるように万色悠滞がその機能を発動させる。

 やがて心の最も深く。レリーフの最深部に辿り着く。

「……そう。やっぱり来たのね」

 今までとは一転した、エリザベートの様子。

 物憂げに虚空を見ていたその目が此方に向けられる。

 その表情はひどく暗く、深刻だった。

 この階層で見せていた自由奔放な少女性はどこにもない――鮮血魔嬢として畏怖された貴族の性質(かお)

「誰かの――今回は私のだけど、心の深層で会うのは三度目ね」

 特に何の感慨も、感情も抱かず、独りごちるようにエリザベートは呟く。

 世界に希望を抱かなくなってしまった、倦怠感に満ちた表情。

 ――生前、アイドルを知る前のエリザベートは、ずっとこんな様子だったのだろうか。

「ねぇ、最後だから聞くけれど……何故貴方は、私の邪魔をするの?」

「――表に戻るためだよ」

 本当の記憶を取り戻すまでは、それは目的――願いを叶えるための前提としての理由だった。

 だが、今は違う。

 月を管理するという責務を持った者として、戻らなければならないのだ。

 それに、このままBBを放っておいては、取り返しの付かないことになってしまう。

 人類の欲望の解放。そんなことをしてしまえば、世界の滅亡は逃れられない。

 彼女を止めて、表に戻る。エリザベートが立ちはだかるならば、突破しなければならない。

「そう。まぁ、そうでしょうね。万能の願望器に縋るしか、願いを叶えられない無力なブタなんだもの」

 無表情ながら、納得したように頷くエリザベート。

 その顔に賛同はない。心の底からの、否定だけがある。

「だけど、私は違う。人類を守る? どうでも良いわ。聖杯を勝ち取る? 必要ないの。この宇宙で、大事なのはたった一つだけ。私がただ一人、永遠に美しくあることだけ」

「っ……」

 自分を中心とした考え方、ではない。

 自分が全て。それ以外の一切は存在しないと、エリザベートは言い放つ。

 海の底のように深く暗い瞳――その奥には、長い年月をかけて熟成された狂気があった。

「私が唯一の法。私が唯一の善。私が唯一の正義。だから、人類とか願いとか、心配する必要はないの。どうしてもというなら、私を救いなさい!」

 自分の存在は、地球の、人類の、全ての重さと等価値だ。

 だから、自分を助けることが解決に繋がるのだと、エリザベートは主張する。

「――結局、根底にあるのはそれだけなのね。つくづく嫌気が差すわ。要らないところばかり似ていて、本当に苛々する」

 それを――メルトは嫌悪と、何かが混じったような声で批判した。

「良い? たった“一”しかない世界なんて世界じゃない。安寧を謳うには安寧を感じる他者がいなければ成り立たない。美を謳っても証明する他者がいなければ美の概念は生まれない。自分だけで閉じる世界は、無でしかないわ」

「粋がるわね、私相手に手も足も出ない三流の分際で。じゃあ……良いわ。無でも良い。邪悪でも良い。それでも私はオンリーワンであり続ける」

 エリザベートの価値観の穴を、メルトは突いたはずだ。

 しかし、エリザベートの心は動かない。

 精神性が似ているとしても、決して相容れない部分が、そこにあった。

「ああ――やっと頭痛が戻ってきたわ。久しぶりね、この感覚。私、泡沫の夢に浸っていたみたい」

 自嘲するように表情を緩めながら、エリザベートは手を額に置く。

「恨めしいのに、大嫌いなのに、懐かしさだけは感じる。これが本当の私。私は結局、エリザベート・バートリー以外の何者でもないのね」

 その笑みは数秒おきに苦痛に歪む。

 波が来ては引くように。苦痛を繰り返しエリザベートの精神を苛み続ける。

「――失礼、お客様。こんなところまで招待しておいて、歓迎も無しなんてのは貴族の恥。私、相手がブタであってもお持て成しくらいはするわ」

「ッ――」

 エリザベートの手に、身長よりも長い槍が握られる。

 同時に臨戦態勢を取るメルト。戦闘の予兆を感じ、僕も術式の準備を始める。

 そんな僕たちを見て――エリザベートは満足げに頷く。

「それで良くてよ。私が今度こそ、正真正銘の本気を出してあげるんだから、当然の礼儀として死力を尽くしなさい」

 槍で床をコツコツと叩く音が反響する。

 今まであらゆる音を響かせなかった空間の性質から見ればそれは異常であり、ただ叩いただけではないということがすぐに見て取れた。

「その上で、真っ向からぶっ刺して、愚かな反逆を心から後悔させてあげるわ。精々苦しんでから死ぬことね。呆気なく殺しはしないから」

 まるで主が手を叩いて使用人を呼ぶように床を打ち鳴らすエリザベート。

 それは無駄な行為ではない。当然、何かを呼んでいるのだ。

「ねえ、死に方は何をお望みかしら? 鉄の処女(アイアン・メイデン)は勿論あるわ。望むなら、特別にどんなモノでも用意して、理想の惨殺をしてあげる」

 床からせり上がるようにエリザベートの背後に出現する、

 おどろおどろしい色の、巨大な城。

 これが――エリザベートの真の宝具。

「なんにしろ、涸れ果てるまで泣かせてあげるわ。正真正銘、最後のステージよ!」

 望むところだ――終わらせよう。これが、エリザベートとの決着だ。




ハクをもう少し弄ろうと思ってたんですが、話が進まないのでそっとしといてやりました。
リップは順調に特訓中。フラン久しぶりですね。

そしてエリちゃんの心の中へ。
一気にまたシリアスに戻させていただきました。
メルトの説教は昔の価値観から。ここまで来ると分かってる方も多いと思いますが、メルトの価値観は随分変わってます。


そういえば、外典最終巻が月末に発売だそうで。
楽しみですが、来年初めにはfakeも発売。
年末年始はFateの出費がヤバイ。

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