Fate/Meltout   作:けっぺん

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……おっかしいなぁ。
暫くシリアスが続く流れだと思ったんだけど……
何やってんだよテスト前日に。


No Past.-5

 

 

 結局、表側に帰るには、現状では迷宮を突破するしかない。

 今のところはBBを追う形で、今までどおり進んでいくのが正しいだろう。

 再び訪れた迷宮の十五階からは、ローズの狂気は感じ取れない。

 どうやら、彼女は既に撤退したようだ。

 しかし、自身の迷宮で好き放題されておいて、エリザベートが出てこなかったのは不思議だ。

 エリザベートの行動を徹底して管理(する努力を)していたヴァイオレットも、ローズを止めに来なかったのは不自然に感じる。

 何故だろう――そう思ったとき、

「来たようね、子ブタ。ようこそ、私の迷宮最後の階へ」

 エリザベートとヴァイオレット、二人が転移してきた。

 相変わらずの笑みを浮かべたエリザベート。既にSG二つを取っているのに、その態度は変わらない。

 支配者として、相手より上位に立った者が浮かべる表情。

 メルトと長く付き合ってきたマスターとして、既に見慣れたものだ。

 まったく変化のないエリザベートにヴァイオレットは静かに溜息を吐くと、此方に歩み寄ってくる。

 警戒するように前に立つメルトを一瞥すると、此方に視線を合わせてから、その頭を下げた。

「え――」

「申し訳ありません。先程は、ローズがご迷惑をおかけしました」

 誠意の篭った、心からの謝罪だった。

 やはり、ローズがこの迷宮にいたのは不測の事態だったということか。

 しかし、彼女がしたことはあまりに大きすぎる。

「キアラさん達は……」

「……残念ながら。既に消えたマスターを蘇らせることは出来ません。裏側に落ちた他の敗残者と違い、猶予すらない完全消滅。殺生院 キアラの死亡は確定されています」

 あの凶刃に断たれて、その結果は確定した。

 その結果を否定することは、出来ない。

 聖杯戦争でも感じた、死を目前とした衝撃は、決して小さいものではない。

「……アレはなんなの? エゴとしても異質すぎる。狂っているってレベルじゃないわよ」

「その通りです。彼女は、BBの失敗作。だからこそ、行動には極力制限が掛けられていたのですが」

「いっそのこと、削除すれば良いじゃない――アレ、下手すればBBの足元を掬うことになるわよ」

 メルトはどうやら、ローズの存在を危惧しているようだ。

 確かに、あの狂気は普通ではない。何をしでかすか分からない、危険すぎる存在だ。

 メルトの警告に、しかしヴァイオレットは首を横に振る。

「それを、恐らくBBは許容しません」

「……本当に、余計なものを作ってくれたわね」

 何をしようとも――BBはローズを削除しない?

 それは、何かシステムとして出来ないのか、それとも別の理由が……

「ねぇ、さっきからなんの話をしているの? 主役(メイン)の私を放っておくなんて、いい度胸じゃないの」

「……貴女は少し空気を読んでください」

「空気が私に合わせるべきよ」

 ……。

 どうやらエリザベートは、慎重な空気を一瞬で台無しにする天賦の才の持ち主らしい。

『……』

 生徒会室も含めて、一気に残念な空気へと変貌する。

 どうやら、ローズについて、エリザベートは何も知らないようだ。

 よって、一人だけ一切ぶれない今まで通りのテンションを貫き通しているわけだ。

 さて……エリザベートのSGは最後の一つ。

 今までの流れからして、相応に厄介なものなのだろう。

「私はこの階層の衛士なのよ? それなりの敬意をもって扱ってほしいものだわ」

 不満を露わにするエリザベート。

 しかし、その敬意とやらを覚えられないほどの残念さを階層の初めから露呈し続けているのは他でもないエリザベート自身である。

「――だったら、その役目そろそろ終わらせてあげるわよ?」

「え?」

 どこか得意げな顔をしながら、メルトは言う。

 まるで、もう勝利をその手に掴んでいると言わんばかりだ。

「……どういうことよ?」

「言葉の通りに決まっているじゃない。SGを全部取ってしまえば、貴女の出番は終わりだし」

 SGをって……その内容を今から模索していくのでは……

『もしかして、SGに心当たりが?』

「ええ。今のハクなら、なんの問題もないし」

「僕……?」

 SGと僕が、関係しているのか……?

「馬鹿じゃないの? 私の秘密が、アンタなんかに分かる訳がないじゃない」

 一切の動揺も見せずに、エリザベートはメルトを嫌悪の目で睨む。

 だが、メルトは怯むことはない。

 寧ろ、その笑みは深くなっていく一方だ。

「な、何よその表情は。気持ち悪いわね……」

「いえ、別に。ただ、思い返してみればみるほどに貴女の妄想癖(ロマンス)が馬鹿馬鹿しくて」

 ……なんだろう。

 どうも、今の状況はメルトの優勢に向いているように思える。

 しかし――この嫌な感じは。

 これ以上、メルトに喋らせてはいけない気がするのだ。

「はぁ……? 何を分かったような」

「ような、じゃなくて分かってるのよ。一つ目のSGから、全部」

「――は?」

 当然とばかりにメルトは言ってのけた。

「……ごめんなさいハク、言ってなくて。でも、今のハクなら分かってくれる筈」

 ――それは、メルトの過去に関することだろうか。

 本当の記憶を取り戻すまで消えていた、メルトの生前について。

 エリザベートとメルトは、その頃に面識があったようだし、そこで知ったのかもしれない。

 けれども、知っているのであればこれまでのSGも教えてくれれば、色々と楽だったのだが。

『……どういう事ですか?』

「そういう事よ」

 答える気はないらしい。

 まぁ、事実を隠し通すつもりなら、答えようがないのだが。

「じゃ、じゃあ、何だってのよ! 私のSG、分かるもんなら、言ってみなさいよっ!」

「あら、言っていい訳ね。じゃ、許可も得られたし、暴露といきましょうか」

 今のメルトの、なんとあくどい笑みな事か。

 本当にSGを知っているのだとしたら、エリザベートは間もなくひどい目にあうことだろう。

 ただ――それでまた、表に一歩近付くという点を考慮しても、嫌な予感は拭えない。

 止めろ。今すぐメルトを止めろ。

 本能が全力でそう命令している。よく分からないが、従わないと絶対に不幸が訪れる。

「メ――」

 しかし、何を言う前にメルトはエリザベートに指を突きつけ――ある意味最大の本領発揮を始めてしまった。

 

「――――貴女、処女でしょう?」

 

「な――――ッッ!?」

「――――」

『――――』

 え――?

 エリザベートが……しょ、処女……?

 メルトの突拍子もない言葉に、エリザベートの顔は一瞬にして真っ赤になった。

「な、なな、ななななななな――そ、そそそそんなワケ――」

「――あっ」

 羞恥に悶え、否定しようとするエリザベートを余所に、五停心観が爆発するように反応した。

「ちょっ……っと――!」

「きゃああぁぁああああああ――――!?」

 左手の爆発的な勢いに、引っ張られるように足を動かす。

 そしてそのまま、手はエリザベートの胸に伸ばされ――

 SGが取れた。――取れてしまった。

「――な……ななななな何を言ってるのよっ! バッカじゃないの!?」

「あら、SGまで取れてるのに、まだ否定材料があるというの?」

「そ、それは気のせいよ! 処女なんかじゃな――」

「じゃあ、当然経験はある訳ね。さすがはハンガリーの鮮血魔嬢、恐れ入るわ」

 どうやら、絶賛メルトのターンである。

 もう、既に行き過ぎているのだが、まだメルトはその無双状態を終了させるつもりはないようで。

 ここで止めていれば――少なくとも、僕に対するダメージは少なかっただろう。

「なんでそんな風にからかわれなきゃならないのよ! 知った風な口利いて……第一、貴女月の裏側で最近BBから作られたんでしょ!? だったら当然貴女たちだって処――痛ッ!」

 突然痛みを訴えるエリザベート。

 しかし、その一瞬、ヴァイオレットが腕を繊維のように分けてその一本でエリザベートを引っ叩いたのが見えた気がする。

「あら、生まれた時間なんて関係ないわ。大事なのは愛でしょ?」

「そ、そんな上から目線な――」

「だって、私は経験あるもの」

 そして、そのまま大きすぎる爆弾に火を点けた。

「ええ、ハクはとっても優しいのよ。それでいて【閲覧削除】の時なんかはすごく【閲覧削除】だし」

「っ――」

『っ――』

 ――何を――――

「私はこういう性格だから、基本は私が【閲覧削除】るし、【閲覧削除】するんだけど、でも時にハクが【閲覧削除】てくるの」

「な、な、な……」

「勿論、【閲覧削除】よ。ハクは【閲覧削除】だからいつも私が先に【閲覧削除】の。でもやっぱり、何度【閲覧削除】てもハクの【閲覧削除】は最高なのよ。毎回毎回、本当に蕩けてしまいそうで――」

「ちょ、メル――」

「【閲覧削除】とか、【閲覧削除】とか、色々試してみたけれど、一番はシンプルに【閲覧削除】よね。ハクの【閲覧削除】が【閲覧削除】もの」

「ストップ! メルト! スト――ップ――――!」

 全力で、出せる限り最大の声で、制止を促す。

「どうしたの、ハク。全部本当のことじゃない」

「ッ――」

 ――――――――否定は、出来ない。

 まさか、『今の僕なら』とは、そういう意味だったのか……?

「って、あら……? エリザベートは何処に行ったのかしら?」

「……話の途中辺りで逃げました。今頃、迷宮の最奥部でレリーフになっている事でしょう」

 気付かなかった……あまりにも、突然にショックを受けすぎて……

「そう。ま、SGは取れたし、万々歳かしら」

「……では、私はこれで」

「あ――えっと――」

「…………」

 何か少しでも弁明をする前に、ヴァイオレットは何処かに転移してしまった。

 一瞬向けられた目が、明らかに今までと違ったのは言うまでもない。

 なんだろうか……この、ジナコのときとは違う後味の悪さは。

『……一旦、帰還しましょう』

『……術式を組む。早急に此方に戻るように』

『……若いものだ』

『ぬはははは! 主神の如き盛り、見事なことよ!』

 まったく様子の変わらないガトーを除き、声色が普段と百八十度違った。

『……本当、予想外。いっぺん死ねばいいのに』

『……同意です。普段の性格の裏に、そんな悪魔が存在していたとは……』

『……さっすがー』

『…………』

『……わ、私は……気にしませんよ』

『仲良きことは、美しいですね』

 そして、続く女性陣。

 カレンを除いて、異常なまでに寒気を感じ、桜に至っては一言も喋らなかった。

 ……どうしよう。これから先、僕はどうやって旧校舎にいればいいのだろうか。

 少なくとも――この時点で生徒会のヒエラルキーにおける僕の立ち位置は底辺を突き抜けて地底の更に底まで落ちたのは間違いない。

「どうしたのよ、ハク。さっきから固まって……」

「……いや、なんでもない」

「…………ちょ、ちょっとやりすぎたかしら」

 今回は、これまでの迷宮攻略において、最短記録を更新しただろう。

 その輝かしい記録を樹立するために払った犠牲は途轍もなく大きかったわけだが。

 自身の行いを悔い改める――それはきっと、こういう事だ。

 たった今、身を以てそれを知った。

 弁解になるようなものではないが、今のメルトの供述は月の裏側での出来事ではない、と明言しておく。

 月の中枢とは、“そういう”場所だったのだ。




――などと供述しており……
スピード解決。ハクの名誉のため、一部伏字にさせていただきました。
【閲覧削除】とは「ピー」と読みます。
ちなみに「“そういう”場所」とは、「それほど幸せな場所」という事です。爆ぜろ。

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