Fate/Meltout   作:けっぺん

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裸でレインコートっていう某キャラがいるみたいですけど、全然意識してないんですよね。
ローズの外見を作るうえで意識したのは、ゲーム版未来日記に登場する13thだったりします。
容姿としては似てないですけどね。

それと、言峰が記憶を持っていたことに関してですが、Slave On Syndrome.-1の
「君の――ふむ。サーヴァントが欲しているのではと思ってね」
ここで「サーヴァント」と言うのに若干間があるのがどうでもいい伏線だったりします。分かるかこんなもん。


No Past.-3

 

 

『くっ……ハクトさん、すぐに帰還の術式を組みます!』

「無理無理。ノートに借りた宝具で塞いであるもん。術式でどうこう出来る結界じゃないよ」

 結界……?

 だが、周囲にそんな気配はない。

 今までと同じ古城を模した夜の景色が広がっているだけだ。

「『千夜一夜の帳(ライラ・ワ・ライラ)』って言うんだって。夜の帳に外から手を出すのは不心得も良い所。だから邪魔しないでよ」

『外部からの干渉を妨害する宝具ですか……なんて厄介な』

「まっ、どうせなら見ることも防ぎたいんだけど、ボクにはどうすることも出来ないし」

『……兄さん。セイバーを』

『分かっている。セイバー、迷宮に』

「っ……面倒だなぁ。コレを倒すだけでもめんどくさいのに」

 心底に恨めしそうな表情だった。

 不愉快だけを極限まで表出した憎悪。

 たったそれだけの感情を、これだけ純粋に出せるものなのだろうか。

「ま、いいや。先に片付けちゃお」

「っ」

 軽く言うローズが少し腕を動かした瞬間、メルトは床を蹴った。

 鋭い刺突。金属のぶつかりあう音。

「あっぶないなぁ……意外と速いんだね」

 メルトの棘を受け止めているのは、ローズが右手に持った剣。

 刃が途中で二つに分かれ、それぞれが歪に曲がった、とても実戦に向いているとは思えない短刀。

 普通の武器とは違う、その特異な魔力――間違いなく宝具。だが、なんだ、この雰囲気は。

 決してランクが高い訳ではない。膨大な魔力を周囲に放っている訳でもない。

 今までそれを感じていなかったのが不思議なくらいの異質な感じ。

「っ――これ……!」

 再び床を蹴り、一度の跳躍でメルトは此方に戻ってくる。

 異常は感じられない。無傷な状態だが、メルトの表情は驚愕に染まっていた。

「……それ、何……?」

「何って、ボクの“宝具”だけど。ボクがボクのためだけに振るう、ボクだけの武器。決まってるでしょ」

 当たり前のことを当たり前に答えるローズ。

 だが、その“当たり前”は“当たり前”でありながらそれと乖離しすぎている。

「貴女……構成する女神を宝具にまで格下げしたの?」

『ッ!――まさか……!』

 メルトとカズラ。共通する性質を持つ二人が、等しく驚愕した。

『……? カズラ、どういう事?』

『……私たちアルターエゴは、ハイ・サーヴァント――女神の複合体。お母様によって、複数の女神を基にして作られた存在です。ですが、まさか彼女は……』

『その神性情報を、宝具レベルにまで落としたという事か……?』

 女神の複合体――圧倒的な能力を得られるであろうそのアドバンテージを、ローズは捨てたというのか?

 あの二本の剣……それぞれがハイ・サーヴァント。

 だからなのか。この、威圧染みた特異な雰囲気は。

「そうだけど? ボクの体の一部だもん。ボクがどうしようが勝手でしょ」

 平然と、ローズは言ってのけた。

 唖然とする僕たちを気にせず、そのまま続ける。

「ボクの中に他の存在が入ってるとか、考えられないよ。特に女なんて、逃がすことさえさせない。不愉快にさせた罰として、道具として擦り切れるまで使い潰す。ボクが存在を許容するのは、ボクとセンパイだけだよ」

「――」

 ――何を言っているのか、まったく分からない。

 価値観が根底からして違いすぎる。だが、それでも分かることが一つ。

 その純粋すぎる狂気は――僕に向けられている。

「だから、ボクの世界にアンタはいらない。今すぐ、ここから消えて」

「馬鹿じゃないの? 貴女の好きにさせる訳ないでしょ」

「……ま、そう言うのはわかってたけど。面倒だなぁ」

「それなら、動かずに大人しくしてると良いわ。一瞬だから」

 再びローズに詰め寄ったメルトが膝の棘を突き出す。

 それを同じように右の剣で防ぎ、続け様の連撃も対処する。

「女神とはいえ、武器には変わりない。その力を振るえなければ、ただの剣でしかないわ」

「そうだね。でも、だから何? そのただの剣で殺されることを自覚しただけ?」

「そんな訳――」

 ローズの挑発めいた言葉に応対しながら次の一撃を繰り出そうとしたメルト。

 

 それに合わせるように――背後から風が駆け抜けていく。

 

「ッ」

 咄嗟にローズは腕を伸ばし、黄昏の聖剣を受け止めた。

 刃先の分かれた歪な形状により直線的な攻撃を絡め取り、二つを一度に対処して見せたのだ。

「――久しぶりだね、セイバー」

「済まないな、ローズマリー。マスターの命だ。討ち取らせてもらう」

「黄昏が夜を破るってのも変な話だね。出来るものなら、やってみれば?」

 ローズの言葉で周囲を見てみれば、心なしか少し、景色が明るくなったように思える。

 夜の帳は、どうやらセイバーの剣によって切り裂かれたらしい。

 となれば、生徒会からの補助も可能か。

『帰還の術式を組みます。……まだ宝具の影響が少なからず残っているようですので、暫く耐えてください』

「分かった――」

 見れば、ローズはセイバーの容赦ない斬撃とメルトの正確な刺突に不思議なまでに対応できている。

 これもアルターエゴゆえか。歪な双剣を駆使しながら二人に並んでいる。

 帰還には暫く時間が掛かる。

 その時間でローズを押し切ることは難しい。

 かといって、守りに入っても無傷では終えられない――そんな予感がある。

 ならば、僕がただ静観しているわけにはいかない。

「――」

 “今まで”の、ただ普通の術式しか紡げなかった僕とは違う。

 “今”の僕には、記憶がある。

 こんな有事を想定しての鍛錬だ。使わなければ、一体何のために自らを磨いてきたというのか。

「――」

 全ては、メルトとの勝利のために。

 それだけ求めて、鍛え作り上げてきた術式。

 対象はメルト。それを理解し、魔力を流す。

 基本は、一。普段メルトに流している魔力を基本として――だんだんと強く。

 次は二ではない。更に小さな単位(1.1)から、少しずつ。

 強化はまず小さく、ゆっくりと、溶かすように、馴染ませていく。

 制限時間のない、月の中枢。

 そこで鍛錬を重ねてきて、分かったことがある。

 通常の強化――瞬間的にステータスの引き上げるだけでは、限界があるのだ。

 だから、少しずつ浸透させていく。

 それによってより、更なる強化を。

強化(クレシェンド)

 通常の術式と同じく、当然時間の制限は存在する。

 だが、それでもその出力は通常を超える。

『おや……? メルトさんのステータスが……』

 動きは自然に、しかし確実に早く、強くなっていく。

 筋力と敏捷二つに特化した、メルトの攻撃スタイルを最大限に生かした強化術式。

 小馬鹿にしたような笑みと苛立ちを併せたようなローズの表情が、確かに変わった。

「っ……」

 セイバーの剣とメルトの棘。二つに対応しきれなくなったのか、ローズはその動きを変化させる。

「馬鹿にするのも、いい加減にしなよ……っ!」

 二本の剣を同時に突き出し、メルト、セイバーの二人と距離を取る。

 剣を覆うように広がる魔力。

 今までの剣とは違う。真名解放か――?

 だが、メルトとセイバーはそんな大きな力を使わせようとしない。

 再びぶつかり、ローズは同じように、剣で受け止める。

「あれは……」

 ローズの表情に、焦りや苦悶はない。

 あるのは――凶悪な笑み。

 何をするつもりか分からないが、メルトとセイバーはあの状態では対処が出来ない。

 ならば、どうにかできるのは僕だけ。

 

「――――――――」

 

 今、ローズの両手は塞がっている。

 そして、僕の手は塞がっていない。

「――――」

 出来る。今なら、間違いなく出来る。

 その可能性は無限。必要なのものは――取り戻した。

 今の記憶には存在する。必要なものは――何よりも強い力。

 だから、使えない道理はない。必要なものは――メルトとの強い絆。

「――道は遥か恋するオデット(ハッピーエンド・メルトアウト)

「え――?」

 狙うはただ一点。ローズのみ。

 魔力を変転させる。相手を狙い撃つ砲撃に――!

軍神五兵(ゴッド・フォース)――!」

 それは、ラニが契約していたバーサーカーが使用していた宝具。

 相手を撃ち抜く強大な砲撃。

 ローズはその言い知れぬ狂喜ゆえか、まったく気付いていない。

 だが、これは好機――

()――」

「メルト、セイバー!」

 恐らく宝具の真名を詠もうとしたのだろうが、その隙を逃したりしない。

 既に察していたらしい二人が離れた瞬間、溜まった魔力を撃ち放つ。

「ッ――――!」

 まったく予期していなかった攻撃をまともに受けて、ローズは吹き飛んだ。

 完璧だ。僕の決着術式(ファイナリティ)――確かに、取り戻した。

 事象改竄の極致。絆を力とし、絆を武器とする、自在の術式。

『今のは……?』

『バーサーカーの……』

「ハク、今の……」

 駆け寄ってきたメルトに、ひとまず笑いを返す。

 今この場で話して、皆に露呈するのは得策とはいえない。

「待て。まだローズマリーは倒れていない」

「ッ」

 確かに、この術式はバーサーカーの宝具を再現するといってもそれほどまでの威力は出せない。

 当然、この程度では限界は訪れないだろう。

「……っ」

 立ち上がり、再び剣を持つローズ。

 伏せていた顔が、此方に向けられる。

 その表情は――――より深い、満面の笑みに染まっていた。

「――あは」

「え――」

「……ボクに、攻撃してくれた」

 か細く、それでいて確かに、ローズは恍惚とした声を漏らした。

「ボクだけのために、術式を使ってくれた。ボクを倒そうとして、ボクに目を向けてくれた。今の一瞬、ボクだけを考えていてくれた」

 強い。強すぎる。

 強すぎる――狂気。

「間違いないよ。センパイはボクのもの。センパイはボクが好きなんだよね。だから、あんなに強い攻撃をしてくれた。遠回しなアプローチ、でも、嫌いじゃないよ」

「な、何を――」

「全部、受け止めてあげる。ボクはセンパイを受け入れる。センパイならどんなことでも許容できるもん」

 異常なまでに、狂っている。

 何を言っているのか、まるで理解できない。

『ッ……帰還術式、組めました。三人とも、帰還させます』

 術式に包まれ、旧校舎に引き戻される感覚を覚える。

「あれ? 行っちゃうの? ツンデレって奴? まったく、しょうがないなぁ。うん、良いよ。ボクは待つから。そろそろ見つかっちゃうだろうけど、センパイに会えただけでも収穫だね」

 ローズの声が遠くなっていく。

 見つかる……? もしかして、彼女はBBに無断で来たのか?

 だとしたら、何故、それほどまでに僕に執着するのか。

 結局答えは出ず。最後の瞬間まで、ローズはその狂喜を絶やさなかった。

 

 

 +

 

 

「……何をしてるんですか、ローズ」

「あ、ヴァイオレット。どしたの? ここ、ヴァイオレットの迷宮じゃないでしょ?」

 まだセンパイに会えた喜びの余韻に浸ってたいのに、もう少し、空気読んで欲しいなぁ。

「そんな事は関係ありません。貴女は行動を制限されていたのに、何故――」

「あんなの、簡単に解けたよ。なんてったって、愛の力は強大だからね」

「愛……?」

 そう。ボクには愛の力がある。

 センパイを守る、センパイの障害を倒す、センパイのためだけに発揮する、最強の力。

 センパイの理解者となれるのはボクだけ。だからボクはこの力を持っている。

 なのに、BBといったら、本当に分かっていない。

 ボクのid_esに、この上なく不愉快な名前を付けてくれちゃって。

 嫉妬なのかな。子供が持った力に妬みを覚えちゃうなんて、本当に馬鹿な人。

 だったら、皮肉を込めて、この名前を使ってやろう。

「どうせボクを連れ戻しに来たんでしょ。良いよ。もう目的は終わったし」

「っ、まさか……」

「うん。ま、会うだけだったけど。次はきっと、ボクのものにしてみせるよ」

 きっと、もう少し。

 もう少し我慢すれば、センパイが手に入る。

 きっとセンパイは、自分からボクのところに来てくれる。

 だって、センパイはボクが好きなんだもん。来てくれて当然だよね。

 ああ、楽しみ。ボクからも近づけるように頑張るから、早く来てよ、センパイ。




なにこの子怖い。
これでお察しの方もいると思いますが、ローズのコンセプトは「純粋なヤンデレ」です。
どうしてこうなった。

千夜一夜の帳(ライラ・ワ・ライラ)
空間内を夜にする宝具。また、外部から内部への干渉を防ぐ。

強化(クレシェンド)
ハク流・強化。筋力と敏捷に対応。
だんだんと魔力を馴染ませることで少しずつ強化していく術式。
最終的な上昇値は通常の強化よりも高い。

また、記憶が戻ったのでこれからはバンバン決着術式使っていきます。
これが後半クオリティ。今後は強くないと生き残れねえ。

あ、明日から十年以上ぶりにホウエン地方に冒険に行くんで更新遅れるかもしれません。

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