これを最後の更新にしたくない。そんな気概で臨んでまいります。
という訳で、そんなストレスをぶちこんだ最後の回。
エミヤでも流しながら読んでくれると良いなーなんて思いながら後半書いてました。
生徒会室から転送された小型のプログラムは、テーブルの上に降臨した。
二頭身で口が大きく開き、青い髪は白と赤だけだったテーブルに新たなアクセントを追加する。
そう、紛れもなく、
『って、おい! 遠坂お前! 表示設定カスタマイズしただろ!』
『え? なんの事かしら。これ
『嘘吐くなよ! 僕の顔したプログラムなんてある訳ないだろ!』
それは慎二の姿だった。
『そのソフト――『まるごしシンジくん』は料理処理専門ですので、遠慮なく破壊料理を流し込んでください』
『ちょ、ラニ! なんでお前淡々と説明してるワケ!? 止めろよ!』
『――使用者をハクトさんに設定、権利も同期しておいたので制限もスルー出来る筈です』
『制限はともかく僕をスルーするなよ! おい紫藤! お前は――』
「……ありがとう、慎二」
『おいっ!』
正に救いの手だった。
これで、死への船旅を回避することができる。
慎二の手助けは、ほんの気紛れかもしれない。
それが凛によって当初の予定と変わったとしても、僕にとってはとてもありがたい助けだ。
これならもう、料理を恐れることなんて――
「……っ!」
「あ……」
ふと、エリザベートと目が合ってしまった。
今にも泣き出しそうな顔で、スカートの裾を握り締めている。
「ゆ、許さないわよ……私の料理を、そんな、小汚い人形に与えるなんて……信じられない屈辱だわ……!」
『小汚いって』
「というか、ありえない。家畜なんだから、貪るように食らいなさいよ。一滴残らず飲み干しなさいよ……!」
声を震わせながら、エリザベートは訴えてくる。
「ヤダ! ヤダヤダ! 捨てちゃイヤ! そんな事したら絶対に扉開けてあげないんだから!」
「ひどい癇癪ね。ハク、聞き入れる必要はないわ。自分の体を大切にして」
「……」
メルトが言ったきり、エリザベートはそれ以上何も言わなかった。
――言えなかったのだと思う。
このシチューは、エリザベートが手間隙掛けて作ったものだと言っていた。
結果として出来たものが何であれ……丹精込めて作った料理が
そもそも、この迷宮に来た理由はなんだったか。
招待状を受け取ったから。もちろん、それもある。
しかし、本来の目的はエリザベートの心を理解し、SGを取るため。
であれば――この場はシンジくんに頼っては、いけない気がする。
「……」
抵抗なんて、死ぬほどある。
正直、このシチューが血の池地獄にしか見えないことも事実だ。
だが――
「……こ、子ブタ?」
「ちょ、ハク……何を……」
スプーンの冷やりとした銀の質感が、右手に伝わってくる。
一口だけ――一口だけなら。
きっと、この勇気がSGに繋がっている。
自分でも分かっている、誠に蛮勇で、
いざ、南無三――――――――!
「ッ――――!!」
「え――」
真っ赤な液体は口に放り込まれた瞬間、対界宝具にも等しい凄まじい威力で口内を蹂躙した。
まずい。ひどい。えぐい。くどい。――――否、ドロい。
もしかすると、エリザベートは地球とは別の文化圏で生まれた英霊なのではないだろうか。例えば、金星とか。
この料理の救いの点を挙げるとすれば、手間隙掛けてあるらしくしっかりと具材を煮込んであることだ。
そのおかげで肉(多分)や野菜(多分)が柔らかくなっており味の全てを感じ取る前に細かくなっていく。
頑張れ。頑張れ紫藤 白斗。
全身に命令して、全身を激励して、全身を奮い立たせて、たかだか一口をようやく飲み込んだ。
「っ……はぁ……はぁ……」
「こ……今度は、どうかしら?」
真剣な目でエリザベートは問いかけてくる。
「うん…………まぁ、それ……なり……」
今の感想をどれだけ良く言い繕っても、こうにしかならない。
まずい、ひどいと正直に言ってばかりでは、反応も同じものにしかならない。
それでは、SGのヒントにはなりえないだろう。
「そ、そう……? 良かったわ、私としたことがちょっと本気で心配しちゃった。うん、そうよね、当然よね。あなた、分かってるじゃない!」
どうやら、エリザベートは相当真剣にこのシチューを作ったらしい。
今の感想に安心したらしく、嬉しそうに竜の尻尾をふりふりと揺らしていた。
「……でも……まだ夜のテーブルもあるし……」
「いいわ。まだ本番も残ってるし、今回は見逃してあげる」
良かった。調子に乗って「じゃあ全部食べて」とか言われていたら本当に詰んでいたかもしれない。
幸い当人の許可を得ることが出来た。
残りはまるごしシンジくんに任せるとしよう。
「次こそは、美味しいって涙を流して感動することになる筈よ……覚悟してなさい」
足早にエリザベートは転移する。
「……じゃあ、シンジくん――頼む」
『……頑張れよ、シンジくん」
シチューの器を持ち上げ、シンジくんの大きな口に押し込む。
瞬間、どんな原理かは分からないが真っ赤なシチューは処理された。
……これを見届ける前に立ち去ったのは、エリザベートなりの強がりだったのかもしれない。
「ハク、大丈夫? 食べなくてもいいのになんで……」
「……SGのため、かな」
収穫はあった。彼女の料理に対する執念、これは今回のSGに繋がっているだろう。
「……凄いですね。安全策に逃げず壁にぶつかる……素晴らしい気概です」
「そうかな……?」
「はい。なんというか、色々と納得できました?」
「何を?」
「色々と、です」
ヴァイオレットは小さく微笑んで、先導するために先に進む。
どうもはぐらかされたような気がしたが、多分追求しても答えようとはしないか。
主にメルトに話をはぐらかされることが多いため、あまり気にならなくなってきた。
先を行くヴァイオレットに、相変わらずメルトに支えられながらゆっくりと付いていく。
忘れることの出来ない朝のテーブルの衝撃、そしてコールタールのようにべっとりとしつこくこびり付く後味に追撃するように後乗せされる、シチューの後味。
口内がちくちくするというか、何かが這っている感覚さえある。
出来ることなら、うがいをしたい。完全にとは言わないまでも、ある程度口の中をすっきりさせたい。
しかし、
「……見えて、きました」
「……」
そんな悠長なことは当然許されず、最後の試練が見えてくる。
一体どんなメニューなんだろうか。
……遠目に見た、白が基調の筈のテーブルクロスが赤く見える。
というより、今までより赤の面積がやけに多い気がする。
「ちょっ……」
メルトの表情が引き攣っている。
気のせいだろうが、僕の目にはあのテーブルクロスいっぱいに料理が並べられているように見える。
『あぁ……』
『ぬぅ、これは神が与え給うた十二の試練か……なんと加減を知らぬことよ』
「は、ハク……ちょっと、足凄く震えてるけど……」
「……武者震いだから」
ようやく視認できる距離まで来ても、絶対嘘だと
そして、遂に辿り着いた。
「ようこそ。そして、圧倒されているようね! これが
テーブルは、これでもかという程の赤い料理で埋め尽くされていた。
赤いフルコース。赤い満漢全席。およそ食べ物で表現出来る限りの地獄を体現したかのような、凄まじい光景。
DDとか、デス・ディナーの間違いなんじゃないかというほどだった。
『目に痛い……』
『こんな……酷すぎます! 素材に謝ってください!』
『お、落ち着いてください、カズラ! まだ少なからず希望は……』
当事者ではない
それを作った当人は通信をスルーして、自慢げに説明する。
「順番に出せないのが残念だけど、食べ頃は維持してあるわ。マナーは気にせず、好きなものから食べていいのよ」
好きなものがないというか、好き嫌いが判別できる味ではなかったというか。
貴族の食事のマナーなんて心得ていないが、そういった意味の遠慮とは違うもっとストレートな何かが足をこれ以上進ませない。
何故なら、今回は救世主の力を借りれないからだ。
赤いシチューを飲み干すのに、シンジくんは全ての力を使いきった。
煙を上げて地に伏す彼を、僕は置いてきたのだ。
そんな僕が、また彼を頼ろうなんておこがましいにも程がある。
それに――僕の目的は、エリザベートの背後に聳える鋼の扉を開くことではない。
その向こうのシールドを打ち破る、即ち、エリザベートのSGを手に入れることこそが、やるべきことだ。
彼女の心を揺らすには、
「――」
メルトから離れ、一歩前に出る。
「ハク!」
「大丈夫。何も心配はいらない。僕は、メルトのマスターだ」
自分を完食したくば、ここまで上り詰めて来い――真紅の強敵は、遥か高い丘の上から言い放つ。
今から僕が挑むのは無限の
恐れずしてかかってこい! 真紅は傲岸不遜に言ってのける。
宜しい。ならばこれは食事ではなく決闘だ。
「でも――」
「メルト。一つ確認していいかな」
我ながら、場違いなほど平然とした声色だった。
「……なに?」
「別に、アレを完食してしまっても構わんのだろう?」
口から自然と、そんな、トンデモナイ言葉が発された。
「ハク、貴方――ええ、遠慮はいらないわ。がつんと痛い目に――――って、無理に決まってるでしょ!? 正気に戻って!」
「そうか。なら、期待に応えるよ」
「ハク――――ッ!」
『会話が成立してないよ、白斗君』
『彼自身、相当混乱してるようですからね。とりあえず、後が面白そうなんで録画は続けましょう』
『レオ……いつから録画してたのアンタ』
止まる訳にはいかない。
此処に来て現れた最大の敵に向かって、まっすぐ歩を進めていく。
「……挑むのですか? この、真紅の地獄巡りに」
驚愕を隠さないヴァイオレットを一瞥し、テーブルにつく。
フォークとナイフを持つ手が震えている気がするが、気のせいだ。静まれ、僕の右手。
「ハク……お願いだからやめて。こんな
「ありがとう、メルト。その気遣いだけで十分だよ」
これは、自分の手――違う、口で乗り越えなければならない試練だ。
それに、この料理はエリザベートが僕に用意した料理。乗り越えられるのは、僕一人だけだ。
「どれだけ困難な戦いかは分かってる。だから、メルト」
「え……?」
不安げなメルトに、精一杯の笑みを見せる。
「これを食べることができたら――田舎に帰って、結婚しないか」
「ハク――! 私……って、違う! 落ち着きなさい、どれだけフラグ乱立すれば気が済むの!?」
さて、始めよう。
真剣に此方を見つめているエリザベートに視線を投げる。
いくぞ
「――いただきます」
「えぇ――召し上がれ」
今の僕に必要なのは、覚悟と、決意と、痛みを忘れる蛮勇。
そして、先を逝くあの男の背中を追う思いだけ。
小さな、青い髪の男は、真紅の風の中でたじろぐことなく立っている。
僅かに顔をこちらに向け、その背中は、
――ついて来れるか。
蔑むように、信じるように、僕の到達を待っている。
ああ、いけるさ。いや、ついて来れるか、じゃない。
――
体にありったけの熱が注ぎ込まれていく。
渾身の力を篭めて、
「ッ――――!!」
「やっぱ大丈夫じゃないわよね? 一口でそんな汗出てるし……!」
ごめん、やっぱ無理かもしれない。
どうやら、極度の緊張により頭がどうにかなっていたらしい。
どれだけ思考が彼方にいようとも、
「いや……大丈夫だよ。ちょっと、衝撃が、強か、った、だけだから……」
なんとか衝撃から立ち直り、再び料理に目を向ける。
さて、正気には戻った。後は現実と真っ向から戦わなければならない。
正直勝てるなんて思ってはいない。つまり、勝機を掴むには奇跡が起きるしかない。
しかし、そんなのいつもと変わらない。いつだって、何かしらの奇跡が僕に味方をしてくれた。
だからいける筈だ。
「……っ」
全ては、SGのため。
息を整えて、再び料理に手を伸ばした。
シチューを間違えて「しちゅう」で変換したら「死中」になってクソワロタ。
後半の本気で心配するメルトにハクが不思議に思わなかったのは、多分アドレナリンが大量分泌されてたからです。
後、シンジくんのくだりの「先を逝く」は誤字じゃないです。
今回のパロディとかその辺
・いざ、南無三――――――――!
「誠に愚かで、自分勝手であるッ!
いざ、南無三――! 」
テー→テー↑テー↓テー↑レ↑レ↑レ↑レー↓
東方星蓮船に登場するニューB……聖白蓮の台詞。
弾幕ごっこ開始の直前にこの台詞が発される。
ちなみに暴虎馮河とは「無謀な行為」とかそんな感じの意味。
・静まれ、僕の右手
邪気眼を持たぬ者には分かるまい……
・別に、アレを完食してしまっても構わんのだろう?
stay nightのFateルートにおけるアーチャーの台詞……の改悪。
詳細は多分皆知ってる。
・いくぞ
stay nightのUBWルートにおける士郎の台詞……の改悪。
詳細は恐らく皆知ってる。
・――ついて来れるか。のくだり
stay nightのHFルートにおけるアーチャーと士郎の台詞(?)……の改悪。
詳細はきっと皆知ってる。
・一連のクソテンション
なんかすいません。