なのにBD版zeroのCMでセイバーが思いっきり「エクスカリバー!」とか言っちゃってるんですけど。
しょうがないですけどこれ割とネタバレになりませんかね。
十三階の最奥部――これより先はシールドが塞いでいる――の広場に、エリザベートとヴァイオレットはいた。
エリザベートの右側、数歩下がった場所にヴァイオレットは立っている。何故か、心底呆れたような表情をしている。
そしてその横。エリザベートの真後ろに、見たことのない異物が存在していた。
「来たわね子ブタ。私の特別ライブを味わう覚悟は出来たかしら?」
ここに来るまでに何体かいた巨大なエネミー。それを改造したような感じ。
赤色を主体としたそれからは、何やら嫌な予感がする。
『普通のエネミーとは格が違いますね。かなり高度な改造が施されています。しかし……』
『うむ。主砲に加えて機銃が二門……随分と攻撃的な外見だ。だが、あれは……』
外見からして、攻撃的であるという事は明らかだ。
だが、どう見てもあれは……
「……エリザベート。何ですか、それは」
「決まってるわ。私の迷宮に相応しいように、強く、気高く、可愛く改造したのよ!」
確かに、高度な改造は施されている。
通常のエネミーに比べてステータスはかなり高いし、耐久性も大幅に上がっている。
戦うならば、まだ通常のエネミー五体と戦ったほうがマシなレベルだろう。
だが、それはあくまでその改造結果を十全に生かすことが出来ればの話である。
勿論、普通であれば改造結果は確定された時点で機能する。実際、このエネミーの改造も百パーセント、機能しているだろう。
その百パーセントとは別に、マイナス要素の存在がそれを台無しにしているのだが。
「貴女の改造はまったく面白みがないわ。そこらへんの三流マネージャーが用意した方がまだセンスがあるくらい」
「……」
「だから、そこに跡付けしたの。裏方の仕事なんて分からないけど、外見だけは何とかなるわ。こういったところでも、アイドルはセンスを発揮していくものよ!」
眉間に指を当てて俯くヴァイオレットに、敵ながら少なからず同情してしまった。
完全に無駄になったわけではないものの、自身が施した改造の効果が後付の
赤色の装甲(ペンキ塗り)に(螺子で)機銃を取り付けその他色々な“何か”が装備されて……カラフルな紙テープだのリボンだので飾られている。
「これが最強の決戦機! 『エリザベートルディ』よ!」
自信満々に宣言したエリザベートの後ろで、最強の決戦機なるそれは軋むような呻りを上げた。
「……貴女を隠すために改造したエネミーだったのですが」
「そんなの論外よ。ここは私の迷宮。私を引っ込めて私以外を目立たせるなんて、オーディエンスに失礼じゃない」
「十分目立ってないか……?」
古びた宮殿を模した迷宮にある真っ赤な異物。
それは地味というには無理がある、派手すぎるものだった。
「いいのよ。それは私を引き立てるため。派手なステージだとアイドルはもっと美しくなるわ。これが目立つほど、私は更に輝くの」
「無駄にデコレートした結果本来の使用に弊害が出る……なんでこういう女って、そんな初歩的なことも分からないのかしら」
“こういう女”がどういう女性なのかはともかくとして、メルトの言葉に同意した。
あれでは戦闘すらままならないと思うのだが……
「さて。早速だけど、前座として使わせてもらうわ。ビームとか出るし、いっぱい機能も取り付けたから、これで堕ちちゃうかもだけど!」
「……好きにしてください」
「勿論よ。一曲目は派手に。オープニングは疾走感溢れるロックが鉄則! さあ行きなさい、エリザベートルディ!」
「ッ! メルト!」
「……はいはい」
外見がどうであれ、敵として襲ってくるならば戦わなければならない。
ひどく脱力した様子だが、メルトにも油断はない。
何が来ても、一切問題なく対処できる筈だ。
「喰らいなさい! エリザベート・マシンガン!」
巨体が震え、その震動が伝わってくる。
正面に盾を展開し、襲い来るであろう機銃から放たれる弾丸の雨を待ちうけ――
「……」
「……」
「……」
「……あれ?」
暫く震えて、動きを止めた。
攻撃の気配はない。まるで次の命令を待っているかのようだ。
「ちょ、撃ちなさい! エリザベート・マシンガンよ!」
エリザベートの指示に再びエネミーは巨体を震わせ――また止まった。
「な、なんで!? 技を選んで叫ぶだけで動くんじゃないの!?」
「……そんな付け方で使用できる訳ないでしょう。常識的に考えて」
「そんな……!」
「……」
完全に自業自得の失敗で衝撃を受けているエリザベートを尻目に、メルトはエネミーに向かって斬撃を飛ばす。
斬撃は巨体の装甲を削り、ついでに機銃を片方切り落としていった。
「ああ!? せっかく頑張ってつけたのに!?」
「……」
心底面倒くさそうにメルトは溜息を吐いた後、もう一度斬撃を放って二門目の機銃を破壊する。
「ちょ、せめて何か言いなさいよ! 傑作を無言で破壊される身にもなりなさい!?」
目に少し涙を浮かべながら抗議するエリザベート。
意にも介していない様子のメルトはただ坦々と、作業のように攻撃をする。
「くっ……ならこれよ! エリザベート・ミサイル! ……あれ?」
「せめて魔力くらい通しておいてください……あんなに重いもの運用させるならば、私ですら時間が掛かるというのに」
「……」
「きゃあああああ!?」
側面に申し訳程度に接着していた
「じゃ、じゃあエリザベート・ブレイドは!? ……出た! 成功ね!」
「……動けないエネミーに固定型の近接武器を付けてどうするんですか?」
「……」
「きゃあああああぁあああ!?」
何故か上に向かって伸びる鋭利な刃の中ごろから、真っ二つに分断される。
「くぅぅ……こうなったら、一番時間を掛けたアレで行くわ! 必殺! 稲妻電撃プラズマサイバーオーロラ遠心重力スーパーサンダー……」
「……」
「パマーン!? ちょっと! 技名の途中で攻撃なんて卑怯だって習わなかったの!?」
技の長さに一切突っ込みをいれず、メルトの無慈悲な一撃は、形容しがたい何かを破壊する。
ああ――ようやく理解できた。
自信作であるらしい兵器を次々と破壊され、涙目のエリザベート。
自信作であるらしい兵器を坦々と破壊して、愉悦のメルト。
まったく対照的だ。きっと……いや、絶対内心でメルトは悦んでいるのだろう。
「ヴァイオレット! どうにかしてよ!」
「……どうにかするつもりでした。私が改造した兵器はどうなのですか?」
「そうだ! それよ! まだ取っておきが残っていたじゃない!」
「っ……!」
ヴァイオレットの兵器――それを聞き、今まで無表情だったメルトが表情を固くした。
真面目に対処しなければならないものだ。一体、どれほどのものなのか。
「これで終わりよ! 必殺! エリザベート・ファイナルシュート!」
高らかに技名を宣言すると、主砲に膨大な魔力が溜まっていく。
最後の最後に、ここまでのものが来るとは……盾では、防御は出来ないだろう。
「メルト!」
ここは回避だ。どこまでの範囲があるか分からないが、正面に立っていることだけは避けなければならない。
しかし、思った以上にチャージが早い。
完全に溜まりきった魔力が、避難を終える前に解き放たれた。
「――!」
砲台の構造に逆らって、真上に向けて。
「……え?」
高く聳える光の柱は途中で分散し、十字架のように広がる。
何が起きたのか分からず、ただそれを呆然と見上げていた。
やがて溜まった魔力を放ち終え、煙を上げて砲台が落ちる。
メルト、エリザベートだけでなく、ヴァイオレットさえも呆けていた。
「……いつから、この砲撃は対空兵器になったのですか?」
「し、知らないわよ! 私は可愛くしようとして周りを飾っただけで、中身は弄ってないわ!」
「そうですか。機械というのは、思った以上にデリケートなのですね」
なんかもう全てを悟ったような表情で、ヴァイオレットは呟いた。
いたたまれない。彼女のなんと苦労人なことか。
『えっと……見たところ、あのエネミーの装備はこれで全てですよね?』
「……そうみたいだ」
「……」
かなり残念な空気になってはいるが、やるべきことは変わらない。
「……
「……
メルトの斬撃と同時に弾丸を叩き込む。
攻撃の手段がなくなったエネミーはただ攻撃を受けることしか出来ず、丈夫な装甲にも皹が入り損壊は広がっていく。
弾丸の威力を更に強め、数を更に増やす。
もういっそのこと、この空気を吹き飛ばさんほどに。
「あ、ああ、あぁあぁぁぁぁ……」
頃合いか、と手を止めると、エネミーは力なくその巨体を地に伏せていた。
……倒した。倒しすぎた。
動きを止めて沈黙したエネミーは穴だらけ皹だらけになっており、派手な装飾の後など一ミリたりとも残っていなかった。
「ぅ、ぅううう……! う、動きなさいよエリザベートルディ! こんな恥辱、許されないわ! 一刻も早く忘れたいの! だから再起動して戦いなさい!」
げしげしと巨体を蹴りながらエリザベートは叫ぶ。
すると――エネミーは再び呻りを上げた。
「なっ……」
「はぁ……ふぅ……分かってるわ、無駄なことよね。落ち着きなさいエリザ。前座がヘマしたくらいで取り乱したりしないで……」
そのタイミングでエリザベートは此方に向き直り、胸に手を当てて深呼吸をしていた。
要するにまったく気付いていない。
ヴァイオレットは頭を抑えながら、気分が悪そうに目を閉じたままどこかに転移していく。
多分あれは無意識なのだろう。しかし結果として、エリザベートだけが残された。
「にしても、今の術式……あの子ブタ、随分と成長したみたいね。なんていうのかしら。ブタも磨けば真珠のハリ……? 違うわね……」
エリザベートルディは震動をより強くしている。まずい。途轍もなくまずい。
原因は分からないし、止め方も分からない。分かっているのは、このままだと爆発するという事だけ。
「ハク、危険よ。一旦避難しましょう!」
「え……あ……」
だが、このまま放っておけば――エリザベートはどうなる?
そう思った途端、体が動いていた。
「ちょ、ハク!」
エリザベートに向かって走る。
「え?」
小柄な体に手を伸ばし、引き寄せる。
そのままエネミーを背にして、離れようとした瞬間、轟音と共に体が浮き、頭が真っ白になった。
「……っ」
どうやら、爆風の煽りを受けて倒れこんでしまっていたらしい。
「い、つっ……」
『ハクトさん! 大丈夫ですか!? サクラ、彼の状態は……!』
『え、えっと……! 全身に軽い打撲や擦り傷、ヤケドくらいですけど……えっと……』
妙に遠く感じる通信の音声。
桜の声で命に別状がないことは判断できたが、歯切れが悪い。
何か、まずい状況なのだろうか。
……そういえば、なんだか温かさを感じる。流血でもしているのだろうか?
閃光に眩んだ視界がようやく戻ってくる。
赤い角が、すぐ傍に見えた。
「ん……?」
「ぅ……んん……」
不意に、腕の中で小さな呻き声が上がった。
……腕の、中?
「あれ、私……あなた、どうして……」
状況を把握するよりも早く、声の主の目が開かれた。
ぼんやりとした瞳がゆっくりと焦点を合わせていく。
「えっと……おは、よう……?」
何を言っていいものか、とも思ったが、とりあえず声を掛ける。
すると――
「うん……おはよう、ダーリン」
「!?」
「――――」
耳を疑うような言葉が聞こえてきた。
「あのね、私、変な夢を見たの。笑わないで、聞いてくれる?」
「え? あれ? ……え?」
「あなたと私が敵同士で、戦っているの。ステージの前であなたを追い詰めるんだけど、セットが爆発しちゃって。私、もう駄目だと思ったわ」
「いや、あの……」
「けど、あなたは身を裂くような爆風の中、私の手を引き寄せて、こう言ったの」
――“君に爆風は似合わない。ましてタンクのオイルなんて、浴びせるだけでも罪深い。ところでその角、電撃的に可愛いね”
「ああ……思わず、首筋に牙を立てちゃうくらい、官能的に格好良かった……」
「……」
『……半分くらいは、合ってますよね?』
究極的に合ってないし、言って覚えもない。
寝ぼけている。完っっっ全に、寝ぼけている。
そして後で聞いたら悶絶モノの、恥ずかしいことこの上ない妄想を垂れ流している――!
『はっはっはっはっは』
本当にこの会長は少し口を閉じていてくれないものか。
さて、敵とは言え、これ以上の被害拡大を見過ごすのは忍びない。
「目を覚ますんだ、エリザベート。僕たちは本当に敵同士。本当に爆発があって、君は混乱してるだけだ」
「敵、同士……? あなたと、私が……?」
「そうだ」
「それって……禁断のロマンス……! ……………………きゅん」
「……」
五停心観の反応すらどうでもいいほど、生暖かい視線を幾つも感じる。
「……」
『さっすが、一級フラグ建築士。そろそろ死んでみたら?』
『感情抑制装置・フラグブレーカーの製作を提案します。どうぞ、企画書です』
『はい可決。すぐに作ってラニちゃん。一回自覚させないと分からないみたいだから。リップ、貴女も手伝って』
『はい。カズラも……』
『そうですね。私も持てる全力で支援します。id_esの応用が使えそうですし』
『いっそのこと、去勢させたらどうでしょうか』
『み、みなさん! あの、えっと……紫藤さん、仕方がないので、頭を叩いてみたらどうでしょう……?』
誤解だ。誤解なんだ……
心に容赦なく刃を突き立てられていく。
痛い、なんてレベルではない。拷問よりも拷問だった。
もう、薄々感づいているSGを抜いて終えてしまおうか――
「ねぇ……エンディングを迎えましょう、私たち……」
「は?」
「だっこしてキスして……ダーリン?」
「は? ……は?」
緊急事態警報が発令するほどの要求。
咄嗟に離れようとしたが、要求とは裏腹にエリザベートは自ら動き、唇を重ねてきた。
悪乗りしすぎました。すみません。
やっぱ深夜のテンションに任せたら大変なことになりますね。
五章が全体的にギャグパートだからって、ぶっ飛ばしすぎたかもしれません。とばっちりで被害喰らったヴァイオレットさんマジ不憫。
今回のパロディ紹介
今回は主に戦隊ノリ。
・最強の決戦機『エリザベートルディ』
海賊戦隊ゴーカイジャーに登場する「最強の決戦機『グレート・ワルズ』」から。
こっちとは違い、グレート・ワルズは最強に相応しい凄まじい戦闘力を披露した。
また、「トルディ」は第二次世界大戦でハンガリー軍が使用していた軽戦車。
・稲妻電撃プラズマ(ry
激走戦隊カーレンジャーに登場する「
しかし技名が長すぎて叫んでいる間に逆に必殺技を受け倒される。この流れは伝説である。
・光の柱は途中で分散し、十字架のように広がる。
エヴァ。野生の使徒。思いつき。
・「だっこしてキスして……ダーリン?」
海賊戦隊ゴーカイジャー29話「アバレ七変化で新合体」より、ゴーカイピンク・アイムの台詞。
簡単に経緯を説明すると、「女の幸せエナジー」なる物質を集める怪人を誘き出すために結婚式の芝居を行ったときの発言。
この回はアイムの多彩なコスプレが披露される、ハリケンジャーのレジェンド回ラストと双璧を成す個人的ゴーカイジャー最萌え回である。
余談だがこの回が放送された後、偽結婚式の相手となったゴーカイシルバー・伊狩鎧の俳優宛てに脅迫状が届いたらしい。
あ、キスのくだりはこれ使いたかったからじゃないです。
このくだり書いてる途中に台詞思い出して使っただけです。