Fate/Meltout   作:けっぺん

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菌糸さん「(Grand Orderは)既存の英霊で出てこないキャラクターはいません」

……メルトは?

メ ル ト は ?


Dragon Sweet Coaster!-1

 

 

「まぁ実際……何も知らないのよね。助けになれなくて悪いけど」

「今まで通り、SGを集めていくしかないか」

 結局、情報がゼロの状態からか……

 それに関してはいつもと同じだ。問題は少ない。

 問題は彼女のマスターについて。それが誰であるのかが分からないが、用心するに越した事はない。

「そうですね……では、ハクトさんは準備が整い次第迷宮へ潜ってください」

「あぁ……分かった」

 セブンレイターというプログラムが行動を余計に急がせる。

 あんな結末を出された以上、今まで以上のペースで攻略を進めなければならない。

 迷宮は残り十二階。これまで攻略したものと同じ数字。

 そして、割り当てられる衛士は更に強力なものとなるだろう。

 ディーバだけではない、アルターエゴたちとの全面的な戦いも、きっと訪れる。

 気を引き締めなければ。BBが中枢に辿り着く前に、追いつかなければ――

 生徒会室を出ると、見慣れた姿が目に入る。

「……慎二」

「……お前か」

 もう、生徒会室の会議の内容を盗み聞きしようともしていないらしい。

 窓から見える夕日を、ただ面白く無さそうに眺めているだけだ。

「迷宮、行くのか?」

「ああ……」

「……そうか」

「シンジ、言わないのかい?」

「うるさい。言うよ」

 どうやら、何か話があるらしい。

 ライダーに急かされ、暫く難しい表情をしていた慎二は目だけを此方に向ける。

「……ユリウスのサーヴァントに襲われて気を失ってる時さ、僕の精神にBBが介入してきたんだ」

「BBが……?」

「勧誘してきたんだよ。僕のこと」

「っ」

 BBが慎二を……

 理由は明白だ。

 戦力の増強。生徒会との戦力の差を更に広げるために、生徒会に所属していないマスターに声を掛けたのだ。

「それで……」

「断ったよ、馬鹿馬鹿しい。何が『貴方が月の王者です』だ。上辺だけなのが丸分かりなんだよ」

 見る間に不機嫌になった慎二はその状況を思い出したように舌打ちする。

「だからなんだって話だけどさ。気をつけろよ。アイツ、方法を選ばなくなってる気がする」

 その通りかもしれない。

 多分、BBが取り込む相手として慎二を選んだのは、「取り込みやすい」と判断したからだろう。

 だが旧校舎に残るマスターだ。それを仲間に引き入れるのは難しいと分かっている筈だ。

 ジナコ同様に上手く行くと思ったのだろうか。二度同じ手段を、BBは繰り返すだろうか。

「……驚いたわ。貴方はまんまと乗せられて従うと思っていたけど」

 姿を現したメルトは心底から驚愕した様子で、それを見た慎二は呆れたように溜息を吐いた。

「人に笑われる道化なんて、僕の性じゃない。そんな下らないことで時間を無駄にするより、やるべきことがある。お前が言ったことだろ」

 ――以前、カズラの迷宮を攻略していた際にメルトが慎二に、そう言っていた。

 無駄になる時間を悪巧みに使うのが慎二らしい、と。

 メルトはもしかすると、BBが慎二を取り込もうとする展開を想定していたのかもしれない。

 だからこそ、あらかじめ慎二に助言をしておいた。

 その結果が、こういった形で表れたのではないか。

「まぁ、僕のことはどうでもいいよ。言いたいことはそれだけだから」

 死の運命が決定している慎二は、本心では当然迷宮の突破を願っては居ないだろう。

 だが、それを隠して助言をしてくれている。

「……ありがとう」

 礼を言うのはお門違いかもしれないが、慎二の様子は満更でもないように見えた。

 その後、何を言う事も無く慎二と別れ迷宮に向かう。

 道中、一階の昇降口の前で一人のマスターと出会った。

「ア――」

 ファンシーな衣装を身に纏ったピエロ姿。

 サーヴァントである黒い公爵は姿を見せていない。

 ランルー君は此方を見つけるなり、少しふらつきながらも歩み寄ってきた。

「今カラ、桜ノ迷路、行クノ?」

「え……あぁ……」

 桜の迷路、という言い回しに多少考えたが、確かに生徒会以外のマスターにサクラ迷宮という名称を伝えてはいなかった。

「ソウ……ディーバガ、イルンダヨネ?」

「え?」

 ディーバ――エリザベートの存在を、ランルー君は知っていたのか?

「アノ子ノ事、オ願イネ」

 その疑問の回答はない。それだけ言って、ランルー君は去っていく。

 空き教室に入っていくと、それを見計らったように彼女のサーヴァント、ヴラドが現れる。

「済まないな。妻の頼みは言葉足らずだったろう。実はあの竜の娘、オレと同じくして妻と契約していたサーヴァントでな」

「……同時契約……?」

「然り。どういう事態かは分からんが、此方に落ちたとき、既にあ奴と契約していたようだ」

 契約は裏側に落ちた際……その瞬間ランルー君に何かしら異常が発生したのか。

 しかし間もなくディーバとの契約は解除。

 結果としてディーバはBBの配下になり、凛やラニのサーヴァントとなった、というところだろうか。

「僅かな期間、それも異質な状況であり、妻自ら契約を切ったとはいえ、妻はあの娘に情を抱いている。倒すなとは言わんが、ある程度妻の気を酌んでやってはくれんか」

 答えは聞かず。

 急いでマスターのもとに向かうようにヴラドは去っていった。

「……」

 ディーバとの戦いがどういうものになるか、それは分からない。

 だが、倒すべき相手ならば、やるべきことは変わらない。

 ランルー君の意思も考えたいが、どうなるか。

 とにかく今は、その見極めも含めてディーバに接触しなければ。

 状況は悪くなる一方だが、諦める訳にはいかない。

 皆が手を貸してくれている以上、表に絶対に帰還することが、最大の礼になる筈だ。

 

 

 迷宮の十三階。

 荒れ果てた宮殿を思わせる意匠(デザイン)

 五階層ともなると更に空気が薄くなり、息苦しく感じられる。

 空間の密度がより濃くなっている。深く息を吸っても、空間に支配された苦しさは拭えない。

 確実に中枢に近付いている。これはその証拠だろう。

『接続に問題はないな。シドウ君、異常はないかね?』

「多少、息苦しさを感じるくらいです」

 攻略に関しては問題ない。すぐに慣れるだろう。

『支障は最小限になるように此方で対処します。ハクトさんはディーバの捜索を――』

 レオの指示が終わる前に感じ取った。

 体を走っていく、怖気のような悪い感覚。

 鳥肌すら覚えるそれは、一種の拒絶反応(トラウマ)に近い。

「ッ、ハク!」

 傍に居たメルトの声すら掻き消して。

 以前、驚異的な破壊力を発露した恐怖の大王(アンゴルモア)が再臨する。

 

 

「ヤーノシュ山からあなたに~♪

 

 一直線、急降下~♪

 

 くーしーざーしーで、ちーまーみーれー!」

 

 

 絶世の歌声を 完膚なきまでに 叩き潰す 絶世の音痴。

 心身を共に破壊し 一片すら残さない 魔の歌唱。

 ああ 悪魔はいくらでもいるが 神などいない。

 もう すべてが どうでも いい。

 

   犯人は    エリ     

 

 

 

「ハクッ! 気を確かに! 傷は浅いわ!」

「――――ハッ」

 メルトの呼びかけで昇天しかけていた意識が覚醒する。

 果てのない青に沈むような、遠い、遠い夢をみかけていたようだ。

 以前も見た理想郷がまた見えかけた気がする。

「くっ……」

『ぐ……まさか、今のが……』

 ユリウスすら戦慄するそれ。

 このような所業、犯人など一人しかいまい。

 高く聳える柱の上に、その犯人は立っていた。

「そう、私こそ地獄から帰ってきた鮮血アイドル! 人呼んでエリザベート・バートリー、鮮血Ver.(バージョン)! 覚悟は良くて? 私以外のヒットチャートをみ・な・ご・ろ・し! よ!」

「それだと宇宙から一切のヒットチャートが消えるわね」

 メルトの軽口に同意こそするものの、未だに耳の奥に反響している感覚でそれどころではない。

 耳だけではない。寧ろ脳すら揺れているのではないかと感じるほど、先程の“攻撃”は強力だった。

 恐らく対人性能で言えばかなり上位に位置するのではないだろうか。

 それほどまでの威力だった。

「……で、何しに来たの貴女。正直もう飽き飽きよ?」

「ふん。今まではほんの前フリ。どんなアイドルにも暗黒下積み時代はあるものよ」

「そのまま闇に沈めばいいのに」

 嫌悪感を露わにした表情のまま、メルトは舌打ちした。

 辛辣な言葉を浴びせられても鉄の(メンタル)を持つ竜の少女はまったく堪えず、柱から降りて自信満々に胸を張る。

「今回の主役は私よ。私こそ衛士、マスターありきのサーヴァントとは違うの!」

「……? でも、BBがマスターを付けておいたって……」

「ふん。飛んだ三流記者ね。早速新マネージャー(マスター)の情報を聞きつけて来たっていうの?」

 得意げに笑いながら、もったいぶるようにディーバは言う。

「そうはいかないわ。受け付けるのはトップアイドルに相応しい質問だけよ。今後の予定とか、新年の過ごし方とか、熱愛報道(スキャンダル)の真相とか!」

「……」

 ディーバがトップアイドルを自負しているのは分かったが、話が進まない。

 どうしたものか。マスターの情報が欲しいものの、このまま答えてくれるとは思えない。

 いや、或いはチャンスだろうか。

 あわよくば、SGの情報が得られるかもしれない。

 そのためにも、一番有効だろう質問……

「まさか……絶世のアイドルを捕まえておいて“何もありませんでした”はないわよね? 質問を許すからさっさと――」

「何度も出てきて恥ずかしくないんですか?」

「それ質問してるフリして辱めてるだけじゃない!? は、恥ずかしくなんてないわよ!」

「ふっ……くく……」

 ディーバが目を見開いて突っ込みを入れている一方で、メルトは俯いて肩を震わせていた。

『ハクトさんも大分、生徒会の空気に染まってきましたね』

『絶対ダメな方に向いていると思うけどね』

 聞こえてくる通信には「失敬な」と内心で思っておく。

 僕はあの空気に流されてはいるが、断じて染まっている訳ではない。

 今回は、最たる疑問がつい口から漏れてしまっただけだ。

「第一、なんでこんなに『使いまわし』って言われなきゃいけないワケ!? 待望の再登場、復刻ベスト版でしょ!?」

「ペースが早いというか……」

「有り難みの“あ”の字も感じないわ。せめて名前でも変えてきなさい。改とか零式とか」

「確実にドラゴン違いよそれ!」

「じゃあ、船を襲ってパーティ一人誘拐してくみたいなインパクトを」

「ちょっと格下がってるじゃない! あそこまで傍迷惑なことしてないわよ!」

「誰が格下よ。一応同列なのよ?」

 いや、メルトの言っている事はよく分からないが、ディーバは逸話的にも現在進行形にもやらかしていると思う。

「はぁ……はぁ……なるほど。これが衛士への風当たりってことね。上等じゃない……」

 既にディーバは勝手に戦慄し、肩で息をしている。

 なんか、今までの階層よりも遥かにヌルい予感がする。

「あまり呼びたくなかったけど、このままじゃちょっと不利だし……カモン、付き人(マスター)!」

 半ば自棄になったように、片手を上げて宣言する。

 この流れではマスターが判明することはないと思っていたが、予想外の収穫か。

 ディーバの呼びかけに答えて、マスターはディーバの傍に出現した。

「エリザベート。自分一人で問題ないと言っていたのは他でもない貴女ですが」

「――」

 ――ヴァイオレット。

 階層の一つを担当すると思われていたアルターエゴの一人だった。

「状況が状況よ、仕方ないわ。マネージャーとして、私の護衛をするのは当然でしょう」

「それは分かっています。しかし、だったら状況で呼び出すのは最適とは言えないかと」

 淡々とディーバの応対をするヴァイオレットも、心なしか複雑な表情に見える。

 しかし……本当なのだろうか。

 彼女がマスターだとすれば、アルターエゴはサーヴァントとマスターを兼任できるのか?

『ヴァイオレット……本当なのですか? ディーバのマスターが貴女というのは』

「はい。ですが、一つ訂正を。真名で呼べと、彼女自身の希望です。以降、呼称はエリザベート、と」

 ……宗旨替えという奴だろうか。

 それを許可する辺り、ヴァイオレットもそこまで堅苦しくないように思える。

 ともかく、ディーバ――エリザベートは改めて、強敵と判断した方が良い。

 彼女自身はともかく、マスターであるヴァイオレットは間違いなく強い。

 当然ヴァイオレットもエリザベートのSGを守ろうとするだろうし、そうなれば戦闘も考えられる。

 レオとガウェインの主従さえも完封する彼女と僕たちの差など目に見えている。

 どうするべきか……予想以上に、慎重にならなければならないだろう。




ランルー君とエリちゃんの詳細な関係については、今後語られるかもしれないし語られないかもしれません。
語られなかったら用語集辺りに書くと思います。

メルトとエリちゃんの対話について、ちょっと説明をば。
>改とか零式とか
FF7の召喚マテリア、「バハムート改」と「バハムート零式」。
召喚魔法はそれぞれ「ギガフレア」と「テラフレア」。
メガフレアだった頃が一番語呂が良かったと思うのですがどうでしょ。
>船を襲ってパーティ一人誘拐してく
FF4のリヴァイアサン。
作者が超気に入って単体レベル上げしていたリディアを攫っていった諸悪の根源。
このイベント以降、幼女リディアは二度と使えなくなる。
尚、メルトの「同列」発言は聖書のリヴァイアサンとバハムート(ベヒモス)の関係より。
二体一対だったようです。

にしても、エリちゃん弄るのマジ愉しい。

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