後NTR展開が大嫌いになりました。
だけどザビ子の「ばかじゃないの」は大好きです。
ジャックが契約を認めたことで、セイバーとアタランテも決意してくれた。
現時点でサーヴァントのいないマスターは四人。
ラニ、ジナコ、ユリウス。そして、“サーヴァントは神託を残して去った”らしいガトーだ。
真偽はともかく結局ガトーの契約も切れており、サーヴァントのいないマスターとして扱われた。
よってその四人からマスターを選択する訳だが、複雑に話が縺れ込むことは不思議となかった。
その理由は、恐らく――否、間違いなくアタランテにある。
「えっと……その、本当に良いのですか?」
「元より私はこの子の安全の保障が最優先だった故な」
アタランテは契約を決めてすぐ、マスターを選んだ。
その相手に全員――当人を除き――少なからず驚愕していた。
「ははは、大才は袖擦りあう縁も大事にするものよ。神速の狩人、仮契約の身ではあるが、よろしく頼むぞ」
「うむ。暫しの命だろうが、この契約に誓いそなたに従おうぞ、モンジ」
自らマスターを定めた彼女にはどんな意思、考えがあるのだろうか。
ともかく、アタランテが進んで契約をした相手は、ガトーだった。
この場にユリウスとラニがいる状況で、実力的にも……性格的にもあまり彼を選ぶメリットは見受けられない。
だが、彼女は一つの神話に語られし英雄だ。
何も考えずに彼を選んだ訳ではないだろう。
「まぁ……貴女が選んだのならば深く問うつもりもありませんが」
動揺を隠しきれていないレオだが、咳払いし冷静さを取り戻す。
残る二人のサーヴァント、セイバーとジャックのマスターもその後すぐに決定した。
「セイバーのクラスか。真正面からの戦いを学ぶ必要があるな」
「いや、マスターが望むのならば背後からの攻撃は厭わん。戦上手である者に従うべきだ」
――ユリウスとセイバー。
暗殺を基本とするユリウスに、聖剣を担い真っ向からの戦いを基本とするセイバー。
なんとも対照的な組み合わせだ。
どちらも専門に精通しているため互いが噛み合うかどうかといったところか。
そして、
「今から貴女のマスターとなる、ラニ=Ⅷです。よろしくお願いします、アサシン」
「……新しい……
――ラニと、ジャック。
ジャックの複数が混じったような声は、「おかあさん」と「マスター」が重なって聞こえた。
「お、おかあさん……!?」
「うん。
嬉しそうに、しかしどこか複雑そうに、ジャックは笑う。
一方で「おかあさん」と呼ばれたラニはひどく戸惑っていた。
おかあさん……とはどういうことだろう。
言葉通りの意味だとすれば、何故ラニをそう呼ぶのか。
「あの……アサシン。私はまだ、母親となれる年齢では……」
「……? ラニは、わたしたちのますたあ、だよね?」
「えぇ、そうなのですが……」
「だったら……ラニはわたしたちの
「え、えっと……?」
……良く分からないが、ジャックが冗談を言っている様子はない。
多分、ジャックのマスターに対する価値観なのだろう。
それをラニが認めるかどうかは別として、ジャックにとってラニは「おかあさん」のようだ。
さて、ラニの以前のサーヴァントはバーサーカーだった。
完全に力押しのバーサーカーとアサシンでは戦い方がまったく違う。
それをラニがどう扱うかだが、ラニならばすぐに最適解を思いつくだろう。
「これで……生徒会メンバーは全員サーヴァントを連れていますね。後は……ジナコさんですか」
『ボクなら問題ないッスよ。新しいサーヴァントとの契約なら済ませたッスから』
残る一人のマスターの名前をレオが出すと、すぐにその本人の声が聞こえてきた。
「……ジナコさん?」
『勝手なコトッスけど、バーサーカーの花嫁さん、貰ったッス。ボクには必要ないと思うけど、花嫁さんがどうにもしつこいから』
花嫁さん……バーサーカー……フランのことか。
状況はよく分からないが、ジナコはフランと契約したのか……?
「えっと……確かに、現状旧校舎に未契約状態のマスターはいませんね」
旧校舎内のマスターの様子を把握できる桜が言うのだから、間違いはないだろう。
だが、どういう経緯で……
『まぁ……ボクのことは今まで通り空気扱いで良いッス。手伝いとか求められても無駄なんで』
告げるべきことは告げたし、言いたいことは言い切ったとジナコは通信を切った。
多分これは、フランなりの――そして、ジナコなりの考えがあっての事だろう。
ともかく、これで全員の契約は完了したのか。
ガトーとアタランテ、ユリウスとセイバー、ラニとジャック。そして、ジナコとフラン。
「……とりあえず、全員契約した、という事でしょうか?」
「あー、うん。それで、良いんじゃないかな」
「では、次に――」
二度目の咳払いの後、仕切りなおそうとしたレオだったが、
『ヒャッフー! 前置きなしの、BBチャンネルーゥ!』
「は?」
その瞬間、世界は暗転した。
Now hacking…
OK!
『この放送は、ムーンセル特設スタジオ、サクラガーデンからお送りいたします』
『驚きました? センパイ方。分かっていても防げない約束された勝利の特番。ちなみに上の空白から提供までは初回をコピー・アーンド・ペーストするだけの簡単なお仕事。BBチャンネル、オンエアです!』
色々と言ってはいけないような事を言っている気がする……!
しかも、いきなり出てくるドッキリのような演出をしておきながら毎回毎回お約束。
虚数空間の非道で悪辣な仕打ちも何のその。
完全に何処吹く風でまったく態度を改める気のなさそうなBB。
まさに鋼のエンタメ精神だった。
BBが教鞭を振るうと、後ろに相変わらずのハリボテセットが登場する。
「……調理台?」
「なんかもう、嫌な予感しかしないわ……」
それは、キラリと輝くシンクとコンロだった。
『あ、見えてます? 期待してます? そう、今回のテーマは、潰しても飛ばしても食いついてくる貪欲肉食系男子のセンパイを美味しく調理、BB三分クッキングです!』
……この曲は……あの曲だ。
どうか、好きなように想像してほしい。
だが、少し疑問が沸く。
「……料理、出来るのか?」
桜と同型機であるならば料理スキルは持っているのだろうが、どことなく不安を感じる。
まぁ、食べることはないだろうが。
これが放送である以上、お召し上がりになる事はあるまい。
スタッフに美味しくいただいてもらおう。
『疑ってるんですか? センパイ如きに乙女スキルの心配をされるなんて心外すぎてテンションがた落ちです』
ぶつぶつとBBは文句を言い出した。
意欲をなくして放送を終えてくれてもいいのだが、そこまで都合は良くないらしい。
『第一、三分クッキングって。二分でボスエネミーを作れる私を舐めてるんですか?』
自分の提案しただろう企画に対して文句を言っているように思える。
『あまりにテンション下がっちゃったのでメニュー変更。……ずばり、昨日の残り物でーす』
「良いのかそれで!?」
BBはさらっと番組的に絶対やってはいけないタブーに手を出そうとしていた。
思わず出てしまった突っ込みを一切気にせず、BBは番組を進行する。
料理と銘打っておきながらその手にはまだ教鞭がある。確かに、嫌な予感しかしない。
『では調理開始。レンジでチンして……はい、残り物の完成でーす』
BBが(ハリボテの)電子レンジから取り出したのは、一枚の皿だった。
「……何もないけど……?」
『あら、調理されすぎて縮んじゃったみたいですね』
BBは大げさに肩を竦める。どうやら、あの皿には何かがあるようだ。
『はー、仕方ありません。お塩にお砂糖、それからオリーブオイルをパッパッパっと』
ひとつまみの
そして最後の仕上げに小さじ一杯の液体が垂らされ、完成したらしい。
何やら赤いものが膨れ上がってきて――
『――何すんのよマネージャー! いきなりオイルまみれじゃないっ!』
「……」
ぐるりと渦巻く竜の角。意外と長い竜の爪。それを彩る真っ赤なフリル。
油でてらてらと光っているが間違いない。間違えようもない。
かつて凛とラニが衛士だった頃、彼女たちと契約していたサーヴァント。
一層に続き二層でも戦って、かれこれ二回勝利しているディーバことエリザベート・バートリー!
「……まあ予想は出来ていたけど。どんなステージでも天丼は飽きられるわよ、BB」
『ええ、そうですよね。私としてもせっかくの迷宮に使いまわしを当てたくはありません』
「アルターエゴは後四人いるんじゃ……」
『色々問題があるんです。じゃなきゃこんな後半戦に残り物を冷蔵庫から引っ張り出してきませんよ?』
……そうなると、残る四人のエゴのうち、最低一人は衛士として起用できない理由があるのだろうか。
『くんくん、臭いませんか? 具体的に言うと、負け犬の匂い』
考えている間にもBBの散々な言い様で会場は爆笑に包まれていた。
『な、なによ……なんなのよ! 皆揃ってがっかりしちゃって! ここは歓喜の鳴き声を上げるところよ!?』
ああ……まあ、確かに歓喜はある。
だって、実にチョロそうだし。
『くぅ……見てなさい子ブタ! 今度こそ、私の本領発揮なんだから!』
『はい、小物感ありすぎてがっかりな意思表明、ありがとうございました』
なんかもう、BB自体あまり期待はしていないらしい。
『ですが、エリちゃんを迷宮の核にするのはこれが初めて、SGだって一つもバレてません』
そういえば……ディーバとは二度戦ってはいるが衛士として使われてはいない。
だが今回はSGを見つけ出さないとならないのか。
『高級フレンチとはいきませんが、ガンコ職人の拘りラーメンくらいの歯ごたえはあると思われます。マンネリ感を誤魔化すためにマスターもつけておきましたので、楽しみにしていてくださいね』
「マスター?」
『見てからのお楽しみですよ。私もそろそろムーンセルの調理に戻りますね。後は肉食系同士で、仲良くどうぞ』
番組を切り上げようとしたBB。だが、それを引き止める声が一つ。
「……BB。貴女、本当にムーンセルを手に入れられると思ってるの?」
「メルト……?」
『えぇ、思ってますよ。一つばかり問題はありますけど、それの解決も難しくはありません』
メルトの問いにBBは不敵に笑う。
ムーンセル中枢の掌握。既にBBはそれの目処を立てている。
だからこそ、あそこまで余裕を保っていられるのだ。
『では、本日はここキッチンスタジオから、BBちゃんのおなかいっぱいクッキングでしたー! また来週ー!』
まさかレギュラー番組にするつもりなのだろうか。
何度も何度もこのノリで障害を増やされたら溜まったものじゃない。
冗談で終わればいいのだが……心の底からそう思いながら、視界がフェードアウトするのを待った。
意識が生徒会室に戻ってくると、全員が一つの方向を見ていた。
衛士について詳細を知っているであろう二人に向けられた視線。
「……」
「……」
その二人――凛とラニが目を泳がせながら顔を逸らした。
「えっと……凛、ラニ」
「な、何も覚えてないわよ!? あの子の秘密なんて知らないってば!」
「私も同様です。ですので私たちが衛士になっていた時の事は決して掘り返さないように」
「い、いや、だけど手掛かりくらいは……」
「お黙りっ!」
「はい、すいませんっ!」
一瞬、凛の背後に太陽の如き灼熱が見えた気がする。
もしかするとランサーが何かしらやったのかもしれないが、ともかくその瞬間の殺気は凄まじいものだった。
「うーん、ミス遠坂とラニから徹底的に尋問するのはこの上なく面白そうですが、非効率ですね」
「レオ……アンタねぇ。何なら今ここでアンタたちの記憶を霊子一ドット残さず消し飛ばしてもいいのよ……?」
それなりに時間は経った気もするが、やはり二人にとって衛士の記憶は触れてはいけない黒歴史らしい。
「そこまで蒸し返されたくない事柄でしょうか? 私なら提供できる情報は幾らでも出させていただきますが」
「カズラは特別じゃない! こっちは色々あんの!」
触らぬ女神になんとやら。
これ以上追求しない方がいいかもしれない。
下手をすれば、燃やされかねない。
言ってはならない事がある。拝金主義とか露出癖とか、絶対に口にしてはならないのだ。
エリザ「久々の登場よ! 私の歌を聴きなさい、吼新星・乱れ山彦!」
ハク「おいやめろ」
そんな訳で、普通にエリちゃんが登場しました。
そして外典勢のマスターが決定。
アタランテに関してハクは「何か考えがあるんだろう」とか考察してますけどぶっちゃけ特にないです。
強いて言えば、「この者とジャックが契約しないように」とか考えてたかも知れません。