尺が足りるかどうかとか不安もありますが、凛が可愛すぎてやばかったのでよしとします。
――女の話をしよう。
どうせ食べるのなら、まるごとがいいと女は思った。
支配者にして処刑人。
調理人にして毒見役。
美食を重ねること数百人。
堪能、溺愛、泥酔、絶頂。
ふしだらな食事のツケは頭に生えた異形の
だがまあ、そう珍しい事でもない。
美しい少女を貪るのは、
+
翌日。あれだけの事があっても、旧校舎の様子は一切変わらない。
いつの間にかベッドに寝ていたメルトが目を覚ました後、急いで生徒会室に向かう。
休む時間をくれた生徒会の皆だが、時間が惜しいことは明らかな状況だ。
既に生徒会室には全員が集合していた。
レオ、ユリウス、凛、ラニ、白羽さん、ダンさん、ガトー。そして桜、カレン、カズラ。誰一人欠けてはいないが、その戦力は落ちている。
ユリウスはサーヴァントを失ったのだ。
レオも昨日の戦いで令呪を一画使用し、ユリウスは令呪を無くしてこそいないものの二画をアサシンに使用している。
「おはようございます、ハクトさん。よく眠れたようですね」
「六時間十五分。やや余分がありますが、理想的な睡眠時間です」
それでも、生徒会の様子は相変わらずだ。
挨拶を返し、桜が出してくれたコーヒーの置かれたいつもの席に着く。
「……レオ、それは?」
「あぁ……これですか」
生徒会室に設置されているボード。
普段はサクラ迷宮の内装やマップが映し出されているそれには、いつもと違う表示があった。
地図――月ではない。これは地上のものだ。
世界全土の地図。その一部が赤く染まっている。
「……セブンレイター。人類の欲望を解放した世界のシミュレートです」
「BBが月を侵食し行動を開始した七日後の地球環境を観測している。ほぼ確実な結果と見て良いだろう」
……
その結果が、決して良いものではないというのは想像がつく。
とはいえ、具体的に何が起きるのかはこのシミュレーターからは読み取れない。
「分かる範囲だが、この時点で地上の四十パーセントの人間が死亡している。しかも、滅亡は日に日に加速しているようだ」
「――」
「……何度も再計算してみたわ。でも、これが現実よ」
「……そうなれば、聖杯戦争に懸ける望みも自ずから意味を失うことになります」
……思った以上に、事態は深刻だった。
責任は重大、というよりは一蓮托生か。
絶対にBBを止めなければ。もう僕たちマスターだけの問題ではない。地上に危険が及んでいる。
「今までとやることは変わりません。迷宮を突破し、表側への帰還を目標とします。ただし、以前よりもペースは早く。ハクトさんにはより負担を掛けてしまいますが、生徒会も全力でサポートします」
「分かった……もう、迷宮が?」
「はい……増設された迷宮は十二階分。一気に作っておいて自身は中枢の支配に集中する気なのでしょう」
十二階……今まで突破してきた迷宮と同じ数字。
そして恐らく、そこに配置される衛士は……
「……お母様に従うエゴは四体います。四階層分ということは、彼女たちでしょうか……」
BBにはまだアルターエゴという強力な手駒がいる。
その中でもヴァイオレットとノートの力はある程度知っている。
反則的な力を持った彼女たちと、今度こそ本格的に戦わなくてはならないのか。
「アルターエゴ、か……カズラちゃん、その子たちについて、知ってることはないの?」
「殆どありません。どれも攻略には繋がらないものばかりです」
「この際、小さな情報でも構いません。開示してくれますか?」
頷くカズラ。彼女が今まで開示していなかったという事は、勝利に繋がるような情報ではないだろう。
だが、情報は多い方がいい。小さいものでも、役に立つ場合がある。
「まずヴァイオレットですが、彼女は月の裏側のリソースの管理をお母様から任されているエゴです。サクラメントや空間内の余剰魔力までを管轄しています」
ヴァイオレット……一度は協力してくれたが、それでも間違いなくBBの味方だった。
「彼女の能力は魔眼でしたか……あれがid_esスキルと見て間違いないでしょうね」
「その考察は間違っていないと思います。少なくとも、私は先程レオさんに向けた時以外にヴァイオレットが眼鏡を外したのを見たことがありません。恐らくあの眼鏡は、魔眼の効果を制限するものだと思います」
「レオ、あの魔眼の効果は、行動の制限か?」
ユリウスの問いに、レオは顔を顰める。
あまり思い出したくはない記憶。それもその筈、あのままヴァイオレットに手を下されてもおかしくはない状況だったのだ。
「……とにかく、あらゆる動きが停止しました。呼吸も魔力の流れも……唯一、思考だけがはっきりと機能し、しかし何も出来ない。生きた石像にでもなってしまったかの様でした」
完全な停止。それは僕たちマスターでは手の出しようも無いという事。
ガウェインの対魔力でも完全に防げないクラスの魔眼を持つ相手……僕たちが、どう戦えばいいのだろうか。
しかも、それだけだ。ヴァイオレットの能力はそれだけではない。幻獣――天馬や竜を操る何らかの力を持っている。
それを解明し、魔眼の攻略法を見出し、初めて勝機が見える相手だ。
「戦闘能力に関して、私は何も知りません。ただ、彼女が最も重い役目を担っているのは間違いないでしょう」
「そうですか……では、他のエゴについて知っていることはありますか?」
「はい。次はローズマリーについてです」
ローズマリー。まだたった一度しか見ていないアルターエゴ。
以前のカズラの弁によれば、戦闘力はそれほどでもないが厄介だという。
「ローズマリー……まだ、見たコトがない子だよね?」
「私たちが確認した限りじゃそうなるわね」
「彼女は、お母様に固く封印されていました。その理由は、感情の数値にあります」
「感情……?」
「はい。下限はあっても、彼女の感情には上限がありません。ゆえに、暴走が考えられお母様はローズの行動に極力制限を掛けているんです」
感情の下限上限について詳しいことは分からないが、恐らく下限は
つまりは、そういったプラス思考の考えを抑制できない。
具体的にどういったことが想像がつかない。だが、厄介であるのは変わりないだろう。
「そして、ローズと同じか、それ以上に厄介なのがキングプロテアです」
キングプロテア……プロテアと呼ばれていたエゴか。
巨大な手、どこか別の空間から覗き込まれる単眼。
彼女について分かっている事はほとんどないが、カズラから一つだけ聞かされていた。
BBの切り札。カズラの主観だったとしてもそう判断させるほどには、規格外の存在なのだろう。
「プロテアは、お母様から出でて、お母様でも制御しきれなかったアルターエゴです」
「む? BB以上に強力ということか?」
ダンさんに疑問は、全員に共通したものだろう。
それに対してカズラは首を横に振って否定した。
「今現在ならばお母様の方が上でしょう。しかし、プロテアには限界がありません。無限に成長できるのです」
「……無限?」
「どうやら彼女には、
それは……果たしてありえることなのだろうか。
何事にも限界は存在する。
この月の世界が数字の羅列だからこそ、よりそれは顕著に表れる。
そんな世界で限界のない存在など、許容されるのだろうか。
「いえ、厳密には限界があるかもしれませんが、私たちの比ではありません。文字通り桁違いの存在です」
ある程度ならばBBも対応できるが、キングプロテアがそれを超えてしまった場合どうなるか分からない。
「……ぬう。正にBBは神、か。対応しきれぬものを作るとは。何か目的があっての事なのか?」
「分かりませんが、一定以上の力を行使できないよう、お母様はプロテアにも制限を掛けています。実質的に、前線で行動出来るのはヴァイオレットとノート、二人になります」
「……ノート」
今のところ、最も強力さを実感できているエゴだ。
ラニのバーサーカーを無傷で倒し、アルジュナ、ランサー、メルト、そして僕と凛が束になっても倒しきれず、その後アルジュナを葬り去った。
要するに、戦闘能力に関しては最上級のサーヴァント数人分を軽く超えている。
そしてBBが吸収したサーヴァントから宝具の情報のみを抽出し、自身の武器として使用する。
宝具は『
情報は多い。それだけに対処法が見つからず、より圧倒的に感じているのだ。
「やはり、全員に警戒をするべきですね。一人でも此方に取り込めればと思ったのですが、カズラのような人格は稀ですか」
「そうだと思います。元より私は失敗作ですので……私に生まれた精神を他のエゴに根付かせる訳がありません」
悲しげな表情を浮かべるカズラ。母親であるBBに対しての負い目だろうか。
一人だけBBを裏切り、此方についてくれている。
非常にありがたいことなのだが、カズラにとっては相応の苦しみがあるに違いない。
「随時、情報を集めていくしかあるまい。カズラに分からないことを話し合っていても意味がない」
「そうですね。では、そろそろ彼らについて決めましょうか。ガウェイン」
レオがサーヴァントの名前を呼ぶ。
暫くして、扉が叩かれた。レオが「入ってください」と許可を出すと、ガウェイン、それに続いてセイバー、アタランテ、ジャックの三人が入ってくる。
不安げなジャックの頭をアタランテが撫でる。
少し表情が和らぎ、それを見てレオが頷く。
「セイバー、アーチャー、アサシン。貴方たち三人を旧校舎に置く事に異論はありません。ですが、一つ条件が」
レオの言葉に、アタランテは一旦安堵し、ジャックも強張った表情を解く。
セイバーは無表情を貫いたまま、レオに鋭い視線を向ける。
「その条件を話す前に、三人とも……マスターとの契約はどうなっていますか?」
それを聞いて、再び表情を曇らせたのはたった一人、ジャックだった。
大体予想がついてしまった。というより、最初から想像できる事態だったかもしれない。
BBの配下として此方を攻撃していたという事はつまり、マスターはBBの手に落ちていたという事。
BBがそんな余計なものを残しておく理由がない。
「……吾々には既にマスターはいない。聖杯戦争でも既に敗北の運命を定め付けられている」
「記憶が戻っているのならば、大体お前たちにも想像がついていたのではないか?」
セイバーの意味深な言葉にレオが頷く。
「確かに、僕は貴方を知っています、セイバー。六回戦……間違いなく、貴方は強敵でした。一歩間違えれば、負けてもおかしくはなかった」
「いや……我が主はあの場までだった。それに俺が全力で応えた。お前たちの勝利は必定だ」
レオの六回戦の相手……それが、セイバーとそのマスターだったのか。
セイバークラス同士の戦い。最上位の聖剣がぶつかりあい、最上位の英雄がその腕を競い合う。
そして、その結果――レオが勝利した。
何が勝因、敗因だったのか。それは彼らしかわからない。
しかし、記憶の戻ったレオならばそれも思い出していたのだろう。恐らくは、その真名も含めて。
「それでは……アサシン、貴女は」
「……」
ジャックは答えようとしない。
ただ悲しげに、俯いているだけだ。
「……レオ」
「……すみません。聞くべきではありませんね。では、条件の提案だけでも」
一息置き、レオは三人にその条件を出す。
「この場にはサーヴァントを失ったマスターがいます。契約を行い、表側への帰還を補助してください」
「――」
――少なくとも、この場で驚愕したマスターは僕だけだった。
もしかすると、一足先に照らし合わせておいたことなのかもしれない。
だが、それを彼らサーヴァントは許容するだろうか。
戦いにおいて契約を立てたマスターが死亡したとて、他のマスターと契約をするだろうか。
「……」
無表情を貫いていたセイバーでさえ僅かに目を広げていた。
他のマスターとの契約、それを許せないと判断するサーヴァントは決して少なくないだろう。
だから、レオたちもあまり期待は込めていないだろう。どちらかといえば初めから断られることが前提としているとも思える。
力を貸してもらえるならばそれが幸運、くらいに思っているのかもしれない。
簡単には答えを出せないだろう選択。
最初に口を開いたのは、
「――契約、する」
最も望みが薄いと思われていた、ジャックだった。
タイトルがネタバレ。
今回は残るエゴについてと外典勢の処遇についてでした。
まぁ、エゴについてはヒント程度だけ。
そして迷宮はさらっと倍増しました。というか残りのエゴの人数的に二階層じゃやりきれません。
……ね? 後半でしょう?