Fate/Meltout   作:けっぺん

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真性のドSは真性のドMとの相性が最悪に近いです。
本能メルトがハクに勝てなかった理由ですね。
ハクってドMなのかって? メルトとの契約が長持ちしてる時点でお察しッスよ。


Word Of Logos.-3

 

 

 荒れ狂う波に包まれるエネミー。

 全方向から襲い来る波。それはさながら渦を思わせ、エネミーは圧迫に耐えることに精一杯のようだ。

 本来は、今のように単体に対して使うものではない。

 戦闘においては対界宝具として機能するが、その真の分類は対心宝具。

 発展した文明を遍く融かす融解の渦だ。

 宝具ランクは数値化できない。つまりは、EXという最高の位置に存在する。

「この程度? やっぱり影程度じゃ話にならないわね」

 その真髄に届く前に、エネミーは消滅していた。

 言わば前座の津波。それでさえ容易くエネミーを倒せるほどの威力に、思わず身震いする。

 消滅こそすれど、エネミーを構成していた要素は霧散したりはしない。

 それがメルトのドレインスキルだ。

 相手の魔力、ステータス、スキル全てを吸収し、自身の一部とする。

 一連の流れの規模を最大にまで増強させ、一気に解放することによる全方位からの融解の雫。

 その宝具の真名()は『弁財天五弦琵琶(サラスヴァティー・メルトアウト)』。

 メルトが持てる最強の力だった。

「力の差は圧倒的に。そして優雅に。何より反撃をさせないように。これが基本よ、BB」

 波が引いていく。

 勝ち誇ったメルトの表情とは逆にBBは悔しさの最高潮といったように歯噛みしている。

「……調子に乗って……っ、投影が、維持できない……覚えてなさい、メルト」

 実際、この空間に姿を現すことも難しいことだったのだろう。

 そしてそれが限界になったようだ。BBの姿が消え、今度こそ危機は去った。

「……ま、力の差って言っても有利は向こうにあるんだけどね」

 いつの間にか、“本能”であったメルトの姿もなくなっている。

 理性が解放されれば本能は消える。それは本当だった。

 “らしい”軽口を忘れない、目の前にいるのは間違いなく理性であるメルト。

 ほんの少し――ひどく長く――離れ離れだった、大切なサーヴァントの姿。

「ハク、立てる?」

「うん……大丈――」

 立とうとして、やはり疲労は大き過ぎた。

 再びバランスの崩れた体が、メルトによって支えられる。

「無理はしないで。手を貸すことは出来ないけど、支えることは出来るのよ?」

「……うん、ごめん」

 自力で立とうにも、それが今は出来ない。

 だが、悪い気はしなかった。

 暫くはこの状態でも良いかもしれない。

「さ、戻るわよ。表に帰る以前に、やらなきゃならないことが出来たし、いつまでもこんな所にいる訳にもいかないわ」

 ……それもそうか。

 BBは平常とは思えない目的を持っている。

 それが判明した以上、ただ表に帰るという目的だけを持って迷宮を進むだけでは駄目だ。

 BBを止めなければならない。その為にも、早く旧校舎に戻らなければ――

「力を抜いて目を閉じて。この空間から脱出するわ」

「……そんな事が?」

「ここは私の心の中。簡単よ」

 なるほど……理性の意思があれば、心象空間からの脱出は容易いことなのだろう。

 言われたとおりに、目を閉じる。

 体が浮き上がるような感覚。

 暫くそれに浸りながら、心を落ち着けることにした。

 

 

 気がつくと、迷宮へと繋がる桜の木の前にいた。

 虚数空間にいた体感時間が長すぎたためか、ここに戻ってきただけで安心できる。

「ハクト君、無事だったのね!」

「……凛」

 校庭には旧校舎のマスター全員が集まっていた。

 みな一様に疲労の色が見える。

「大変だったみたいね。まぁ、こっちも色々ユリウスがやらかしてくれたけど」

「……仕方なかった事だ。結果として全員目を覚まし、紫藤も無事だった」

「確かに、兄さんの判断は正しいものでした。ガウェインやランサーが即座に考えを読み取ったのもお手柄ですね」

 そういえば、ユリウスはアサシンに全員を襲わせたと言っていたか。

 アサシンは不可視の状態からの防御の適わない一撃を得意とするサーヴァントだ。

 彼の力をもってすれば、旧校舎内のマスターサーヴァント含め全員を倒し制圧するなど容易いことだったのだろう。

 もしユリウスが本当に敵であれば、絶望的だった。

「まぁ犠牲は大きかったが。先程アサシンとのパスが途絶えた。時間を考えれば、随分と持ち堪えたな」

「……」

 元から、ユリウスはあの場でアサシンを使い捨てるつもりだった。

 対軍宝具を持たないアサシンをエネミーの軍勢の中心に呼び、時間稼ぎを命ずる。

 そして、パスは完全に途絶えた。これは即ち、アサシンの消滅を意味する。

「っ……!」

 消滅の報に対して、一際悲哀を見せたのはリップだった。

 そういえば、とリップがアサシンに武術を教わっていたことを思い出す。

 一時の仲とはいえ、師と仰いで教えを受けていた者と二度と話すことは出来ない――そのことに、リップは決して小さくはない衝撃を受けていた。

「これで、脱落したサーヴァントは三体ッスか。どんどん減ってくッスね」

「ジナコ……」

 自身が死の呪いから吹っ切れる原因を作ったアルジュナ。

 相棒を失ったジナコの、その表情に悲しみや諦観はなかった。

 或いは、隠しているだけかもしれない。

 それでもジナコの心に何かしらの変化があることだけは明らかだった。

「ま、そっちに何があったかは聞かないわ。一人で立てないくらいに疲労は大きいようだし、少し休んだ方が良いかもしれないわね」

「その通りです。紫藤さん、貴方の現在の体の状態、分かりますか?」

 凛の気遣いに感謝しつつ、桜の問いを考える。

 これまで無理してきて、無事な訳がないだろうが……

「……内部構造が、ボロボロになってます。あと少し傷ついていれば、本当に危険でしたよ」

「ツギハギだらけの人形のようですね。それで良く、理性が残っているものです」

「カレンっ!」

 不安げなカズラと、相変わらずのカレン。

 二人の言葉を整理すれば、どうやらとんでもない状態らしい。

「とにかく、休むといい。ブリーフィングは君が起きてからでも良いだろう」

「そうですね。まずは完治を優先しましょう。ゆっくり休んでください」

 内部がどうなっているのか、僕自身には分からないが皆は把握できているようだ。

 すぐにでもBBを止めるべく動きたいのはやまやまだが、一人で立つことができないのも動かぬ事実だ。

「という訳で、メルトちゃん。白斗君のこと、よろしくね」

「……言われなくても、分かってるわよ」

 とにかく、今は皆に従っておいた方が良いだろう。

 相変わらず殆ど体に力は入らない。

 メルトに支えられながら個室に向かおうとしたとき――

「っ!」

 サクラ迷宮の扉が開く。

 警戒するようにガウェインが構える。

 BBやエネミーでは旧校舎に入って来れない筈だが、一体何者だろうか。

「あ……」

 旧校舎に入ってきたのは、三体のサーヴァント。

 先頭にセイバー。剣を抜いてすらおらず、敵意や戦意がないことが見て取れる。

 その後ろに付いて来るのが、アタランテと――そうだ、ジャックだったか。

「貴方たちは……」

 警戒するレオに向き合うセイバー。

 アタランテは自身にしがみ付いている不安げなジャックの頭を撫でながら、その様子を見守っている。

「……お前たちに頼みがある」

「……頼み?」

「この二人の旧校舎への避難を許可してもらいたい」

 そう言って、セイバーは頭を下げた。

「敵対していたという事は重々理解している。だが、我々はもう、お前たちに剣を向けない。どうか頼む」

 突然にそんな事を言い出すのには、何か理由があるのだろうか。

 セイバーは真摯な思いだ。だが、BBの命令でここに来たという可能性も十分にありえる。

 思えば、サーヴァントでならば旧校舎に入ってこれるという弱点があった。これまでそれをされなかったのは、幸運というべきか。

「しかし、何故いきなり?」

「先刻、我々の記憶が解放された。その結果、BBに従うことはできないという総意に至った」

 記憶――三人も、やはり封印されていたのか。

 そして、それが解放された結果としてBBの離反を決意したという辺り、彼女に何らかのかたちで騙されていたのはまず間違いないだろう。

「俺の首を代金とし、この二人の身元だけでも確保してもらえないか」

 自分を犠牲にしてでも、というほどにセイバーは二人を思っている。

「せめてこの子だけでも頼めないか。私に出来ることならば何でもしよう」

 ……いや、セイバーだけではない。

 アタランテまでもが、ただ一人、ジャックだけを助けようとしている。

 しかし、アタランテの服の裾を掴むジャックは、それを望んでいない。

「……レオ」

 敵であってもセイバーとアタランテは話の分からない相手ではなかった。

 一時期ではあるが、共闘したことさえある。

 唯一敵としてしか出会っていないのはジャックだ。

 セイバーたちの真摯な姿勢が、本気なものだとしたら僕としては助けてあげたい。

 だが、最終的な決定をするのはレオであり、生徒会の総意。僕一人の一存では決められない。

「……一旦休息を取った後、三人の処遇について決定しましょう。ガウェイン、彼らの監視を」

「御意に」

「ランサー、貴方もお願いできる?」

「了解した」

 ガウェインとランサー……この旧校舎でも最強クラスの二人のサーヴァントだ。

 彼らならばセイバーたちが何かを起こそうとしても、他のサーヴァントが援護に来るまでの時間稼ぎは十分に出来るだろう。

「では、ガウェインとランサーは三人を空き教室に連れて行ってください。ハクトさんはすぐさま休養を」

「あぁ、分かった……」

 ガウェインとランサーに連れられて旧校舎に入っていく三人を見届けた後、メルトに支えられながら個室に向かう。

 旧校舎の内装にはこれといった変化は見られない。

 ただ、NPCの姿がなかった。ユリウスが消滅させたとは思えないし、恐らくは休眠状態に入っているのだろう。

 ようやく個室に戻ってきると、大きな達成感を感じた。

 限界を改めて実感する。ベッドに倒れこむと、もう起き上がれる気がしなかった。

「っ……はぁ」

 息を吐くと脱力と眠気が同時に襲ってくる。

 柔らかなベッドの感触がゆっくりと思考能力を削いでいく。

「ハク、ゆっくり休んで。サクラたちが言ったとおり、貴方はもうとっくに限界を超えてるわ……まぁ、それは私のせいでもあるんだけど」

「ううん、メルトは気にしないで。僕は……メルトが戻ってきてくれただけで嬉しいから」

「ッ――」

 メルトのいなかった、先程まで。

 つくづく痛感したのは、僕がメルトに依存しすぎていることだった。

 仮にメルトがそのまま居なくなってしまったとして、ラニやジナコ、ユリウスやガトー、既にサーヴァントを失った四人のように気丈にいる事はできないだろう。

 メルトがいない、なんて考えられない。

 弱い、情けないと自覚はしていても、こればかりは決して直せないことだった。

「ごめんなさい、ハク……もう二度と、あんな事にはならないわ。貴方のサーヴァントとして、貴方から離れたりしない」

「うん……ありがとう」

 この上なく頼もしいメルトの微笑みに笑い返す。

 脚具を消して寄り掛かってくるメルト。

「このくらいしか出来ないけど……お礼よ」

「ん――――ッ!?」

 唐突に、何かが唇に押し付けられる。

 ただでさえ動揺していたが、その正体がすぐ傍にあるメルトの顔から連想されてしまいパニックが頂点になる。

 即ち押し付けられているのは、メルトの唇で――

「――!?!?!?」

「ん……む、ぅ……」

 状況判断が追いつかない。

 何事かとメルトに問おうと口を開いた瞬間、そこを縫うように舌が侵入してきた。

「ぷぁ――メル――」

 咄嗟に抵抗しようとして、しかし舌を絡められ何も言う事が出来ない。

 あまりにも唐突過ぎて一向に理解が追いつかず、ただメルトの思い通りになっているだけの状態。

 強いて言うならば……既に口内は完全にメルトに支配されている。

 こう評して良いものか分からないが、凄まじい速さの制圧だった。

「――ん……ふぅ」

 どれくらい経過してか。ようやくメルトが離れていく。

 さすがに理解が及んだものの、離れていく間に出来上がったアーチが一層恥ずかしさを助長させる。

 何故メルトがこんな奇行に走ったのか。まずはそれを問い質そうとしたものの、

「……お休み、ハク」

「っ――」

 小さな微笑みを見せて姿を消したメルトに何も言えなくなる。

 いつも二人で使用しているベッドだが……今日は気にしなくても良いという事だろうか。

 メルトなりの気遣いかもしれない。今の行動の意図は相変わらず不明だが、メルトが何かと不器用なのは今に始まった話ではない。

 多分それも、此方を思っての行動なのだろう。

 ただ、唐突は勘弁してほしかった。動悸の激しさが治まらず、疲労を後追いする。

 ……?

 では、唐突でなければ良いのだろうか。

 自分の思考に突っ込みを入れ、その回答を思案するが、目を閉じると意識は急速に遠のいていく。

 まぁ、良いか。深く気にするほどのことでもないだろう。

 今はただ、メルトやレオたちの気遣いに素直に甘えておこう。

「――お休み」

 呟きを最後まで言い切って、すぐに意識は無くなった。




Q 何でいきなりイチャついてんの?
A 後編スタート
鯖空間を境目にデレるのはCCCの鉄則だそうです。
何書いてんでしょうね私。自分の文章でストレスマッハですよ。

まあそんな感じで4章終わりです。
章末終わってないぜって事で、連日投稿は無理っぽいです。
ちょっとだけ気長にお待ちください。

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