Fate/Meltout   作:けっぺん

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またコピペ改変しようとしてて考えてたら投稿遅れました。
しかも何も思いつきませんでした。

本編どうぞ。ちょいと短め。


Life.

 

 十一階の核となるSGを取った翌日。

 緊急の招請が掛かり、生徒会室にメンバーが集まっていた。

 用件は一つしかないだろう。迷宮の衛士たる、ジナコについて。

「……サー・ダンとラニの調査活動により、ジナコさんに関する重要な情報が判明しました」

 レオは神妙な声色で切り出す。

「彼女の聖杯戦争の顛末。表側での歴史です……ガトーさん」

 レオの言葉を受け継いだガトーはうむうむといつも通りの調子で頷いている。

 ジナコの聖杯戦争に、ガトーが関わっているのだろうか。

「小生が闘った聖杯戦争の快進撃の中で、一戦のみ労せずして勝利した機会があった。不戦勝の勝負だ。その相手こそジナコ。あの者は、闘わずに敗北を選んだのだ」

「……アンタねぇ……それ最初に思い出すべきなんじゃないの?」

 呆れる凛の隣でラニが何やらプログラムを操作し、それを全員の前で開示した。

 聖杯戦争の対戦データ。その一回戦の状態だ。

 カードの一つには、確かにガトーとジナコの名前がある。

「貴方が思い出していれば、秘匿度の高いデータを虱潰しに探す必要は無かったのですが」

「恥に恥を上書きする必要もなかろう。小生とジナコは本来より相容れぬ者同士だったという訳だ」

 静かに不満を言うラニにガトーは肩を竦める。

「どうやら、ジナコ=カリギリは聖杯戦争の序盤、プロテクトの掛けられた部屋を発見したらしい。そこに逃げ込んだ、という事だろうな」

 ダンさんの捕捉に、ジナコが居た部屋を思い出す。

 ジナコは戦いに赴かず、あの部屋に隠れていたのだ。

 そこから一歩でも出たら敗北者として処理されると恐れながら。

 だが、それをしなくとも聖杯戦争の勝者が決まれば校舎は不要と判断され、消去される。

 あのまま隠れていても、いずれ消える運命。ジナコは、それを知ってしまったのだ。

「記憶を取り戻したことが、かえって彼女の心の弱みを露見させてしまったのでしょう」

「……その隙を、お母様に突かれたという事ですね」

 聖杯戦争に戻れば死ぬ。

 そんな記憶を思い出してしまえば、BBに逆らう気力など沸いてこないだろう。

「記憶の戻ったジナコはその折、小生が対戦相手であったことを思い出したのであろうな」

「……理解不能です。何故、後回しにしても解決しない問題を遠ざけようとするのでしょう」

 楽観主義と現実逃避を理解できないと、ラニが眉を顰める。

「ふむ? ラニ会計の前で言うのもなんだが、実に人間らしくはないか」

「本能と怠惰に流されるのが人間であれば、最も人間らしいのは野良猫です」

「野良キャット、結構ではないか。ある意味究極生物(アルテミット・ワン)である。そういう神も聞き覚えがあるぞ」

 ラニとガトーが噛み合わない会話を交わしている間に、ジナコについて考えていた。

 聖杯戦争の際、彼女と知り合っていれば。

 今更考えても仕方の無いことだが、彼女の傍に友人と呼べる人がいれば何か変わったのだろうか。

「さて、ハクトさんとミス遠坂には引き続き、迷宮の攻略に出てもらいます。これまで以上に難易度は高くなるでしょうが、ジナコさんは僕たちの仲間の一人です」

 レオの言葉に異を唱える者は誰一人いなかった。

「最早平和的に解決とは言いません。互いに傷つけあうことを醜いとも言いません。それでも、この不条理は貴方方が打破してくれると、信じています」

 信頼の篭ったレオの眼差し。

 如何に相手が手強くても、するべき事は変わらない。

 今まで通り、その信頼に応えられるように全力を尽くすまでだ。

「じゃあ、ハクト君。準備が良いようなら迷宮に向かうけど」

「大丈夫。行こう、凛」

 これが、最後の階になるかもしれない。改めて気を引き締めなおし、席を立った。

 

 

 サクラ迷宮の十二階。

 入った瞬間、途轍もなく不吉な予感が全身を走った。

「これは……」

 頭上に忽然と現れた、髑髏のようなマーク。

 そして、坦々と減り続ける数字。

 僕だけではない。メルトや凛、ランサー。この場にいる全員の頭上にそれは存在していた。

『――いいッスか。その数字がゼロになったら死亡。リセット不可ッス』

「ッ!?」

 どこかから響いてくるジナコの声。

 それは紛れも無い、死の宣告。

『警告はしたッスよ。後は何があっても自己責任ッス』

 タイムアタックフロア――しかし、気になるのは、その桁数。

 減る間隔からして秒数、だとすると下手すれば年単位にすらなるだろう。

 幾ら時間をかけて探索しても、絶対にそれをオーバーしたりはしない程の時間。

 寧ろ、制限時間なんて無いのではとすら思える。

「十五年以上の時間ね。どういうつもりかしら」

「分からない。けど……」

「やるべきは変わりない、か」

 吹っ切れた訳ではない。動揺だってしている。

 だが、それで時間をロスするよりも有効に使うべきだ。

 探索を始める。これまでと同じく、衛士の手腕によって左右されるエネミーの強さは然程でもない。

 迷宮の複雑さは段違いだが、恐らくは複雑に歪んだジナコのSGが理由なのだろう。

 そして迷宮の中間付近――まだ最奥には程遠い小さな広場に、ジナコは一人でいた。

「……ジナコ?」

 意外だった。

 てっきり最後の最後に待ち構えているものだと思っていたがまさか、この場で寝転がってパソコンに向かっているなどと。

「はい、ゴール乙。ご褒美に教えてあげるッス。この階のSGは『死の呪い』ッスよ」

 抑揚のない声色で、ジナコはさらりととんでもないことを言う。

「SGが欲しいなら、誰かが死ぬしかないッス」

 続け様に言い放たれた言葉に、一瞬思考が止まった。

 無関心な態度のまま、ジナコはただモニターに向かっている。

「あぁ、ボクを殺しても良いッスよ。どうなるかは知らないけど。SG取れば多分カウントも消えるッス。どう動くかは全部任せるッス」

「そんな事……冗談きついわよ、ジナコ」

「冗談、ねぇ……確かに冗談の度合いならリンさんのドM願望の方が上手ッスね。何せこっち真面目ッスから」

 鼻で笑うジナコに一瞬凛は殺気のようなものを出した気がしたが、気のせいだろう。

 しかし……一体どうすれば良いのか。

 こんな選択、出来るわけがない。つまりは――ここで行き止まり?

 最悪の結論が浮かんだ時だった。

「うむ! ピンと来た! 人中に呂布あり馬中に赤兎あり、死中に活あり! 小生にも妙案アリィぃぃぃ!」

 そんな、場の空気とか葛藤とか何それおいしいの、といったあまりにも場違いな大声が聞こえてきたのは。

 通信ではない。随分とリアルに耳に届く生音声だ。

「おっさん……?」

『……いつの間に部屋から出てったんですか。というより、また貴方は勝手に……』

『随分と前に出ていきましたよ。皆さんがカウントの解析に勤しんでいる頃でしょうか』

『だから何で貴女は報告しないんですか!?』

 順に呆れるレオ、今更といった風なカレン、そして突っ込みを入れる桜である。

 此方も何か言いたい気持ちでいっぱいだったが、それより先に言っておかなければ。

「ガトー、まだエネミーが残ってるから危険じゃ――」

「否、この程度我らの結束力に掛かればお茶の子サイサイである!」

 随分と近くから、その声は聞こえてきた。

 すぐ背後。振り向くとそこには、

「ナァァァァァ――――――――――!」

 エネミーの群れをメイスで薙ぎ倒し、雷電で粉砕するフランと傍に立つガトーの姿があった。

「――は?」

 全員の驚愕を代弁したメルトの声を気にすることなくフランは残るエネミーを力任せに片付け、消滅したのを頷くとガトーに走り寄っていく。

「サーヴァントが居らぬならば、手の空いた者と一時結託するのみ。それだけならば小生の女神も許してくれよう」

「ウゥゥ……」

 つまりは、だ。

 憶測の範囲だがまた何も考えずにガトーは迷宮に赴こうとした。

 そして偶然花壇から校舎内に戻ろうとするフランと遭遇。

 結託、突入。そんなところだろうか。

 フランにはフランなりの考えがあるんだろうが、正直ガトーは碌なことを考えている気がしない。

 そんな呆れを知って知らずか、ガトーはジナコの傍まで歩み胡坐をかいた。

「ようやく顔を合わせることが出来たな、ジナコ。まったくもって酷い顔よ」

「……うっさいわ。説教工作のつもりッスか?」

 心底面倒くさそうにジナコは座りなおしガトーと向き合う。

「それとも、役に立つところを見せて居場所作りッスか? ご苦労ッスね」

「はっはっは。小生の居場所なんざ、地上のどこにも無かったわ。世界をまわり、ようやく最後の希望を見出して月にダイブし出会えた真理にも『ショージキナイワー』と去られたしな。いや、慈悲深い小生の女神はすぐに戻ってくる予定だが」

『ん、んー……?』

 笑い飛ばすガトーに何やら白羽さんが疑問ありげに声を漏らす。

「うむ、間違いない。一度くらいの敗北、ガトー仕事しろの一言で済ませてくださるに違いない。多分な」

 ……何の話なのだろう。

 無表情だったジナコも眉を顰めている。

「さて、それはともかく、今は此方の話よ。小生はお主の声が聞きたかったのだ」

「キモッ。揉み上げキモッ。ジナコさんはクリスチャンでも仏教徒でもないッス。ましておっさんの怪しげな神にはネコ缶一個奉納する気にもならないッス」

「そんな捨て鉢心情な時こそ我が麗しの神に祈りを奉げてみてはどうか? それが真っ平御免であるならば、愚痴の一つでも吐き出してみよ」

「話を聞け。神様なんていないッス。神様がいるならそれは――死だけッス」

 ガトーの説得……なのだろうか……に対して、ジナコはどこまでも否定的だ。

 五停心観にもSGの兆しすらない。

 やはり……ジナコの言う通り誰かが死ぬしか道はないのか?

「やっぱりこの世界は選ばれた天才のものなんだ。ハクトさんもリンさんも。違うとは言わせない。おっさんも無闇に天然よりだけどこの世を肯定することに関しちゃ天才っしょ」

 この場の全員を見渡してジナコは自嘲的な笑みを浮かべる。

「――でもね、どんな天才だってこの壁は破れない。死は天才にも凡才にも関係なく訪れる。死が怖くない人間はいない。だからわたしは悪くない。動かないのは、人間として正しいことなんだ」

「うーむ……それは確かなことだがなぁ。その怒りの原因を話してみよ。小生がスパッと救済してやるぞ?」

「意味がわかんない。ダメ坊主がダメダメ人間を救うとか。もういいでしょ。十分アタシ付き合ったし」

 不愉快そうな表情のまま、ジナコはどこかに転移した。

 結局、五停心観にも反応は無かった。

「ぬお、またしてもドロンパか! 待つのだジナコ、ぬおおおおぉぉぉぉぉ!」

「ちょ、ガトー!」

 迷宮の先に走っていくガトーを止めようとするが、猪の如く猛進する彼は瞬く間に見えなくなった。

「……ウゥ」

 不満そうに呻り溜息を吐いてから、フランはそれに付いていく。

 心配事が二つになってしまった。

 フランが付いているとはいえ、だからといってガトーを止められるとは思えない。

 ジナコだけでも十分難儀だというのに……

「……王様、アレの強制送還とか出来ないの?」

『無理ですよメルトさん。広場一つの内部を走り回るならともかく、ここまで広い迷宮内を移動する人を転移させる程早く術式は組めません』

「ともかく、追いかけないと。サーヴァントがついているとは言え心配だし」

 探索の速度を早める。

 ガトーは勘に任せて走り回っているだろうし、このままでは距離を開けられる一方だ。

 道中のエネミーはほとんどが蹴散らされている。

 そもそも何故フランがガトーと協力しているのかが不可解だが、今は考えていても仕方が無いか。

 十階と同じように迷宮の全域の解析は終了しているため、探索に時間をかけることはない。

 エネミーも片付けられているので順調に進めているが、ただ気がかりなガトーの存在が足を急がせる。

 一人で突っ走って何かをしていなければ良いが……

『そろそろ迷宮の最奥部です。ガトーさんも止まっているようですね』

 見えてきた。

 二つの人影――先に到着していたらしいガトー、フラン。

 迷宮の終端であることを意味するジナコのレリーフ。

 そして――――

「あれ、は……」

「っ……」

 十階でも見たもの――戯言だった存在。

 聖杯戦争の敗者に訪れる結末。魂の緒を焼き切る、絶望の壁。

 赤い終焉の先に、ジナコはいた。




いや、後書きにも何も無いです。

ガトーを迎えに行くのがめんどくさいのでフランちゃんお供に付かせました。
他は大体原作沿い。
さて、そろそろ問題のシーンになるわけですね。

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