贔屓にしてる戦隊のラスボスなんで脳内補正掛かってますけど、ザンギャックとか全軍で掛かっても食い尽くされそうなんだけど。
それはともかく、本編です。どうぞ。
ブリーフィングを終え、迷宮に潜るのは一時間後と決定した後、保健室まで足を運んでいた。
桜は大丈夫だろうか。
AIは過剰な労働をしないように設定されてはいるらしいが、やはり不安は残る。
「ハク、中にはサクラしかいないみたいだし、ハクだけが行きなさい」
「え?」
メルトは保健室とは反対の壁に寄り掛かる。
入るつもりはないようだが……
「良いから。サクラのケアなら私がいるよりハク一人の方が有効的よ」
そう……なのだろうか。
根拠は分からないが、前回保健室に訪れた際もメルトは此処に入ることはなかった。
何やらメルトは保健室に入ることを避けている節がある。
「……分かった」
それを追求する事もない。保健室ならば危険もないし、特に問題はないだろう。
「じゃあ、少し待っていてくれ」
「ええ。精々良くしてあげなさい」
何を良くすればいいのだろう。
ともかくメルトを待たせるからには早く事を済ませなければならない。
保健室に入る。鍵は掛かっておらず、中には人影は見当たらない。
一つだけカーテンの閉まったベッドに寝ているのだろうかと思ったとき、そのカーテンが開かれる。
「あ、あれ……? 紫藤さん……!?」
目を白黒させ驚いている桜。
確かにここにいるとは思わないだろうが、まるでお化けを見ているかのような反応だ。
「えっと……桜が倒れたって聞いて」
「え……お見舞い、ですか?」
「うん、そんなところ」
「あ、ありがとうございます。暫く休んで身体機能はほぼ回復しました」
少し頬を染めてはにかむ桜。その様子はAIとは思えない程に綺麗な笑みで可愛らしい。
どうやら、髪については気付いていないようだ。
カズラの符は問題なく機能しているらしい。
「でも、紫藤さんの方が疲れが溜まっているように見えますよ。ちゃんと、自分を気遣ってあげてくださいね」
子供を叱るような桜の言い方に――どこか、懐かしさを感じた。
それが何故か可笑しくて、苦笑しながら頷く。
「……え、えっと……用件、用件……そうだ、メディカルチェック、していきますか?」
「ううん、大丈夫」
どうにも会話が続かない。
というよりも、何を話せば良いのかが思い浮かばない。
「そ、そうですか……では、えっと、あの、ですね……」
何やら桜は言いよどんでいる。
「……桜?」
「……その、お時間があるようでしたら、もう少しだけ滞在していきませんか」
「え、あぁ……勿論、構わないよ」
ぱあっと、桜は先程よりも笑みを深くした。
椅子に座ると桜はお茶の準備を始める。
手馴れた様子でお茶を淹れる桜。やがて、紅茶独特の落ち着く香りが部屋に広がる。
「どうぞ。もう地上にはない、キーマンの特級を用意しました」
既に失われた銘柄……そんなものが飲めるとは、存外幸運だったかもしれない。
花のような香りは喉元を過ぎても残っている。
何を話す事もなく、ただ紅茶を楽しむ時間を過ごす。
聞こえるのは、時計の音だけ。外から射す夕日がオレンジに照らす部屋。
――それは、穏やかな時間だった。
多くの不安を忘れさせてくれる一時。
「……桜」
それでも、桜と二人という状況だからこそ――桜に不安を打ち明けられると判断した。
記憶に開いた穴。そして、それを取り戻せない自分の未熟さ。
たった一人で苦しんでいるメルトを支えてあげられない自分の弱さ。
全部を吐き出した後、桜は困ったような表情で問いかけてきた。
「あの……何故、それをメルトさんに告げないんですか?」
「……」
桜にとっては当然の疑問なのだろう。
不安要素があるのならば、マスターなら最初に相談すべきはサーヴァントだ。
“一人で苦しんでいる”メルトがいると分かっているならば、それを支えようとするべきだ。
だが、それでも――
「……怖いんだ」
「怖い?」
「記憶が戻ってもこんな弱気でいることを知られるのが怖い。それに、これ以上メルトの枷を増やしたくないんだ」
これを話しても、事態が解決の方向に動くことはない。
寧ろ、悪化する可能性が高い。少なからずメルトはそれを気にしてしまうだろうし、足手まといと思われたくないという意地もあった。
いや……実際のところ、思われているのだろう。それもメルトは黙って、自分一人で無理をしている。
一人で背負わないでくれ――これを言って、果たして何の意味があろうか。
僕がそれを言ったところで、メルトを支えられるほどの力がない。
結果としては、メルトに更に負荷が掛かるだけだ。
「……紫藤さん。これはAIとしての価値観から見た話ですが……」
桜は少しの間考えて、意を決したように頷いてから話し出した。
「メルトさんが何かに苦しんでいるのなら……例えばそれは、その何かが紫藤さんが知れば紫藤さんの重荷になってしまうからでは?」
その可能性は……確かにある。
だが、此方を考慮してくれているのならば余計に悔しさがあるのだ。
メルトが僕を支えてくれている一方で、僕はメルトを支えることすら出来ず弱さを隠している。
「メルトさんが隠しているのは、紫藤さんを信じているからだと思います。私はそれが弱さであるのかどうか分かりません。でも、それを紫藤さん自身が解決して一歩前に出ることを信じているからこそ、その苦しみに耐えられる――私はそう考えます」
「――メルトは、気付いているって事か?」
「私は、メルトさんはそういう人だと思います。マスターの――貴方の為ならば何でも出来る。紫藤さんがいつか思い出すのなら、それまで待っていられる強さを、彼女は持っています」
桜はメルトを信頼している。
BBから分かれたエゴの一人という、絶対に相容れないだろう存在なのに、そこにある不思議な信頼。
「ですから――真にメルトさんを信じているのなら、そんなに悩まないでください。メルトさんはそれを望んでいません。それに――」
此方の心細さを振り払うように。
此方を励ますように、桜は笑った。
「紫藤さんは強くなれます。今はメルトさんにも、レオさんにも、それに、私にも頼ってください」
その思いに、胸の痛みが楽になっていくのを感じる。
今は僕は、月の裏側では最弱に等しい存在だろう。
だが、いつかはきっと、前に立つ事が出来ると。
決勝まで勝ち残ったマスターとして、持っている訳にはいかない感情。
桜はそれを、構わないと言った。
――いつか、開いた欠片が埋まった時。きっと、何らかの答えを見つけ出すことが出来る。
「――」
このままで良いとは当然思っていない。
だが、桜の言葉は正しい――そう信じることが出来た。
遠い昔からの信頼のような、固く深い何かを感じた気がする。
「……と、もうこんな時間ですね。あまり引き留めていると叱られてしまいます。さあ、紫藤さん」
「あぁ、そうだね。ありがとう、桜」
「いえ、お役に立てたのなら良かったです」
とは言え頼るのは最小限。自分から何かを見つけ出す。選択としては、それで間違っていないはずだ。
メルトが何らかの理由で苦しんでいる、というのは多分間違っていないと思う。
「……遅すぎる」
うん。間違っていない。
でもやはり表には出すことはない。
「……えっと、ごめん」
カレンが赤い聖骸布をメルトに渡したのは、本当に余計だった。
サーヴァントには(恐らく)通用せず、現状あれの餌食になっているのは僕ひとりだけという始末。
メルトにとってはさぞ、便利なものなのだろう。これは、非常に参った事態だ。
「少し待つとは言ったわ。だけど一時間弱よ? 迷宮探索はそろそろ、こんな時間まで何やってたの?」
「……あー」
桜に相談をしていた。それは口が裂けても言えない。
「……桜に、お茶を貰っていた――痛っ!」
異常なまでに強くなった聖骸布の拘束に、思わず悲鳴を上げてしまう。
そしてその瞬間メルトが目の色を変え、しまったと思った頃にはもう既に遅かった。
「――――――――ッ」
「……我慢はいらないわよ?」
痛みに任せて叫んだところで更なる我慢が必要になるだけである。
加虐体質、メルトが持つ、厄介極まりないスキル。
敵味方関係なく優位に立てば発動するそれは、マスターであろうともお構いなしだ。
確かに待たせてしまったのは悪いが、ここまでされる程の事をしただろうか。
桜が倒れたのはメルトも知っている筈だし、彼女が元気になったのであれば喜ぶべきと思うのだが……
「言い訳は……ハクには出来ないだろうし、加減するだけ無駄ね」
決して嬉しくない信頼関係が、そこにあった。
カズラの件とは違って、今回は純粋にメルトが怒っているだけ――故に、
それが更に厄介だ。何せここは、
「あら、公開プレイですか?」
保健室の前、つまりは廊下である。
「――カ、レッ」
拘束力を強める聖骸布の本来の持ち主が立っていた。
「今回は何をしたんですか? メルトリリス」
「説明したくないわ。強いて言えば、鬱憤晴らしよ」
光彩の無い瞳で此方を見つめてくるカレン。
或いは、彼女が助けてくれるかもしれない。そんな期待をするだけ無駄だろう。
しかしどんなに小さな光でも、窮地に立たされれば手を伸ばしてしまうものである。
極僅かな可能性、カレンが助けてくれる道が、きっと存在している筈――
「良い表情。渡した甲斐がありました」
+
ミシ、と空間が悲鳴を上げる。
凄まじく不愉快だった。隣の部屋からの衝撃も相まって神経を逆撫でする。
「……チッ」
舌打ちするも、壁を隔てた向こう側に不機嫌の意を届けることが出来る筈もない。
「……しょうがないなあ」
何があったか知らないけど、少し見に行ってみよう。
基本部屋を出ることは制限されているけど、姉妹を気にするという名目ならBBだって許可を出さない訳にもいくまい。
部屋の戸を叩き、そこに住む主の名前を呼ぶ。口に出すのはあまり気が進まないが、それで騒音衝撃が無くなるなら別に構わない。
「ノート」
途端、部屋から聞こえる音は一切無くなった。
開かれた扉。そこにいたのは、いつもと変わらない端整な黒衣装。
「あら、ローズ。どうかなさいました? 貴女が私の部屋に来るのは珍しい」
「来たくて来た訳じゃないんだけど。何してたの?」
単刀直入に聞く。ノートは小さな笑みを崩さないまま首を傾げた。
「これといって何もしていませんよ? 虚無を愉しむのも人生の一興ですわ」
いや嘘。何事も無かったかのように平然と言ってのけてるけど、やっぱり無理がある。
あーあー……あんなに部屋壊しちゃって。いくらノートと言っても、これは後が怖いんじゃないかな。
「それ、どしたの?」
「……」
部屋の様子を指摘した瞬間、ノートは気まずそうに黙り込む。
勝手に壊れるなんてことはないだろうし、プロテアがやってきた形跡も見られない。
だったら犯人は一目瞭然。目の前にいる部屋の主だろう。
部屋に入ると、色んなものが焦げたり砕け散ったりしていた。
完全な形を保っているのは突き刺さっている剣やら槍やら、BBから頂戴したらしい宝具ばかり。
「虚無ってのは、部屋をここまで荒らすこと?」
「……響いてきました?」
「凄く」
観念したように溜息を吐くノート。
「
宝具の不調、ねぇ。
調整でここまで部屋が壊れるかって突っ込みたいけども、今はそれより聞きたいことがある。
「なんで不調なんて起きたのさ? 何もしてなきゃ起きるはずないじゃん」
「それは、ですね」
「センパイのとこ、行ったんでしょ」
ほぼ確信。大方、センパイに会いに行ってその仲間にやられたってところか。
そして、そのむしゃくしゃを部屋にぶつけていた、と。
表で良い子ぶってる子ほど、裏ではこういう事やってたりするんだよね。
「……」
「良いよね、信頼がある人は。ボクはお出かけすら許されてないってのに」
まだ一度しか見ていないセンパイを、もうノートは何度見ているんだろう。
ボクはジャックやアタランテから話を聞くことしかできない。
「……ですが貴女もそろそろかも知れませんよ?」
「次の衛士に?」
「えぇ。きっと、そうなるでしょう」
「それ、多分無い。そろそろBBに追いつくよ、センパイ」
衛士のスペックはともかくとしてあのサーヴァントにセンパイが勝てるようなら、
それに、センパイは迷宮の果てに近付いている。
次の階層が出来る前にセンパイが果てに辿り着くか、それとも今回の衛士に負けるか。
迷宮増設が間に合ったとしても、ボクが選ばれる可能性はあまり高いとは言えない。
せっかく用意した玩具を“あれだけ”で捨てるほど、BBも優しくはないしね。
「そうだとしたら、衛士には仕置きが必要ですね」
「……やっぱり、痛い目見てきたでしょ」
「何の事やら。ただまぁ――」
床に落ちた数々の宝具を体に仕舞いながら、ノートは不適な笑みを浮かべる。
それに愉しさだとか、快さだとか、そんなものは一切無い。
続くのは延々とした黒。
ノートが持つ、唯一の色。
「邪魔をした命知らずを赦すほど、私は寛容では無くてよ」
おお、怖い怖い。
何をやらかしたのか、詳細は知らないけれど、目を付けられたらしいサーヴァントはご愁傷様。
ま、ボクには何の痛手にもならないけど。寧ろ、センパイの近くにいる羽虫が一匹居なくなれば、それだけ楽になる。
センパイに会えるのは、多分もう少し先。今からが、楽しみでしょうがない。
うだうだ悩む系主人公。
いつ覚醒するか知りませんが生暖かい目で見守ってやってください。
後、私は基本ネタを挟まないと死んじゃう病なのでシリアス続いた後にはちょいちょい茶番入ります。
後半はオリキャラエゴズの初会話。エゴたちは皆個室を持っているようです。
とんでもないことやらかさなきゃ良いんですけどねノートさん。