Fate/Meltout   作:けっぺん

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ようやく四章も本番みたいな。
急展開も交えてお送りします。


Connection.-1

 

 

 生徒会室に戻る。これでガトーを除いた生徒会メンバーは集まった。

「お帰りなさい、ミス黄崎。大丈夫ですか?」

「うん。心配掛けてごめん」

 席に着いた白羽さんに微笑み、レオは頷いた。

「ハクトさんも、少し顔色が良くなりましたね。迷宮には向かえますか?」

「ああ。勿論だよ」

「では、四階層の方針を話します。今回、迷宮へはミス遠坂と赴いてもらいます」

「凛と?」

 しかし、二人で迷宮に行くとなると懸念材料が存在する。

「だけど、ノートが……」

「だからこそだ。ノートなるアルターエゴはどうやら、相当の脅威だ」

 ユリウスの言葉に、レオが続く。

「ですので――彼女をここで討伐します」

 討伐……危険の芽を早めに断っておくという事か。

 確かにここでノートを倒しておけば、今後の迷宮探索に自由が増え、安全性が格段に増す。

 だが、ノートは恐らくアルターエゴの中でもトップクラスの戦闘能力を持つ存在だ。

 凛のサーヴァントが如何に強力であっても、勝てるという確信は生まれない。

「それに、ランサーたっての希望よ。四階層には絶対に行かなければならないって」

「……ランサーが」

 ランサー――カルナ。ジナコのサーヴァントであるアルジュナと、生前から確執を持つ英雄。

 やはり、思うところがあるらしい。だが、それでも……

「ノートを討伐し、その後SGの取得に向かう。この方針で行こうと思います」

「……分かった」

 確かに、ノートもいつかは戦わなければならない存在だ。

 そこまで悩ませられるならば、ここで倒しておこうという判断は間違っていない。

 それに、迷宮に向かうのは凛とランサー――僕が戦った中でも間違いなく最強だった主従。

「では、二人の準備が出来次第迷宮に潜ってください」

 レオはそう締めくくった。

「あぁ、そうだ。シラハにも渡しておくわ」

 凛は術式を一つ取り出し、白羽に渡す。

「何これ?」

「裏側に来てから作った戦闘術式の着火材よ。ノートとの戦闘中に適材適所で使って」

「全員に渡しているのか?」

「ええ。サクラとカレン、カズラには私たちの観測に集中してもらうとして、他の皆には渡したわ。これで起動してから術式を発動することで負担を減らすの。結構な自信作よ」

 自分の手札を明かしてまで、ノートを討伐しようとしている。

 凛は本気だ。ならば足を引っ張らないように僕も頑張らなければ。

「ところで、皆さん」

「どうしました、カレン?」

「先程ガトーさんが迷宮に向かいましたが、助けた方が良いのでは?」

「は――?」

 何故、カレンは黙っていたのか。

 というより――

「っ、何してんの!?」

「ハクトさん、ミス遠坂、即刻迷宮へ!」

 言われるまでも無い、と立ち上がる。

「ハクト君!」

「ああ!」

 空気を呼んで部屋を出て行ったかと思えば、何をしているんだガトー……!

 ともかく、行かなければ。最悪の事態だけは、絶対に避けないと。

 

 

 迷宮の十階。再び踏み込んだジナコの迷宮は以前と同じ、海の底のような陰鬱さを感じさせる。

「さて、まずはガトーを探さないと……」

「その必要は無さそうよ」

「え?」

 メルトは、迷宮の先を見つめている。

「ああ、この先にガトーの気配がある。だが、何やらもう一つ、強力な気配があるな」

「っ、もしかして……」

「ええ、ノートよ」

 既に見つかっていたのか――

 手遅れになる前に急がなければ。

「凛!」

「分かってるわ。急ぎましょう!」

 ――ノートがいたのは、ジナコと会った広場だった。

「おぉ! 救世者来ませり! 小生を助け給え!」

 ガトーはノートが持った鎖に縛られながら叫んでいた。

 何か、危機感を感じさせない。というか、かなり元気そうである。

「おや……センパイ、これはどういう事ですか?」

 既にノートはガトーに興味を示さず、凛とランサーにその目を向けている。

「……」

 薄く笑いながらも、その殺気は確かなものだ。

「貴女を討伐するって事よ。誘き出すつもりだったけど、その手間も省けたわね」

「なるほど……そう、ですか」

 ノートはガトーの鎖を解いた。

『ガトー団長、戦いの邪魔になるので、帰還してください』

「むぅ……しかし」

『死にたくなければ早くしろ』

「ぬ、承知した。では、これにて御免」

 一切ブレず、ガトーはリターンクリスタルで帰還した。

 というか、持ってきていたのか。二階層の経験を少なからず生かしていたらしい。

「……大人しく逃がすのね」

「えぇ。あのような筋肉ダルマに使う宝刀はありませんわ。ですが……貴女方なら十分です」

「ハクト君、メルト、サポートよろしく。前線は私とランサーが務めるわ」

「……ああ」

「分かったわ」

 ざわり、と空気が震えるのが分かる。

「ランサー、遠慮はいらないわ。本気で戦いなさい」

「了解した。悪く思うな、昏き女よ」

 ランサーは短く応答し、紫電の槍を顕現させる。

 圧倒的な魔力を持ったそれは、ランサーの切り札たる宝具。

 だが当然、宝具の蒐集家たるノートがそれを黙って見ていることのできる程度の代物ではないだろう。

「――貴方が私を斃すと? その槍をいただければ、この場は見逃します。ジナコ=カリギリのサーヴァントとの戦いも黙過しますが?」

 その妥協案を、ランサーはその戦意を鋭くすることで否定した。

「承諾しかねる。アルジュナとの確執は、お前を討ってから解決するべきだろう」

 断られたノートは、まるで不貞腐れた子供のように眉根を顰めた。

「……では……その槍と引き換えに、冥界へと誘いましょう。どうか、安らかな(ねむり)をば――」

「ふっ」

 ノートの心臓を狙った正確無比なランサーの刺突。それを受け止めたのは、血の色に染まった刃を持つ日本刀だった。

 それに対してランサーは魔力を放つ。二度の凄まじい衝撃を刀は難なく受け止める。

 凛と共に弾丸を放ち、ノートは蒼い魔力の零れる西洋剣で切り払う。

 そしてメルトの斬撃を対処した瞬間、ランサーの二度目の刺突で刀は打ち砕かれた。

「っ」

 咄嗟にノートは左手を振るう。

 出現した氷の壁を、ランサーは瞬時に切り払い同時に放った炎で剣を飲み込んだ。

 寸前で手を離していたノートは炎には飲まれなかったが、剣は跡形も無く消滅していた。

「ふむ、どれも一級の宝具だが……主から離したのは失策だったな。それでは武器も戦を望むまい」

「望まなくても、一向に構いませんわ。服従させるだけですもの」

 どうやら、ノートが持つ宝具は本来ほどの強度を持っていないようだ。

 それが弱点となるなら良いのだが……

「力で捻じ伏せれば、宝具も真の力を出さざるをえない。一つ、証拠をお見せします」

 そう言ってノートが体から抜き出したのは、歪に捻じ曲がった槍。

 枝分かれする刃が先端で結合しているという奇妙な形状。

「っ、ランサー!」

 メルトが突然、ランサーに呼びかける。

 ランサーはそれに対して頷き、槍を構えた。

「お手並み拝見と、いきましょう――!」

「ッ――!」

 ノートが槍を投擲した瞬間、目が潰れるのではないかというほどの光が広がった。

 耳を劈く轟音と、奔る雷。周囲を飲み込み、完膚なきまでに蹂躙する破壊の具現として牙を剥く槍の衝撃に、吹き飛ばされそうになる。

 やがて攻撃が止む。煙が晴れ――

「ッ、メルト!」

「ランサー!」

 メルトとランサーは、膝をついていた。

 どうやら前方で攻撃を防いでいたらしい。

 二人が防御をして尚、今の威力。一体どれだけ強力な宝具なのか。

 そして、二人はそれをより間近で受けていた。ダメージは相当なものだろう。

 回復のコードを紡ぐ間、ノートは恍惚とした表情で、手に戻った槍を撫でていた。

「……あれは?」

「『啼き轟く雷神の牙(ヴァジュランダ)』。雷の投擲槍だ。まさか、これほどのものを所持しているとは……」

 それは、マハーバーラタに並ぶインドの巨大叙事詩、ラーマーヤナに謳われる武器。

 やはり、あれは名のある宝具。英雄たちが所有する奇跡の具現だ。

 あれほどの威力を持つ宝具をノートはいくつ持っているのか。そもそも、英雄たちの奇跡を彼女は何故所持しているのか――

「古今東西の宝具を担う者、か。では、その首飾りもその一端なのだな」

 ランサーは、いつしかノートが首から下げていた黄金の首飾りを指して言った。

「ええ。名を『諍い呼ぶ四つの融和(ブリーシンガメン)』と言いまして。大したものではありませんが、炎に対しての抵抗力でこれに勝るものはそうありませんわ」

 これは……ランサーへの対策か。

 炎を操るサーヴァントに対して炎への対策。

 一体どれだけの宝具を持っているのか不明だが、多ければ多いほどサーヴァントへの対処法は増える。

 アルターエゴそれぞれに役割があるのだとしたら、ノートはサーヴァントとの戦いに特化した戦闘用アルターエゴ――!

「攻撃も防御手段も完全か。打ち崩すのは至難の業だな」

 立ち上がり、ランサーは体勢を立て直す。まだその体から零れる炎は衰えていない。

「ランサー、まだいける?」

「当然だ。貴様も、余力はあるようだな」

「当たり前、よ。たかがこの程度、貴方の槍より数段マシよ」

 メルトの言葉で、思い出す。

 ランサーの最終宝具、必殺の槍を。

 ラニの術式をもってしても完全に防ぎきれなかった雷光の槍――一度限りの切り札を。

「ふむ……この槍を使ったという記憶は間違いではなかったか。では、何故再び輝きを取り戻しているのか――疑問は増えるが、今は関係あるまい」

 鷹のように鋭い眼差しがノートを見据える。

「そうでなくては。でなければ、獲り甲斐がないというものです」

 捻じ曲がった槍を右手に持ったまま、徒手の左手で空を仰ぐ。

 すると泡のようなものがノートから分かれ、無数の武器へと変貌していく。

「ふっ――」

 降り注ぐ死の雨。

 凛と共に防壁を張るが、幾らかを受け止めたところで破壊された。

 だが、どうやらランサーとメルトはそれで十分に強度を推し測ったらしい。

 火炎と水飛沫のように放たれた防御の膜は武器を受け止め、飲み込んでいく。

「まさか、この程度で私たちを貫けると思って?」

「神の泥か。本来の使い方ではないだろうに。借り物ばかりに頼るのが貴様の戦か」

「いえ――正直これで事足りると思ったのは否定しませんが。やはり、倒れぬ相手は愉しい」

 心底嬉しそうに、ノートは言った。

 未だに右手には雷の投擲槍が握られている。武器を射出するより、遥かに強力な宝具だ。

 あれが一撃限りの宝具でないのならば、今の攻撃には何か意味がある筈だが――

「とはいえ、少々邪魔なところもありますか。今回の裁きはランサー、貴方に向けたものであるゆえ。メルトリリス、貴女には手を出さないので下がっていてもらえます?」

「馬鹿じゃないの。手を出さないなら尚更、邪魔がしやすいじゃない」

 ランサーのみを倒すつもり……何故、ノートは迷宮に潜る僕とメルトを討伐しようとしないのか。

 何か理由はあると思うが、ともかく、今はノートを倒すことが優先。ならば、僕もここで戦いを止めるつもりはない。

「まったく、困った人です。――貴女を殺さずランサーを殺すには、相応に本気を出さねばならないというのに」

 ノートは今まで以上に静かな声で、どこか寂しげに呟いた。

「だったらこっちも、本気で行くまでよ。ランサー」

「心得た」

 凛の不適な笑みにランサーは短く応答する。

 それを愉快そうな目で見つめ、槍を持つ手に力を込めた。

「それは重畳。ならば勿論、この槍の対抗策も取れたという事で――?」

 一瞬目を大きく開き、槍を投擲する。

Es Induktion(誘発せよ)――Blitzschutz(避雷吸着)!」

 凛はそれに対して、上に宝石を放り投げた。

 宝具に対して、凛は得意の宝石魔術――威力としては比べ物にならないが……

「え――?」

 それは――恐らくは雷撃に属する攻撃の耐性に特化した術式。

 雷を集め、その一点に集約させる一度限りの回避手段。

 宝具による神の雷であっても例外ではない――目標(ランサー)から逸れた雷はその宝石に向かい、たったそれだけを塵も遺さず蹂躙し尽くした。

「今よ、ランサー! ハクト君たちも!」

「ッ!」

 攻撃を終え、再びその手に戻そうと手を伸ばしていたノートが、咄嗟に下がる。

 狙うは――強力な対軍宝具である雷の槍――!

「はっ……!」

「ブリゼ――!」

neun(九番)!」

shock(弾丸)!」

 ランサーの火炎、メルトの斬撃、凛の宝石魔術に合わせて弾丸を放つ。

 恐らくはコードキャストなんて効果がないんだろうが、少しでも役に立たなければという意思が働く。

 果たして全てを一度に受けた槍は跡形も無く消え去っていた。

「――」

 これで三つ。だが、まだノートが持つ宝具は多いだろう。

 使い潰すつもりであるのだとしても、それらを一つ一つ処理していったのでは、此方が力尽きる方が早いだろう。

「さて、いつまで他人(ひと)様の宝具で天狗になってるつもりかしら。ま、どうせこれもBBから貰ったものなんでしょうけど」

「BBから……?」

「ええ。大方、吸収したサーヴァントの宝具情報だけ頂きましたって事でしょ。何で真名解放相応の威力を出せるのかは疑問だけど、散々自慢げにしてても百やそこらの貰い物で偉そうにしてるだけよ」

 それが、ノートが持つ多種多様な宝具の正体……?

「……散々言ってくれますね」

「そんなつもりは無いわよ。ただ、今の槍は相当高位なものだったし? 聖杯戦争に呼ばれたサーヴァントでそれ程のもの持ってる英雄も限られてる。思うに、もう数えるほどしかないんじゃない?」

「間違いありません……ですから欲しいのです。その雷神の槍、破壊神の弓に矢、破滅を呼ぶ幻想の剣、聖なる運命(さだめ)を選ぶ槍。此方に落ちた素晴らしい宝具が」

 SGとして定められた、際限なく宝具を求める蒐集癖。

 あまりにも、それは行き過ぎている。

「BBから賜った宝具を使う――当然ながら、これが私の戦いです。ですが、一つ言わせていただくと、宝具を求めたのは私なのです」

 不適にノートは笑う。

「……だから何よ」

「私は戦闘用のアルターエゴ。元来、これらの宝具を想定せずに作られたサーヴァントです」

 つまるところは、ノートの本来の力は他のサーヴァントの宝具を使うことではない。

 他の役目を持つのではなく、ただ戦闘に特化したアルターエゴの真髄が、それだけである筈がない。

「では、その一端、お見せしましょう。最古の女神が齎す創生の糸、存分に堪能なさいませ」

 ノートの両腕から、無数の鎖が伸びていく。

 いつか見たのと同じように、仄かな輝きを持ち、命を刻む“生きた鎖”。

 これがノートの、真の宝具。いや、これだけではない。あの武器の雨も、これほどの力は込めていないにしろこの宝具に属する力――!

「天を舞い、地を創り、海を捕え、世界を繋ぎ、万物を織り成す。神も王も民草も、全てを等しく裁きましょう――『女神の操り糸(エルキドゥ)』」

 創生(アルル)始める(わらう)。愚かしき敵を裁かんと――




啼き轟く雷神の牙(ヴァジュランダ)
投擲すると凄い雷になって相手を襲う。ラーマが英霊として呼ばれるのかどうかは知らん。
諍い呼ぶ四つの融和(ブリーシンガメン)
持つだけでAランク相当の炎への耐性を得る。これに関しては英雄の宝具ではなく、アルターエゴに使用しなかった女神のエッセンスから取り出したもの。

VSノート。彼女について多少判明しました。
数多の宝具の秘密と、真の宝具について。天の鎖とは違うんですのよ。

↓宝石の詠唱が正しいかどうかは知らんです予告↓
「貴女が彼らを縛る限り、貴女とは敵対します」

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