プリヤのアニメ見てたら気になったんですけど、どっちなんでしょ。
まぁそれはともかく、多忙期間終わったんで白羽回です。ちょい短めですがどうぞ。
さて……白羽さんはどこにいるのだろうか。
保健室は桜(またはカレン)の許可が無ければ開けられないようだし、キアラさんはその許可を求めていなかった。
という事は保健室以外のどこかだが……
『……三階層が終わり……』
「……? メルト?」
『ハク。どこか人目につかないところよ。シラハとキアラはそこにいるわ』
人目につかないところ――この場合はNPCも含めてか。
だとすれば、この校舎に該当する箇所は少ない。
例えば、ジナコがいた用具室。
ジナコが衛士であるこの状況に限るが、今あの部屋は誰もいないだろう。
だが、可能性で考えればもう一方――各自の個室の方が高いといえる。
「個室かな……?」
『早く行きましょう。キアラに任せているのは危険よ』
「危険? 何で……」
『良いから』
メルトに急かされ、自然と足が速まる。
キアラさんならば特に問題は無いと思うのだが。
何故メルトはそこまで、キアラさんとアンデルセンを目の敵にするのだろう。
表の記憶にその理由があると思っていたのだが、戻った記憶に思い当たる節はない。
どころか、表ではキアラさんとの面識がなかった。結局メルトがあの二人を嫌う理由は見つからない。
ともかくメルトがそういうからには何かしらあるのかもしれない。
個室――問題は、白羽さんの部屋にどうやって入るかなのだが、その心配はどうやら不要だったようだ。
「……む? なんだ、迷宮には向かわないのか? 無理もないが一刻も早い脱出を目指すものと思っていたんだがな」
部屋の前にアンデルセンが立っていた。
「アンデルセン、どうして部屋の前に?」
「メンタルケアの場に俺は相応しくないとの事だ。牛女め、傷心相手に何をする気なんだか」
追い出された、という事らしい。
確かにアンデルセンの性格からすれば、カウンセリングの場では到底許容できるものではないが。
「白羽さんに会えないかな?」
「わざわざ敗者に泥を塗りに来たか。まったく、物好きな奴め」
「いや、そういうつもりじゃ……」
「まぁお前ならそんな事はしないだろうさ。特別面会謝絶という訳でもない。暫く待っていろ」
そう言ってアンデルセンは姿を消した。
キアラさんと契約しているアンデルセンはキアラさんが入室しているのならば白羽さんの部屋に入ることが出来る。
多分それで話をつけてきてくれているんだろうが、先程相応しくないとか言っていたのに大丈夫だろうか。
暫くして、アンデルセンは戻ってきた。
「問題ないとの事らしい。だが、もう少しの間時間を置け。キアラから招くそうだ」
「……それは良いんだけど」
戻ってきたアンデルセンは先程よりも渋い顔をしていた。
何かあったのだろうか。
「で、何で時間を置く必要があるの?」
隣に出現したメルトにアンデルセンは不機嫌そうな視線を向ける。
「貴方が言うように私たちは迷宮に行かなければならないの。早くしてちょうだい」
「お前なら大丈夫だろうがな。お前のマスターが問題だ」
「僕が?」
「ハクの何が問題だっていうのよ。言っておくけど、ハクほど人畜無害なマスターも居ないわよ」
そう言われるのも何というのか微妙なのだが……
「そうだろうが……ああ、誤魔化すのも面倒だ。開けてやる。ただし、俺は一切責任を負わないぞ。サーヴァント諸共、俺に八つ当たりはするなよ」
何故そこまで念を押すのだろうか。
だがそれの返答を待たずしてアンデルセンは扉に手を掛けた。
「キアラ、どうやら面会客は待てんらしい」
扉を開いた瞬間、その内装が目に入るよりも先に甘たるい芳香が鼻腔を刺激した。
「あら……?」
「え……?」
綺麗に纏まった部屋、白を基調としたベッドに白羽さんは座り込んでいた。
制服が乱れ、頬を赤らめ、肩で息をする白羽さん。
白羽さんの胸元に手を置いているキアラさん。
一歩離れて、顔を真っ赤にして俯いているリップ。
何が起きているのか、それを整理しようとして、何を思ったか。
「……えっと、大丈夫?」
何の脈絡も無く問い掛けていた。
「え……あ……ぅ、うん……」
白羽さんは戸惑いながらも答え、しかしやはり訳が分からないといった表情で、
「……でもさ、出来れば……あまり見ないで、ほしいんだけど」
「ご、ごめん!」
至極当然だろう言葉を呟いた。
目を逸らし、何故こんな事になっているのか、と考える。
「……何してるのよ貴女たち」
「あ、いえ、これは違うんですよ? シラハさんの精神状態の回復のために……」
しどろもどろなキアラさんの様子から多分嘘なんだろうが、あまり追求はしないほうが良いかもしれない。
「……にしても、この匂い」
「ッ!」
「ぅぐっ!」
凄い勢いで枕が飛んできた。
どうやら白羽さんが投げたものらしい。
これも気にしてはいけないものだったのだろうか。
「……ハク、今のは無いわ」
「え!?」
「あらあらまあまあ」
若干引いたメルトの冷たい視線。
またも地雷を踏んだようだ。
なんというか、気にしてはいけないものを見抜けるようになりたいと切に思えた。
さて、幾らか脱線はしたものの、白羽さんとも話をつけておかなければならない。
「え、えっと……白羽さん」
「ん……? 何?」
服を整えた白羽さんは未だに頬の赤らみは消えていないが、落ち着いてもらえたようだ。
白羽さんは此方が何を話そうとしているか分かっているという様子だった。
「僕は、表に帰る。帰らなきゃならない」
「……うん、そうだよね」
僕たちの選択は、白羽さんたちにとっては死へと繋がる選択なのだ。
生存者が表に帰れば、当然裏側の存在がムーンセルに感知され、そこに残った敗者は残らず消滅させられるだろう。
死への強い恐怖を持った白羽さんなら尚更、それを拒絶する筈だ。
だが、この答えを伝えないわけにはいかない。
それが僕に出来る、小さな選択だった。
「分かってる。私は反対しないし、協力するつもりだよ」
「え……」
困ったように笑いながら白羽さんは言った。
諦めて「好きにしろ」というのは簡単だろう。
だが、まさか運命を認めたうえで協力すると決めてくれたことに驚きを隠せない。
「確かに嫌だよ、死ぬの。でも、認めちゃったし。何よりさ。君を応援したもの」
「僕、を――」
聖杯戦争の四回戦。白羽さんとの戦い。
メルトの姉妹であるリップと死闘を繰り広げ、最後は白羽さんの魔力切れというかたちで勝敗は決した。
死の際に白羽さんは、鼓舞してくれた。
「じゃあね。天国で応援してるよ」
あれは確かに自分の言葉であったと、白羽さんは認めたのだ。
それが覆せぬ運命ならば、その言葉こそ自分に本質であると信じよう、と。
「だから、君は表に帰らなきゃいけない。表に帰るべき人が帰れなかったら、元も子もないんだよ」
きっとその答えまでに、身を裂くような苦しみがあったのだろう。
「白羽さん……」
「いいの――まぁ、正直参ってるのは本当だけどさ」
それでも白羽さんは、協力してくれるのか。
「キアラさん、ありがとうございました」
「いえ。私はなすべきことをしたまでです」
「でも……キアラさんも」
そう、か。形はともかく白羽さんのメンタルケアをしてくれたキアラさんだが、彼女も聖杯戦争の敗者ではないのか。
「私はBBの囚人だった以上、最初から生きていないも当然でしたから。それに、このサーヴァントを引き当てた瞬間から諦めたも同然ですし」
キアラさんは穏やかに笑いながら、アンデルセンを見る。
「ふん。残念だったな牛女め。戦闘能力ゼロの三流サーヴァントを引き当てたこと、今更後悔したか」
「いえ、今更ではなく最初からです。貴方で聖杯戦争を勝ち抜くなんて、無理ゲーにも程がありますわ」
穏やかだがピリピリとした言い合いが始まった。
キアラさんとアンデルセンはそれぞれ望んでいない、最悪の相性らしい。
「こほん、こんな言い合い、見せるべきではありませんね。シラハさんも大丈夫なようですので、私はこの辺りで」
丁寧に一礼して、キアラさんはアンデルセンと共に部屋を出て行った。
「……さて、私たちも、行かなきゃね」
「うん……白羽さん、ありがとう」
「良いんだよ。白斗君が気を持ち直してくれれば」
微笑む白羽さんの強さ――それは、僕では及びも付かない所にある。
恐怖の先の答えを選択した白羽さんの運命を断ったのは、他でもない僕だ。
ならば僕がいつまでも迷っているわけには行かない。
僕は表に帰らなければならない。僕が勝ってきた――殺してきた皆のためにも。
+
「……それ、本当?」
「はい……間違いありません」
いつか聞いたそれが――本当に本当、真実であるのなら、手を打つ必要はある。
俄かには信じ難いけど……理屈としては納得できる。
一応、その真実について考えることが、自分の死についてを忘れられる材料となっていた。
やっぱり、いざ知ってしまうと精神への負担は大きい。
我慢するつもりだったけど、それは不可能だった。
「……」
隣に並んで歩く、生徒会の庶務にしてマスターの一人。
彼は、例えるならば私と同じくらい地味で、実力も私よりちょっとだけ上くらい。
そんな彼が――まさか聖杯戦争の中心となるような人物だったなんて。
確かに、ここに来る前の記憶がないって話は聞いたことがある。
それは私も同じで、だったら私たちは普通とは違うマスターなんじゃないかって話を、彼とした覚えもある。
半ばは冗談だったけれど、まさかそれは本当だったんだろうか。
まぁ、そんな事は私には分からないから良いとしよう。
私にとって救いだったのは、白斗君が今の境遇について悩んでくれていることだった。
こういう言い方はどうかと思うけど、なんとも思わないマスターよりは罪悪感を持ってくれる方が私は嬉しい気がする。
何より、私の死は無駄ではないと実感できる。
「……」
勿論、被害者面ばかりしている訳ではない。
ガトーさんやランルー君。そして、裏側に落ちてこなかった後二人のマスター。
死にたくないからとただがむしゃらに戦って、倒してきたマスターたち。
正直なところ、私が戦ったマスターだけは絶対にいないでほしかった。
それが――予め知れていれば、もう少し覚悟を決められたのに。
私はガトーさんとランルー君二人だったけど、白斗君は七人分をその苦しみを味わったのだ。
きっと平常心でいられる筈がない。どこかで我慢しているんだ。
尚も皆を纏め上げて、表に帰るという決心をつけることができる――彼は、私には及びも付かない強さを持っている。
なるほど、それが彼の――白斗君の武器。
真っ直ぐで固い意志。弱そうに見えて、きっと誰よりも強い意志の欠片。
「……ふうん」
「……? どうかした、白羽さん?」
「ううん、なんでもない。行こ」
あぁ、何となく理解が出来た気がする。
リップに、メルトちゃんに、カズラちゃん、桜ちゃん。そして、ラニちゃんに、多分凛ちゃんも。
彼女たちはきっと、その真っ直ぐな意思に惹かれたんだ。
それもしょうがないと思う。きっとこの場でそんな決定できる人、そうはいないもの。
或いは、他の理由があるのかもしれないけれど、少なくとも私は彼の意思に、純粋な憧れを感じていた。
好意――なんだろうか。
少し違うかもしれない。でも、裏側に来たときから彼の意思の強さは薄々凄いと思っていた。
三階層まで突破して、記憶を取り戻して新たに得た苦しみをも受け入れる。
本当に凄い人だ。私みたいな弱いマスターとは、何もかもが違う。
だから、私はこの感情を持つべきではないのかもしれない。
相応しくないにも程がある。彼の傍に並び立つのはメルトちゃんであり、他の皆も隠しながらも確かな気持ちを持っている。
そんな中に私みたいな、曖昧な感情は無いほうが良い……よね。
うん、仕方ない。だったら、皆の思いが少しでも成就されることを応援していよう。
胸が痛いのは……多分嘘だから。
「っ」
ま、まぁ……それはともかく、白斗君の鈍さくらいはどうにかしないとね。
正直なところ、彼の最大の欠点は異常としか言いようの無い朴念仁っぷりだ。
少なくともメルトちゃんの好意に気付いていないのだったら彼への見方を変えなければならない。
いや、まぁ百パーセント気付いてないんだろうけど。
重傷レベルのそれをどうにかしなければ、皆が不憫で仕方ない。
答えてあげるかはともかくとして、せめて気付いてくらいあげるべきだと思うんだけどなあ。
察しも悪い。さっきの状況で何をしてたか聞くのは、鈍い云々じゃなくて人としてどうかと思う。
「……」
キアラさんの本性とも言うべきか。あれには本当に驚いた。
白斗君があのタイミングで来てくれなければ、色んな意味で危なかったんじゃないだろうか。
その点では感謝。察しは悪いけどタイミングは良い。
それが、彼に惹かれる一要因なのかもしれないけどさ。
本当に、変なマスターだよ。だからこそ――こんな事件の中心人物になれるのかもしれないけど。
まさかここまで白羽さんをプッシュする回を書くことになるとは思いませんでした。
何か愛着沸いてきた。
キアラさんが何しようとしてたかは知らないです。
どんな匂いがしたのかも知らないです。
↓まさか記憶開封からいざこざ解決まで四話も使うとは思わなかった予告↓
「ですので――彼女をここで討伐します」
ようやくストーリーが進みます。やったぜ。