Fate/Meltout   作:けっぺん

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オリ鯖登場回。
大した活躍はないのでモブ程度に見ていただければ幸いです。


十三話『白い衣』

 

 気がつくと、一度見たことのある保健室の天井が目に入った。

 どうやら一晩経過したようだ。

 時計には四日目、と書かれている。

 毒を受けたときの気だるさや痛みはもう感じない。

 ゆっくり上半身を起こすと、カーテンが開けられる。

「ハク、気付いたの!?」

「メル……ト?」

 そこに居たのは、間違いなく見慣れたメルト。

 だが、メルトの服は黒いコートだった筈だ。

 少なくとも、決して白衣ではなかった。

「良かった……すっかり毒は抜けたようね……何、どうしたの?」

「メルト……その格好は?」

「え……あっ!」

 普段のコートと違い、白衣のメルトというのはどこか清楚さを感じるものだった。

 顔つきが桜と似ているのも相まっているのだろう。

 ……物騒極まりない鋼の脚具とプロテクターが見えている上、素のメルトを知っているのであくまでも「感じる」だけなのだろうが。

「メルトさん、ずっと貴方を看病してたんですよ。それで『看病するならこの服がいい』って言うので白衣を貸したんです」

 そう言いながらメルトの後ろから顔を出したのは保健室のNPC、桜だった。

「サクラ! その事は内緒って……」

「ふふ、ごめんなさい」

 良く事情は分からないが、どうやらメルトは一晩中看病をしてくれていたらしい。

「……ありがとう、メルト」

 だから、心から礼を言う。

「っ! 治ったのなら早く行くわよ。一日無駄にしたようなものなんだから」

 メルトは白衣を脱ぎ捨てる。

 目を背けようとも思ったが、メルトはどうやらコートの上に白衣を着ていたようだ。

「紫藤さん、貴方に打ち込まれていたのはイチイの毒でした。自然界から摘出された毒にしては随分凶悪なものです」

 桜が説明してくれる。

 またしてもイチイの毒。

 アーチャーである事と、イチイの毒という情報で正体はつかめるだろうか。

 桜が椅子に座り雑務を始めたその時、保健室の扉が開かれ、予想外の来客を連れた。

「……」

「なっ!?」

「くっ!?」

 ダン・ブラックモアその人。

 そして、毒を負わせたサーヴァント、アーチャー。

 敵の来訪に身構えようとするも、まだ身体が思うように動かない。

 しかし、彼の行動は此方の予想を大きく裏切った。

「……イチイの矢の元になった宝具を破却した。宝具が消滅した時点でイチイの毒は消え去るだろう」

「え……?」

「身勝手な言い分だが、これを謝罪とさせてほしい」

 そう言うとダンさんは、深く頭を下げた。

 唖然とする僕とメルトを他所に、ダンさんはアーチャーに向き直る。

 その目は今までの様な厳格な騎士のものではなく、信頼「していた」者に対する失望の眼差しだ。

「そして失望したぞ、アーチャー。許可無く校内で仕掛けたばかりか、毒矢まで用いるとはな」

 当のアーチャーはただマスターの言葉を受けている。

「この戦場は公正なルールが敷かれている。それを破ることは、人としての誇りを貶めることだ」

 ダンさんの目は、心の底から怒りを示している。

 そこからも、経験を積んだ戦士の凄みを感じられた。

「これは国と国の戦いではない。人と人の戦いだ。畜生に落ちる必要はもうないのだ」

 確固たる信念に基づいた、覆らぬ何かを感じる双眸。

 それを黙って受けるアーチャーの目が、前に突き出された腕に向けられる。

 手袋を取ると、刻み込まれた弓の様な形の令呪が露になった。

「アーチャーよ。汝がマスター、ダン・ブラックモアが令呪をもって命ずる」

 それはマスターに、三度のみ与えられた強権の使用。

「学園での敵マスターへの、宝具『祈りの弓(イー・バウ)』による攻撃を永久に禁ずる」

「はあ!? 旦那、正気かよ!? 負けられない戦いじゃなかったのか!?」

「無論だ。儂は自身に懸けて負けられぬし、当然の様に勝つ。その覚悟だ」

 弓を模した三画の内、一画が一層強い光を放ちながら霧散していく。

 恐らく、それによって令呪の命令が受理されたのだろう。

「だがアーチャーよ。貴君にまでそれを強制するつもりはない。儂の戦いとお前の戦いは別物だ」

 信じられない、という顔のアーチャーに、あくまでもダンさんは坦々と告げる。

「何をしても勝て、とは言わぬ。儂にとって負けられぬ戦いでも、貴君にとってはそうではないのだからな」

「……」

 アーチャーは何も言わずに、その場から姿を消した。

 信じられなかった。

 令呪はマスターの、言わば切り札だ。

 ダンさんは、それをこの場で使用した。

 自らのサーヴァントに、『正々堂々と戦え』と。

「此方の与り知らぬ事とはいえ、サーヴァントが無礼な真似をした。君とは決戦場で、正面から雌雄を決するつもりだ。どうか昨日の事は許して欲しい」

 それだけ言うと、ダンさんは踵を返して去っていった。

「……あの男、騎士を名乗るに相応しいわね」

 メルトの言う通りだ。

 不意打ちを詫び、潔白を表すため令呪を使用し、宝具の名まで漏らした。

 確か、『祈りの弓(イー・バウ)』。

 図書室で調べてみれば、何か分かるかもしれない。

 それに、矢をラニに渡すのも昨日出来なかった。

 そしてちょうどいいタイミングで携帯端末がトリガーの生成を告げる。

 身体の調子も楽になってきたし、あまり長居するのも良くない。

 そろそろ出たほうが良いだろう。

「桜、ありがとう。そろそろ行くよ」

「あ、はい。くれぐれも気をつけて下さいね」

 保健室を出て、図書室に向かう。

 さて、『祈りの弓(イー・バウ)』なる宝具について調べようにも、彼がどこの国の英雄なのかも分からない。

 とりあえずそういう類の書物を片っ端から見てみるも、それらしい情報は見当たらない。

 と、その時、

 

「おや、君は昨日校内で襲われたマスターじゃないか」

 

 低く、良く通る声。

 校内で襲われたマスターなんて、僕くらいのものだろう。

 つまりそれは僕に対しての言葉と判断し、振り向くと、中年の男性が立っていた。

 短い髪を後ろに流し、スーツをきっちりと着込んだその姿は、どうにもこの図書室という場には合わない異様さだった。

 敵意は見られないが、この独特の雰囲気は彼をサーヴァントと示すのに十分すぎるものだ。

 メルトは姿を現さないまでも、直ぐ傍で警戒しているようだ。

「……貴方は?」

 聞いてみると、男性は顎に手を当てて「ほう」と声を漏らす。

「驚かないのか。サーヴァントが目の前に居るというのに」

「いえ、貴方から殺気を感じないので」

「殺気を出せば警戒してくれるかね?」

「警戒して欲しいんですか?」

「どちらかといえば嫌だな」

 何だこいつ。

 素でそう思ってしまうほど、回りくどい性格だった。

 此方の言葉を全て先読みしていたかのように即答していく。

 全て自分の台本どおり、とでも言うかのように。

「っと、話題が逸れたね。私は真名は言えないが、クラスは告げても良いだろう。キャスターだ」

 いつか敵として相対するかもしれない相手に対して、男性は当然の様にクラスを告げた。

 魔術師の英霊、キャスター。

 つまり、目の前の男性はかつてそう言った異能の類に手を出した人物なのだろうか。

「さて、それより、君は何をしているんだね?」

 彼の興味はどうやら机に積まれた書物の数々にあるらしかった。

「相手の宝具について調べているんです」

「ほう、それで、その宝具の名前は?」

 言っても良いのだろうか。

 僕が負ければいずれ敵になるかもしれないという事で、確かにそれを聞いておく価値はあるだろう。

 だが、ここで伝えたとしてこちらに何かメリットはあるだろうか。

「君のメリットなら勿論あるとも。宝具の名さえ教えてもらえれば、この書物の数々からそれを見つけ出してみせよう」

 本当ならば、伝える価値はある。

 サーヴァントとしての特別な力があるのかもしれない。

「……『祈りの弓(イー・バウ)』です」

「おぉ、イチイの弓か。かの義賊だな」

 まさか、真名にまで行き着いたのだろうか。

 聞こうとする前に、男性は机に置かれた書物の一つを手に取り、ページを捲り始めた。

 そしてしばらくの間、本に目を通して、ページを開いたまま僕の前に置いた。

「これだ。真名は教えないが、これで正体のヒントにはなるだろう」

『祈りの弓について

 イチイの樹で作られた短弓。

 イチイはケルトや北欧では聖なる樹木の一種とされ、

 これを素材とする事で「この森と一体である」という儀式を意味したという。

 また、イチイは冥界に通じる樹とされている。』

 この説明を見る限り、アーチャーはどこまでもイチイに精通した英雄らしい。

 そして、出身はケルト圏か北欧だろう。

 それに、男性は先ほど、義賊というワードを出していた。

 義賊というのは法に背き、反社会的行動を行いながらも大衆から支持を受ける者達の事だ。

 アーチャーの戦い方からして、正しい道を歩んだ英雄ではない、とは思っていたが、どうやらそれは正しかったようだ。

「役に立ったかね?」

「はい、ありがとうございます」

 男性のおかげでその正体にかなり近づいた。

「良かった良かった。では私は行くとしよう。健闘を祈るよ」

 そう言って男性は消えた。

『……胡散臭いわね』

 それには同意するが、情報をもらえたのは事実だ。

 図書室を出て、ふと疑問に思ったことをメルトに聞いてみる。

「……そういえば、アーチャーの独断をダンさんは気付かなかったのかな?」

『恐らくアーチャーのクラススキル、単独行動が作用したのね』

「単独行動?」

『マスターの魔力供給を得ずに行動できるスキルよ。それを使って、マスターに察されないように能力を行使したのね』

 それは……あのアーチャーに打ってつけのスキルだろう。

 マスターがいかに堅物でも、単独行動のスキルがあればある程度、自分が思うように行動が出来る。

 だが、その結果がアリーナ外での攻撃であり、アーチャーはそれを行使した。

「確か、規約違反(ルールブレイク)にはペナルティがあるんだっけ?」

『そうね、ステータスの低下だったかしら』

 不幸中の幸いという奴か。

 少しは戦闘が楽になると良いのだが。

 

 

 その後、三階で空を見ていたラニの所に行き、矢を渡した。

「ありがとうございます。今日ならば時も満ち、ブラックモアの星も詠めるでしょう」

 そういうラニに、僕は少し違和感があった。

 彼女もマスターの一人であり、これから戦いかもしれない相手に何故ここまでしてくれるのだろうか。

 それを問うと、ラニは当然の様に言う。

「私にとって、師の言葉こそが道標。その師が言ったのです。人を知ることだ、と。だから貴方が気にすることなど何も無いのです」

 ブラックモアを知る事は、貴方にも有益な事でしょう、と言われ、言い返せなくなる。

 機械的で、師を一番と考えるラニは、矢を見て一言二言呟き、こくん、と頷いた。

「……これならば」

 それを柔らかな手つきで撫で、目を閉じて空を仰ぐ。

「星々の引き出す因果律、その語りに耳を傾ければ様々なことが分かるものです。ブラックモアのサーヴァント、彼を律した星もまた、今日の空に輝いています」

 今行っているあれが占星術なのだろうか。

 ラニはただ坦々と説明している。

 彼女にはあのサーヴァントが見えているようだった。

「――これは、森? 深く、暗い……」

 目を瞑ったまま、ラニは語りだす。

「とてもとても、暗い色。時に汚名も負い、暗い闇に潜んだ人生……」

 賞賛の影には自らの歩んだ道に対する苦渋の色が混じっている。

 それらの言葉は、アーチャーの言動を思い出してみれば納得がいった。

「緑の衣装で森に溶け込み、影から敵を射続けた姿……」

 あの衣装と弓は、まさにアーチャーの生き様が形作られたもの。

 森に潜み、隠れ続け、卑怯者として闇から敵を撃つ人生。

 騎士の戦いとはあまりに対照的な、それこそ誇りなんてものを容易く踏みにじる生き様。

「……そう、だからこそ、憧憬が常にあるのかもしれませんね。陽光に照らされた。偽りの無い人生に」

 憧憬。

 隠れ潜む闇として存在したからこそ、彼は光り輝く道に憧れを感じていた。

 栄光を手にした者こそ英雄の名を冠する。

 だが、その過程には様々な経緯があるという事だろう。

 道化を演じるしかできなかった男、酷く言えばそういう事なのだ。

「――これは、私の探している者ではないかもしれません。はっきりとは、分かりませんが」

 ラニは静かに言葉を閉めると、首を振って言った。

「憧憬、それゆえの亀裂。これは師からも伝えられた人の在り様の一つ。気になるのなら、アリーナの最奥、第二層から彼の星を感じます。行ってみては?」

 ありがとうございます、と頭を下げ、ラニは再び空を見上げて黙ってしまった。

 此方もお礼をいい、アリーナに向かうことにした。

 

 

 アリーナに入ると同時、メルトが言う。

「ハク、気配があるわ。このアリーナにあいつらが居るのは間違いないわね」

「そうか、行こう」

 今回は逃げるわけではない。

 罠を張っていようとも、アーチャーの正体を突き詰めるチャンスなのだ。

 ペナルティを受けている今、挑んでみるなら好機かもしれない。

 今までより明らかに広くなった二階層は、エネミーの強さも中々のものだった。

 その分良い鍛錬になり、メルトの動きも心なしか更に良くなった気もする。

 そしてしばらく進んで、トリガーを入手した後、最後と思われる通路の先にダンさんはいた。

「――旦那、どうします? 目の前に出てきましたけど」

 アーチャーは右腕に装着した弓に手を掛け、メルトは体制を低くする。

「あら、また隠れないのかしら。鼠みたいな戦い方、貴方にお似合いよ? そうでもしなければまともに戦えないんでしょ?」

 メルトの挑発(ではなく素で言っている気もするが)を、アーチャーは鼻で笑う。

「よく言うぜ。この前はそっちが隠れた気になってやがったクセによ。良いんだぜ、どこに隠れてもよ」

「あら、面白いじゃない。こそこそ隠れて敵を討つのだけが取り得の狩人さんとは思えないわ」

「っ……!」

 どうやら今の言葉が、アーチャーの心の底にあった何かに触れたのだろう。

 涼しい顔が怒気で紅潮していく。

「生前も、死んだ後も隠れるだけ。闇討ち以外に咲かせる花もない。無貌の英雄とは良く言ったものね」

「――随分と上から目線で語ってくれるじゃねえか、クソガキ……あぁ、やってやるよ。シャーウッドの森の殺戮技巧、とくと味わってここで死にな!」

「冷静になれアーチャー、お前らしくも無い」

 爆発寸前のアーチャーをダンさんが手で制す。

「……分かってますけどねぇ、旦那、こいつはちょいと七面倒な注文ですよ? 正攻法だけで戦えってんですか?」

 あはは、と高らかに笑うアーチャーからは、先ほどの怒りは見られない。

「つーか意味わかんねぇ! オレから奇襲とったら何が残るんだよ? このハンサム顔だけっすよ、効果があるのは町娘だけだっつうの!」

 メルトが吹き出した気がするが、あえて突っ込まない。

「不服か? 伝え聞く狩人の力は『顔のない王』だけに頼ったものだったと?」

「あー……いや、まぁ、そりゃオレだって頑張ったし? 弓に関しちゃプライドありますけど」

「では、その方向で奮戦したまえ。お前の技量は、なにより狙撃手だった儂が良く知っている。信頼しているよ、アーチャー」

「……仕方ねえ。大ーいに不服だが従いますよ。旦那はオレのマスターですからねぇ。幸い相手はひな鳥だ。正攻法でもどうにかなるっしょ」

 ダンさんは、言葉巧みにあのアーチャーを律して見せた。

 素直に感心しつつも、アーチャーの戦闘態勢に此方も構える。

「弓兵風情が言うものね。身の程を弁えるといいわ。指一本残さず溶かしてあげる」

 メルトの再三の挑発に眉を動かしながらも、先ほどの様に我を忘れない。

 アーチャーの目が此方に向けられる。

「……おい、アンタ。おたく、飼い犬の教育間違ってますよ。なんすか、その上から目線」

 別に僕がこういう性格にしたのではないのだが。

「溶かすだか何だかしらねぇが、だったらその前にアンタの心臓穿ってやるよ」

「あら、大した自身ね。精々後悔しないよう善戦するといいわ」

「――は? 勝ち戦でどうやって後悔しろってんだよ。新手のプレイかそれ? 興奮するの?」

「残念だけど、私はリップとは違うし、そういう趣味はないわね。寧ろ目覚めさせてあげましょうか?」

「おーそりゃ楽しみだ。逆に目覚めんなよ?」

「調子に乗っていられるのも今の内よ。直ぐに苦痛の虜にしてあげる」

 何だこの戦いは。

 口喧嘩はマスターが止めなければ延々と続けられそうだ。

「しまった、こりゃあ飼い犬ってより性質の悪い猛犬だ。加虐嗜好(サディスト)も度が過ぎてんじゃねえの?」

「そうね。それが私の在り方だもの」

 メルトが当然の様に言う。

 今までその片鱗を見せてきたが、どうやら薄々感づいていたソレ(サディスト)は事実だったようだ。

「あー、やっぱりそうか。こりゃあ嫌味なんざ通じる相手じゃなかったなぁ」

 髪を掻き毟りながらアーチャーは呆れる。

「ま、いいさ。アンタが相手なら遠慮はいらねぇ。容赦なくズタボロにしてやるよ」

 その瞬間、アーチャーは再び弓に手を当て、極短い行動で矢を放つ。

 メルトがそれを弾き、一度の跳躍でアーチャーの傍まで迫る。

 弓に矢を番える隙を与えなければ、彼女の圧倒的有利だ。

 それは確かに正しいと思っていたが、

「遅ぇよ!」

「っく!?」

 アーチャーの鋭い蹴りが、メルトの腹に叩き込まれる。

 森で過ごした彼の足はかなり強力なようだ。

 体制を立て直すメルトに、すかさずアーチャーが矢を放つ。

 が、此方も何もしない訳にはいかない。

shock(8)(弾丸)!」

 弾丸を放って矢を相殺する。

「ありがと、ハク!」

 再びアーチャーの懐に入り、攻撃を開始する。

 相手からの反撃を喰らわない、絶妙な位置での連撃は、どうやら効果的だった様だ。

「ふふ、どうしたのかしら。まるで手応えが無くなったようだけど?」

「つっ、このっ!」

 メルトが余裕からか挑発を重ねる。

 だが、気のせいだろうか。

 メルトの攻撃がどんどん単調なものに変わっている気がする。

 ふと、アーチャーがメルトの攻撃を弾きながらも、外套の中に手を入れる。

 それに、直感的な寒気を感じ――

「メルト、戻って!」

 叫んでいた。

「っ!」

 その言葉で、メルトは咄嗟に一方後ろに下がる。

 それとほぼ同じタイミングで、アーチャーが外套から短剣を取り出し、メルトが居た場所に突き出していた。

 もう少し指示が遅れていれば、危険だっただろう。

 

『SE.RA.PHより警告:戦闘を強制終了します』

 

 その瞬間、セラフによって戦闘が強制終了された。

 どちらもダメージはあまり負っておらず、あのまま続けても膠着状態だったろう。

 アーチャーは膝に手をつき、肩で息をしていた。

「あー疲れた。やっぱ柄じゃないっつーか、割りに合いませんわ、こういうの」

 疲れを露にしながらも、アーチャーの軽い言動に変わりは無い。

「泣き言は禁止だアーチャー。儂のサーヴァントである以上、一人の騎士として振舞ってもらいたい」

「げっ……ほんと旦那は暑苦しいんだから。わかってますよ、騙し討ちは禁止なんでしょ」

 短剣を仕舞い、アーチャーはダンさんの言葉を受けている。

 しかし、彼なりに不満はあるようだ。

「……まったく、手足もがれているようなもんだぜ。人間には適材適所ってもんがあるんだが……」

 確かにアーチャーの真価は弓の腕前にあるだろう。

 だが、あの体術や、短剣を取り出す動きは、並みの使い手では不可能なものだった。

「必死になればなんとかなるもんだな。手足が無くても歯を使え、目玉で射るのが一流の弓使いってか」

 そう言って一度頷くと、アーチャーはからからと笑い出した。

「いやぁロックだねぇ! OK、期待に応えるぜマスター。所詮はエセ騎士だが、槍の差し合いも悪くねえか」

「その意気だ。次の戦いの準備は始まっている。意識を戦場から離すな」

 ダンさんは懐からリターンクリスタルを取り出す。

 それを使う前に一度此方を見た。

「中々に心躍った。決戦ではよろしく頼む」

「あ、はい」

 ダンさんは校舎に戻っていった。

 確かにアーチャーは強力だが、今のメルトでも十分に勝機はある。

 それに、アーチャーは気になるワードを漏らしていた。

 シャーウッドの森。

 これはあのサーヴァントに縁のある土地の名前だろうか。

 調べれば、正体に行き着くかもしれない。

「よし、メルト、一旦戻ろう。お疲れ様」

「ありがと。ハクもゆっくり休んで」

 その後直ぐに戻り、四日目を終えた。

 猶予期間も残り少ない。

 あのサーヴァントの正体を突き止め、少しでも有利に立たないと。

 そう思いながら、少し早めに眠りについた。




つーか8000文字って。
結構詰め込んだはずなのになぁ……
まぁ緑茶とメルトの毒舌合戦が書けたしいいか。
次回は決戦らしいですよ。

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