Fate/Meltout   作:けっぺん

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最近通常の睡眠では疲れが取れず、仮眠の時間が多くなってきました。
手っ取り早く日頃の疲れを取る方法誰か知りませんかね。


Kazuradrop.

 

 

 手の中にある、カズラの最後の秘密。

 真として、カズラにとって隠し通していたかったSGを抜き取るのに、とにかく必死だった。

 罪悪感に苛まれながらも、皆の気持ちを無駄にしないために。

 砕けたSG。迷宮の床を覆っていた根もそれに続くようにゆっくりと消えていった。

 攻撃性――カズラが持ってはいけなかった性質。

 きっとカズラはそれを自覚していて、今までひた隠しにしてきたのだろう。

 そして、それはこの階にきて一斉に牙を剥いた。

 恐らくは、カズラはそれを押し止めようとしたのだろう。

 それが駄目だと判断したから、せめて秘密は秘密のままでいようと迷宮に入るなと警告してきた。

「……」

 呆然と、虚空に目をやるカズラ。

 三階層の最後となる、階段の前のシールドが砕ける。

「……見られちゃいましたね」

 近くにいたセイバー、メルトとヴァイオレットも走ってきた。

 もしかするとヴラドとランルー君も此方に向かってきているかもしれない。

「私の秘密……結局、ノートは何も間違ってなかったという事ですか」

「ノート……?」

「あぁ、いえ……何でもありません。自分の能力すら制御できないなんて……本当に、馬鹿らしいですよね」

 自嘲するように、カズラは笑う。

 それに対して僕は、何とも言えなかった。

 チートスキル、id_es。それがどれだけ体に負担を掛けるものなのか、カズラがどれだけ苦しんでいたのか分からなかったからだ。

 だが、その悲愴は強く伝わってきた。

「でも私、頑張ったんです。ハクトさんに危害を加えないように……!」

「うん……」

 本来はその小さな手に収まるはずのない能力だったのだ。

 だがそれを理解したうえで、カズラは他者に頼ろうとせずに自分だけで押さえ込もうとしていた。

「傷つけたくなかった。この迷宮を明け渡そうとしたんです。信じてください……」

 カズラの声は段々と小さくなっていく。俯きながらも、今にも消え入りそうな声での弁明だった。

「信じる。信じるよ、カズラ」

 たった一人で、カズラは信念を通そうとしていた。

 きっと、アルターエゴの中でも最も非力で弱々しいだろうカズラが、そんな力の差を把握した上でBBから離反したのは、意地でも信念を通そうとする強さがあったからだ。

 この秘密が迷宮の最後の核として発現したのも、カズラの心の強さの表れだったのだ。

「だから――カズラも信じてほしい」

「え……」

 それに値しないのは十分に分かっている。

「僕は非力だけど、カズラが苦しむのならそれを何とかしたい。一人で抑えるんじゃなくて、頼ってほしいんだ」

 カズラが本当に、“そんな”感情を持っていたとして。

 それの答えにはなっていない。

 この局面において未だ確定的な答えを出せない自分がほとほと情けなくなる。

 だが、唯一自分の心で理解できていたこと。

 それは、頼ってほしいというエゴだった。

「ハクトさん――ハクトさん!」

 飛び込んでくる小さな体を受け止める。

 重石だったのだろう。本当は一人で持っていなければならないとまた苦しむかもしれない。

 だが、これでカズラが、現状よりも気楽になってくれるのならば。

「ごめんなさい……ごめ、なさ……!」

 泣きじゃくるカズラからは今までの、自立をしようとする大人びた雰囲気は伝わってこない。

 外見相応の、幼い少女そのものだった。

『……一件落着、ですね』

 もうカズラには敵意らしいものは見られない。

 よって、この先の道を塞ごうとするレリーフも生まれない。三階層の攻略は、完了した。

「ハク」

「メル――」

 安堵しつつメルトの声に振り返って、気付いた。

 カズラを冷たい眼で見つめる、ヴァイオレット――そう、協力こそしてくれたが、本来彼女は敵なのだ。

「カズラ。正気に戻ったのなら役目をこなしなさい。アルターエゴとして」

 しかし――カズラは静かだった。

 怒るでもなく笑うでもなく、驚きすらしていない。

「……分かってます。私はアルターエゴ。なすべき事をします」

「っ、カズラ……!」

 それが当然であるように、カズラは僕から離れ、ヴァイオレットに近づいた。

 

「ハクトさんたちのお手伝いをして、私はお母様を守ります」

 

 そして、着物の内から何かの術式を取り出した。

「――カズラ、止めなさいっ!」

 ヴァイオレットの制止も聞かず、カズラはその術式を此方に渡してきた。

『っそれ、記憶データじゃないの!? ハクト君、こっちに送って!』

「え――あぁ!」

 術式は生徒会室に転送された。

 あれが、僕たちの記憶のデータ。

 まさか本当に、カズラが持っていたなんて。

「……貴女は」

「これが私の、やるべきことです」

 そう――これがカズラなのだ。

 決意の固さ。決心の強さ。それらを形作る、精神力。

「お手柄よ。ま、持っていたなら早く渡せって思うけど」

 メルトがカズラを守るように立つ。

 そうだ。ヴァイオレットが裏切り者としてカズラを裁くのならば、それから守らなければ。

「……後方からランサーとマスターが来ている。決断は早くすべきだと思うが」

 セイバーに言われ、苦々しげにカズラを見ていたヴァイオレットだったが、冷静な表情に戻り頷いた。

「良いでしょう。ならば好きになさい。BBにはそう伝えます。そして、反逆を後に後悔しなさい」

「しません。これが私の選択です。他者に植えつけられたものでもない以上、後悔なんてありません」

「……セイバー、BBに報告です」

 転移していったヴァイオレット。重かった空気が、元に戻っていくのが分かる。

「セイバーさん、ありがとうございました。それと、すみません」

「気にするな。頼まれたから従ったまでだ。余程稀なことが無い限り、お前とはこれ以降は敵になる。護衛の関係は、ここまでだ」

 カズラとセイバーの関係も、一時のものだったのだろう。

 BBの味方であることは変わりなく、カズラが反逆するのであればそれについていく道理はない。

 それがセイバーの選択なのか。

 ヴァイオレットに続いて転移していくセイバー。

 暫くしてから、ヴラドとランルー君が歩いてきた。

「む、二人ばかりいなくなったな。その者が領域の主か」

「はい。あの槍の平原は貴方のものですね。まさか、あんな方法でインセクトイーターを破るなんて……」

「何、相性が悪かったな。それで、小僧。この者は敵ではないのか?」

「あ……ああ。新しい仲間だ――レオ、大丈夫だよね」

『まあ、カズラさんが今まで協力的だったのは分かってますしね。とりあえず、様子見という事で良いでしょう。幸い、此方には多くのサーヴァントがいます』

 アルターエゴである以上、最初から信用はできないという事なのだろう。

 それはカズラ自身十分分かっているようで、それでいいと納得していた。

『では、ランルーさん、ヴラド公、帰還してください。カズラもどうぞ。ハクトさんとメルトさんは四階層に行ってみてもらえますか?』

「四階層へ?」

『はい。場合によっては連戦になりますが、次の衛士もアルターエゴであるなら、対策を練らないといけません』

 そうか。まだ迷宮は終わりではない。

 アルターエゴはまだいるが、衛士として考えられるマスターはいない。

 という事は、次の衛士もアルターエゴである可能性が高いのだ。

『今回は衛士の確認という形で良いでしょう。それから一旦休憩をとった後、記憶を開封します』

「――分かった」

 記憶の開封、それより前に衛士を確認しておくのか。

 まぁ確かに時間を節約する意味では其方のほうがいいかもしれない。

「とりあえず行ってみようか、メルト」

「えぇ。注意して、エゴが衛士だったらまた厄介よ」

「うん……」

 下見だけとはいえ、気を緩めるわけにはいかない。

 辺りを警戒しながら、四階層へと通じる階段を下りていく。

「……っ」

 一階層、二階層の西洋の城のような雰囲気とも、和風の建築物を彷彿とさせる三階層の雰囲気とも違う。

 四階層は、深く暗い、“死”を思い起こさせる海の底だった。

 古代に絶滅した海竜の骨が無造作に打ち捨てられ、血の色に染まった紅い花弁が浮力に逆らい沈んでいく。

「なんか、イヤな感じね」

 何やらメルトも良くないものを感じ取っているらしい。

 こんな迷宮を作り出す心を持った衛士とは、一体――

「え……?」

 先に見えてきた広場にある人影。

 見覚えがあった。だが、きっと違うだろうと信じて、その広場に向かう。

「あ……やっぱり来たッスね、ハクトさん」

「……ジナコ?」

 冷たい眼で此方を迎えたのは、ジナコだった。

 カズラの迷宮を突破して間髪を入れずに僕たちは四階層にきた。

 タイミングからしてここにいられる筈がない。

 ともなれば、如何に認めたくなくとも答えなど一つしかない。

「BBに捕まったのね。迷宮全体から感じるこの虚無感、貴女なら納得よ」

「……そうッスよ。ジナコさん、BBに捕まったッス。ああ、通信はカットさせてもらったッスよ。ボクらの話を盗み聞きしながら実況プレイなんて腹立つし」

「っ、レオ!」

 返事は、ない。

 どうやらジナコの言っている事は本当らしい。

「他の人と話す気分じゃないし、ジナコさん完全お通夜モードッス」

「ジナコ……どうして」

「記憶、一足先に返してもらったッスよ」

 聖杯戦争の記憶、カズラが持っていて、すぐに生徒会室に送ったそれを何故ジナコは持っているんだ……?

「あのゴスロリBBモドキ、親切に記憶くれたッス。アタシが、聖杯戦争に参加してどうなったか」

 言い方こそ彼女固有のものだが、その外見特徴で思い浮かぶのはノートだ。

 まさか、また彼女が関わっているのだろうか。

「……それは」

「もうどうでもいいの。アンタたちはアンタたちで、仲良くやってくれれば良い。もう、生き残るなんて――」

 明確なジナコの拒絶に、迷宮が呼応するように風を起こす。

 迷宮の外に押し戻されるかのように、ジナコから離れていく。

 この力は間違いなく、迷宮の衛士のもの――!

「BBはアタシに迷宮をくれた。アタシの居場所はここになった。本当なら問答無用でボコにするとこだけど、借りがあるから一度だけ見逃してあげる」

 完全に迷宮から飛ばされるまでそう時間は掛からなかった。

「だからもう、アタシに構わないで。助けなんて、最初から求めていないから!」

 一体――彼女に何が――?

 

 

 +

 

 

 観測する。

 

 今目の前にある光景が、全て偽りであることを。

 

 

「時期は追って、貴方が一人である際に伝えます。くれぐれも、忘れないよう」

「ああ……」

 もう少し前――それを見ることは出来ない。

 何故ここから観測が始まったのか、それはきっと、これが次の壁になるからなのだろう。

「しかし、お前たちは動かないのか。アルターエゴは現在紫藤が攻略しているカズラドロップを除いても四体、衛士としては十分だろう」

「此方にも色々と、やるべきことがあるのですよ。それに、カズラを見れば分かるでしょう。皆好き勝手の欲張りばかり。私たちよりはまだ、ジナコ=カリギリの方が衛士に相応しい」

「ふん。確かにジナコ=カリギリのサーヴァントは最上級の存在だが、マスターの出力があれではな。宝の持ち腐れというものだ」

「あらあら。だったら尚更、その腐った宝を磨かせなければなりません」

 これは、一体いつの事なのか。

 少なくとも未来ではない。

 では、今観測しているのは過去ないし現在か。いや、現在というのはありえまい。

 何故なら、一人の姿は捕捉している。この光景が過去の偽りならば、より詳細な観測が必要だ。

「まぁ、そういった意味ではなくてですね。ジナコ=カリギリは衛士としての適合率がとても高いのです。それこそ、リンさんやラニさんとは比べ物にならない」

「何……? そこまでの素養をあいつは持っているというのか?」

「女の心は深く、一度歪んでしまえばもう戻れないものですわ。ジナコ=カリギリもそんな大きな歪みを抱えているのです」

 ここで問題提起をするならば、ただ一つ。

 何故、彼女と彼が同じ場にいるのか。

 それも敵対ではない。明らかに彼女は敵意を持っておらず、彼に殺意もない。

 これまで観測してきたことを纏めれば、彼が彼女と敵対しているというのは確実だった。

 だが、それは間違いなのか? それも含めて、偽りとする光景なのか?

 一体どちらだ。どちらが、間違っている。

「……俺には分からんな。やはり、心というものはどうにも邪魔だ」

「そうですか? 素晴らしいものだと思いますが。十人十色、些細なことで千変万化。心というのは、AIにとって最も複雑で輝かしく見えるものなんですよ」

「それは……お前の主の事か?」

「詮索はご自由に。皆様の目をくらましてさえくれれば、貴方はそれで良いのです」

 目くらまし――それが、答えか。

 教えなければ。いや、駄目だ。まだ確定事項じゃない。これを伝えるわけには――

「……何か?」

「……これで、全部か?」

「間違いなく。それが、貴方の全てです」

「……そうか。滑稽なものだな。どうやら俺も、ここまで落ちたか」

 あまりにも、曖昧すぎる。

 これは明確な答えを見つけ出す妨げになる。

 よって観測を破棄。客観に基づいて整理の後データベースに保存。

「そうでもありません。貴方の原動力、私は感服いたしました。王に聖杯を賜わすという命の裏に、そんな感情があったなんて」

「……用が済んだのなら、俺は行く」

「ええ。お願いしますね――ユリウス・ベルキスク・ハーウェイ」

 

 一瞬の観測は、また海の底へ。




勝った! 第三章完! こういうシーン苦手です!
そんな訳で、次の衛士は原作通りジナコさんでした。
遂に手に入れた記憶、新たな仲間、そして暗躍。物語は更に動いていきます。

次の更新は章末茶番になります。
早めに更新したいですが、連日投稿できるかは分かりません。
期待しないでお待ちください。

↓サヴァレンジャーにはちゃんと巨大ロボットもあるんですよ予告↓
「料理スキル……?」

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