Fate/Meltout   作:けっぺん

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感想欄で狙撃事件が多発しています。
多分私のサーヴァントの仕業です。
クラスはアサシン、真名は『白い死神に憧れた無銘の少女』です。
やっぱ、前書き後書きのマスコットキャラみたいなのも必要ですよね。
いらない? 知りません←


Branches in the Blur.-3

 茫然自失のまま、五分ほど経った。

 わらわら。この五分をたった一言の擬音で表すならばそうなるだろう。

『これは……なんといいますか』

『ドッペルゲンガーかはたまた平行世界の人間か。凄まじく万華鏡(カレイド)な展開よな! アイ・ビリーヴ!』

 普段からおかしいガトーが更におかしくなっている。ガトーなりに動揺しているらしい。

 だが、それが考えられるほどの状況なのだ。

 確かにこの場所は集落と呼ぶに相応しい。

 “さくら”は確認しただけでも、十二人いた。

 この階にある家の数を見る限りではまだいるだろう。恐らくは、三十かそれを超えるくらい。

「穏健派サクラ、とでも言いましょうか。この集落はサクラ迷宮で最も安全な場所でしょう」

 穏健派サクラ。どことなく、というより凄まじいシュールさを醸し出す言葉だった。

 だが、それは言いえて妙だ。BBから分かれて此方の味方になってくれている“さくら”たち。

 彼女らが安全のために集まっているのがこの八階ということか。

 八階が出来てからあまり時間は経っていない。つまり穏健派のサクラたちは生まれて間もないのか。

「……穏健派、ねぇ」

「メルト。貴女やリップもその一人では? お母様に反して、それを止めようとしてるんでしょう?」

「私が言うのもなんだけど、私とリップが穏健って大概な冗談ね」

 まったくその通りだ。

 リップは大人しい方だとは思うが、何歩譲ってもメルトだけは穏健ではない。

 絶対に穏健ではない。百パーセントたった一ミリも、穏健な要素はないと断言できる。

 “穏健”の対義語が“過激”である時点でそれは明白だ。

「ハク、後で屋上」

「え!?」

 唐突に射抜かれるような視線を向けられた。

 メルトに心を読むスキルはなかったと思うのだが……察されただろうか。

 まぁ、それはともかく、穏健派と強硬派については先の穏健、過激とは多少意味が異なる。

 カズラや周りのサクラたちは物事を穏便に解決しようとしているのだろう。

 一方で僕やメルト、生徒会はBBを止めようとサクラ迷宮の攻略に全力を尽くしている。十分に強硬派に分類される活動といえよう。

 その辺りからしても、さすがにメルトが穏健派というのは間違いになる。

「とりあえずハクの仕置きについては置いといて、私たちは進まなきゃならない訳だけど、ここのSGも渡してもらえるのかしら?」

 なんか、あまり解決したくない。戻った後が怖いから出来るだけ今回の探索は延びてほしいと思う。

「それは……構いませんが……」

 何やらカズラは言い淀んでいる。

 確かにSGを渡すのを拒むのは分かるが、七階ではカズラは自らSGを渡してくれた。

 そうなると、この階のSGはカズラにとって渡せるものではないのだろうか。

「この階を構成しているSGが、私には分からないんです」

「は?」

「……自覚できていない、って事?」

 まさか、自分の秘密も知らないのか、と呆れるメルト。しかし、僕の問いにカズラは頷いた。

「この階層は私が任されていますが、直接SGを確認することは衛士にも出来ません」

「……そう、なのか? 凛、ラニ」

『知らないわ』

『知りません』

 即答だった。かつ、同時だった。

 凄まじいまでの敵意――否、殺気を込めて突きつけられる刃。

 あくまでもイメージなのだが、今の凛とラニは間違いなく殺意を向けてきている。

 さすがに理不尽じゃないのか。迷宮の構造について聞いただけだというのに。

 衛士だったことが黒歴史だったとしても、同じ生徒会の仲間である以上そういった情報は開示してもいいんじゃないか。操られていたとしても意識はある筈だから忘れた訳でもないだろうし。

『あぁなるほど、白斗君ガチなんだ』

 一体何を白羽さんは確信したというのか。

 なんというか色々と、頭が痛い。

『えっと、話を戻しますが。カズラさん、それは本当ですか?』

「はい。基本的に秘密ですから、指摘されなければ露見しません。よって自覚していないものは頭にすら入ってこないんです」

 ラニのように、秘密がないと思っているのではない。

 秘密があってもそれが分からない。何を隠していて、何がこの迷宮の核となっているのかが分からない。そういうことだろう。

 厄介だ。或いはラニ以上に、探すのに手間取るかもしれない。

「一応、私なりに手はお貸ししますが、その先は……」

「あぁ、分かった。……良いのか?」

「構いません。私もそれで、自分の事が理解できるのは利益に繋がります。それに……」

「ん?」

 カズラの大きな目が向けられる。

 その微笑みは、やはり慈愛という言葉を思い浮かばせる。

「い、いえ、なんでもありません! とにかく、この階の探索は自由にどうぞ」

 微笑みは困ったような笑みに変わる。良く分からないが探索の許可は出してもらえた。迷宮はSGを核に構造にしたもの。隅々まで探索すれば、何かを見つけられるかもしれない。

『あぁ……白斗君やっぱりガチだ』

 だから一体何の話だ。

「ハク、後で校舎裏」

 なんでさ。

 

 

 とりあえず、探索の許可は貰った以上、最初にすべきはサクラたちとのコンタクトだろう。

 彼女たちがBBから分かれたものならば、話してみれば何か有益な情報が得られるかもしれない。

 と、思っていたのだが。

「……」

「……あの」

「……」

 目に光彩がない。そして焦点の合っていない虚ろな目。

 外見はBBから分化したといえば納得できる。カズラのように小さな子供のような者もいれば、長身だったり体つきも個々で違う。

 髪の色や雰囲気は同じものであり、何よりこのサクラたちの大方の共通点。

「……君もか」

「……」

 大体には言語能力が備わっていないらしい。

 先ほど――最初に見つけた二名のように喋れるサクラもいるらしいが、一体どれがそうなのか分からない。

「ハク。もう試すだけ無駄だと思うけど」

「うーん……」

 一体どうしたものか。

 喋れるサクラは手を挙げて――なんてのも馬鹿馬鹿しい。

 となれば一人一人話しかけていくしかないのだが、どうにも時間が掛かる。

 まだ全部で何人なのかも把握しきれていない。話しかけたサクラが動きを止める訳でもないので、誰に話しかけたかすら分からなくなりかねない。

『さすがにこの中から喋れるのを探せ、ってのは難題ね。既に試した子に(マーカー)つけるのもいいけど、如何せん生徒会室(ここ)からじゃ難しいわ』

「だったら、サクラたち以外からSGの兆しを見つけるしか――っ?」

「……? どうしたのハク?」

「……今、五停心観が……」

 小さい脈動。ながら、確かに反応した。

 ――いや、気づいていなかっただけだ。こうして五停心観に集中してみれば、術式は絶えず反応している。

 ということは、何をしなくともSGの兆しはある……? どう解釈していいのかが分からない。

『どうやら、今までのSGとは性質が違うみたいですね。さて、どうしたものか……』

 レオもどうやら考え込んでいる。

 自分さえ正体の分からないSG。一体どうやって探せば良いのか――

『あの……紫藤さん』

「ん……? どうかした、桜?」

『えっと、カズラドロップは、“ここにいるのはBBから分かれた分身体”と言っていましたよね?』

「ああ、うん」

『それはないと思います。少し時間をかけて照合してみましたが、たとえムーンセルを支配し、機能の百パーセントを使えても人格をここまで分裂させるのは不可能です』

「……」

『BBの意思に反して分かれたものだとしても、さすがに自己崩壊を免れないレベルです。ですから、彼女たちはBBから分かれたのではなく、別の理由があって生まれたものです』

 ここまでの分身は、BBであってもできない。つまり、カズラの理解には間違いがあったのか?

 だとしたら本当の解答は。もしかして――このサクラたちそのものが、SGに関係しているのか?

「あの」

「え?」

 突然に背後から声を掛けられる。振り向くと、最初に見つけたサクラがいた。

 他と変わらず、虚ろな目。ながら感情らしいものはあるらしく、幾らか表情は明るげだった。

「先程から何をしているのですか? 私たちの中で話せる者など、そうはいませんが」

「えっと……この階の核になっているSG――カズラの秘密を探しているんだ」

「そうですか。ですが、秘密というならばそう難しいこともないと思います」

 やはり――どうやら、このサクラはカズラのSGについて何かを知っているらしい。

「恐らくカズラ自身は気づいていないでしょうが、ああいや、この発言自体語弊があるのですが、少なくとも私たちは皆、その秘密を理解しています」

 それから、抑揚のない声でサクラは説明してくれる。

 ――それは、確かにカズラが理解していなくて当然の秘密だった。

 カズラがBBから離反したアルターエゴである以上、このSGは持っていて納得のいくものだ。

 だが、果たしてそれをカズラに告げてしまっていいのだろうか。

 これはカズラにとって当然、良い報告ではない。秘密を理解するのは利益に繋がるとカズラ自身は言っていたが、それは秘密の内容を知らなかったが故に客観的な目線で自己を見ることが出来たからだ。

 このSGを自覚してしまうことで、カズラにとって悪影響にならないか――それが心配だ。

「大丈夫だと思いますよ」

「……何で?」

「戦闘能力こそカズラはないですが、彼女の心は強いです。秘密を知ってもきっとそれは変わらず、強くいられる筈です」

 それは、大きく強く堅い信頼だった。

 サクラたちは、心からカズラを信頼している。自分たちの中心人物として、()()()()()()だと。

「ですから、指摘してあげてください。貴方がそうしてくれた方が、私たちがいるよりもきっと彼女の支えになります」

「そう……なのかな」

 どうやら僕も信頼してくれているらしい。気づけば、辺りには分化したサクラたちが集まっていた。

 これら全員が、カズラを信頼する“心”のかたち。BBから離れた心の欠片。

 憶測は間違っていなかった。このサクラたちは、カズラのSGそのものなのだ。

「……物好きね。SGが自分から取ってくださいって寄ってくるなんて。指摘したらどうなるか、分かってるの?」

 そう。彼女たちがSGということは、それを取得したときは七階の、同属嫌悪の性質から生み出された防壁のように消えてしまう。

「勿論です。だから、貴女とそのマスターであるハクト様に託します。ハクト様なら私たち以上にカズラの力になってくれるでしょうから」

「…………ホントに、仕置きじゃ済まないわよ」

「……何でそうなるんだ?」

 良く分からない。今回は何がメルトにとって気に入らなかったというのか。

「ふふ。大丈夫でしょう、メルト。カズラはきっと、貴女を気遣って常に一歩引いているでしょうから」

「……それはそれで、妙に嫌な感じなんだけど」

「私たちとしては当然、カズラの想いが報われる事を望みますが、全ては彼女の一存。その決定が絶対です。故に、貴女を優先すると決めたなら応援しますよ」

「面倒な感情ね。もういいわ。アレとはどうせ、一度話さないとならないと思ってたし」

 話の内容はどうにも意図的に隠されているようで判然としない。

 どうやらメルトとカズラ、共通の感情らしいが……想いが報われるという事は、BBが正気に戻ってほしいという願望だろうか。

「ともかく、善は急げ。カズラに早く告げてあげてください」

「あ、あぁ……」

 他でもない、彼女たち(SG)が告げろと言っているのだ。ならば一刻も早く、カズラの疑問を取り払わなければならない。

「では、ご健勝を。カズラを、よろしくお願いします」

 全てのサクラたちの――無感情な微笑み。

 代表する一人だけは儚げで、少しだけ寂しげで。

 だが、何より信ずる心は強く伝わってきた。

 

 

「――」

 SGを告げると、やはりというべきか。カズラは悲しげな表情で、結末を見届けていた。

 仕方のないこと。それでも、彼女たちはカズラの友だったのだ。

 話してくれたサクラも含め一人残らず、淡い桜色の光となっていく。

 抜き出されたSGが硝子のように砕けると同時、それらは一時の幻だったかのように消えた。

「ありがとうございました、ハクトさん。私の知らない秘密を教えてくれて」

「ううん。僕は何もしていない。SGを教えてくれたのは、彼女たちだったから」

「……本当に滑稽な話ですね。知らなかったのではなく、忘れていた。もしくは、手放してしまったというのが正しいでしょうか」

 そう。今回のSGの性質は、カズラが知らなかったのではない。

 それがSGとして、当然だったのだ。

 ――自立願望。

 たった一つの確たる自己を持ち、単体で確定した一人になりたいという願望。

 しかしそれは、BBによって作り出されたアルターエゴという存在では叶わないものだった。

 故に、ただ願うだけ。自立した先で生まれる、「こんなカズラ」「あんなカズラ」は、夢のうちに消えていく。

 ただそんな願望の中で生まれた、確定しない曖昧な自己は、迷宮に反映されると同時にとある変化を齎した。

 それが八階の仕組み。増え続けた自己は複数のサクラとなって、BBから離れたという当たり前の共通点を持った者たちの集まりとなった。

 自立願望という小さな願いは、カズラから分かれたあの言葉を話せるサクラに引き継がれていた。

 だから彼女は、SGを知っていた。願望を失っていたから、カズラはサクラたちを「BBから分化した」と思い込んでいた。

 あれら一人ひとりが、カズラの人格だ。

『さすがに人格分裂しすぎよね』

 とは凛の弁。常人であればそれが当たり前の考え方。

 だが、カズラにとっては大きな迷いの果てであり、どうしようもないという八方塞がりがこんな結果を招いてしまったのだろう。

「これほどまでに、私は“自分”が見えていなかったのですね。全部が私だったなんて。でも……」

 小さく笑ったカズラは、胸に手を当てる。

 見えずとも、そこにはきっとサクラたちがいる。

 全てがカズラである以上、最後には一へと戻っていくのだ。

「皆、共通の感情がありました。辛くて、苦しくて、でも温かい……メルト、これは本当に厄介ですね」

「……知らないわよ。こういうとき、どうすればいいかも」

「私も……それに対する最適解は見つかりません。どんな結末でも、先は長そうです」

 互いに笑みを交わすメルトとカズラ。

 相変わらず僕には分からないが、彼女たちは共通の何かを持っている。

 思うに、先行き不安で難解な何かを。

「これで二つ。私が担当する階層も、あと一つですね」

 そうか。三階層もあと一階。どうやら、このまま穏便に済ますことができそうだ。

「ハクトさん、お願いがあります」

「ん、何?」

 

 

 

「――次の階に、来ないでください」

 

 

 

 今までとは、何もかもが違った。

 低く、そして拒絶。およそカズラのものとは思えない声。

 転移したカズラ。一言も発しなかったセイバーは、此方を一瞥し、

「……命が惜しければ従っておけ。最早これまでだろう」

 それだけ告げ、後に続いた。

「――」

「……何を」

 メルトも驚きを露わにしている。それもその筈、友好的だったカズラがいきなり、あそこまで拒絶を表出させてくるとは。

『……九階については後ほど考えましょう。一旦帰投を。休憩を挟みます』

「……分かった」

 順調に突破できると思っていたが、それは間違いだったのだろうか。

 最後の最後に、何か大きなものが待っている。

 それを確信付けるのは他でもないカズラ自身だった。




ガトーのプリズマな暴走のついでですが、プリヤツヴァイは7月9日からだそうです。
時間帯は遅いですが今から楽しみです。

完全オリジナルSG・自立願望。
分化したサクラの中で話せるのは僅かしかいません。
そこまで自立しかけた精神は結局少なかったって事ですね。

↓校舎裏は知らないですけど多分旧校舎に屋上はありません予告↓
「したわ。多分、無自覚に。いえ自覚あったらさすがにこれじゃ済まさないけど」

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