愛であって性的好奇心じゃないですもんね。
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駄蛇様より頂いた挿絵を追加しました。
確かに死んだ。目の前にあった死からは決して逃れられず
ならばここにある
世界は末期の祈りを嘲笑う。どんなに恵まれぬ人生だろうと、たったそれだけと割り切るしかなくなる。
それが出来ない者にはただ後悔だけが残り、出来た者は全てを悟り達観して死ぬ。
なのに――今たしかにここにある
――、
何を言ったのか。
あの時の叫びは、
こんな、自分ならぬ自分となった状態の
――て。
だったら、それまでの過程を思い出そう。
きっと答えは、最後の叫びにある。
何を求めた? 誰に助けを乞うた? ――“誰”?
あの場所に頭数に入れるべき存在などいただろうか。
だとしたら、今のは何だ。自然に生まれた今の疑問は答えに関係しているのか?
――助けて。
ああ、確かに言った。それはあの場で何度も何度も繰り返し言っていた。
だが届く事は無かった。喉が渇き、舌が焼け、肺が爛れても往生際悪く続けていたと思う。
なら違うのか? それ以外、或いはその後に続く言葉があるのか? その運命を否定し、救いの手を伸ばしてくれる誰かを見つけることが出来たのか?
――する。
何て?
今、何を言った?
記憶にない。今のは間違いなく、
ならばこの不可思議を解く答えになる筈。教えてほしい。あの時何を言ったのか。
どんな助けを求めて、誰が肯定し、ここに至るまでどんな過程を踏んだのか。
たとえ理解出来なくとも良い。元よりそんな事を理解できる程の知識は持っていない。“そういう事があった”事実を知りたいだけなのだ。
過程さえあれば、理解は出来ずとも納得は出来る。何がこんな小さな命を、ここまで運んだのか。
――■■する。だから、助けて。
――――――それ、だけなのか?
そもそも■■とは何だ? それを言えば、助けてもらえるのか?
駄目だ。やはり理解は出来ない。だが、今の言葉が救済に至ったのは確実だ。
それを言ったから、今
黒くて、白い、小さな小さな光。伸ばされた手に、
これは道具だ。何かの為に生み出され、何かの為に使い潰される道具。
だが、黒を秘めている。その運命を脱却し逃れる選択肢と、それに足る運命を持っている。
そして、何より白が守っている。それは意思であり、心であり、全てだった。
助けてほしい。助けてあげる。共有しよう。
アナタの運命を、見届けよう。■■■として。
+
――また、妙な夢を見た。
やはり現実感が無く、ひどく曖昧で、他者のものだとしても不自然な夢。
ただ声にならない声が伝わってくるだけ。死の際に瀕した、或いは死んだ後の誰か。
という事は、ムーンセルに記録された英霊か? だとすると、何故僕はその夢を見たのだろう。
考えを纏める前に、意識は
目を開く。それと同時に感じた不自然。
「――、メルト?」
昨夜は疲れも溜まっていて、メルトも何やら用事があるようで先に休んだが、まだ戻ってないのだろうか。
そう思い、一旦起き上がるとベッドのすぐ傍にメルトはいた。
「メル――」
ベッドに寄りかかりメルトは寝息を立てていた。
起こしてはいけないと口を紡みそっと立ち上がる。そして、真正面から見たその姿に絶句した。
軽装ながら込められた術式によって決して外れる事のなかった拘束具が緩まっている。
外に出た際、もしかして凛に術式を解除してもらったのだろうか?
拘束具を留めていた紐は解け、開いた胸元はより危うい状況となっている。
何故ベッドの傍で寝ていたのかは分からないが、
「……」
メルトは目覚める様子がない。
……、
…………、
「っ」
魔が差したのかもしれない。
気づけば、メルトの寝顔に手を伸ばしていた。
「うわ……」
ふに、とギュウヒのような頬に指が沈む。
驚くべきはその軟らかさ。何の抵抗も無く受け入れ、形を変える。
それは本当にこの世のものなのかといった不思議な感触に思わず息を呑んだ。
すべすべとした触り心地に浸りながらも指を戻すとそれについてくるように頬も戻る。
「ん、……」
「っ!」
小さく呻き声を漏らすメルト。反射的に飛び退くが、目覚める気配はない。
「……んぅ」
続けて零れた声は、まるで猫のようだった。
起きないと言う事は、余程疲れているのだろうか。
そもそもサーヴァントに睡眠が果たして必要なのか。
疑問は色々とあるが、気持ちよさそうに寝ている以上気にするのは野暮だろう。
「…………」
……もう一度、触ってみても。
ふに。
「……」
もう一度。
なんというか、普段頼りになる存在を“好きに出来る”という妙な優越感はどうにも例え難いものがある。
それに毎度可愛らしい反応を示すメルトが面白くて仕方ない。
最早気持ちよさそうに寝ていた事も含めて色々と忘れかけていた頃、
「……何してるの?」
「ッ――!?」
突然開かれた口に手が止まる。
「――えっと」
何から説明すればいいものか。選択によってはただでは済まされない。
まずは聞いておくべきか、それによって選ぶべき言葉も変わってくる筈だ。
「……いつから起きてた?」
「さあ。いつからでも良いわ。何をしていたのか、と聞いてるの」
……何故こういった事の
別に疚しい事はしていないと思うし普通に言えば良いと思うのだが……
メルトは多分、怒ってはいない。どちらかといえばバツの悪そうにあまり鋭くない睨みを向けてきている。
「……厳禁よ」
釘を刺された。
今回は見逃すという事だろうか。だったらもう次はすまい。渡るべき危ない橋などサクラ迷宮だけで十分だ。
「……まったく、やっぱり起きてるんだったわ」
「メルト……その、拘束は?」
「外れたわ。リンが予めラニの術式を解析してくれていたみたい」
やはりそういう事か。
拘束具というからにはやはりそれなりに窮屈だったのだろうか。心なしかメルトの表情は清々しているように見える。
「良かったわ。やっとこれに袖を通せるし」
「え?」
メルトが指差すのは、個室の入り口の扉。
そこにはいつぞやに買ったメルトの制服が掛けられていた。
「いつの間に……」
「拘束を解いたついでに催促してきただけよ」
――良いお客様ではあるが、サーヴァントを放しておくのは関心しないな。
幻聴!?
今一瞬、購買神父の若干沈んだ声が聞こえた気がした。
気のせいだと思いたいが、催促とは一体何をしてきたのだろう。
まぁ言峰も言峰で、この小さな旧校舎の中で制服の転送にこれだけ掛かる事もないんだろうしどうせサボタージュしてたんだろう。何故か覚えている言峰の性格からすれば普通なんだろうが、それがメルトの癇に障ったという事だと思う。
「でも、まぁ……」
何かあったにしてもやりすぎでは無い筈だ。
気にせずに、この制服について考えるべきか。
「せっかく届いたんだし、メルト、着てみれば?」
「……ん……」
メルトは何やら言い淀んでいる。どうかしたのだろうか。
制服を楽しみにしていた風があるし、すぐにでも着ようとすると思ったんだが。
「……? メルト?」
「えっと、ハク」
「何?」
「…………」
話が進まない。
メルトは制服に手を出そうともしないし、そもそもその場から動こうとさえしていない。
と、ここまで考えて一つ、失念していた事を思い出す。
メルトの拘束具は今や外れ、すぐにでも脱げる状況になっている。
胸元の大きく開いた服の形状もあって、縛っている状態ならまだしも今の状態ならば動けば簡単に危なくなってしまうだろう。
僕は男でありメルトは女の子。その辺り、デリカシーが無かったかもしれない。
「ご、ごめん。ちょっと外に出てるから――」
「……違う」
「え?」
違うって……では、一体……?
「一人じゃ……その……」
「うん」
「着替え……られない……から……」
「うん」
「…………てつ、だって」
「うん……うん?」
メルトさん、今何と仰ったのですか?
一人じゃ着替えられない。そんな筈はない。多分聞き間違いだろう。
契約したマスターである僕だからこそ分かる。
メルトはプライドが高い。からかっているのならともかく本気でそんな事を言う筈がない。
「だから……着替えを手伝ってほしいの」
「…………」
果たして二度の聞き違いという事はありえるだろうか。
多分聴覚に異常が発生している。自分では修復の方法が分からないし、桜に聞いてみようか。
「聞いてる?」
「は、はい。聞いてます」
「……なんで敬語なの?」
動揺しているのだから仕方ない。
そもそもいくら他者を攻めるのが好きといっても、これは性質が悪すぎではないだろうか。
「とにかく……このままじゃ迷宮にも行けないわ」
「えっと、一人で着替えるってのは……」
「――――っ、……無理よ」
「え――」
無理、とは一体どういう……
「神経障害。感覚が無いっていうのはこういう時厄介なのよ」
神経、障害?
そんな話、今まで聞いていなかった。
自分の弱点を隠していた……? いや、この場合、恐らく僕が忘れていただけ。
こんな重要な事を、僕は忘れていたのか。
「気にしないで。今はとにかく、手伝ってほしいんだけど」
「……そういう事なら」
と、言ったは良いがどうしろと言うのか。
メルトの神経障害の度合いにもよるが、着替えを手伝うというのは気が引けるというレベルのものではないのだが。
「……ごめん、大体やってもらう事になる」
「……」
「うん、悪くない感じね」
「……」
「……? ハク?」
「……」
とりあえず、心に決めた事がある。
この数分間は全て、記憶から消し去ろう。
それが、これからの戦いを生き抜くにおいて最も正しい選択だろう。
大丈夫だ。何も見ていない何も見ていない何も見ていない。うん。大丈夫だ。
「どうしたの? えっと、似合って、ない……?」
「あ、いや。すごく似合ってるよ」
今までの派手だったものとは一転して、素朴なものになったという点ではコートやゴシックなメルトの姿とは違う新鮮さがある。
黒という大人しい色はメルトに良く似合っている。
「そう。なら、次の階はこれで行こうかしら」
「……いや、それは」
「大丈夫よ? この制服、普通の礼装より強固だし」
「は?」
……まさか。
もし礼装といっても、たかが制服。そこまで防御力がある筈――
「元々はサクラのと同じだったみたいだけど、神父が色々手を加えたみたいね」
「手を加えたって……」
一体何をしたというのかあの購買神父は。
いくら元監督役といっても、一NPCにそんな事出来るのだろうか。
まぁ、防御力の無いものであればそう言うだろうし、間違っても迷宮にまで着ていくことはないだろう。
元々の拘束具も物理的防御力が高いとは言えない事から問題はないどころか寧ろプラスなのかもしれないが。
「でもさ、なんで拘束具を外そうと?」
「……あの術式、窮屈なのよ。体中縛られてる感じで」
そうなのか。あれを着ているだけでメルトには負担になっているらしい。
ではその辺り、着替えるだけである程度の開放感はあるのだろうか。
「それに、お揃いじゃない……」
「え――」
小さな声で殆ど聞こえなかったが、とにかくこの服装で迷宮に向かっても問題はなさそうだ。
「さ、行くわよ。先に生徒会ね」
「あ、あぁ……」
そう言ってメルトは姿を消した。
生徒会で話し合い。そしてその後は、また迷宮に潜ることになる。
カズラは協力的だが、不安な存在は多い。
セイバーとアタランテ。七階ではBBBを倒すべく協力したが、本質的には敵対している以上最終的には戦う事になるのだろう。
そして、BBBの前に襲撃してきた■■■■。真名はおろかスキルや攻撃、姿まで全てを忘却してしまった謎のサーヴァントも間違いなく敵であり、警戒すべき存在だ。
アルターエゴだけではない。BBの配下であるこれらのサーヴァントも十分な強敵だ。
不利な状況を少しでも詰めるには、相応の策を練る必要がある。
これだけのメンバーがいながら、迷宮に潜れるのは僕のみ。そう釘を刺したのは他でもない、アルターエゴの一人。
彼女たちにとって、これは遊びに過ぎないのだろう。だがそんな中でも、少しでも状況を打開する道があるのだとしたら、それはひたすら前に進み見つけていくしかない。
そのためにもまず、レオたちのところに行かなければ。
>目を開く。それと同時に感じた不自然。
メルトの白斗調教段階レベル2。
メルトと寝ている事が自然になりました。
レベル1は三章始めの「面白そうなので~」です。
尚、ハクの変態度が増してる気がするのはCCCクオリティです。
寝ているメルトのほっぺふにふにしたいです。
制服を着ていると桜そっくりになると思ったんですが、中々どうして雰囲気がまったく違う。
クール系にはやはり大人しい服が似合いますね。
駄蛇様、素晴らしいイラストをありがとうございます!
↓一周年だし特別茶番かなんかやりたいけど何も思い浮かばない予告↓
「何でお前のサーヴァント、制服着てんだ?」