Fate/Meltout   作:けっぺん

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アンデルセン「おいキアラ。エルサという名に心当たりはあるか」
キアラ「エルサ、ですか? エリザベートさんの事ではなく?」
アンデルセン「エルサ、だ。俺にはどうにも思い出せん」
キアラ「そのエルサさんがどうかしたのですか?」
アンデルセン「いや……どうやら俺が書いた物語に登場しているらしい」
キアラ「え……? それは変ですね。貴方が心当たり無いというのは」
アンデルセン「そもそも俺は真実の愛なんぞ書いた覚えはないのだが」
キアラ「それは重々承知していますが、一体なんの作品なんです?」
アンデルセン「Let it go(レリゴー),Let it go(レリゴー)↑」
キアラ「……はい?」


Blossom Borderline.-2

 

 

 切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)

 世界で最も有名な未解決事件といえば、これが真っ先に挙げられるだろう。

 時は十九世紀も末期、八月の終わり。ロンドンはイーストエンドの開けた通りに転がっていた娼婦の死体から全てが始まった。

 それだけならばただの殺人――だが、そこから凡そ二ヶ月に渡り、ロンドンで立て続けに娼婦が殺された。

 それは最初の劇場型犯罪。それは最初の連続殺人鬼(シリアルキラー)

 殺人に足跡は残らなかった。犯人は霧の如く掴めず、結局未解決のまま終わった。

 当たり前だ。犯人は確かに“いる”が、“いなかった”のだから。

 

 ――そう。切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)は最も救われなかった者たちだ。

 否、救いという言葉すら遠い。救う救わないの概念の選択が齎される前に、彼ら/彼女らは死んでいたからだ。

 当時ロンドンには数万人の娼婦がいた。まだ避妊に対する意識や技術は高いとは言えず、不慮に子を成してしまうことも多かったという。

 そして堕胎の技術はあまりにも稚拙で、生まれるはずだった子供達はゴミのように扱われた。

 死体はイーストエンドを流れる川に捨てられ、この世に生を受ける事すら許されなかった“命たち”は怨念となり、やがて形をとった。

 個にして膨大な命である少女は目的もなくイーストエンドを彷徨った。

 目的がないのは当たり前だ。初めから何も無かったのだから。人が持つべきあらゆる苦悩幸福欲望は彼女にとってそれに集約され、消滅していった。

 ただ一つ、とある女性と出会った際、何だったのかは分からないがとにかく求めていたものが、発露した。

 ――おかあさん。

 当然ながら、拒まれた。見た事も無い、奇妙な少女に自信を持ってそう呼ばれれば、誰であろうとも不審に思うだろう。

 少女は奇妙だった。奇怪だった。幼くて、恐ろしくて、何より狂っていた。

 女性は少女を酷く罵倒した。自分の理性を保つために、自分の理性など気にせず全てを吐き出した。

 少女は絶望した。涙を流した。辛くて、痛くて、何より悲しかった。

 解体された女性の遺体が発見されたのは翌日の事だ。

 深く傷ついて、それでももう一人、“おかあさん”を見つけた。また、拒まれた。二人目の遺体は、翌日発見された。

 気付けば、三人目を手に掛けていた。誰かが見ていたとしても、少女は何ら気にしない。何よりも大きな悲しみが胸いっぱいになっていて、それどころではなかったからだ。

 いつしか少女には、名前が付けられていた。

 自分の名前も分からなかった少女は遂に、切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)という名前を“もらった”のだ。

 少女は喜んだ。それが、悲しみを紛らした。わたしたちはジャック。名前があるのならば、この世界に自分を齎したおかあさんがいると。

 殺害は解体という手段に徹底されていた。その卓越した解剖技術から犯人は医者であるに違いないと断定されると、やはり少女は喜んだ。

 生を受ける前にこの世界に自分を投げ棄てた何よりも怨めしい医者という存在に罪を被せられることが、たった一つの悦びになった。

 そして、少女の犯行と確定された最後の被害者である五人目の若い女性が惨殺体で発見された頃、ようやく一人の魔術師(メイガス)がジャックの正体に行き着いた。

 魔性の仕業であるならば、なるほど犯人など見つかる筈もない。しかし、所詮は生まれてすらいない出来損ないの命が集まっただけだ。

 ――かくして、魔術師により怨霊は消え去った。

 個としては、“二度”。全体としては、もう何度目かも分からないが、ジャックは再び死に、悲劇は終わりを告げた。

 だが、未曾有の殺戮は後世に名を残すには十分だ。事実、(ミステリー)としてなら世界でもトップクラスの知名度だろう。

 人々に恐怖を齎したもの。無垢であろうとも、それは反英雄として定義するには十分だ。

 これが、切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)

 望まれずして創られ、完成する前に壊された数多の命の成れの果て――

 

 

 +

 

 

 切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)。少女はそう名乗った。

 それが本当であるならば、クラスなど考えるまでもない。

 狂気の象徴たるそれが理性を失っていないならば、アサシン以外の何者でもない。

「ねえ、なんで黙っちゃうの? まだ喉も斬ってないのに」

 くすくすと無邪気に笑う様は、童子そのものだ。しかしその殺意は子供のそれではない。辺りに充満する真っ白な霧は恐らく、この少女によるもの。

「立ち去ってください。この場で戦闘はしないでほしいのですが」

 カズラの言葉に、ジャックは微笑みを崩さず、首を横に振る。

「戦わないよ。ころすだけ。一瞬だもん。戦いじゃないよね」

 その刃は此方に向けられている。妨害するセイバーも、戦いを拒むカズラも、傍に立つメルトも彼女の目には入っていない。

 純粋な狂気を発する少女は、異常なまでに恐ろしく感じる。

「セイバー、どいて。わたしたちの目的、わかってるよね?」

「悪いが、了承できない。衛士の言を優先すべきだ」

「びぃびぃの言うことがぜったいでしょ」

 両者とも、BBに従っているのは変わりないのだろう。

 だが決定的な違いは、ジャックはBBに従っている一方でセイバーはカズラを優先している。

「ここでこの者に手を掛けるというのなら、俺は妨害する。どちらが有利なのかは考えるべくもないだろう」

「……」

 ジャックは表情を隠さない。悔しそうに歯噛みしている。

 そもそもアサシンのクラスが絶対的な優位に立てるのは奇襲の際だ。

 それが突破された今、メルトとセイバー相手に勝てる道理がないのは明らかだろう。

「……霧の夜にはご用心。いつでもわたしたちはあなたを見てるから」

 微笑んで、次の瞬間ジャックは跡形も無く消えていた。

 まるで立ち込める霧に飲まれたかのように、気配も感じなくなる。

 撤退した――のだろうか? 油断はできない。アサシンクラスのサーヴァントはクラススキルとして気配遮断を取得している。

 攻撃態勢に移行しない限りは此方から居場所を突き止めるのは至難の業だ。

「……」

 セイバーが剣を下ろす。

 もう危険はないと判断したのか。それに続くように、辺りに立ち込めていた霧も消えていった。

「……何、アレ」

「セイバーさんやアーチャーさんと同じく、お母様に使役されるサーヴァントです」

 なるほど……だが、あれはセイバーやアタランテとは違いすぎる。

 二人に比べ、戦闘力では一歩劣るだろう。

 だが、恐らく話は通じない。一切の容赦も無く、首を掻き切りに来るだろう。

 アルターエゴに続き、またも現れた強敵。アサシンともなれば、対処もしにくい。

 一体どうすればいいのか。

「……大事ないか」

「え……あぁ」

 セイバーはあくまでカズラの命令に従っただけなのだろうが、まさか心配をしてくれるとは。

 ■■■■の言を信じるならばあの■は何やら害のあるもの――あれは対魔力で防御できるものなのだろう。

「……え?」

「どうした?」

 おかしい、と思いもう一度思考を巡らす――が。

「今のサーヴァントの情報が……消えてる」

 確かにあのサーヴァントはクラスこそ名乗らないまでも真名を自ら明かしていた筈だ。

 その真名からクラスを確信した。武器も視認し、能力の一部も見せていた。

 なのにそういった情報全てが、完全に抜け落ちている。

「やはりな。俺も幾度見ている筈だが、その度に忘却している」

「スキルか何か、かしらね。これで毎回奇襲が出来るって事」

「私にもあのサーヴァントだけは、クラス情報も明かされていないんです。知っているのは、お母様とローズだけかと」

「ローズ?」

 聞き覚えのない名前……だがサーヴァントのクラスでないとすれば、それは――

「ローズマリー。アルターエゴの一人ですが……」

 表情を曇らせるカズラ。同じくしてBBから生まれた存在。

 カズラBBを否定しているのならばそれも頷けるが……

「気をつけて下さい。戦闘力からすれば私に次ぎ低いですが……厄介極まりない存在です」

 厄介――一概にそう告げられるだけでは良く分からないが、カズラが言い淀むほど、ということらしい。

「でも、この階層にいる限りは私が守ります。お母様や他のエゴたちには、絶対に侵入させませんから」

 柔らかな微笑み。例えるならば――慈愛。真っ先にそんな単語が思い浮かぶ。

 何やら隣でメルトが脚具をカツカツ鳴らしているが、気付いていないことにする。指摘すると何かと恐いことが起きるのは大体理解した。

 とはいえ、この階にいれば安全だとしても、僕たちは表に帰らなければならない。

 その為にはここに居続ける訳にはいかないのだ。

「――カズラ」

「分かってますよ。望むならばSGは渡します。ですが、すぐにというのはお勧めしませんよ」

 秘密(SG)を渡す、というのに驚愕したがお勧めしないとはどういうことか。

 その回りくどさがSGだということもありえるが。

「私の階層は安全ですけれど、ここから先のセキュリティは軽いものではない筈です。生徒会の皆様方、リンさんやラニさんの階層と比べ、この階層の解析は如何ですか?」

 そんなカズラの問いに、暫くしてからレオが答える。

『……確かに、階層が深くなった影響か難しくなっていますね』

「ではサクラ、どうですか?」

『…………正直なところ、カレンが負担してくれなければ少々厳しいくらいです』

「なっ……!」

 サクラ……やはり無理していたのか……!

「なので、今の内にこれ以降の階層に対する解析術式を用意しておくべきと思いますよ」

 カズラのそれは親切だろうか……もしかするとBBの味方として時間を稼ごうとしているとも考えられる。

『その提案は確かに有効とは思いますが……何故貴女がその提案を?』

「いえ……皆様なら、お母様を正しい道へと戻してくれるかもという期待です。希望的観測はAIにとって破棄すべきものですが、皆様ならそれが可能と信じれる確率と判断しました」

 ――カズラは本気だ。

 他のアルターエゴがBBに味方するのだとしても、カズラはそれに真っ向から対立しようと。

 そして、BBを更生という道で助けようとしているのだろう。

 

『――――カズラ。せっかくお手伝いを向かわせたのに、追い返すなんて何を考えてるんですか?』

 

「――――!」

 ノイズが掛かってはいるものの、確かに聞こえる声。

 BB。絶対に手を出せないだろうと確信していたカズラも目を見開いている。

『セイバーさんも……正直役に立たないですよね。あの子との協力でセンパイを倒せって命令、聞けないんですか?』

「この階での命はこの少女を介せと命じられたが」

 どうやら、命令の内容の相違が起きているらしい。

『ならその命令は破棄です。これからアーチャーさんともう一つ、秘密兵器を送るので打倒センパイを優先してください』

「っ……!」

「……私の階層は時間稼ぎじゃないんですか?」

『それはそれ。貴女がそこまで私たちを拒絶する仕掛けを作るのであれば、私も強硬手段に出るほかありません』

 ――BBは、急いているのか?

 こんなところで強硬手段に出る理由が……?

『スイッチオンです。出陣、対メルト用BBちゃん型決戦兵器――BBB! エマージェンシー! アクション! パーフェクト! ゲット・オン!』

「は?」

「え?」

『――』

 一体何を――と考える前に、迷宮を揺るがす衝撃が響き渡る。

 一歩、一歩、何かが近づいてくる音。

 それは、巨大だった。

 鋼鉄で構成された、BBに似た――ロボット、なのか?

 BBBと呼ばれたそれは此方を補足すると、目を光らせる。

 そして、巨体の肩に乗っていた女性――アタランテが降り立ち、野生的な眼差しを此方に向けてきた。

「壮健そうだな。だが、これの相手は如何する?」

 正直なところ、相当厳しいだろう。あの巨体が虚勢でないのならば、相応の規格外なステータスを持っている筈だ。

『無理でしょうね。セイバーさんにアーチャーさん。この二人もいれば、センパイとメルトなんて話に――』

 バツン、という唐突に電波が途切れたような大きな音。

 カズラが術式を組み上げていた。恐らくはこの階層の防壁を強化したのだろう。

 BBの通信が切れた。だが、状況は良くなってはいない。セイバーとアーチャーがBBの命令を優先するならば……

「お二人とも、あのロボットの打倒をお願いできますか?」

「え――」

 まさか――

 カズラの言葉にセイバーとアーチャーは瞠目していた。

 だが、此方の動向を待たずしてロボット――BBBが右手を突き出してくる。

 その右手に指はない。砲口と化しているそれには強大な魔力が込められている。

『兵器開放。BBちゃん直伝・必殺の超BBBビーム』

 機械的な音声と共に溜まり込んだ魔力は攻撃的なものへと変貌し――撃ち出された。

「――――」

 対軍……いや、対城兵器に該当するかもしれない。

 そのあまりに大きな範囲を一瞬にして塵へと変えさんとする魔力の束は、標的としているだろう僕だけではない、エゴであるカズラをも巻き込んでしまう。

 対処しきれない――起こるであろう終わり(デッドエンド)に、咄嗟に目を瞑る。

「――――――――、」

 魔力の膨大な奔流。蹂躙するであろう痛みはいつまで経っても襲ってこない。

「――貴女、今……」

 目を開くと、信じられないといったメルトの視線がカズラに向けられている。

「……はぁ……っ! これが、私の……、精一杯、で」

「カズラ……!?」

「……馬鹿じゃないの? 敵に対して」

 攻撃は終了したのかBBBの放ったビームはもう見えず、砲口からは燻った煙が巻き上がっている。

 カズラは膝をつき、肩で息をしていた。何があったのか良く分からないが、カズラが防いでくれたのか……?

 だとすれば、疲弊してまで此方を守るという姿勢の表れ。

「セイバー、さん……アーチャーさん……お願い、します」

 ところどころで区切りながらも告げたカズラ。それを見てセイバーは――静かに頷いた。

「心得た」

「――正気か、セイバー」

「契約違反だアーチャー。あれは――破壊すべき存在だろう」

「……然様だな」

 どこか、含んだ言い方だが二人は言って笑う。

「そこのマスター」

「え……?」

「今回に限り、協力はどうか」

 此方に背を見せ、剣をBBBに向ける。

 敵意を今に限り消し去り、あれを討伐しよう、と。

「……分かった。メルト、大丈夫?」

「……えぇ」

 どこか抵抗があるようだが、溜息を吐いた後渋々といった風に了承した。

「では、私から反撃と相成ろうか」

 何故今まで此方と戦う気でいたアタランテは乗り気だ。

「敵とは思えない程乗り気ね」

「いや何。吾々含め撃ったのならば射ち返すまでよ」

 同じ疑問を持っていたらしいメルトの言葉に、アタランテは微笑みながら返す。

 やられたらやり返す――それを地で行かんとしているらしいアタランテ。弓に二本の矢を同時に番え、強い魔力を込めている。

 無表情に戻り、そして敵意をBBBに移す。

 足は最速。ギリシャ神話に謳われし狩人が見せるのは宝具の兆し。

「この遠矢を以て、吾が神々に奉る――」

 その矢を向けるはBBBではなく天空。

 正しくそれは、神への祈りを奉げる破滅の矢。

「災厄を手向けよう――訴状の矢文(ポイボス・カタストロフェ)!」

 二つの閃きは魔力と加護を以て、空高く放たれた。




BB(さくしゃ)(必殺技発動分しか発声機能付け忘れたなんて言えない)

感想欄に多かった事柄について
・ロリが二人(カズラ・ジャック)
ありす、アリス「あたしたちも迷宮に行けば良いのかしら」
・桜がジャックのお母さん
・BBがジャックのお母さん
・ラニがジャックのお母さん
ジャックのお母さん一人でも随分割れる……!

・ハクがお父さん(共通項)
あ……(察し)

没案
『兵器開放。BBちゃん直伝・必殺の超BBBビーム。夢より遠くへ。ネバー。エバー。ミッシン』
その前のBBちゃんの台詞と併せて分かった方はお友達。

↓ちなみに一番好きな戦隊シリーズは魔法戦隊です予告↓
「剣よ――満ちろ」

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