Fate/Meltout   作:けっぺん

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「早見さんが演じるキャラで一番好きなの誰?」って友人に聞かれました。
多分ニコニコニュース辺りにあてられたんだと思います。
速攻で「メルト」って答えました。案の定「誰?」って返ってきました。
ゆきのんもラブリーマイエンジェルあやせたんも大好きです。


Bandit Zero Over.-4

 

 結局、カレンの言う通りにしてみようという結論が出た。

「おや……貴方が持っているのは、もしかしてチェスでは?」

「うん、そうだけど……」

 チェスのデータを持って再び迷宮の六階に訪れると、やはりというべきか、ラニは食いついた。

 一応迷宮の入り口にまでしか潜らず、ラニの傍でセイバーやアーチャーが攻撃してくる可能性はやはり低いと判断したため、皆のサーヴァントは連れてきていない。

 戦闘行為に来たのではない。それを意味しての事と分かったのかラニも警戒を解いている。

 チェスを見て一瞬だが、その目がキラリと、子供のように輝いた。

「チェス……好きなの?」

「そう、ですね……好きか嫌いかで分けるのならば、好きです」

 やはり、これはSGのヒントか。ラニが置いたものという確率は高いだろう。

「知ってますか? かつてインドには世界最高峰のコンピュータ・チェスがありました。私を作り上げた師は、かの国に愛着があったようです」

「そうなんだ。その影響もあるのかな?」

「かも、しれません。ところで……そんなに暇なのでしたらゲームなど、お一ついかがでしょう。私もなんとなく暇なので」

 ……意外な申し出だ。

 決して挑発に乗ってこなかったラニが、自分からゲームに誘ってくるなんて。

「しかし、先に言っておきますが私に勝ったところでSGは手に入りません。言わばデモンストレーションです」

「なら、何で?」

「偶には外部の思考ルーチンと対決し、自身の精度を確かめなければ。反射神経も体力も影響しない。同じ条件で始まり思考の滑らかさだけで展開するチェスは宇宙でもっとも公正、平等なゲームなのです」

 なるほど。ラニらしい、論理的な理由だ。

 チェスには反射神経や体力と言った、個々に差が出るような要素はない。

 思考のみを組み立てて相手と戦うという、公平かつ平等なゲームだろう。

「勿論、お時間を頂けるのならその配慮もします。特別なプレイルームへ案内しましょう」

「プレイルーム?」

「はい。チェス専用に作られた空間。内部では時間を10の三乗……千倍にまで短縮できます」

「そうか……現実での経過時間は微々たるものって事だね」

 そういう事なら、やってみても良いだろう。

 カレンの言う通り、全員で挑んでみれば、何か結果が生まれるかもしれない。

「分かった。やろう」

「ビューティフルな選択です。では――」

 身体(精神)が転移していく。

 チェスの経験はほとんど無い。ルールとある程度の知識があるだけだ。

 だが、ともかく一戦交え、ラニの反応を窺ってみよう。

 

 

「……」

「お疲れ様でした」

『一秒で負けた!?』

 まぁ、大体分かっていたが。

 決して一秒持たなかった訳ではない。プレイルームなる空間で、僕とラニは長い時間――

「一秒っていうと千倍で千秒……十七分弱? 惨敗じゃない。何やってるのよハク」

「……」

 一切遠慮のないメルトの言葉が容赦なく心を抉る。

『そういうメルトちゃんは? ラニちゃんに勝てるの?』

「さあ? 私はやる以前の問題だもの」

「……? どういう事?」

「ラニ、そのチェスは手を使わなくても出来るかしら」

「思考に応じて駒が動く、という形式ですか? それなら持ち合わせがありますが」

 あるんだ。というか、メルトは何故そんな条件で……?

 袖が邪魔に鳴るからという事だろうか。それだけだったらそんな申し出は必要ないと思うのだが……

「なら良いわ。一戦やってみましょう」

「はい。では、プレイルームへ」

 しかし、その理由を聞く前にラニとメルトは転移してしまった。

 ……この状況、僕だけが迷宮に残っている状態だが、大丈夫だろうか。

 約四秒。帰ってきたのは、溜息を吐くメルトと表情一つ変えないラニだった。

「……サラスヴァティーと言っても、インド最高峰のコンピュータ・チェスとやらの知識はないのね」

「さすがはサーヴァントですね。楽しめるゲーム内容でした」

 両者の言葉からして、勝負はやはりラニが勝利したようだ。

 とは言え、ゲームに満足自体はしているらしい……が、SGの兆しは見られない。

 やはり計算外の出来事を起こすしかないのか……

『ええい、こうなったら総当りよ! レオ! シラハ! 桜にカレン、ユリウスにダンさん、ついでにガトーさんも! サーヴァントも全員よ!』

『お前はそんな自棄っぱちな考えで西欧財閥と戦っていたのか……?』

「良いでしょう。全員纏めて相手になりましょう」

「いや、チェスは一対一じゃないと出来ないから」

 凛の号令でラニがまた転移していく。誰と戦っているのか、此方からは把握できない。

 だが、これが総じて、割と無駄な時間だったのはある意味予想できていたかもしれない。

『ああもう! こと思考回路でホムンクルスに勝つなんて無理に決まってるでしょ! 今度は私の得意分野よ! 中華料理! サイバーテロ! マネーシステムッ!』

「始める前とは気迫が裏返しになっていますよ、ミス遠坂」

 三戦目、凛。ラニの勝利。

『……すまん。インド最高峰のコンピュータ・チェスとやらの知識はオレにもない』

「いや、ある訳ないでしょ普通……」

 四戦目、ランサー。ラニの勝利。

『さすがですね……ですが、良い経験になりました』

「此方こそ。満足なゲームでした」

 五戦目、レオ。ラニの勝利。

『パーシヴァルやガラハッドを遥かに凌ぐ腕前……お見事でした』

「午前なら頭脳も三倍になるのかしらね」

 六戦目、ガウェイン。ラニの勝利。メルトは何を言ってるのだろうか。

『白斗君とどっちが早かったかな?』

「時間的にも内容的にもハクトさんの方が上手でしたが、何か」

『……』

 七戦目、白羽さん。ラニの勝利。

『ドゥルガーも……チェスの知識はないんだね……』

学問の女神(サラスヴァティー)にない時点でお察しじゃない」

 八戦目、リップ。ラニの勝利。

『ごめんなさい……AIの思考ルーチンは基本的に遊戯の方には……』

『同じくです』

 九、十戦目、桜にカレン。両方共にラニの勝利。

『そもそもチェス自体、何年ぶりか……』

『兄さんは基本働き詰めでしたしね。最初から期待してはいませんよ』

『……』

 十一戦目、ユリウス。ラニの勝利。ユリウスが不憫で仕方ない。

「駒が自動的に動いていたのですが……」

『すまぬな。気を呑んでも頭脳では勝てぬわ』

 十二戦目、アサシン。ラニの勝利。透明のまま戦っていたらしい。

『経験は長いが、及ばなかったか。年甲斐もなく熱くなってしまったな』

「素晴らしいゲームでした。もう一戦如何ですか?」

 十三戦目、ダンさん。ラニの勝利だが、どうやら接戦だったようだ。

『いやさ、ここまでやりゃもうオレじゃ無理だって分かると思うんだが……』

『少ない可能性を引くかもしれないじゃありませんか。無理だったようですけど』

 十四戦目、アーチャー。ラニの勝利。

『くはははは! すまぬ、小生チェスなどという小洒落た遊戯、ルールを知らんのでな!』

「……」

 十五戦目、ガトー。ラニの不戦勝。

「ふぅ……、対戦希望者は、他にはいませんか?」

 実質十四戦。それら全てにラニは勝利してしまった。

 合計すると凄まじい時間、ラニはチェスに没頭していた事になる。その顔に疲労の色は見えているが、五停心観は一度も反応していない。

 手詰まり……誰一人、ラニに勝てる人はいなかった。

「ではお引取りを……ふふ、公平なゲームは、最高に気持ちが良いです」

 結局、生徒会総動員でもラニの秘密を引き出すことが出来なかった。

 一先ず手詰まりと判断し、旧校舎に戻る。

 

「ふっ……どうやら僕の出番みたいだね」

 

「……どうするかな」

「何も勝たなくても良いんじゃないかしら。計算を狂わせればいいんでしょ?」

 確かに、一理あるか。

 だがその場合、始めからラニがどういった計算を行っているかが分からないといけない。

「……寧ろ、難しそうだね」

 とりあえず生徒会室で作戦を練ろう。

「うおーい!? どうやら! 僕の出番みたいですよねぇ!?」

「うわ!? し、慎二!?」

「驚かさないでちょうだい道化ワカメ(キング)……虚数の海に帰すわよ」

「いつからそこに……」

「最初からいたよ! 何分待ってやったと思ってるんだ! 後お前のサーヴァント色々と酷すぎだろ!」

「待って、た……?」

 慎二が……僕を?

「ふ――話は聞かせてもらったよ。チェスで誰も勝てなかったんだろ? 君たちの無駄な足掻きに付き合うつもりはないけど、困ってるクラスメイトを無視するのもなんだからね」

「ま、そういうワケさ。シンジもただ待つだけってのが堪えきれないみたいだよ」

 現れたライダー。慎二の助力はありがたいが、ラニに勝てるのだろうか。

「お前はまた……まぁいいや。紫藤、迷宮に行ってろよ。僕は生徒会室で待機しているからさ」

「あ、あぁ……」

 言って、校舎に戻っていく慎二。

「大丈夫かな……」

「いつか勝手に力を貸してくるとはいったけど……妙に早いわね」

 その背中に、不安しか感じられなかった。

 一応やらせてみても良いかもしれないと迷宮のラニのところへと引き返す。

「おや……随分と早い再会ですね。再戦を希望するのですか?」

「うん、そうなんだけど……」

『ちょっと待ったぁ――! 今回の相手はこの僕、アジアNo.1ゲームチャンプ・慎二様だ!』

 事情を説明する前に、大音量の通信が迷宮に響き渡る。

 ラニは呆気に取られていたが、すぐに溜息を吐く。

「……何故こんな愚行を?」

 愚行とまで言われている。こうまでなると、慎二に同情する。

『ってシンジ、いつの間にサブの席に座ってんのよ! そこ会計の席よ!』

『え、何、慎二君気配遮断スキルでも持ってるの?』

『ははは、そう照れるなって。僕のスーパープレイを間近で見て失神するんじゃないぜ!』

『……良いのか、レオ』

『良いんじゃないですか? 此方が負けたところでペナルティはありませんし、シンジなら可能性はあります』

「……こういう事みたいだよ」

『は。任せておけって。チェスは五歳の頃からお父様に教え込まれたゲームの基本だ。ヒューマンプレイヤーの代表として、負ける訳にはいかないんだよ』

「……そうまで言われては、此方も引き下がれません。良いでしょう。では、公正なゲームを」

 慎二の挑戦に応じ、ラニが転移する。

 ――戻って、こない。

 およそ十秒。一プレイの倍ほども時間を掛け、ラニは戻ってきた。

 その顔に見える疲労の色。もしかして――

「……中々のゲーム内容でした。三戦して二勝勝ち抜けのスリーポイント制。二戦ストレートで私の勝利でしたが」

『……』

『やっぱり駄目でしたね』

 どうやら慎二でも勝てなかったらしい。

 後残るは、キアラさん、ありす、ジナコの三人。

 だが、恐らく彼女らでもラニのキングを落とす事は出来ないだろう。

『っ、まだだ! 諦めないのが大事だって伝説のゲーマーUMEも言ってたんだ! レッツゴーシンジ!』

『それ負けフラグだよ慎二君……』

「良いのですか? プレイヤー・シンジ。今の戦いで、差は理解した筈です。貴方は一つ勝てても、私に二つ届かない」

『っ――』

 慎二は押し黙ってしまった。

 ゲームチャンプとして、戦力の差は見て取れる。

 既に自分はラニには届かないと理解しているのだろう。

『……完敗だよ。次はアクションで勝負しよう』

 どうやら慎二は生徒会室を出て行ったらしい。またしても、手詰まりか。

 再び生徒会室で作戦会議だろうと思い、踵を返そうとした時。

『はーい。戻る足ストーップ。作業なら意味のある事にするッスよ』

 ずっと黙視を決めていた者の声が聞こえた。

「――ジナコ?」

『そうッス。ジナコさんッス。それでハクトさん、生徒会室に戻って何か策は見つかるッスか?」

「それは……」

『無いッスよね。そりゃそうッス』

 分かりきったようにジナコは言う。

 もしかして……ジナコには何か策が?

 だとしたら、何故ジナコは手を貸してくれるのだろう。

「ジナコ=カリギリ……詳細は不明ですが、旧校舎へ逃げ延びたマスターですね」

『その通りッスよ。そんでもって、ラニさんに勝てる唯一人のマスターッス』

「――」

 自信満々に、ジナコは言ってのけた。

 自分ならばラニに勝てる、と。まさか、本当に?

『ジナコさん……?』

『あぁレオさん、今回に限って手を貸してやるッス。何もしてないとアルジュナさんがしつこいし、何か知らないけど花嫁さんと結束してるんスよ。アルジュナさん、あの娘、どこ行ったッスか?』

『先ほど出ていきましたよ。ジナコが重い腰上げるのを見届けて役目は終えたと言わんばかりに』

『……しっかりしてるッスねぇ……ホントにバーサーカーッスか? ……ま、いいや』

 どうやらアルジュナの説得らしい。そしてどうやら、フランが一枚噛んでいるようだ。

 しかし、ジナコはそれほどまでにチェスの腕前が高いのだろうか。

「ジナコ=カリギリ。貴女が私に勝つと? 極平凡、普通のマスターと思われますが」

『にゃはは、天才の何気ない一言は傷つくッスねー。ま、好きなだけ吼えるッス。終わった後涙を堪えて悔しがるのはラニさんの方ッスからね』

「……その自信の出所は、どこなのですか? 気持ちの上で負けていないなどではなく?」

『勿論ッス。運さえ良ければ、ラニさんに勝てるッスよ』

 ……運?

「浅はかな考えですね。公正、公平であるチェスに、運が絡む要素はありません」

『うん、そう、そこ。チェスが公正なのは認めるけど――公平じゃないと思うんだ、アタシ』

 公正だが、公平ではない……?

 助力をしてくれると思っていたが、ジナコはチェスを真っ向から否定した。

「何を言うのです。チェスは公平なゲームです。運の要素を一切廃し、思考ルーチンを競い合う――」

『不公平じゃん。どんなに公正でも、打つプレイヤーに差があるんだから』

『――』

「――」

 当たり前の事、と呆れながら言うジナコ。

 ――ルールはどこまでも公正。

 しかし、打つ二人の“実力”に差がある以上、そのルールは不公平なのだと。

「――個々のテクニックに差があるのは当たり前です。だからこそ――」

『鍛える、ッスか? 鍛えても埋まらない差はあるよ。シンジさんクンは五歳の頃から。ダンさんだって経験は長いって言ってた。これが現実ッスよ』

 どんなものにも存在する、明確な差。

 才能という言葉が脳裏を過ぎる。努力で積み立てても決して届かない、埋められない差の代表だ。

 生まれ持ったそれが、或いは努力で積み上げられる限界を超えているのだとしたら――

 だからこの世に平等なものなど存在しない。それが“普通”の立ち位置から俯瞰で物事を見つめてきたジナコが至った答え。

『システムが完璧なほど、テクニックの差は顕著になる。真に平等なゲームなら、素人が玄人に勝てるルールじゃないといけない』

「……」

『なのでそんな出来レースにジナコさんは参加しませーん。ラニさんはそこでズルして勝ち誇るキャラでいてくださーい』

「……ジナコ=カリギリ。そこまで言うのでしたら、貴女の言う公平なゲームで勝負をしましょう」

 左手に走る、僅かな電流。これは――

『んー……おけぃ。じゃ、麻雀でいいや。四人対戦、かつ運さえ良ければ素人が玄人を負かす可能性が出てくる』

「麻雀……中国の占いが基になったゲームですね。良いでしょう、では、プレイルームへ……」

『あぁ、トータルで競うもんッスから、一回二回じゃ判定は出来ないッスよね? 軽く二百回は打つとしましょうか』

 二百回。普通に考えて、連続で出来る数字ではない。

 だが、引き下がれないと見たのか、ラニは頷いた。

「望むところです。貴女の思考速度では二百局中一局たりとも勝てないと断言します」

『どうッスかね。あぁ、ハクトさん。長くなるだろうから漫画でも読んで待ってると良いッスよ。アルジュナさん。手伝ったんだから、盗んだサクラメントとお菓子、後でちゃんと返すッスよ』

 ラニは転移していく。どうなるか分からないが、とにかくジナコを信じるしかない。




ところで、CCCにてガウェインが「(チェスで)ランスロットの慇懃無礼な戦法は思い出したくない」って言っててどんな戦法だろうって気になってます。
今のところ「触った駒が自分のものになるんだろ(ナイト・オブ・オーナー)」という意見が有力です。

ジナコの持論はその体現者である慎二とダンさんの例が必要と判断しました。
具体的な敗者がいれば、説得力も強まるってもんです。

↓この四連休で書き溜めを進めるぜ予告↓
「……今回はその令呪も使えないわ。このままで、ラニと戦うしかない」

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