元々面子(有力候補)はフラン、アヴィ先生、ジャックたんだったんですよね。
しかし「一人だけ浮きすぎだし味方にしても絶対裏切るじゃん」と先生が没に、
「いや、敵でも味方でも危険すぎるよ」とジャックたんを泣く泣く没に。
そして開いた二つの枠にとりあえず王道と萌えをぶち込んだ結果、こうなりました。
浮いてるといっても先生は何故か外典男性勢では一番好きです。何言ってるか良くわかりませんけど。
今、どれ程時間が経っただろうか。
セイバーの剣戟はサーヴァント六人を相手に互角以上に渡り合っている。
いや、正確には腕の冴えではランサーの方が一枚上手だろう。
だがランサーが集団戦に慣れていないのか、セイバーが多対一に特化しているのか。
どちらかは分からないが今この状況で、とにかくセイバーが有利である事に変わりは無い。
それに、耐久力も尋常ではない。
「ナアアァァァアアアアアアァァァァ――――――――ッ!!」
咆哮するフランの戦鎚による一撃を、セイバーは左手の手甲で受ける。
同時に浴びせられる雷の魔力をものともせずにアーチャーの矢を切り払い、次いでメルトの斬撃を受ける。
両の腕を封じられたセイバーの隙を逃さず、ランサーが攻める。
これで三度目。炎を交えた槍の刺突は、確かに心臓に届く筈の一撃だった。
「惜しいな。だが、味方がいるからと力を抑えていては俺の鎧は貫けんぞ」
おかしい。セイバーはこの数十秒、既に何度も攻撃を受けている。
如何に耐久のランクが高くてもこれほど無傷の状態を、保っていられる筈がない。
何らかの特性か、或いは宝具の力か。
不死、或いは傷を受けないという逸話を持った英霊は数多くいる。
ただしそれらには何かしら、弱点もあるのが普通だ。
ギリシャ神話の不死の大英雄アキレウスなら踵といったように、ダメージが通る箇所か特性自体を破る手段があるだろう。
それを看破しない限り、勝機は薄い。
被害無しで二分持ちこたえることすら困難だ。
「っ……!」
どうするか。無策のままでは――
「今ですっ……!」
リップの巨大な爪による斬撃。それを今まで通り、手甲で防ぎ――
「ッ――ぐっ――!?」
鮮血が飛んだ。
「む――」
リップの攻撃が、通った?
つまり、今のリップの攻撃はセイバーの特性を破る攻撃だったのだ、と?
「……お前、は……」
驚愕に目を見開いていたセイバー。しかしリップはそれを好機と腕を振るう。
今度は手甲で受ける事なく、剣で攻撃を切り払う。
「……ブリュンヒルデ」
どこか確信付いた声色でセイバーは言った。
ブリュンヒルデ。北欧神話やドイツの叙事詩『ニーベルンゲンの歌』などに登場する女神にして
リップはそれとは違う英霊だ。だが、セイバーがその名を呼んだということは何か、近しいところを見つけたのか。
そして、つまりセイバーは生前、ブリュンヒルデと関係のある人物。
「いや……違う。だが、何故お前は俺の鎧を抜けられる……?」
「え……?」
攻撃をしたリップ自身、分かっていないようだった。
「まあ、いい。気にするべくもない。俺とお前が敵である事に変わりはない」
大剣を振りリップに切り掛かるセイバー。それでいて辺りに注意を怠らず、アーチャーの矢やアサシンの見えざる攻撃を冷静に対処している。
どうやら、先ほどの一撃で既にアサシンを捉えているらしい。姿は見えなくとも時折剣で空を切っている。
だがリップの一撃のおかげか多少動きが鈍っている。これならば、押し切るまではいかずとも時間いっぱい耐え切ることくらいならできる筈だ。
そんな中で一つ思い出した懸念材料。
BBがここに送ると言っていた赤リンゴなるサーヴァントのクラスはアーチャーではなかったか。
その姿が見えないということはもしかすると、どこかから狙っている可能性がある。
攻撃対象に定めるならば、咄嗟に動けない、かつセイバーに傷を与えた――
「ッ……!」
――リップッ!
背筋に寒気を覚え走る。
此方の意を察したのかランサーがセイバーに槍を突き出し、気を引く。
「ひゃっ――ふぇ!?」
「っ!? ……!! ッ……!」
標的で無くなったリップをとにかくその場から離すため、手を伸ばし引き寄せる。
メルトが恐ろしい形相で口を開いて何か喋ろうとしているが、今は気にしている場合ではない――
「ッ」
リップの頭が若干動いた瞬間、何かが頬を掠め通り抜けていった。
「見破ったか。BBが気に掛けるだけのことはある。まこと恐ろしきは洞察力と直感よな」
通ってきた通路に立つ少女。
翠緑の衣装を身に纏い、今の攻撃に使用しただろう身の丈程もある弓を易々と持っている。
獣の如き耳と尻尾。髪は無造作に伸ばされており、野生的な性質を醸し出している。
――挟まれた。セイバー一人ならばまだしも、二人となると……
「あぁ。おたく、アーチャーかい? 奇遇奇遇。それもオレと同じ、至極まともな弓兵だ」
アーチャー同士が向き合う。
「ふむ。汝もアーチャーか。同じクラスでは呼び名に困ろう。吾が
「は、無銘の狩人に名なんて聞くもんじゃねえ。オレはアーチャーで構わねえさ、アタランテさんよ」
「……ほう。それも良し。して、吾が前に立ったという事は、撃ち合う気があると?」
「おうよ。オレも狩人の端くれなんでな。最速の狩人様とお手合わせ願いたくてね」
――アタランテ。
ギリシャ神話に登場する、最速の女狩人。
生まれてすぐに山に捨てられ、
腕っ節も強くアキレウスの父ペレウスに対してレスリングで勝利したり、ギリシャ全土の英雄が集まりつつも犠牲者なしでは仕留められなかったカリュドーンの猪との戦いでも大きな手柄を立てたとされる。
つまり、ギリシャ神話に謳われる英雄の中でも高い実力を持っている。
それに加えて強力なセイバー。最悪の組み合わせだ。
「構わんぞ。どこの英霊かは存ぜぬが弓兵として呼ばれた存在。なれば相応の実力もあろう」
「期待に応えられるかは分からんが、励んで呑むとしましょうかね」
素早いアーチャーの行動による矢の射出。
狙い違わず頭に放たれた矢を、アタランテは頭を軽く動かしただけで回避する。
アタランテとアーチャー。実力はともかく、今は互角といったところか。
此方の心配はなさそうだ。では、セイバーは――
「ッ――」
リップの一撃が徐々に効いてきているか。
だが、相変わらず傷はそれだけ。リップのそれ以外は傷を受けていない。
アーチャーたちの戦いに目を向けている間に何発攻撃を受けたのだろうか。その一切を防いではいるが、セイバーは圧されている。
リップの攻撃が通るのが分かったのだろう。他は手甲で受けていても、リップの攻撃のみは剣を以て弾き返している。
後僅か。これならば時間いっぱい耐え切るのには十分だ。
ならば、残る時間で出来る事。
セイバーは僕に構うほど、余裕のある状態ではない。
そして、セイバーが背にして戦っているのは一つのアイテムフォルダ。
メルトやランサーは僕がやろうとしていたことに気付いたらしく、セイバーの気を惹くように戦う。
セイバーの隙を見て走り、アイテムフォルダを解析する。
「――?」
これは……チェスのセット?
何でこんなものが……
『準備、完了しました。サーヴァント含め全員、送還させます!』
レオの言葉と共に体に術式が組み込まれる。
振り向く。セイバーは気付いていない。どうやらこのまま何事もなく帰れるようだ。
その剣士の背中――そこにあったのは、葉の紋様。
ブリュンヒルデ。剣士。背中。葉。
それらの単語から導き出されるセイバーの真名は、一つしか思い当たらない。
転移する体。浮かび上がるような感覚の中で理解したセイバーの正体は、確かに強敵、強力な英霊だ。
だが弱点はある。それを何も考えずに突破できる箇所は、葉の紋様だけ。
時間切れか、と息を吐いて剣を下ろすセイバーは最後の一瞬、此方を見据えていた。
+
不思議な男だ。転移した跡を見て、そう思った。
言葉を紡がないのは無口という訳ではなくBBに何かしら細工をされていたのだろう。
始末しろと命じられたサーヴァントたち。その中で、一人だけのマスターという事はつまり、彼が“敵”たる存在の中心人物なのだろう。
希薄な存在感、微弱な魔力。本当にサーヴァントを御せるのかとさえ思える、三流以下のマスター。
気にするべくもないと判断し放っておいたが、彼は恐らく、判断力観察力に関しては人一倍優れている。
アーチャーの一撃からサーヴァントを守り、転移の瞬間には俺の背の“隙”を見ていた。
俺の不死性を注視するのならば弱点を見つけるのが最優先となる。
俺の場合、弱点は背の一点。
逸話はサーヴァントとなった俺の体にはその証はより鮮明に具現化している。
葉の形に広がる紋様は紛れも無く、俺の逸話の内でも恐らく最も有名な、竜の血を浴びた逸話の具現。
不死性に気付き、それをどうにかしようと思考を巡らせれば、まっとうなマスターであればその弱点を見出そうとするだろう。
背にある紋様を弱点の秘密と判断するならば、俺の真名など簡単に明かせるだろう。
唯一不死の血を受けなかった背を討たれ死んだ英雄として真っ先に思い浮かぶ真名。
「……隠すまでもないが」
「む? どうしたセイバー」
「いや……なんでもない。少々、考え事をしていた」
次にあの男と見えるとき、既に真名に辿り着いているだろう。
倒すつもりであれば、後ろを取るべく全力を尽くすはずだ。
その場合、あの男は戦いに集中を欠く事になる。俺からすれば、それは面白くない。
だが、それで仕方ないと思っているのも真実だ。
俺がセイバーのサーヴァントである以上、真正面から打ち合うのは得策ではないのは明確。一般的な思慮があるマスターならばそれも心得ているか。
戦いに対する面白味など端から持っていない。
世界中の英雄たちと刃を交える。サーヴァントとなった今でも、それに大して感慨や高揚のようなものは浮かんでこなかった。
――しかし、あの男の在り方に何かを感じた。
それだけではない。サーヴァントの中で二人、懸念すべき者がいた。
一人は、太陽の如き魂を持つ英雄。
恐らくクラスはランサーだ。辺りに味方がいるからと加減をして戦っていたと思われる。
予想するに、彼の本気は俺を凌ぐ。
劫火の槍。恐らく、本気ならば俺の鎧は貫ける。
不死性の縛りを無視して傷を与えることが出来るほどの威力を持っているのだ。
アレは類稀なる大英雄だ。
彼と刃を交えられるのならば――或いは――
「……いや」
そんな事はない。元より俺は……
「お疲れ様です。セイバーさん、アーチャーさん」
現れたBBに視線を移す。
少々、動揺しているか。何があったのかは知らないが。
「どうしたBB。不測の事態でも起こったか」
「え!? な、なんの事でしょう?」
「ふむ……大方、あのマスターの事であろ。私語を奪うことで仲違いでも期待したのではないか?」
何と浅ましい。それでいて――
「わ、私の事はいいんです! それより! 何で二人もいて、サーヴァント一人倒せないんですか?」
「そもそも、倒せる前提だった事に俺は驚いている」
「うむ。加えて、バーサーカーが向こうについていた。数で不利になるのは必然だろうて」
「くっ……! ですけど、セイバーさんには不死の能力が――」
「敵の情報くらいは伝えておくものだ。ブリュンヒルデがいるとは聞いていない」
そう。それが、懸念すべき二人目。
率直に言ってあれはブリュンヒルデではない。
だがあの力は間違いない。生前出合った彼女の槍を覚えている。
「ブリュン……あぁ、リップですか」
リップ、というのか、あの少女は。
ブリュンヒルデでなくして、ブリュンヒルデの力を持つサーヴァント。
「……失念していましたね。すみません。これは私の落ち度です」
「だが、他にも何やら女神の力を感じた。あれは何者だ?」
「貴方は知らなくても良い事です。とりあえずお疲れ様でした。暫くは自由にしていてください」
どこかに転移するBB。知らずとも良い事。とは言え、戦うにおいてあれは不明点が多すぎる。
そこは何もあの少女だけではない。あの唯一のマスターと契約していたサーヴァントからも似たようなものを感じた。
そう考えれば――あの女めも近しいか。
「――気を悪くしないでくださいね。BBも急いているんです」
噂をすれば、か。
「――ノート」
「はい。お見事でしたわ、セイバー、アーチャー。名うての英雄の力、篤と見せていただきました」
BBと非常に良く似た魔性。それでいて、決定的に何かが違う存在。
この女も、リップなる少女、そしてあの男のサーヴァントと似ている。
「見ておったのなら、多少なり補助をしても良かったのではないか?」
「それには及びません。私が力を使うべきは、彼らではありませんので」
「謀反でも起こすつもりか?」
「そんな……まさか。私は“他の子”とは違います。謀反の機会は、他に譲りますわ」
他……なるほど。この女だけではなかったか。
それらの姿は見たこともないが、相応に醜悪な存在なのだろう。
「にしても、もう少し長引くかと思いました。あわよくば、その剣の真髄を見たかったのですが」
「……何故そこまで俺の
「何故も何も。宝を見て目を輝かせない無欲な女ではありませんもの」
「渡すつもりはないぞ」
「残念」
気味の悪い女だ。そしてどこか、絶対的。
その余裕はこの場での勝者となれる事を意味する。アーチャーと共に戦ったところで、勝ち目はない。
それは経験則からの直感だ。だが、その根拠は俺自身見つからない。
何故勝てないと信じられるのか。
太陽に手が届かないのが当たり前のように、この女の勝てないのは当たり前と思える何かがある。
「破滅を呼ぶ剣。それが災厄の種にならない事を祈ってますわ」
何をしにきたのだろうか。
あの女と話すと、妙に神経が減る。出来る事ならば、あまり関わりたくはない。
「セイバーよ。暫くの暇が出来たようだが、汝はどうするのだ?」
「特段、する事もない。いずれ彼らと再び見える時のため、腕を鈍らせぬまでだ」
そうだ。特に考えることもない。
相手がブリュンヒルデと関わりを持っていようと関係ない。どうせ既に過ぎ去った生前の事だ。
あの少女の爪が鎧を貫くというのならば、受けなければいいだけの話。
契約の一環として彼らを殲滅する。それが此度、俺が引き受けた命なのだから。そこに一切の私情を挟むこともない。
ノート「それと、その鋼の肌も美しい。少しでいいので、くださいませんこと?」
セイバー「何を言ってるんだお前は」
CCC、外典の二種で扱われているセイバーと、ブリュンヒルデの関係ですがこの作品での扱いを書いておくと
・セイバー自体は外典設定、つまり『ニーベルンゲンの歌』準拠
・しかしリップに組み込まれたブリュンヒルデはCCC設定
・よって、ブリュンヒルデは『サガ』、及びワーグナー『ニーベルンゲンの指輪』準拠
・ブリュンヒルデ→セイバーという一方的な憎悪完成
・何で俺恨まれてんの
という事になってます。
攻撃が通った理由に関しては、まあお察しです。
不死の概念より嫉妬の概念は強いんでしょう。多分。なんだこのめんどくさい関係。
ところでハクは戦闘中で絶えず腕動かしてるだろうリップを引き寄せる時……どこに触れてたんでしょうね。
なんでメルトは恐ろしい形相で何か喋ろうとしていたんでしょうね。
↓書いてから「…何書いてるんだ?」と自分の正気を疑った次話予告↓
「……僕はメルトが好きだよ」