Fate/Meltout   作:けっぺん

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カレンの槍は兄貴のじゃないです。
心臓狙う発言が誤解を招きましたね、すみません。
これはオリジナル宝具となります。
詳細は少しずつ分かっていくかと。


Needless?-2

 

 

 突き出されたその槍は、先ほどと同じように魔力の刃で防がれている。

 破談。だがノートは笑みを崩さない。

「上手く扱えなければ宝の持ち腐れでしょうに。あぁ、本当に勿体無い」

「だからと言って貴女に渡す義理もないです」

 宝具だろう槍を一切受け付けないノート。これがカレンの全力であるというのならば、既に決着しているようなものだ。

 ノートは全力を出していない。その気になれば、簡単にカレンを殺せるだろう。

 それが目的だというのに何故そうしないのかは分からないが、今のノートは遊びに等しい感覚だ。

 ノートが敵だというのなら、カレンを手助けしなければならない。だが、そうしても勝ち目はゼロ。一体どうすればいいのか。

 一つ可能性があるとしたら、それは先ほどから疼く左手。五停心観による、SGの摘出。

 凛やラニのようにエゴの体を使っているのだとしたら、それを抜き出せば一先ずは解決する。

「この際、始末は後です。先にその槍の所有権は頂きますよ」

 妄執的に見据えたものを手に入れようとする欲。

 一か八か。このSGは――

「あら……?」

 五停心観が働き、体は動かないながらその力は発揮される。

 ノートの胸から抜き出た欲の塊は、僕の傍まで来ると硝子のように爆ぜた。

 ――蒐集癖。

 ノートのそれが何に対するものなのかの詳細は不明だが、ただひたすらに何かを集めようとする欲。

 カレンの槍を欲していたところから、恐らく“武器”か“宝具”というカテゴリなのだろう。

「……今のが、秘密を抜かれるという事……本当に体から何かが抜けてしまったような感覚ですのね」

 SGは抜く事が出来た。だが……

「……分身じゃないわね」

「え……」

 メルトはまるで、はじめから分かっていたかのように言う。

 分身ではない。つまり、SGを抜いたところでノートは消滅しない。

「えぇ。ですが……自分に出来る事を探り実行しようとしたのは正解です。さすがはセンパイ」

 言って、ノートは傘を下ろした。

「特別です。センパイの頑張りに免じて、今回は手を引きましょう」

 床から伸びる影が、ノートを包んでいく。

 それは表側の校舎で見たノイズに良く似ていて、BBと関与していることを決定付ける現象になっていた。

「その槍はついでです。あくまで本命は貴女の始末という事を、ゆめお忘れなきよう」

「……」

 カレンはそれに、無言で返す。

「あぁ、この事は内緒ですよ? 皆さんに手は出したくないので」

 その言葉を最後に、ノートは影に沈んでいった。

 他の皆にこの事を言うな。言ったのならば始末の対象を広げなければならない。そう言っているのだろう。

 ノートは多分、戦闘を好んではいない。だが敵であるのならば、かなりの強敵である事は確かだ。

「……どうするべきなのかな」

「黙っておきましょう。あれは危険よ。敵対するのならしっかり準備をしておかないと」

 メルトがそういうほどの敵……一体何者なのだろうか。

 カレンは槍を仕舞うと、埃を払うように服を叩く。

「さて……何でわたしがハクトさんを知っているかでしたか」

「え?」

「……? 違うのですか?」

「いや……切り替えが早かったから」

 何事も無かったかのようにカレンは切り出した。

「合理的でしょう。特段気にする程のことでもないので」

 今の今まで命を狙われていた――現在進行形なんだろうが――者の言葉とは思えない。

 そんな出来事を気にする程のことでもないと言ってのけるカレン。何を根拠にしているのだろうか。

 戦闘能力……確かに、通常のAI以上ではあるしどんな経緯で手に入れたかは知らないが強力な宝具を持っている。

 だが、力の一端を見ただけで分かる。カレンがどれ程強くても、ノートには勝てない。

 そう確信できる強大さを感じ取れたのだ。

「ですから、ハクトさんも気にしなくて構いません。あのサーヴァントがいる事だけを留意していてください」

「あ、あぁ……」

 ノート自身も皆に話すなと言っていた。

 僕だけが知った上で、それを警戒しておけという事か。

 では、ノートに関しては追々考えていくとして、まずはカレンについてだ。

「質問の答えですが……」

「……」

「すみません。忘れました」

「は?」

 平然と、カレンは言った。

「貴女……本当に……」

「め、メルト、抑えて……」

 今すぐにでもその膝の棘を突き立てんばかりのメルトをとりあえず抑える。

 だが、これは僕自身も納得がいかない。

 AIに忘れる機能は果たしてあっただろうか……

「それでカレン……忘れたって……」

「はい……どうやら、さっきの方にまんまと論理回路(ロジックサーキット)を乱されたようですね」

 要するに、ただ攻撃しているだけではなかったノートによって記憶の錯乱が起きているらしい。

 ならば仕方ない……とは思いたいが、どうにも信じがたい。

「……本当に?」

「信じれば救われますよ」

「申し訳程度のシスター要素ね……」

 まぁ話せないなら話せないで説明を強いる必要は無い。

 追々、思い出せばそれで良し。そうでなくても、表側に戻ればカレンとの関係性は分かるだろう。

「ともかく……今のわたしではお力になれそうにはありません」

「あぁ……まぁ、良いんだけど――」

 その時、携帯端末が大きな音を上げる。

 レオからの通信だ。催促だろうか。

「レオ、ごめん。今すぐ行くよ」

『いえ、構いませんよ。カレンさんの位置反応がハクトさんの傍で妙な速度で移動していたので不思議に思っただけです』

「あ……うん。大丈夫だよ」

『なら良いのですが……では、早めに来てくださいね。あぁ、カレンさんも連れてきてください。状況の確認が必要ですので』

「分かった」

 レオとの短い通信を終える。

 大分遅れてしまったらしい。早く生徒会室に行かなければ。

「カレン、状況の確認があるから、生徒会室に来るようにって」

「そうですか。では行きましょう」

 

 

 生徒会室には、既にメンバーは皆揃っていた。

 相変わらずメンバーではない慎二、ありすとアリス、ジナコ、キアラさんは来ていない。ジナコは通信で参加しているんだろうが。

 ガトーもいない。前回の事件で迷宮入り口の監視をしているらしいが通った形跡はないという。

 どこかで修行でもしているのだろうか。まぁガトーはいないほうが話し合いも捗るか。

 そしてあと一人。昨日迷宮で出会った黒鎧の男性がいた。マスターは見当たらないが、保健室だろうか。

 だとしたら、桜がここにいる以上容態は安定しているのだろう。

「おはようございます、ハクトさん、カレン。それでは全員集まったところで、状況の整理と確認をしていきましょう」

「まず始めに……カレンと言ったか。何があった? 普通AIがあんな迷宮に居る事なんてないだろう」

 ユリウスの疑問はもっともだ。

 あの場にAIがいる事。それがそもそもの問題だった。

「いつの間にかいた、というのが正しいでしょうか。わたしは気付いたらあの迷宮……ハクトさんと会ったのが四階でしたか? でしたら二つ下……六階にいました。それ以前の記憶はありません」

 六階……そこからカレンは上ってきたのか。

「記憶がないって……アンタAIじゃないの? 忘れる機能なんて持ってないんじゃ……」

「はい。ですから、ムーンセルに作られ、最初に転送されたのが迷宮と考えるのが妥当でしょう」

「ふむ……ムーンセルはこの事態を感知していないのでは?」

「その辺りは、わたしでは何とも。ムーンセルはわたし達AIにとって最高存在。おいそれとその意思を聞くことはできません。桜、何か知ってることはないんですか?」

「……ごめんなさい。私も知っている事はありません。第一、何かを知ってたら皆さんにお話ししているでしょうし」

 カレンが何故あの場所にいたのか。それは分からない。

 そして、ムーンセルがこの事態を感知して対処をする可能性は低いと見える。

 カレンは桜がいる以上存在できないAI。桜が月の裏側に落とされたという結果から生まれたのかもしれないが、だとしたらカレンは表側に存在する筈でやはり裏側に来る理由がない。

 ならばカレンもBBによって裏側に落とされた、と考えるべきか。その際に記憶を消されたと。

「では、それについては一旦置いておきましょう。次ですが、六階から下りてきたとのことですが、敵性プログラム等はどうしたのですか?」

「わたしは異常がなければ存在できないAIなので、自己保存の為の戦闘能力は持ち合わせています」

 これについては、先ほど説明を受けた。

 あの槍は確かに強力な宝具だ。ある程度の敵性プログラムくらいだったら十分相手に出来るだろう。

「敵性プログラムの相手が出来るという事は……少しの時間だったらサーヴァント相応の力も発揮できると?」

「Eランク程度ならば。どうやら、ムーンセルはわたしを作るにおいて何らかのサーヴァント情報をわたしに再現したようです」

「サーヴァント情報を……再現?」

「はい。サーヴァント一体の力を持っているという事です」

 なるほど……自己保存の為に擬似サーヴァントとなっているのか。

 宝具情報を含めて再現されているというのなら、カレンに含まれているのはあの槍を持っているサーヴァントだろうか。

「そのサーヴァントの正体は分からないのか?」

「残念ながら。それに、戦闘に関するスキルも殆ど持ち合わせていません。多分戦闘の逸話を持った英雄ではないのでしょう」

「そうですか。出来る限り分かっているサーヴァント情報を開示して欲しいのですが……」

「構いませんよ」

 言って、カレンは自分の情報を話してくれた。

 一応何かの役に立つだろうと、端末にも記録しておこう。

 

『クラス:--

 真名:

 マスター:--

 宝具:

 ステータス:筋力D 耐久E 敏捷C 魔力E 幸運E

 

 スキル

 ???:?

 ???:?

 心眼(偽):C』

 

 どうやら記憶の障害はサーヴァント情報にも発生しているようで、判明したのはステータスとスキル一つだけだ。

 ステータスは本当に低水準で、敏捷が若干秀でている程度。

 そしてカレンが言うには、これがサーヴァントそのもののステータスらしい。

 戦闘に関する逸話を持ったサーヴァントではないという憶測は正しいのだろう。

 敏捷が秀でている事から見るとやはりランサー……だろうか?

 クラスも分からず、更に宝具が分からないのは致命的か。

 槍に関しては、ここで追求しないほうがいいだろう。ノートとの戦いはレオ達に話すわけにもいかない。

「宝具はよく分かりませんが、数は二つ。いえ、実質一つですね」

「……? どういう事ですか?」

「一つの使用法が分かりません。まぁ、どちらにしろ戦闘ではロクに使えないものらしいですが」

 ……? 槍は説明しないにしろ、宝具として数えられるのではないのか?

 槍という形状があるのなら戦闘用なのだと思うのだが……

「宝具情報やサーヴァントの真名は思い出し次第、教えてください。では次ですが――」

 カレンについての情報はこれ以上分からないと判断したのか、別の話題に切り替える。

 その視線は先ほどから沈黙を貫いている黒鎧の男性に向けられた。

「えぇ……何とお呼びすれば?」

「ランサー……否、真名を隠すまでもあるまい。我が名はヴラド・ドラクリヤ。生前はルーマニアを統治していた」

 真名は秘匿するべきものでもなく、誇るべきもの。そう判断するサーヴァントもいる。

 どうやら、この黒のランサーもその一人らしい。

「ドラクリヤ……ヴラド公ですか」

 ヴラド三世。ヴラド・ツェペシュとも言われるワラキア公。

 その勇猛さと優れた軍略で強大極まるオスマントルコから領土を護り抜いた英雄。

 一方で苛烈な戦法と、生涯行い続けて十万を超える犠牲者を出した彼の代名詞たる串刺刑から名付けられた名は串刺公。

 ルーマニアでは英雄ながら、世界的な風聞では悪名なのだ。

 アイルランドの作家ブラム・ストーカーの代表作、「ドラキュラ」のモデルとなり、以後は伝説以上に怪物として名を広めていった。

 この男性はそんな怪物の代名詞、その原型らしい。

「それでヴラド公、貴方はこれからどうするつもりですか?」

「分からぬ。とにかく今は妻が回復するまで傍に控えるのみだ」

 妻……というのは状況からしてマスターの事か。

 何故そんな呼び方をしているのかは分からないが特別な事情があるのだろう。

「そうですか。では僕たちに協力してもらえるかは貴方のマスターが復活してから彼女自身に聞くとしましょう」

 そもそもあのマスターは女性だったのか、と今更ながら思う。

 長身のピエロのマスター、というだけでは性別すら分からない。声も聞いてなかったのだから仕方ないか。

「カレン、貴女はいつ彼らと?」

「四階で……ハクトさんに会う少し前ですね。ガトーさんと共にいましたが……」

「うむ……何やら我らが神の名を叫んでいたのでな。だが思うに、あ奴は多宗教らしいな」

 多宗教……というよりはごった煮なだけなのだが。

 その本人がこの場にいないのだ。実体を問うこともできない。

「さて……これで今確認すべき情報は終わりですね。カレン、都合が合えば生徒会に手を貸してほしいのですが……」

「そのつもりです。ですが、もう少し休ませてもらっていいですか? どうにも霊子が安定しないようです」

「変ですね……サーヴァント情報の挿入という負荷のせいでしょうか。保健室のリソース、貸しますか?」

「大丈夫でしょう。多分。では、ある程度安定したらまた来ますね」

 カレンは一礼すると、去っていく。

「では、オレも妻の下へ戻らせてもらう。サクラ嬢、此方の活動が終わったら手を貸してもらいたいのだが……」

「はい。容態も安定しているので、此方でのお仕事を優先させてもらいますが……」

「構わない。では、よろしく頼むぞ」

 妙に会話が成立していない気もするが……ランサー――ヴラドもカレンに続くように部屋を出た。

「戦力は増えました。これで一層、迷宮攻略が早くなれば良いのですが……今はとにかく、現状のメンバーで行くしかありませんね。ハクトさん、兄さん、サー・ダン。よろしくお願いします」

「分かった」

「では、俺は四階の再探索を。アサシン」

「うむ。警護は任せておけ、ユリウスよ」

「儂らも行くとしよう。アーチャー、用意はいいな?」

『言うほどの用意もねぇけどな。戦うなら戦うで、防衛戦がオレの真骨頂なんだがねぇ……』

 ぶつくさと文句を言いながらも、姿を消したままアーチャーはダンさんに続いていく。

 アサシンは相変わらず、ただ姿を消すとは違う何かの状態のまま、ユリウスと共に生徒会室を出て行った。

 万全を期するため、三人がかりでの迷宮探索となっている。その一番先にいる僕が遅れる訳にもいかない。

「行こう、メルト」

『えぇ。ハク、しっかりね』

 メンバーは一人増えた。そして後二人、候補が出来た。

 どうなるかは分からないが、とりあえず迷宮攻略が優先だ。

 迷宮五階。ラニの二つ目の迷宮……何が待ち受けているのだろうか。




カレン「行きなさいランサー。必殺の回転して突撃する蒼い槍兵(ブーメランサー)です」
兄貴「ちょ、待て待て待て! ようやく登場かと思ったら茶番でしかも何でそんな役割なんだよ!」
カレン「いいから、行きなさいランサー。相棒が待ってますよ」
兄貴「いや、だからぁ……!」
カレン「いいから」
バサカ「■■■■――――!」
兄貴「のわああああぁぁぁぁ!」
ハク「ランサーが死んだ!」
メルト「グッジョブカレン!」

この場で言っておくと兄貴は本編では出ないです。
茶番で専らいじられ役となります。

そんな訳で、カレンについての詳細とノートのSG、ヴラドについての三本でお送りしました。
カレンとヴラドについては消耗しているので、五階の話では関与してきません。
まぁカレンと絡ませたいイベントではあるんですがね。
それとサクラ迷宮は下に降りるごとに階層の数字が増えてくんですね。特に気にする事でもないのでいいんですが。
カレンに組み込まれたサーヴァントについては今のままでは正体を探るのは難しいと思います。ヒントもクソもありませんし。

↓今日中に二章の執筆が終わりそうです予告↓
『え、何、レオ君ってそっち系なの?』

あのイベントですが何か。

何か。

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