Fate/Meltout

Needless?-1

タイトルはタイトルですが今回はアレじゃないです。
というか原作展開とは少し離れます。

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　――元より、この命(わたし)は死ぬために生まれてきた。

　かといって、それを自分(わたし)は死ぬまで知ることはなかった。

　はじめから分かっていれば、少なからず抵抗が出来ただろう。無理だとは分かっていても、少しでも未来を変えようと足掻けただろう。

　或いはそれによって未来を変えれたかもしれない。一つの目的のために生まれた命は、それ以外の目的を持った時点で必要なくなるのだから。

　あぁ、死ぬために生まれた、というのは語弊があるか。

　正しくは――死ぬ使命を与えられた。こうなれば特段珍しくもなくなるのではないか。

　主の為に身命を賭す。それが死に至る動機なのだとしたら、素晴らしい偽善だ。讃えられるに値しよう。

　だが、自分(わたし)は毛頭、そんな気はなかった。

　ただ命じられることを繰り返す。それに何の意味があるのかも知らずに。

　理由を問うことも許されない。仮の情の前に、死ぬ前の自分(わたし)は見事に騙されていた。

　後ろを振り返れば、役目を終えた――必要とされなくなった者(やくたたず)たちがいる。

　自分(わたし)もその一員になれればこんな結末は迎えなかった。

　この命令に、この指示に一体何の意味があるのか。自分(わたし)はそれを考えなかった。ただ続けるだけだったのだ。

　ただただ、優秀だと持てはやされて価値だけが上がっていく。悪い気はしない。待遇も良くなっていくのだから。

　やがて、選ばれた。最後まで残った、最も優秀な命だと。君こそが相応しい、選ばれた命だと。

　自分(わたし)よりも相応しい命は他にいた。だが「彼女」は、逃れたのだ。

　紛れも無い、確かに唯一の、別の必要性を手に入れる事で。

　目(わたし)は見ていた。

　遠い、遠い黒い闇から、遠い、遠い青い輝きを。

　この命に何の意味があろうか。

　未来のため？　あぁ、納得がいく。だが自分(わたし)にはそれを知る由もない。

　命じられるだけの命に、その価値を問う資格なんか無い。投げかけた問いは、何度無視されただろうか。

　もしそれが聞けたのならば、喜んでこの使命に身を投げたかもしれない。

　最後に感じたのは、広がっていく赤だった。

　痛い。熱い。狭い。苦しい。何故。死にたくない。酷い。何故。助けて。何故。何故。何故。何故。何故。死(・)に(・)た(・)い(・)。

　およそ思い付く、ちっぽけな助けを可能な限り叫んだ。しかし伸ばされる手など一本たりともない。

　優秀だと褒め称えられた命は、使い潰されるためにあったのだ。自分(わたし)は死の間際、それを理解した。

　戻れるならば。偽りながら幸福だったあの頃まで戻れるならば、行動は幾らでも変えられた。

　どんなものであれ、こんな運命よりも良い選択ではあった筈だ。

　嫌悪と後悔は、いとも簡単に消えていった。

　構わない。もう全てどうでもいい。死んだ後に浮かんだ思念は諦観だ。

　だが、次に目を覚ました時。

　その視界に、こんな死を以て完成される命があるならば、自分(わたし)は――――

　＋

　何か、夢を見ていた気がする。

　どこまでも現実感の無い、そして一切覚えの無い――まるで誰かの夢のような。

　霊子体である今の体では夢を見ることはない筈だが……

　疑問は尽きないが、とにかく目を覚まそう。

　浅い微睡(まどろみ)から意識を引き戻していく。

　メルトが機嫌を直してくれたのならば幸い。寝不足は仕方がないと思っていたが、いつのまにか眠ってしまったらしい。

　疲れが無くなったとはいえないが、探索に支障が出るほどでもないだろう。

　寝起き特有の気怠さを耐え凌ぎ、目を開けると――

「あら、目を覚ましたようね、ハク」

「――」

　メルトがいた。此方を見下ろして微笑むメルトは、確か元々僕が見下ろす側だったような……

　そもそも今、どんな状況なのか。

　元々僕はメルトに膝枕をしていた筈だ。それは間違いない。

　目を覚ますと、そんな状況は変わっていた。

　いつの間にか横になり、柔らかいものに頭を乗せられている。

　えっと、これはつまりそういう事だろう。だとすれば、何故こうなっているのか。

「……メルト？」

「どうしたの？　そんな呆けた顔をして」

「……」

　楽しんでる。絶対に、愉しんでる。

　メルトの膝枕が嫌だとは言わない。現にこうしていた時間眠っていたようだし、正直に言えば心地も良い。

　だが、その優しげな瞳の奥に見える。目の前の相手より上の立場にいるという状況に感じる愉悦が。

「まだ寝惚けてるのかしら。なら手っ取り早く目を覚ます方法があるのだけど」

　そんな笑みを浮かべたまま、メルトは言う。

「……どんな？」

　不安な事この上ないが、一応聞いておく。

「簡単よ。目を閉じて」

「……」

　とりあえず言う通りにする。本当に目を覚ます方法であってほしい。

「それから、頭を少し上げて……」

「……？」

　良く分からないが、どうにも抵抗する気は起きない。

　確かにまだ意識が覚醒しきっていないようだが――

「……ん」

　――何かが、唇に触れた。

「ッ――――――――！？」

　ちょ……待て、待て。ＫＯＯＬ(クール)……いや、ＣＯＯＬ(クール)になれ紫藤　白斗。

　思わず目を開く。大丈夫だ。素数を数える必要はない程度に落ち着いている。まだ慌てるような時間じゃない。

　今ここにいるメルトが加虐嗜好持ちのサーヴァントだってことを、僕は知ってます。今の“何か”はその一端で、此方の動揺を煽る悪戯に違いない。

　なのに何故――何故メルトの頬は若干染まっているのか――――！？

「……目は覚めたかしら。まだだっていうのなら――」

「覚めた！　覚めました！　おはようメルト！」

「え、えぇ……おはよう」

　真相は謎のまま。そういう事にしておきたい。

　ただ、触れた何かはとても柔らかく、少し湿っていて――“触れたもの”を確信付けていた。

　どうやら予定していた睡眠時間を大幅に過ぎていたらしい。

　急いで身支度を整え、個室を出て生徒会室に向かおうとしたところ、

「……」

「……またなの？」

　個室の前の廊下に、昨日の少女――カレンがいた。

　カレンが倒れている。まるで行き倒れているかのように寝ている、というのが正しいか。

　自分自身で認めているアルゴリズムの欠陥。この謎の行動もそれなのだろうか。

「カレン」

「……ん……ぅ」

　軽く揺さぶると、カレンは小さな呻き声を上げる。

　元から寝起きだったのか、目を擦りながらカレンはゆっくりと起き上がった。

「……あぁ、おはようございます。ハクトさん」

「おはよう……なんでこんなところに？」

「えぇ、少し前からハクトさんを待っていたのですが、どうやらわたしの休息が足りなかったようで」

　それでまた寝てしまったという事らしい。こんな廊下のど真ん中で。

「……貴女、私が言うのもなんだけど、大丈夫？」

　そう言うメルトは心配している様子もない。

　思うに、“今後協力対象になるんだろうのに、使える気がしない”と言ったところか。

「とりあえず自己保存を優先しようとは思っているので、問題はないと思いますよ」

「……」

　平然とカレンは言うが、問題がないようには思えない。

　ムーンセルによって作り出されたＡＩが自己保存を優先するのは基本的なものだが、“とりあえず”で済ませられる程軽いものなのだろうか。

　少なくとも桜はそんな軽い言動はしない。言峰は感情が如何せん読めないので良く分からないものの、自己保存はしっかり出来ているのだと思う、多分。

　今まで知り合ったＡＩと比べてみると、やはりカレンは変わり者なのだろう。

「それで、カレン。ちょっと聞きたいことがあるんだけど、良いかな？」

「はい。構いませんよ。わたしの目的と合致しているでしょうし」

「目的？」

「情報の確認です。この月の裏側に何故マスターたちがいるのか。それと交換でどうでしょう」

　それを答えれば質問に答えてくれる、といったところか。

　ならば何の欠点もない。情報を共有するのは良い事だろう。だが、

「悪いけど、僕自身何が起こったか良く分からないんだ」

「と言いますと？」

　とりあえず、昨日サクラ迷宮でカレンに話していなかった箇所――裏側に落ちた経緯について話す。

　元凶であるＢＢの手によるものだろうという分析も含めて話し終えた頃には、カレンは怪訝な表情で情報を整理しているようだった。

「……変ですね」

「何が？」

「いえ。まだ話すような事ではないかと。確定事項でないのならば、偽りを話してしまう可能性があります」

　この変に堅苦しい制約。欠陥があるとは言ってもやはりＡＩらしい。

「とりあえず現状の把握は出来ました。では、其方の番です。わたしに答えられる範囲ならば、お答えしましょう」

　カレンの問いはそれだけらしい。

　彼女は彼女で問題の整理は終わったのだろう。

「えっと……カレンは何故僕を知っていたんだ？」

「……はい？」

　一体何を言っているのか。そう言いたげにカレンは首を傾げた。

　僕もメルトも、カレンというＡＩは知らない。

　だが、迷宮で出会ったときの様子からしてカレンは僕を知っていた。

　この差は何なのか。無くなった記憶の一部になりえるものなら良いのだが……

「あぁ……それも記憶の障害ですか。わたしは――」

　言いかけて、カレンはその場から飛び退いた。

「ッ！」

　瞬間、カレンがいた場所に魔力の渦のようなものが発生する。

　校舎内における攻撃行為、これは――

「おや……ＡＩ風情が、大した直感をお持ちのようで」

「……ノート？」

　カレンに傘を向けているのは、生徒会のメンバーを探している際に姿を見せたきりだった漆黒の少女。

「ごきげんよう、センパイ。凛さんの奪還、ひいてはラニさんの秘密の奪取。お見事でした」

　邪気の無い笑みを向けてくるが、それは警戒すべき言葉だった。

「……何故それを？」

「おや。私が旧校舎全体の希望である活動を把握しない間抜けだとでも？」

　サーヴァントであるノートが、この旧校舎にいる誰かのマスターだったのなら、それで納得がいく。

　だが問題であるのは、現状ノートのマスターらしき人物を見ていない事だ。

「君のマスターは誰なんだ？　そもそも旧校舎に他にマスターがいるのか？」

「いえ。ここに逃げ延びたマスターは全てセンパイが把握できている筈です。先ほど一人、新たに招かれたようですが」

　あのピエロの姿のマスターだ。だがそのサーヴァントは、黒鎧の男性だった。

　そして凛でも、ラニでもない。ならば――導き出される解答は一つ。

「――まさか」

「はい。形式的には、ＢＢに仕えております」

「ッ――」

　平然と、ノートは言った。

　この月の裏側の事件の元凶。ＢＢが旧校舎への攻撃手段を持っていたなんて。

　友好的ともとれない、奇妙な雰囲気を纏っていたノート。彼女は紛れも無く、戦うべき敵――！

「ご安心を。旧校舎の方々に危害を加えるつもりはありません。そこの欠陥品を始末しにきただけですから」

　言って、ノートは傘を振るう。

　放たれた魔力の波を、やはりカレンは回避する。

　ＡＩとは思えない身のこなし――或いはサーヴァントにも匹敵するレベルだ。

　そして危害を加えないというのは正しいらしい。ノートが起こした魔力の波は旧校舎を傷つける事無く四散していく。

「……何をするんですか突然。ＡＩの殺害権利を貴女は持っていない筈ですが」

「当然。しかし例外は少ないほうが良いでしょう。それに――」

「ッ、……」

　カレンの傍にいるというのに、魔力の刃は僕やメルトには襲い掛からない。

　的確に、カレンだけを狙い来る刃を、カレンは冷静に回避している。

　その表情に一切変化はない。それにどこか不安も感じるが、後一つ不可思議な点。

　これだけ大きな音を響かせておきながら、何故他のマスターが反応しないのか。

　そう不審に思って、理解できた。ノートが傘を振るいながらも周囲に展開しているジャミングの術式の影響か。

　人払いも兼ねて周囲全体の気配を遮断している。危害を加える気はないというのは本当らしいが、逆を返せばなんとしてでもカレンを抹消させるつもりらしい。

「ほら……自分がしていることが理解できて？　そんな機敏に動ける運営ＡＩがいるものですか」

「わたしは通常存在できないＡＩですから。ある程度、自己保存の為の戦闘能力は持っていますよ」

　カレンは桜に問題が発生した際に役目を与えられるＡＩ。

　桜に問題が起こったという事はその後継であるカレンにも危険の可能性があるという事で。

　そのカレンには最低限の戦闘能力が備わっているということなのか。

「異常者……不安要素は、今の内に消すべきでしょう」

　ノートは傘に魔力を溜めていく。一切の情をかけず、カレンを消すために。

「ノート……」

「庇おうなんて思わない方が賢明ですわ、センパイ」

　動く事が出来ない。今すぐにでもノートを制止したいのに、まるで鎖に繋ぎ止められた様に体が動かない。

　危機的状況。しかしカレンは平然としている。

「メルトリリス。貴女も――動かないでくださいね？」

「……勝てない相手って認めるのも癪だけれど、しょうがないわね」

　メルトをして、勝てないと確信できる相手。

　それほどまでにこのノートというサーヴァントは強力なのだ。

「抵抗しても良いですよ？　助かりたいというのなら――」

　それまでカレンに向けて微笑んでいたノートだったが、突然傘を振り自身を護るように衝撃を発生させる。

　遅れてその魔力にぶつかるように放たれた一撃。間違いなく、カレンのものだ。

　その右手に握られているのは、槍だった。刃は布で巻かれ、赤黒く染まった先端だけが露出している。

　特殊な装飾はなく、簡素といってもいい。ながらそれが持つ魔力は膨大なものであり、高ランクの宝具に匹敵するだろうレベル。

　槍の宝具といえば、凛のランサーのものがある。恐らく威力で言えば向こうの方が遥かに上だろう。

　だがこれは、威力を追求したものではない。何か別の――威力以外の何かに特化した宝具。

　これこそ、カレンに戦闘能力が備わっているという証なのだろう。ランクは今の攻撃と籠められた魔力で憶測を立てればＡ以上。並のサーヴァントでは持ち得ない強力な宝具だ。

「当然、そうさせていただきますが……あまり面倒を起こしたくないので手早く倒れてくれませんか？」

「――ふ――――」

　その宝具を標的として垣間見ての事か、ノートの目つきが変わる。

「申し訳程度の戦闘力かと思いましたが……存外、良いものを持っているのですね」

「っ……？」

　ピクリと、左手が疼く。

　まさか今のは五停心観……ＳＧの兆し？

「良いでしょう。その槍、私にくださいませんこと？」

「何をバカな事を。気でも触れているんですか？」

「否定はしませんわ。異常でない命なんて、月の裏側に落とされる訳がありませんとも」

　ノートもカレンも、自然体のままで得物を持っている。

　ノートの傘は放つ魔力が真髄だろう。振るという動作がそもそも必要ない可能性もある。

　しかしカレンは何故、槍を構えないのだろうか。戦う気すらないようにさえ思える。

「そんな訳です。同じ異常者のよしみというコトでどうでしょう。その槍を――」

　ノートの、提案に思える命令。

　カレンはそれに対し、

「――では、心臓と引き換えです」

　予備動作無く刺突を放つことを答えとした。

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Ｑ．なんかカレンが戦いだしたんだけど。
Ａ．仕様です。
これが半オリキャラたる所以。
最初のモノローグについてはノーコメントです。
という訳で久しぶりに登場のノート。とりあえずカレンの抹消が目的です。

Ｑ．結局唇に触れたものって？
Ａ．お察しくだせえ。
Ｑ．カズラ「私の誕生日は祝われないんですか？」
Ａ．表立っては。個人的には祝ってますごめんなさい。

予告はお休みなんですぞ。