アリアのアトリエ~ザールブルグの小さな錬金工房~ 作:テン!
ガンッガンッガンッガンッ
アトリエの中で何かを叩きつける音が響く。
それは槌で魔法の草と呼ばれる草を、アリアが叩き潰している音だ。ある程度の広さがあるとはいえ、外に音が漏れないよう小窓さえも閉めきった室内では音が響く響く。その騒音がどれだけのものか、推して知るべし。
「『緑の中和剤を作るには、まず満遍なく叩き潰し汁を絞りやすいようにする。できるだけ丁寧に叩き、汁を飛び散らせないようにすること』」
アリアは参考書の内容を口の中で反芻しながら、その手を休ませることなく動かし続けている。壺の中に入れた細長い緑色の草は、みるみるうちに叩き潰され、もはや原型をとどめていない。
額には汗が浮かび、黒髪が張りつく。
「ふう……」
魔法の草もだいたい叩き終わり、作業に一区切りがついた。アリアは一息入れ、額の汗を拭う。
ここで壺の中に汗を落としたら一巻の終わりだ。せっかくの調合物が使い物にならなくなるので、汗を拭うだけでも注意しなくてはいけない。
次に魔法の草の残骸をきれいな布で濾し取り、力を込めて一気に絞る。ボタボタと緑色をした草の汁が、壺の中へと落ちていく。
壺の中に緑色の液体が満杯までたまると、アリアは布を開き中の――もはや元は何だったかよくわからない残骸をゴミ箱に捨てた。
「さて、ここからが大切だ」
液体の中に細い棒を突っ込み静かにかき混ぜる。
このかき混ぜる速さが重要で、早すぎても遅すぎても質が悪くなる。
そしてなによりも重要なのが……。
ゆっくりとアリアの持つ棒から淡い光がつたって液体へと落ちていく。それを、混ぜ込むようにかき混ぜるとゆっくりと液体自身も輝きはじめる。
淡い光が完全に緑の液体に移れば完成だ。
「よし、今回も成功したな」
中和剤(緑)の完成である。
中和剤(緑)を容器に移し替え、コルクでふたをする。
中にゴミが入らないよう密封すれば、中和剤は劣化しないので半永久的に保つ…………らしい。さすがに試したことがないので、本当なのかどうかわからない。参考書に書いてあるので、おそらく本当に保つのだろうが、もったいないし試したくはなかった。
(さて、次は……)
中和剤(緑)を一箇所にまとめて、他の調合品の様子を見る。
大気中の魔力を吸収するように、壺に入れて魔法陣の上に置いておいたヘーベル湖の水は、程よく魔力を吸い込み、微かにだが光を放っている。時間にしてあと一刻もかからずに出来上がるだろう。
カノーネ岩という赤くて燃える石をすり潰しとろ火で煮込んだ鍋からは、泡が浮かんでは消えている。かき混ぜてみると、カノーネ岩の欠片はすでに溶けきっており、一片足りともみつからない。
それを確認してから、アリアは鍋を火の上から降ろした。
これを常温で冷ませば完成だが、よく沸騰していたそれが冷めきるまで、まだ時間がかかるだろう。
はてさて、どうしようか。ぽっかりと時間が空いてしまったぞ。
今日は中和剤の備蓄がつきてしまったので、この中和剤が出来上がるまで他の調合はできない。中和剤は錬金術の基礎中の基礎だ。これがなければ他の調合はできないほど、中和剤は様々な調合に使われる。
調合もできないし、掃除も洗濯も終わらせてしまったので、今するべきことは何もない。
今から採取? そんなの論外だ。第一、今日今すぐ雇えるそんな都合の良い冒険者などいない。採取というものは数日、もしくはどれだけ早くとも準備に一日はかかる。冒険者を雇うのも同じ事だ。
(なら、丁度良い。あそこに行くか)
そうと決めたらアリアの行動は早かった。
簡素な財布を持ち、筆記具をまとめると足取りも軽くアトリエの外へと飛び出していった。
この街、シグザール王国の王都ザールブルグには錬金術アカデミーと呼ばれる学問所がある。
本来ならば、高度な教育を受けることができるのは、貴族か経済力のある商人もしくはその子供達くらいなものだ。
これはこのシグザール王国だけではなく、他国においても同じことである。
だが、錬金術アカデミーは違う。ここでは一定以上の能力を持つものなら、身分の貴賎を問わず、金の有無を問わず受け入れる。そして、錬金術という高度な学問を学ぶことができるのだ。
騎士団と並び錬金術アカデミーが庶民栄達の場と呼ばれるようになったのも故無きことではない。
しかしながら、錬金術アカデミーに入学するためには生半可な努力では足りない。
十二分に学ぶための環境が整っている貴族の子息子女ですら、入学困難と言われているのだ。ましてや、学ぶ環境が整っていない――せいぜい読み書き計算を教会で学ぶくらいしかできない庶民の人間では一体どうすれば入学できるというのか。
方法は二つある。
一つは市井にいる錬金術士の弟子になること。
市井の錬金術士の弟子となれば、先生が良ければ入学までに必要な知識を得ることは不可能ではない。もちろん人並み以上の努力は必要となるが、それでも闇雲に勉強するよりは遥かに入学しやすくなる。
そしてもう一つがアトリエ生になることである。
これは錬金術士のコネもなく、錬金術の知識を持たない生徒に向けての救済策である。
錬金術の知識以外では成績優良なもの、またなにか一芸に秀でているものは、総合では落第点であってもアトリエ生になる道を示される。
しかしながら、その待遇は寮生に比べるともちろん劣っている。
寮や実験室といった一部の設備が利用できないだけでなく、素材の提供といったアカデミー生の特権もない。調合器具や参考書も自力で集めなくてはいけないし、途中退学した者は調合器具・参考書の類を一式返却する必要がある。
またこうした待遇差から、寮生とアカデミー生の間には深い溝が存在していた。
錬金術アカデミーの外観は、質実剛健と言えば聞こえはいいが、実際には質素極まりないものである。味も素っ気もない漆喰の壁に、実験用に最低限の整備しかされていない敷地。時間を告げる鐘だけは立派だが、これは日々使うものだからこそ良い物にしたのだろう。
見た目で舐められないためにか最低限は整えられているが、アリアには広く大きいことにだけ特化した建物としか見えなかった。
しかし、マイスタークラスのものがそこに一歩でも足を踏み入れれば、どれだけ機能的に造られたのか一目瞭然だろう。
窓の位置は素材や調合品を傷めないよう斜光の角度から考えられて配置されており、実験室はたとえ調合に失敗しても大丈夫なよう壁は頑丈で分厚い。机の位置や高さまで調合ただそれだけのために計算され尽くした位置取りをしており、見る者に執念すら感じさせる。
徹底的に余分なものを排し、実用性のみを追求し尽くしたその様には、ある種の感動すら覚えるほどだ。
しかしながら、アリアにはまだそこまでの知識はない。
だからどうしてもアカデミーを見るたび、あまりの質素さに「錬金術アカデミーなのにこんなものなのか」という拍子抜けしたような感覚をいだいてしまう。
そのかわりと言っては何だが、教室や実験室の並びは規則的で、アリアにとってとても覚えやすい。ここにきた回数はまだ数えるほどだが、今のところ道に迷ったことはない。
今回のアリアの目的地は錬金術アカデミーの図書館だ。
錬金術アカデミーには図書館が二つ存在する。
一つは入学したばかりの新入生でも使用出来るもの。
二つ目は一定以上の実力を持つものだけが入ることを許されると言われているもの。後者には、錬金術の中でも特に高度な調合が記されており、全てを理解できるのは校長一部の優秀な教師陣のみと言われている。
もちろん、錬金術アカデミーに入学したばかりのアリアでは、後者の図書館のカードキーなど持っているはずがない。彼女が向かうのは、一般の学生でも普通に使用出来る前者の方だ。
たしかに、そちらに所蔵されている図書は錬金術士にとっては基礎的なものばかりであり、そう価値の高い書籍はない。
しかしながら、アカデミーに入学したばかりのアリアにとって、そこにある知識は皆、初めて見る貴重なものばかりであり、暇があればできるだけ訪れるようにしている。
元々アリアは実際に行動する前に、事前に出来るだけの準備をしておく慎重派の人間だ。実際に調合する前に、ある程度の知識を得ておくのは当然とも言える。
しかしながら、それ以上に楽しいのだ。新しい知識を目の前にすると、歳相応の少女のように気が逸って仕方がない。他人に何度も動じにくい人間だと言われているにもかかわらず、だ。
けれど、それも仕方がないことだ。本の一ページをめくるごとに、自分の中に新たな知識が増えていく快感は、筆舌に尽くしがたいものがある。
だから多少気が逸っても仕方がない。
そう自分に言い訳するアリアの足取りは、軽やかで淀みのないものであった。
ここで話は変わるが、レイアリア・テークリッヒという少女は実はかなり目立つ人物である。
とはいえ、特に容姿が優れているとか、見るだけで不快に感じるほど醜いわけでもない。
三つ編みにした黒髪に藍色の目は多少珍しいといえば珍しいが、移民の多いザールブルグでは探せばみつかる程度の特徴だ。
では、彼女の何が人目を引くのか。
答えは単純、背が高いのである。
平均的な男性とほぼ背丈は変わらず、女性の中にあっては頭半個分は大きい。
しかもいつも背筋を伸ばして姿勢がいいので、傍目からはさらに大きく見える。
人混みの中でも歩いていると目立つのだ。人のまばらなアカデミーの廊下では言わずもながである。
もともと黒髪に青系統の色をした目は、かの王国最強の騎士エンデルクと同様に、北国出身の人間の特徴である。そして、北国の人間はどうも長身になりやすい傾向がある。
アリア自身はザールブルグ生まれのザールブルグ育ちだが、彼女の父はカリエルのさらに北から来た移民である。
その血を引くアリアは黒髪に藍色の目、しかも女性にしては長身と見た目だけならザールブルグ人というよりは北方の人間のほうが近い。
だからどこにいても妙に目立つのだ。しかしながら、逆を言えば彼女を探している人間にとって、彼女ほどみつけやすい人間はいない。
「あら、アリアさん」
声をかけられ、アリアが振り向くと、そこには真っ白の錬金服を翻し、早足でアリアに歩み寄るユリアーネがいた。
アカデミーの廊下では走ってはいけないと、足早に歩くユリアーネ。
こういう時に見せるユリアーネの生真面目さが、アリアの目にはなんとも好ましく映る。
ただし、その感情が表に出ることは極めて少ない。
今もわずかに目尻が下がっている程度。真正面に立った人間でも、その変化に気づく者はほとんどいないだろう。
「ごきげんよう、アリアさん。今日はもしかして図書館にご用事ですか?」
アリアが手に持っている筆記具を見ながら、ユリアーネは尋ねた。
まさしくそのとおりだったので、アリアは首肯する。
「私も丁度図書館に行こうと思っていたところでしたの。良ければご一緒させていただいても?」
「いいですよ」
我ながら無愛想な受け答えだとアリアは思うが、一緒に行く、という事実だけで嬉しいのか、笑顔でアリアの隣にユリアーネが並ぶ。
最初の講義で手を貸してから、どうにも懐かれたようだ。
とはいえ、素直に好意を向けられて、迷惑に感じるほどアリアの感性はひねくれていない。
好意を向けられたら、素直に自分の方からも好意を返したくなるのが人情というものだ。
年頃の乙女としては無愛想極まりない応対かもしれないが、アリアなりに好意は好意で返していた。
「…………」
ちらりと横目でユリアーネの姿を見れば、純白の錬金服が細い体を包んでいる。アリアの地味な紺色の錬金服とはまさに対照的だ。
白の服というものは、実はあまり実用的ではない。汚れやすいし、一度汚れてしまえば落とすのも大変だし目立つのだ。同等の服を何着も持っていなければ、とてもではないがすぐに着潰してしまうだろう。
そんな白い服を、調合などで汚れやすい錬金服としてユリアーネは使っている。しかも、飾り気は少ないが要所要所の意匠は凝っており、アリアの手には届かないほど高価な品であることは想像に難くない。
つまりそれだけ高価な品を惜しげも無く使えるほど、ユリアーネの実家は裕福なのだ。
豪商か貴族か、それは分からないがどちらにせよアリアとユリアーネの身分差は大きい。
もともとアトリエ生ということで、周囲の目線は優しいものではなかったが、ユリアーネと一緒に過ごすことが多くなってからは、時々「身の程知らず」と陰口を叩かれることもある。
別にそんな事実で今更態度を変えるほど、アリアの精神の糸は細くないが、「こうしてられるのもアカデミー卒業するまでだな」程度のことは考えている。
貴族の地位を金で買えるシグザール王国は、他国に比べて身分差の垣根は低い。だが、それどもやっぱり身分差というものはあるし、貴族の方に近づけるほど錬金術で大成できる、などとアリアは自分を不相応に過信してはいなかった。
どちらにせよ、アカデミーを卒業した後で互いの道が重なるとは、アリアは思えなかった。
だけど、それも当然のことだ。
もともと、出会うことすら奇跡とでも言うべき間柄だ。
いつか離れていくのは当たり前で、そんな当たり前のことで頭を悩ませるのは正直性に合わない。
たった四年間、短くとも長い時間を互いに忘れがたい思い出で埋めていけばいい。
そして将来、こんなこともあったな、と笑顔とともに思い起こせればそれでいいのだ。
だからこのアカデミーで過ごす間は、ユリアーネはここでできた初めての大切な友人だ。
それでいいのだと、アリアは思う。
けれど、思っていてもなかなかうまくいかないのが人生というもので……。
静かであるべき図書館で、ちいさなヒソヒソ声が聞こえる。
横目で声の発信源に目線を向けると、そこには数人の生徒が寄り集まりアリア達の方を見ながら何やら仲間内で耳打ちをしていた。
……ちょっと……アトリエ生よ。
なんでこんな……。場違い…………。
あの人もなんで…………付き合って……。
とぎれとぎれに聞こえてくる言葉から、おそらくあまり良いことは言われていないだろうな、と思う。――が、正直「よくもまあ人の悪口を楽しむ時間があるなぁ。暇なんだな」と思うくらいで、アリアの精神上には何の痛苦ももたらさない。
アリアの精神の綱は類を見ないほど図太いものだった。
けれども、誰しもが彼女のようにあれるわけではない。
「えっと、初等薬品の参考書は……」
「…………」
ただその数少ない例外の中にユリアーネは入っていたようだ。
優雅に完璧に、内緒話をする女子達を無視して、彼女はお目当ての本を探している。
いや、ただ単に気がついていないだけなのかもしれない。
けれどまあ、これはこれで一安心か。
そう独りごちると、アリアもまたそびえ立つ本棚の群れに向かい合った。
この一般生徒用の図書館には講義の参考書として使われている図書の他に、まだまだ腕が未熟な錬金術士の卵向けの参考書も置いてある。ただ、後者の場合は、生徒の順当な成長には調合方法が不適当だったり、授業で調合させるにはコストの面で向いていなかったりするものばかりなため、アカデミーの購買では取り扱っていない。
もし自分用の参考書が欲しいのなら写本を願い出れば専門家が一から作ってくれるとのことだが、通常の購買で販売されている参考書の何倍もの値段がつくため、アリアの経済力では買うことができない。
もちろん“本”という高価なものをアカデミーの外に貸し出すことは、流石に錬金術アカデミーでもおこなっていない。寮内のみなら貸出を許しているが、期限内に返却されなかった場合、厳罰を課されることとなる。なので、アリアのように所持金が少ないアトリエ生は、読みたい本があればこの図書館まで来るか、頑張って写本するしかない。
「アリアさんは何の参考書を探していらっしゃるのですか?」
お目当ての本を探し終わったのか、そのほっそりとした腕に何冊かの本を抱え、小声でユリアーネが話しかけてきた。
特に隠すものでもないので、無言で本の表紙を見せる。
「“製鉄の歴史”ですか……?」
「そうです」
「もしかして金属の調合に興味がおありで……」
「ええ、まあ一応」
正直に言えば興味どころではないのだが、それを正直に伝えるのは何やら気恥ずかしいものがある。が、じっとユリアーネの大きな目で見つめられると、まあしょうがないか、という気分になってくる。
「父が鍛冶屋だったものでして、こちら方面にを勉強してみたいと思いまして……」
「あら、そうなのですか。良いお父上でしたのですね」
羨ましそうなユリアーネの口調に、父親の姿が思い出される。
アリアの父親は、アリアよりもずっと寡黙で、一日の大半は工房で槌を振るっているような人だった。おかげで、娘であるアリアも父と話した記憶は少ない。
けれどその分、無言で語りかけてくる、そんなところのある人だった。
慣れない料理で四苦八苦する姿、無言でアリアの頭を撫でてくれたそんな父の姿を思い出す度、寡黙ではあったがいつもアリアに語りかけてくれていたように思える。
そして、一番雄弁だったのが、熱せられた鉄に槌を振るう姿だ。
子供心に、父が仕事をしているときは鉄とお話しているのだと、本気で思っていた。
それほどまでに、父が鉄と向かい合う姿は全てをさらけ出していて、そして何よりも真剣だった、……ように思う。
「そうですね、良い父だったと思います」
「羨ましいですわ。そんなお父上がいらっしゃったか、もうすでに学びたいことが決まっているのですね」
本気で羨ましそうに言われ、何やら少々照れくさい。
そんなアリアを見て、溜息混じりにユリアーネは口を開いた。
「
なるほど、確かにユリアーネの腕にある本は、薬学・装飾品・化粧品と全てジャンルが違う。
だけど、まだ新入生でアカデミーに入ったばかりなのだ。
普通は、興味の方向性が決まっている人間のほうが少ないのではないだろうか。
そう正直に告げれば、ユリアーネは困ったような苦笑するような何やら曖昧な笑みを浮かべた。
「たしかにそうですわね、けどやっぱりこうしたことはできるだけ早く決めたい、そう思いますの」
そう言われれば、アリアに反論するすべはない。
できることといえば慌てて決めることはしないよう、一言釘を刺す程度だ。
ユリアーネは寮生であるため、いくつかの本を借り部屋へと戻っていった。
アリアの仕事はここからだ。
今から必要な部分を抜粋し、紙に落としこんでいかなくてはいけない。
まだマシなのは、“製鉄の歴史”に載っている程度の知識なら、大部分はすでに知っていることだ。こういう時、父が鍛冶屋ということはありがたい。製鉄や、他の金属の精製、加工について一定の知識を得ることができたからだ。
とはいえ、傍目から見ていただけと書物から正確な知識を得ることは違う。やはり記憶の齟齬もあり、それを修正して紙に書き込んでいくと、すべてが終わった時にはすでに日が落ちかけていた。
一度伸びをして、肩の筋肉をほぐす。
やはり何時間も机に向かっていたからか、肩を動かすとバキバキと嫌な音がする。
手にもインクがそこかしこについていて、黒く汚れている。早く手を洗いたいが、手洗いが出来る場所は図書館の外だ。
手についたインクを原本につけないよう気をつけて返却し、アリアは足早に図書館の外に出た。
外に出ると、赤く染まった夕日が遠くに見える山の間に沈んでいくところであった。
もう、一日が終わる。
今日も悪くない一日だった、落ちゆく夕日に背を向け、アリアは手洗い場へと急ぐのだった。。
リリーのアトリエの参考書である「製鉄の歴史」では、本来「鉄」のレシピを知ることはできません。
ですが、「製鉄」とタイトルについているのに「鉄」のレシピがわからないのはおかしい。ゲーム初期で手に入る「ドルニエ理論」に「鉄」のレシピが載っているため、「製鉄の歴史」における「鉄」のレシピがデータから削除されたのではないか、と考えこの作品では「製鉄の歴史」を読むと「鉄」のレシピが分かる、という設定にしました。
どうかご了承願います。