詰まるまでは頑張っていきたいと思います。
有名人と絡むと有名人になってしまうのは必然である。
なんか昨日までと比べて妙に視線を感じる高坂です。
さてここで僕の持論であるが、護身の心得として大きく分ければ二つある。
一つは隠すこと、自分に力がないと思わせられれば厄介事には巻き込まれない。
これを昨日まで実践してきたがやはり効果的だったのだろう。
そしてもう一つは示すこと。
こちらは力を持っていないといけないが、自分の持つ力を見せてやることで露払いをするのだ。
たとえば知力、たとえば財力、権力何ていうのもある、そしてもちろん武力もだ。
要するに何でもいいから敵わないと思わせればいい。
こちらを昨日決闘をすると決めた時から実践することにしたのだが、どうやらここ川神学園での効果は薄いらしい。
感じる視線は興味本位のものから好意的なものまであるが、一際鋭いのが好戦的なものであるのだ。
少し辟易するが、僕としては護身護身言いながらも別に戦うことが嫌と言うわけではないので開き直ることにした。
と言うわけで今一人の巨漢と向かい合っているのだが、
「二年の高坂虎綱だな? 俺は柔道部主将の飛田だ。 昨日の決闘には感銘を受けた! 俺が勝ったら是非柔道部に入ってくれ!!」
うん、最初にしては気持ちいい理由での申込みだな。
そうでなくとも戦うことには否などはないのだが。
「はい、わかりました。じゃあ俺が勝ったら入部はしないけどしたいときに自由組手を柔道部とさせてもらってもいいですか?」
「願ってもないことだ。その技を受けることができる機会があるだけでも実りがあるものになる。では柔道場に行こうか」
おやおや、この人きちんと技量を理解して挑戦してきたらしい。
下手すれば準ワン子ちゃんくらいの強さはあるかもしれないな。
実際に戦えば柔道に凝り固まってる分勝ちはできないだろうけど。
そもそも打撃技を省いてしまった武術である柔道は、言っては悪いが実践ではかなり劣るものとなるだろう。
もちろん実力があれば強いのに変わりはないが、同程度の実力であれば下手すれば喧嘩殺法に負けるだろう。
何せ近づいてしまえば強力であるが近づくための技術を、道を学ぶものとして省略してしまっているからだ。
何せ、道、という所謂武道と言うものは、規範と言うものを重視する傾向が強い。
簡単に言うとただ道を歩いているときに、理由もなく大多数に囲まれてルールもなく襲いかかられる状況と言うことをほとんど想定することがないということだ。
そんなことを想定している方がおかしいのかもしれないが、そのおかしな人間と言うのが俗にいう武術家だ。
護身と言う綺麗な言葉を誇りとしている僕も、競技としては反則もよいところである急所攻撃やら追い打ちやらにはかなり入れ込んでいる。
――とまぁ、結局のところは、新規の組手場所一軒キープってことだ。
因みにそんなことをしている間にSF大戦は知力戦とそのあとに駆けっこだったりと白熱したものが繰り広げられていたらしい。
……うん、SF大戦、気に入った。
何て出来事がありながらGW前日である。
そこで僕は、その日の川神院での組手の後に、一つの誘いを受けていた。
「それで、せっかくの連休だし一日みっちり川神院で鍛える気はないかネ?」
ルー・イー先生である。
この前言っていたこの近辺に生息する壁を越えたものの一人、いわゆる化け物である。
どうでもいいが常にポージングを取っているのに意味はあるのだろうか?
……拘りは人を強くするってことで納得しておこう。
「ありがたいのですが、僕と川神院の稽古は相性が悪いんですよ。川神流は剛柔一帯の流派ですよね? 僕の戦い方は意図的に剛の術を省いているので、同じ稽古をさせていただくのは遠慮させていただきたいのですが……」
僕が偏っているのもあるが、実際川神院と言うのは武の聖地であり強うなるために理想的な場所であると共に、多くの人間に無意識の妥協を強いる場所だと思う。
あそこは才能の低い人間を押し上げることと、才能のある人間が高みを目指すという二極に見える。
ありていに言うと、僕や一子ちゃんを始めとした大多数のある程度の才能の人間が壁を超えるに至らせる可能性はとても低い場所だろう。
大勢を一歩進ませることはできても、所詮は一歩なのだ。
大股全速、更には飛行能力までついてるような人間に追いつくにはあそこのやり方は落第だと思う。
もちろんその大勢を進ませる指導力やら意欲は敬意を示すべきではあるが。
「ウーン、それならイつもより時間を取ってより多くの組手をしに来なイかイ? 正直君との組手が刺激となってる門下生も多イんだヨ」
おお! ちょっと失礼なことを考えていると願ってもない提案だ。
流石川神院、大好き川神院。
だが、武神、てめーはだめだ!
「それなら是非お願いしたいです。川神院での組手はやはり得ることが多く、充実していますから。できれば今回はルー先生とも経験を積ませていただきたいですね」
「受けてくれるかイ? ならワタシも組手の相手くらイお安い御用だヨ」
よし! このゴールデンウィークに掲げている一大イベントに組み込めそうないい返事をもらえた。
「それでは、急で申し訳ないのですが、用事もあるので連休初日の明日お伺いしてもよろしいでしょうか?」
「ウン、待ってるヨ」
うん、楽しみだ。
それにしても僕、しょっちゅう行っているだけあって院の人には好かれているんだよな。
武神なんかは最低限やった後遊んだりバイトしたり女漁ったりして接点少ないけど。
あらためて見ても理不尽だ。
その帰り、まだギリギリ日が沈む前に川原に二つの人影があった。
一子ちゃんと島津だ。
「あ! 高坂君、今から帰り?」
「おう、昨日行クリスと戦った奴か、てか、ワン子とは知り合いなんだな?」
「どうも、二人とも。うん、川神院で組手をよくさせてもらっているよ。そして今もその帰り」
「げ! 道理で強いわけだぜ。今度賭けがあったら俺様ももうけさせてもらうからな!」
「うん、その時は応援してくれると嬉しいな」
「ねーねー、高坂君、ちょうどいいしちょっと組手していかない?」
どうやら川原で修業をしていたようだ。
魅力的な誘いであるが、
「ごめんね、これから用事があるんだ。それに、ルー先生に誘われて明日みっちり川神院で組手をすることになったからそのときにね?」
そう、これから堀の外にある、いわゆる違法闘技場である青空闘技場に師の一人である渋川先生に誘われているのだ。
因みに武神は明日から鉄心さんと無理やり精神修練合宿に行くらしい、まああのモチベーションじゃあ効果は見込めないだろうが。
「本当? 楽しみだわー」
「うん、頑張ろうね」
そう言って二人と別れる。
――一子ちゃんは僕にとって失礼な話反面教師であった。
もちろん嫌いではないし、あのやる気には頭が下がる思いだ。
彼女とは、彼女が武術を始めた時からずっと同じ目標を抱いている。
武神に追いつく。
その思いのルーツは正直逆に近いが方向は同じであった。
そして僕は漠然と見ていた捨力の境地を目指しながらもやはり不安であった。
修練方法から目指す先まで、目標が理不尽すぎて悩みは尽きることがなかった。
そんな時助けになったのがともに道を走っている一子ちゃんだ。
彼女は僕とは違う方法で同じ道を走っていたのだ。
おんなじ道を走る仲間がいるというのは非常に心強いことである。
そして、お互いに差が出るにつれて、比べることで自分の方法は正しかったと励まされていたのだ。
もちろん一子ちゃんに進めることもできたのだがそれはしなかった。
それはもちろん意地悪から何て理由ではない。
思いのルーツの違いだ。
彼女が底を目指す理由がモモ先輩の力になるということであろ故に、僕のような方法は向かないのだ。
それこそ明日壊れても構わないやり方、さらに言えば、ここにたどり着いたからこそ師範代を目指さないかなどと言われているが、最初から目指すにあたって正規の修業を積んだ人間とそうでない人間、どちらが好ましいかなんて言うまでもないのだから。
そんなこんなでこういう形にはなっているが、それでも僕たちはかけがいのない同道を行くものであり、一子ちゃんも変わらず親しくしてくれている。
おそらく僕も、今の立ち位置が逆でも笑て受け入れられるだろう。
僕たちの関係と言うのは、ライバルとも違うが、かけがいのない同道者なのだと思っている。
因みに、青空闘技場は参加もしたが、経験よりも賭博の儲けの方が目立つあまりいいものとは言えなかった。
たまに板垣も来るらしいので保留である。
さて明日からの大型連休、かねてから企画していた一大イベントを実行する予定だ。
これは武神に実際挑み始めるにあたっての最終試験として己に課すものだ。
題して
ドキ!! 化け物だらけの数え組手!! ~ポロリ(おもに上裸の男)もあるよ☆~
……うん、今回のノリはあまりよろしくないな。
ありがとうございました。
ちょっと聞きたいのですが。
高坂君の方向が特殊なせいで結構好きかって書いてるんですが、これってアンチ類れた方がいいんですかね?
最後に書いた企画ですが、対武神のネタバレになりそうなのでいいとこダイジェストになると思います。
なんかもったいぶっておきながら申し訳ないですがご了承お願いいたします。
この作品は一人称の練習も兼ねているのでよろしければ批評をお願いします。
三人称での練習としてなろうで「妖怪って厨二病の華だと思うんだ。」という作品も連載しているのでよろしければそちらの批評もよろしくお願いします。
ご意見ご感想お待ちしております。