せめて、せめて一勝を   作:冬月 道斗

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まああれだ。
半ば不眠症で眠れなかったんだよ。



第五話 舶来娘と代理決闘 後編

「それでは、はじめい!!!」

 

 さっきまで小島先生だったはずがいつの間にか学長が仕切っていた。

 因みに視界の端で我らが担任宇佐美 巨人、通称ヒゲ先生が小島先生に振られている。

 うん、どうでもいいな、決闘に集中しよう。

 

 「行くぞ!!!」

 

 と、丁度良く相手も向って来るようだ。

 てか声出しながらって親切すぎるだろう。

 クリスティアーネ、長いからクリスにしよう、そう呼ばれてたし、はフェンシング使いだ。

 払いや斬りがないわけではないが特性上ほぼ突きと言う直線攻撃である。

 なにが言いたいかと言うと――

 

 「何!?」

 

 ――相性が良すぎるんだよな、これ。

 踏込と突き出しのぎりぎりの範囲に体を下げ、すぐ目の前に切っ先がある状況で言う。

 

 「うん、なかなか早いね」

 

 「クッ! バカにするな!」

 

 予備動作からわかるが間違いなく連撃だろう。

 しかし、改めて言うと相性が良すぎる。

 柔術と言うのは武器を持っている相手に対抗するために作られたのが起源であるからして、突きメインの、反応できる速さであるのならば対応はいくらでもできる。

 

 「素直すぎるよ」

 

 「な!!」

 

 今度は体の軸を変えて向きを少し回転するだけで僕のすぐそばを過ぎていくクリスのレイピア、ついでに引かれる前に横っ面を押しておく。

 伸び切り、一瞬静止した棒を横から押せば、何も不思議なことはなく軌道はぶれて連撃につなげられない。

 素手で武器を払われて驚いているようだ。

 うん、彼女は武器は自分の一部として用いられる技への対処ができないようだ。

 切れ味では類を見ない刀でさえ、刃がふれなければただの棒なのだ、加えて重心まで通っているのであれば利用しない手はないというのに。

 

 「なら!!」

 

 苦し紛れに薙いでくるが、甘いんだよなぁ。

 僕がレイピアの間合いの内側の最奥にある安全地帯、つまりクリスの目の前にたどり着く方が早い。

 

 「ホイ」

 

 ついでにその勢いだけで当身をしておく。

 中途半端に無防備な人間に変に技掛けると怪我しちゃうからね。

  

 「くあ!?」

 

 後ろにたたらを踏んでまた少し間合いが開く。

 

 「舐めているのか!!」

 

 と、ご立腹のようだ。

 

 「何がかな?」

 

 「なぜ追撃しない? 自分は無防備で貴殿の好機だったはずだ! それを明らかに見逃すなどどういうつもりだ!!」

 

 どういうつもりも何も。

 

 「怪我させないようにするためかな?」

 

 「ッッッッッ!! 貴様ぁぁぁ!!! 騎士を侮辱するか! 戦うと決めた以上けがなど覚悟の上だ!!」

 

 うん、立派な覚悟である。

 だがしかし、

 

 「うん、君に矜持があるように僕にもあるんだよね、弱い人に怪我はさせたくないんだ」

 

 「うあああああああああ!!!」

 

 あれ? 言い方ミスったな。

 明らかに切れて一撃にかけてきている。

 確かに早さも桁違いに上がっているがむしろ好機だな。

 これなら抵抗されて傷つける心配なんてないだろう。

 全力であろう一撃の軌道に合わせて足を延ばし、重心を下げながら懐に入り込み、一番速度が乗った瞬間にさらにクリスの袖を引いて速度を乗せてやる。

 加えて踏み込んで来た右足に自分の足を合わせる。

 自分の制御できる速さを越えた勢いに加えて、踏込の足を殺されればあとはこけるだけだ。 

 崩しがこれだけ綺麗に決まれば後は僕の流れだ。

 普通であればここから更に力に方向性をつけて投げが完成するわけであるが、すでに崩しの方向がそのまま投げるべき方向へ向かっているため、反射的に動こうとするのを僕の動きの起点にして反転することで邪魔をしてやれば、あとは地面に顔から叩きつけられるだけである。

 これが僕の磨いた柔らの理の根幹、流れに乗せてしまえば少なくとも流れが切れるまで抜け出すことはできない。 

 ――のだが、僕によってつかまれた後襟に引っ張られ、クリスは地面すれすれで止まる。

 

 「まだやるかい?」

 

 「……参った」

 

 「そこまで! 勝者高坂!!!」

 

 自分の背後から支えられている形なんぞ取られたらもう負けを認めるしかないだろうね。

 

 ――うおおおおおおおおおおおおおおおお!!

 

 すげーぞ! なんか決まった動きのように投げられてたぜ!

 

 いつもみたいによく見えない戦いと違ってスゲー綺麗だったぜ!

 

 くそ―!!クリスに全力でかけてたのに!!!

 

 うん、大歓声のようだ。

 まあ、聞こえがいいやつを意識したが、大部分が最後のような叫びなのは聞かなかったことにしよう。

 

 「ありがとうございました」

 

 「……ああ、こちらこそ」

 

 あ、やっぱり試合中の言葉のせいで睨まれてる。

 一応弁解しとくかな、多分印象回復はしないだろうけど。

 

 「ちょっと言い訳させてもらうと、僕の使う柔術は根幹が護身術だから仕合や死合以外で壊す技は使いたくなかったんだ。特に僕の方が強かったからね、格上に勝つために作られた武術でもあれば、それ以外は殺さず制すために刀を捨てた武士の戦い方だからね」

 

 うわー、これ結局お前より格上だ! って宣言してないかな?

 大丈夫か僕。

 

 「おお、武士? 高坂殿は武士なのか? なるほど、これが噂に聞く不殺の心得と言うやつなのだな!! なるほど、侍の高尚な心根だな!!!」

 

 えー、反応するのそこなんだ、チョロ過ぎじゃないか?

 大丈夫かこの子。

 

 「まあ、そういうわけで、覚悟を侮辱したように感じたなら謝るよ」

 

 「ああ、受け入れよう。願わくばまた手合わせ願いたい」

 

 それはもちろん

 

 「喜んで」

 

 

 

 さて勝った勝った、ついでに僕に賭けてくれていた級友たち誘って風間んとこに金受け取りに行くか。

 

 「井上、葵、小雪! どうだ、儲けさせてやったぞ!」

 

 「いやはや、本当に強いんですね」

 

 「ああ、ビックリだ。ほれ、お前さんの分だ、約束通り今度おごってやるよ」

 

 「サンキュー、もう換金してたんだ。風間たちのとこにドヤ顔で行ってやろうかと思ったのに」

 

 「ちょ、性格悪いな! おい!」

 

 「ま、今回はちょっと気分悪かったからね。それじゃああっちで必要以上に煽って調子に乗ってるお嬢様回収して帰るわ」

 

 「おお、またな」

 

 「はい、また」

 

――

 

 「これは竜兵たちの言っていたことは間違いないようですね」

 

 「ああ、正直びっくりだぜ。あそこまでとは」

 

 「あははー、僕はわかってたよー。トラは強いって」

 

 「ほう、どうしてですか?」

 

 「だってトラは切れちゃってるんだもん、途中で」

 

 「切れてる? 必要以上に冷静だったと思うぜ?」

 

 「ちがうよー。僕とは違うけど少し似てるんだ~、僕は壊れてるけどトラは切れてるんだ~」

 

 「あー! ユキの言ってることはやっぱりわかんねー!」

 

 「フフ、私は少しわかりますよ? だって――」

 

         彼からは驚くほど嘘を感じませんから

 

――

 

 

 「はい、心そこまでにしようなーもう帰ろうねー」

 

 「おお! 高坂! 美事、まさに美事な技であったぞ! 見るのじゃこの打ちのめされた山猿どもを……って離すのじゃまだ此方は……こら極めるでない! っちょ、動けないのじゃ――!!」

 

 「ごめんねー、それじゃあお騒がせしましたー」

 

 なんというか、ここに来た時と逆の構図で帰ることになったな。

 うるさい心を極めながら、また、後ろから妙に鋭い視線を感じながら帰路に就くのであった。

 

 

 少なくとも、あの時と違って目を向けられていることに小さな達成感を感じながら――




ありがとうございました。
主人公TUEE気味かもしれませんが、コンセプトが打倒武神である以上これくらいはできないとまずいかなーと思うんですよね。

あと、戦闘描写どうだったでしょうか?
入り、崩し、一応投げの工程を分かりやすくかけていたらなぁと思います。
 

この作品は一人称の練習も兼ねているのでよろしければ批評をお願いします。

三人称での練習としてなろうで「妖怪って厨二病の華だと思うんだ。」という作品も連載しているのでよろしければそちらの批評もよろしくお願いします。

ご意見ご感想お待ちしております。

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