どうだ! これが俺が読者に媚びた結果だ!!!
これは、本作を読んでいて、恋愛要素が糞薄すぎて「おい!どこで選択し間違えた? ロードだロード」とロードボタンを押した方向けのお話です。
本編との関連性はない選択肢が変わったルートです。
「一子ちゃん。僕は先にやってみるよ。そしてそこで君を待っている。今までずっと君と一緒に歩いてきたんだ。だから、その夢の向こうもきっと君と一緒に居たい」
決戦前、お互いの成果を見せあった後一子ちゃんにそう言った。
お互い一度もあきらめることもなく同じ頂点を目指してきた一子ちゃんだからこそ僕は本心から武神の打倒を宣言し、そしてきっとたどり着こうと手を伸ばした。
その時拳をぶつけあった一子ちゃんとは、この十年ずっとお互いを見てきた分深いところでつながっているということを確信できるくらいいい笑顔だった
そして、その笑顔を向けられ多と言うだけで、あれだけ絶望的に思えた武神に勝つことなどなんでもないことだとすら感じてしまった。
――――――
……ああ、また満身創痍かよ。
でも、でも僕は勝ったんだ。
――最後の最後、身を捨てて武神の生み出す暴力に向かい、極限の中で浮かんだのは一子ちゃんの顔だった。
厚かましいかもしれないが、あそこで意識を失ったら、手を放していたら、或いは地についた足がフ抜けてしまっていたら、それは自分だけではなく、同じ道を行く彼女の志すらも台無しにしてしまう気がしたのだ。
「ああ、勝ててよかった……」
――ガラガラ
そう呟くのと、襖が開くのはほぼ同時であった。
「失礼しまー……」
あ、デジャブ。
「……じっちゃ!」
「ちょっと待って一子ちゃん!」
やはり走り去ろうとしていた一子ちゃんを思わず止める。
「ふぇ?」
呼び止められ多理由が分からないらしく疑問顔の一子ちゃん。
うん、でも仕方がない。
やはりあの瞬間に浮かんだのが一子ちゃんならば、この勝利の報告として一番に宣言しておきたかったんだ。
「勝ったよ。一子ちゃん」
「え? ……うん! おめでとう! 高坂君!!」
これだけ傷だらけになった人間目の前にして何を言われたかわからないようだったが、理解した瞬間に、あの極限の中で浮かんだものと同じ満面の笑みを浮かべて祝福してくれた。
ああ、本当にもう動かなくなってもいいだから今だけは。
痛みもある、悲鳴も上げている。
しかしこの気持ちに応えてくれたのか、驚くほどスムーズに右腕が上がってくれた。
――そうして突き出した右の拳に、一子ちゃんの拳が重なった。
「いいいいいいってえええええええええええ!!!!!!!!!!」
「あわわわわわわ! ご、ごめんね? 高坂くーーん!!」
次の瞬間僕の全力の悲鳴が響き渡ることになってしまったのではあるが……。
い、痛い……。
――――
「ったく。起きたかと思ったら何やってるんだか……」
悲鳴を聞きつけて多くの人がこの部屋に来ててんやわんやになってしまったが、今では残ったのは鉄心さんと武神と一子ちゃんだけだ。
「いや、しょうがないじゃん。せっかく長年の目標を成し遂げたんだもん。かっこつけたいじゃん。男の子として」
うん、この気持ちは間違いなんかじゃあないはずである。
「ほーーう、つまり、家のワン子を口説いていたと? そういうことかあ?」
うわ、なんだろう?
すっごく悪戯じみた笑顔じゃあありませんか?
「お、お姉さま?」
あ、一子ちゃんはこんな程度で顔が赤くなってるよ。
天使や。
「まあ? それはそうだよなあ? あの状況でワン子の名前を口に出すくらいだからなあ? いやー、意識が落ちる寸前のことだが耳にこびりついて仕方がなかったぞ?」
「え?」
は? え? うそ?
あの時もう何が口から出てきたかなんて一切覚えていなかったけど、え?
真剣で?
武神を見つめるとにやにやした笑み。
「ふふふ、いやー、愛されてるなあワン子? あの状況で呼ばれるなんてなあ。おねーちゃんちょっと妬いちゃったぞ~?」
やべえ。
これほどまでに恥ずかしいことってあっただろうか?
顔が上気するのを自覚しながら肝心の一子ちゃんの方を向くと……。
「!! あわわわわわ……。ア、アタシ食べるもの用意してもらってくるわーーーーー!!」
目があった瞬間一子ちゃんの顔が爆発したような錯覚するくらいさらに真っ赤な顔になり、逃げるように、と言うより逃げるという言葉そのままの格好で立ち上がり走り去ってしまった。
「……うわぁ」
「ハハハハハ!! あー、妹は可愛いなあ」
「ふぉっふぉっふぉ。若いのう」
いや、この状況恥ずかしすぎる。
いやまあ、僕の今まで生きてきた中で一番優先順位の高かった打倒武神の後、一番最初に、ともすればその最中すら頭に浮かんだんだ。
まあ、盲目的に見続けた目標を達成した今なら素直に自覚できてしまった。
――僕は一子ちゃんに惹かれている。いや、好きなんだ。
うん、それをその相手の身内、しかもからかう気満々の二人と取り残されるって……。
「なー、じじい? 家の可愛い妹だが、もし嫁にやるならどんな奴なら許せる?」
「うーむ、まあ、半端な男など絶対に許せんと思うぞい?」
「だよなー? まあ? 大きな困難位乗り越えられるくらい骨がある奴じゃないとだめだよなー?」
「うむうむ、その通りじゃわい。たとえばあれじゃのう? 武神などと呼ばれているものくらい倒してやるというくらいの気概は欲しいもんじゃのう?」
「おお! それはいいなあ! いやーでもジジイ? 偶然なんだが最近そんな感じのやつがいたんだがなあ?」
「おお! 本当か? モモよ! それはちょうどいい人間もいたもんじゃのう?」
くそ!
にやにやにやにや真剣UZEEE!
「あー、クソ! そうだよ! 僕は一子ちゃんのこと好きだよ! 見てろよこん畜生!! 絶対に口説いてお前らから奪ってやるからな!!」
――ガシャン!!
耐えきれずに啖呵を切った後入口の方から食器を落とす音がした。
ああ、タイミング神憑ってやしませんかねえ?
一子ちゃんよ。
案の定逃げ去る足音と遠ざかる一子ちゃんの気配。
気が付いていたようでさらににやにやしている二人。
クソ! 真剣クソ!!
恥ずかしすぎて気配なんて読めなくなるなんて不覚にもほどがある!!
「ククク。いや、こうまでやってくれるとはなあ? トラ? いや、義弟よ?」
「うむうむ、よい啖呵じゃったぞ? 高坂、いや孫よ?」
あー、もう、ここまで行けばもう行くところまで行ってやんよ!
「あー、はいはい。義姉さんにじいちゃん。もういいよもう。んで? 未来の嫁になってくれるといいなあと思う子のことで聞きたいんだけどさ。二人は一子ちゃんが夢叶えられる可能性ってどのくらいだと思ってるわけさ?」
聞いた瞬間に二人の顔からからかいの色が消える。
「無理だ。ワン子の才能ではこっち側には来られない」
「うむ、おそらく川神院の高弟の中でも上位までは行けるじゃろうが最後の一歩はできんじゃろう……」
さっきまでの馬鹿騒ぎが嘘としか思えない凛とした表情を作る二人。
これが武の総本山川神院のトップとしての顔か。
だが、
「はん! その才能の足りない人間にトップを取られたくせに見くびった評価してるんじゃねえよ! いいか? やり方が違えどあの子は僕だ。俺とおんなじなんだよ! 一日だって腐らず、簡単に越えられるなんて幻想も抱かず、ただただいやになるほどわかりやすい壁にぶつかり続けてるんだ! ああ、いいさ。アンタらが諦めるってんなら俺が支える。俺の武の道なんかどうせ武神を倒したことで腐って消えてもおかしくないんだ。なら、先を、倒して終わりの俺と違って先を見続けてるあの子の糧になってやる。見てろよ化け物どもめ!!」
うん、もうこの先使う必要も感じていなく、武神を一度とはいえ倒せたこの腕、せめて愛する人のために使ったっていいだろうさ。
「……ああ、なるほどな。うん、おふざけなしでお似合いじゃあないか。トラ、いや高坂 虎綱。私の妹の夢、本当に支えられるか?」
「ああ、やってやるよ。知ってるだろ? 俺はしつこいぜ? 身を捨ててだってやり遂げてやるさ!」
「そうか……、高坂よ、孫を頼むぞ」
ああ、やれる。
同じ時間を同じ目標掲げて走り続けられた子なんだ。
おんなじことをしていた僕だからこそ断言できる。
一念、岩をも砕く。
ならば壁だろうとできない理由などないさ。
「ああ、私を倒した男だ。本当に頼もしい。……ん? 待てよ? ここまで言っておいてなんだがまだワン子に返事すらもらってないよな?」
「……あ」
その後、僕は武神との戦いと同じくらい痛みを超越して悶えてしまった。
流石に爆笑は失礼だと思ったのか堪えてくれている二人の気遣いがつらかった……。
――――
翌日、僕は一子ちゃんが来るのを待っていた。
いや、避けられてもおかしくはないんだが、あの二人がなんやかんや理由つけて二人の時間は作ってくれるそうだ。
「し、シシシ、失礼しまみゅ!!?」
あ、噛んだ。
かわいい。
「あー、えーと? 一子ちゃん?」
「こここ高坂君? あ、えっとごはんごはんもって来たわよ!!」
これでもかと言うくらいテンパっている。
天使や。
「そ、それじゃあ食べ終わったころに取りに来るから!!」
そうやって出ていこうとする一子ちゃん。
「ちょ! 待って一子ちゃん!!」
「ななな、にゃにかしりゃ!?」
あ、二回噛んだ。
嫁にしたい。
「えーと? 食べられないんだけど?」
そう言ってぎっちぎちに固められた両腕を見せる。
「あ! そうよね……。ううぅ……」
入ってきてから今までもうそれは赤面しっぱなしである。
愛おしい。
一子ちゃんにご飯を食べさせ貰った後、今度は逆に出ていくタイミングを掴めないのか目線をきょろきょろさせながら黙ってしまっている。
うん、ずっと眺め手たいけどそうもいかない。
ああ、これから言うことに比べたら武神なんて何ぞと言うものや。
「……一子ちゃん?」
「ひゃい!!?」
うん、それでもこれだけ近くに好きな子がいるんだ。
みっともない真似なんかできないわな。
「一子ちゃん、僕は武神に勝った。勝てたんだ。次は君の番だよ?」
「あ……、うん。まあ、アタシは勝つじゃなくて力になれるくらいになりたいんだけどね」
うん、ちょっと落ち着いてくれた。
つかみはOK。
かな?
「うん、それで、一子ちゃんの夢なんだけど、僕に支えさせてくれないかな?」
「え?」
また真っ赤になってしまう。
でも今回は僕は目を合わせて外さない。
よし、逃げないようだ。
「僕はもう正直強くなる気も必要以上に戦う気もないんだ。でもね、ずっと見てきた君の力になりたい」
見つめ合い、視線は離れない。
今まで心を揺らさないよう心掛けていた人生だったが、どうしようもなく心が揺れる。
「うん、そうだ。十年ずっと同じ方向を見てた君を振り返ってみるとどうしようもなく好きになっていたみたいなんだ」
ああ、今なら目をつぶっていても何とかなるような不意打ちでもまともに食らってしまうだろう。
「だから、君の夢を。それに向かっていく君の人生を僕に支えさせてほしい」
だから、胸にもたれかかってきた一子ちゃんを避けることなど絶対に不可能だった。
「どうかな? 一子ちゃん?」
コクリ、と無言で一子ちゃんはうなずいてくれた。
「ううううぅ……。恥ずかしいわ……」
ああ、この可愛い生物を抱きしめられないなんて……。
うん、これはあれだ。
ちょっともう一度武神を倒す必要があるかもしれない。
――――
何時かの川神院は、歴代最強とまで言われる総代と、光るところはなくとも万能型の女性の師範代と倒すことは武神と同じくらい難しいとまで言わしめる柔の拳の使い手により盛りたてられていた。
以上でした。
ちょくちょくヒロインは~?的なことが書き込みにあったのでお礼と記念がてら書いてみました。
どうだ? 待望のいちゃラブのお味は!!
不満は受け付けますが、正直本編に関係ないので話半分で聞きますw