生きていたのか! トラ!!
「生きてる、なんでか知らないけど生きてる」
なんというか、つい最近もおんなじような状況で目が覚めた気がする。
案の定体は動かせません。
あー、今回はきちんと治るんだろうか?
まあ、もう治んなくても構わないんだけどね。
「……すること、ていうかできることがないな……」
いやこれ真剣で動けないな。
早く誰か来ないかなー。
暇-、暇ー、なんか気を紛らわせること起こらないと激痛で発狂しちゃいそうだなー。
などと思いながらボーっとしているとやっと襖が開いた。
「おお、目が覚めたようじゃな」
「おはようございます、鉄心さん。早速教えてもらいたいんですがどのくらい寝てました?」
「ふむ、安心せい。ギリギリ夏休みじゃ」
「あー、そうですか……。え? 1週間以上?」
「うむ、よくもまあその程度で意識が戻ったもんじゃ。運がいいのう」
あー、そうですか。
運がよくってこんなもんですか。
真剣でよく生きてたもんだね。
「それで、モモに勝ったのじゃが、どうじゃ? 武神を名乗るかね?」
「ふざけんなよ?」
あ、やべつい本音が。
「ふぉっふぉっふぉ、よいのか? 名乗ったところで誰も文句は言わんぞ?」
あ、この人分かっててからかってやがるよ。
川神の血は趣味が悪い。
通りで一子ちゃんだけ天使なわけだよ。
「いや、もうこの先あんな命がけの決闘はごめんですよ。武神なんて命がいくつあっても足りないじゃないですか」
いやだわー。
「ふむ、ではそのようにしておこう。一応言っておくが、それでもかなりお主の名は広がるじゃろう。用心するのじゃぞ?」
「う、やっぱりですか? わかりました」
うげ、もう化け物連中には放っておいてほしいんだけどな。
まあ、仕方がないか。
「それでは休んでおるとよい。目が覚めたのなら見舞いに来るというものも結構おるからのう。何か必要なものはあるか?」
必要なもの……。
「あ、そう言えば体動かないんですけどトイレは……」
無言で指をさす鉄心さん。
その先には尿瓶があった。
「…………」
うん、誰が世話してたかは聞かない。
そして一刻も早く這ってでも動けるようになってやる。
―――――
鉄心さんが去ってすぐ武神が部屋に来た。
「トラ!! 生き返ったか!?」
「いや、死んでないがな」
すっごく必死な形相で言われて非常に複雑だ。
「そうかそうか! 早く治せよ? 次は私が勝つからな!」
「いや、もうやだよ。死にたくないし」
こんな目に合うのは嫌だと思うんだ普通。
「オイ……、そこはお前いつもみたいに『それなら今からでもやる?』とか言って私に止められるところだろうが……」
「いや、何言ってるんですか? いやだよ。死ぬじゃん」
頭大丈夫か?
「お前……! お前!! ック、怪我人じゃなきゃぶっ叩いてたぞ……」
頭抱えてる武神。
やっぱり頭駄目だったかな?
「ふう……、はあ……。まあいい、それで覚えてるんだな?」
急に真面目な顔になる武神。
僕との間でこんな顔になるような話題は一つだわな。
「ああ、遂に勝ったぞ。武神」
「ああ、やられた」
ああ、地に伏せた僕と見下ろしている武神。
構図自体は変わっていない。
しかし、しかし、なんと満足感に満ちていることか。
武神の顔にはもはや諦めの感情もなくなり僕を認めたように口の端を上げている。
ああ、やっと、やっとだ。
胸にあふれる想いが隠れることもなく武神と見つめあったまま表情が崩れるのが自覚できた。
「!? まあ、なんだ。何にしろしっかり治せよ? 絶対にリベンジするんだからな!?」
顔を真っ赤に染めたと思ったら何とも不吉なセリフを残して去っていく武神。
「……え? いや、もう本当に勘弁してほしいんだけどなー」
さてさて、僕はあの化け物から逃げきれるのだろうか?
最悪次があるなら体力切れまで逃げきってやる。
絶対にだ。
――――
数日後、根性と気力でトイレに行けるようになっていた。
いや、両手片足折れててそれ以外で動こうとは思えないけど。
ここ数日は特に武神が訪ねてくる回数が多く、僕が初めて挑んだ時から、どんな風に鍛えていたかなどを暇つぶしに話していた。
武神とは何となく身近な気がしていたけどこうしてゆっくり話す機会なんてなかったなー、と思う。
……考えないようにしていたが遂に月が替わり学校が始まるらしい。
あははー絶対まだいけないze☆
逆にテンション上げてると気を紛らわせるのにいい連中がお見舞いに来てくれた。
「うげ? ちょ? 姉さん、これやったの姉さんだよね? ……うん、これからちょっとくっつくのやめてもらえるかな?」
「うわあ……」
「うげ……、こりゃあワン子もトラウマ作るわけだぜ……」
「まあ、でもあれだ。モモ先輩に勝ったんだろう? 名誉の負傷じゃねえか!」
うん、間違いなく有名人見に行くみたいな野次馬だな。
てか、自分で言うのもなんだが、この状態で引かない風間は大物だと思う。
「おい、軍師大和、今なら俺様でも倒せるんじゃないか? そうすればモモ先輩に勝った高坂に俺様が勝って……、俺様最強?」
なんか馬鹿なこと考えているのがいるぜ。
「っく、なんと言う外道だ。いいさ殺すなら殺せ。しかし情けをかけたのならば必ずや後悔させてやる!」
「いや、お前なにキャラだよ? っと、聞いてのとおりだガクト。あんまりおすすめはできないぞ?」
「いや、それ以前に流石にこの状態の高坂に手を出すのは騎士として見逃せん!」
「うん、仲間だから命はとらないけど……ククク」
「まゆっちも武人として黙ってねーぞ? ボーイ」
「止めなさいよガクト、多分川神院も動くわよ?」
おお、頼もしい。
こんなにも大勢に守ってもらえるなんて。
てか一角が怖くてみたくないなー。
「ほう……、ガクトは最強がほしいのか? ならば負けた身ではあるが相手になってやるぞ?」
「っジョジョジョジョジョジョーダンだぜモモ先輩!! おおおお俺様はそんな姑息なことする男じゃないヨ?」
「まあ、実際そういうことしようとするのが結構湧いてるんだよなー。私が負けたってのは隠すには大きい情報だし、結構潰してるぞ?」
「あ、やっぱり? 寝てて妙な気配すると思ったよ。そしてさらっと守ってくれてるモモ先輩かっこよすぎ」
あれ?
ヒロインポジ?
「まあ、あんなのにやられるのは絶対に許せんよ」
まあ、キリっとした笑顔。
流石は女誑し。
こうやって落としているのか。
参考になるぜ。
「それで、いや、こんなこと聞くのもなんだけどやっぱり高坂も学校始まるまでには怪我直せちゃったりするのか?」
「……うっ」
あ、聞いちゃう? それ聞いちゃう?
気まずそうな一子ちゃんはいいけどにんまりしてる武神腹立つ。
「……由紀江ちゃん?」
「は、はい? なんでしょうか?」
いきなり振られてちょっとテンパった由紀江ちゃん真剣可愛い。
「……来年はおんなじクラスになれるかもしれないね?」
「…………」
「……ごめん高坂」
直江はとっても真摯に謝ってくれた。
結局その後はなんとも微妙な空気で解散していった。
笑い堪えてた武神に罰当たらないかなあ。
いいもん。
ここは川神だぞ?
きっとこんなのうやむやになる大事件が起こってくれるはずだ!!
きっと……、きっと……。
――――
半ばふて寝していたその日の夜。
死ぬほど嫌な予感がビンビンした。
「起きてるな? 小僧」
うげ、やっぱりだよ、やっぱりだよ!
「こんばんは、ヒュームさん。わざわざお見舞いどうもです」
うん、せめて動かせるレベルまで回復してから来てほしかった。
対抗できない状態でこの人に会うとか怖すぎる。
「ああ、よくやった。これでこそ鍛えがいがあるというものだ。礼を言おう」
そういやそんなことも言ってたよなー。
「いえいえ、……ねえヒュームさん?」
「なんだ?」
「いや、最悪留年してどうにもならなくなったら九鬼って拾ってくれます?」
「ック、ハハハハハハ! なんだ妙に弱弱しいと思ったらそんなことか。クク、武神を倒した人間とは思えんな。ああ、貴様の腕が腐らん限りはどうにでもしてやろう」
っしゃあああああああ!
勝ち組だぜ!!
「それでは養生するんだな。……それに、学園のことは心配しなくていいかもしれんがな」
「? はあ、どうもです」
いつの間にか妙に豪華なフルーツ盛りが置いてあるあたり九鬼って流石だと思う。
てか、最後の一言なんだろう?
いや、本気で何かやらかす気なのか?
いくらここがKAWAKAMIでもないよね?
不安だ……。
以上でした。
原作キャラ動かすのって難しいよね?
もう少しだけ続くのでおつきあいよろしくお願いします。