せめて、せめて一勝を   作:冬月 道斗

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うわ、九月中に終える予定がこんなに時間達てやがる……。
と、言うわけで遅くなりましたが続きです。


第三十八話 対武神、三度目の正直 中編

 「ククク……」

 

 目の前には悪役笑いが似合いすぎる武神がいる。

 痛みで明らかにハイになっていらっしゃる。

 それなんてMの方でしょうか?

 あ、眼光の鋭さが増したよ。

 

 「おい、今変なこと考えたよな?」

 

 「いやーなんのことですかねー」

 

 鋭いなんてレベルじゃないねー。

 おー、痛てて、こっちも左手痛いな。

 痺れとれて泣き叫びたいレベルだぜ。 

 

 「ふう……、まあいい、それで? もう慣れたか?」

 

 おおう、バレテーラ。

 変なタイミングで麻痺した左手の痛み来ないように時間稼いでたんだよね。

 流石に受ける瞬間に激痛走ったら正確に流せるかわからんからね。

 

 「ずいぶん親切ですね?」

 

 「なに、一度待ったを許してもらったんだ。それに……」

 

 「それに?」

 

 「打ち崩して勝ちたいじゃないか?」

 

 うわぁ、何て無邪気な笑顔なんでしょう。

 

 「いや、さっき崩されましたが」

 

 「……空気読めよ。それにあれじゃあまだ二度は通用しないだろ?」

 

 いやまあ、ご自分で未完成とおっしゃってたぶん溜め長いよね。

 流石に二度は待たんわ。

 

 「いや、速射できるとか?」

 

 「分かってて聞くなよー。今までやってこなかったからああいう細かい調整は苦手なんだよー」

 

 あら正直。

 

 「いや、それ言っていいの? ブラフとかいろいろあるでしょう?」

 

 「ん? そーいうのは向かんしなー。というか、言っても完全には信じてないだろうから変わらないさ」

 

 まあ、頭から信じてやられるとかありえないよね。

 

 「んで? もういいのか? ウズウズしてはち切れそうなんだが?」

 

 おやおや、ちょっとわかってないみたいだ。

 こっちは怪我だらけでも挑んでいたというのに。

 まあ、時間稼ぎの意図はあったから勘違いするのも無理はないか。

 

 「何言ってるんですか? そんなのいつでもいいに決まってるでしょ?」

 

 「っくは!」

 

 目が光ったと思ったら飛び掛かられていた。

 

 「ハハハハハハ!!! よく言ったああああああ!!」

 

 迫りくる右の拳、肘の位置に左手を添えて外側にそらす。

 自身の勢いで肘が外れる音がする。

 完全になれてしまったのかもう気にせずに左が来る。

 僕の左手が間に合わず右腕で内側をはじく。

 あ、やっぱ左手痛いわ。

 と言うことで、外した右手の方向に抜けながら足をかける。

 ついでにもう一度皮膚掴んで投げに持っていこうとするが

 

 「うげ、何て逞しい……」

 

 「……お前結構失礼だよな?」

 

 予想はしていたが大して揺らがない武神、流石に相手の勢いに乗りきれないといかんともしがたいスペック差があるようだ。

 所詮は小細工か、初見で決めきれなかったのはつらいな。

 しかし、突きに使う出足との位置関係から蹴りは飛んでこなかったのでちょっと間合いを離すことはできた。

 向こうも自力で嵌めなおす分前よりは攻防の間に余裕がある。

 

 「んー、回復しないとなるとこう、なんだ……、やりあってるっていう迫力が足りないもんだなぁ。もしかして不利か?」

 

 「いや、こっちもう左腕壊されてますがな」

 

 ついでに爆発控えてるとかどんな悪夢だよ。

 

 「まあ、気長に言ってみようか」

 

 勘弁してくれよもう……。

 

 

 

 さて、怪我をしてもいつも通りの動きができる自信はあるといってもやはり限界がある。

 なにせもとから完全にダメージを残さずに受けきれる相手ではない。

 次第にただでさえ壊された左腕にダメージは溜まっていき……

 

 「どうした? さっきから私は何もされていないぞ?」

 

 遂に反撃できなくなってます。

 

 「いや、もっと大振りしてくれていいんですよ? それなら何とか……」

 

 「いや、するわけないだろ」

 

 ごもっともで。

 骨外し続けること78回、回復させること多分6回位。

 武神が多少荒いお蔭でたまに反撃の隙はできるわけだが、こっちが持つかわからない。

 しかも、節約しているのかこっちが捨身覚悟で勢い貰える気弾を使ってこない。

 

 「それにしても悔しいなぁ。ただでさえ抜けないのに受けに徹したら本当にダメージ入らん……」

 

 いや、結構削られてるんですけどね?

 概ねこういった感じで千日手に落ちいっているのだった。

 そして、僕からの攻め手に欠ける以上、状況を動かすのは……

 

 「仕方がないか……」

 

 そう言って両の腕を光らせ始める武神。

 来た!!

 もうダメージ覚悟で気弾の勢いを叩き込む。

 そう思い、溜めに入った瞬間に地を蹴る。

 が、

 

 ――ニヤリ

 

 迎え撃つ武神様は不吉な笑みを浮かべていた。

 ヤバ……。

 

 「捕まえた―☆」

 

 非常に楽しそうに抱きしめられてしまった。

 ここでサバ折りでもしてくれればまだ希望があるのだが……。

 

 「ドカーンといってみようか」

 

 そんなに甘くはないらしい。

 

 「川神流……ック」

 

 「クソがああああああ!!!!!!」

 

 なりふり構わず噛み付き、髪を引く。

 やはり毛根は鍛えようがないのか拘束が緩んだ瞬間に地に伏せて転がってやる。

 

 「人間爆弾!!」

 

 「んんんんんんん!!!」

 

 丁度背を向けたタイミングで襲い掛かる衝撃。

 直撃するより万倍ましではあるが、ものすごい勢いで転がることになった。

 体の芯に致命的な損傷はないが体中に擦り傷ができた。

 ついでに左腕の固定が外れる。

 回転が収まり、今追撃されてはまずいと急いで立ち上がるが

 

 「あれ?」

 

 何やら立ち尽くす武神。

 

 「フフフフフ……」

 

 回復しているところを呑気に見るのも珍しいが、ボロボロなのが戻っていくさまも相まってなんか怖い。。

 

 「ああ、髪なんか伸ばしてるのが悪いんだろうな……フフフ、武術家として狙うのは当たり前だよな……ああ、だが、ちょっとくらい腹が立つのも仕方がないよな? なあ……トラアアア!!」

 

 うわ、逆鱗引っ張ったかなこれ。

 気迫がこもった一撃を辛うじて流すが、満身創痍なせいでかなりきつい。

 

 「獲ったあああ!!」

 

 追いかけるような二撃目。

 あ、これまずいな。

 仕方がない、次のためにダメージを残さないように……。

 

 

 

 

 

 

 

 「……あ!?」

 

 

 

 

 

 

 などと咄嗟に考えたことに愕然としてまともに一撃をくらってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 久しぶりに受けるまともな一撃、しかも武神と言う超一級の一撃。

 外からだけではなく内からも響き渡るはずの音が感じられないような剛撃。

 意識だけがはっきりとした状態で吹き飛ばされる。

 

 今何を考えた?

 次?

 ……次だと?

 ハハハ……、何を考えていたんだろう僕は。

 

 走馬灯、危機的状況で脳がフル活動し過去を思い出すことで解決方法を探すときに起こるといわれる現象だ。

 これとはまた違うがおそらく似たようなものだろう、この吹き飛ばされている間に時間が引き伸ばされるように思考が加速する。

 

 笑ってしまう。

 なにが死亡フラグだ……。

 僕は、僕如きが、本気の武神に挑んで、生きていられるつもりだったのか?

 ……いつからだ?

 いつからそんなに腑抜けていたんだ?

 

 無様に顔から着地し、ツンとした痛みが脳に届く。

 

 ああ、なぜ僕は生きているんだろう?

 ここまで見事に武神の一撃をくらったくせに考える余裕まである。

 そんなの決まっている。

 何せ追撃されることもないのだから。

 僕が死なないように、拳が当たる瞬間に手加減がされたからだ。

 

 ザワリとまるで血の全てが阿多頭に上ったような感覚がした。

 

 なんだ?

 なんだこの様は?

 手加減され見下される。

 あの時と全く変わっていないのか?

 ああ、武神は悪くない。

 あの咄嗟で手加減して殺さないようにしたことはむしろ褒められるべきであろう。

 悪いのは僕だ。

 こんな様で手加減させないといけなかった僕が全て悪いのだ。

 

 戦闘続行するにはあまりにも重い――しかし、武神の一撃をくらったにしてはあまりにも軽いダメージ。

 それを押して立ち上がる。

 

 ああ。そうだ。

 死亡フラグなら最初からぶっといのを立ててしまっている。

 ならばそうだ、次などいらないじゃないか。

 だから、だから。

 せめて、せめて一勝を!

 

 ここにきて、僕は自分を捨てた。

 

 その瞬間、世界が変わった。

 

 陳腐な言葉ではあるがそんな感覚を自分の身を包むのが分かった。

 

 「ハハハ! どうだトラ!!ついに一撃当ててやったぞ!」

 

 僕が立ち上がったのを見てそんな風に楽しげに声をかけてくる武神。

 しかし、僕はそれにこたえることはなく黙っている。

 

 「ん? ……そうか、限界か。それじゃあ終わらせてやろう!」

 

 立ち上がったのにもかかわらず返事もせずに立ち尽くす僕に限界を見たらしい武神の拳が迫る。

 

 「川神流 富士砕き!」

 

 武人としての慈悲であろう。

 止めにとはなった一撃は適当なものではなく本気のもの。

 

 ――壁に手は届いていた。

 

 おそらくまた当たる寸前に力を抜くつもりだったのだろうがまさに武神の本気と言っていい一撃だ。

 

 ――けれどもその向こうを覗くことはできずに来る日も来る日も地を蹴っていた。

 

 しかし、その一撃に今や脅威を感じることはなくなっていた。

 

 ――その向こうを覗くことに必死で何度も何度も身をぶつけながらも飛び跳ねていた。

 

 最低限を守ることすら捨てた今になって、何故か手に取るように見えていた。

 

 ――超えることができないまま何度も何度も体は壁にぶつかった。

 

 ならばもはや勢いを殺すことすらせずに体を滑り込ませると、すり抜けるかのように轟音は横を通り抜ける。

 

 ――ふ、と気が付くと光が漏れていた。

 

 そのまま、出足に力が入る直前に巻き込む。

 

 ――覗き込むと

 

 「え?」

 

 何がおこったのかわからないような間抜けな声が聞こえる。

 化け物と戦う中、初めて、何のダメージもないままの完璧な投げが決まった。 

 

 ――壁の向こう側が目の中に飛び込んできた。

 

 

 ああ、もう武神にさえ負ける気が全くしない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 まあ、

 

 

  

 

 「ハハハ! まだやれるか、流石だな!!」

  

 

 

 

 勝てる気もまだしないのだけどね……。

 軽々と起き上ってくる武神を見ながら考える。

 さて、どうやって致命打を叩き込めばいいのか。

 




以上でした。

高坂君覚醒!
しかし効果はいま一つのようだ。


お待たせしてしてごめんなさい。
腱鞘炎でちょっとかけないことがあったと思ったら十一月だった。
何を言っているか(ry
うん、放置長すぎワロタ。

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