とりあえず作者が入れたかった対戦カードも大体出そろってきた感じですね。
夜、風間ファミリーに絡まれた川原で一子ちゃんを待つ。
因みにあのあほらしい論争については人数的に圧倒的有利であった高坂変態派であったが、妙に信頼の高い二人の牙城を落とすことができずに結局引き分けに終わった。
僕が言うのもなんだが変態派頑張ってくれよ。
流石にあそこまで信頼されると心が痛いんだよ。
「お待たせー! 高坂君」
と、そうこう考えてるうちに来たようだ。
後ろにルー師範代を伴って一子ちゃんが登場した。
「今晩ハ、一応試合と言うことダから見届け人として来たヨ」
「どうも、ご苦労様です」
背負っている薙刀も真剣仕様みたいだし監視人がいることはありがたいね。
もし切られたら大変なことになる。
どうでもいいけど武神って腕切られたりしたら生えてくるのかね?
生えてきても納得なのが恐ろしい。
「早速やりましょう! 高坂君との仕合久しぶりだから楽しみだわ!」
「うん、やろうか」
待て!
って言ったら待つのかな?
……何考えてるんだろう?
僕は直江とは違うんだ!
いけない、ルー師範代が開始掛けようとしてるんだから集中しなくては。
「それでは、西方、川神一子」
「はい!」
「東方、高坂虎綱」
「はい」
「いざ、尋常に、始め!」
「でやーー!!」
開始早々突っ込んでくるのは川神姉妹の決まり事なんだろうか?
まあ、僕が受けに回ることが多いってのも理由の一つなんだろうけど。
「ほいさっと!」
突っ込んでくる一子ちゃんに合わせるように間合いを詰める。
途中、上から襲ってくる刃、それをしっかりとその有効範囲の内側に潜り込んでから柄の部分を受け流す。
「どりゃあああ!!」
しかし、年季はともかくこの十年間では川神院の誰よりも薙刀を振ってきた一子ちゃんだ。
握りを素早く持ち直してすぐに逆側の刃の着いてない部分が襲ってくる。
当たってもぴんぴんしている化け物ならいざ知らず、僕みたいのにしてみれば非常に厄介だ。
「あー! うっとおしい!」
確実に間合いを調整できてはいるが薙刀の利である長い間合いを使った円舞は厄介だ。
なにせ円の動きと言うのは受け止めればともかく受け流したところで軸をどうにかしない限りとめるのはかなり難しい。
加えて一子ちゃんは組手で何度も体験している。
そりゃあ慣れるわな。
「っく!」
そして、僕の間合いに入る直前には飛び退かれた。
突っ込んでくるわりにはきっちりと僕のやり方に対応してるんだよなー。
「むー、やっぱりきちんと当たらないわね。持ち替えが大変だわ」
「一子ちゃんは本当に武器の扱い上手くなったね」
受け流すたびにしっかりその流れにあった方向に振ってきているのだ。
もし流れに振り回されてくれれば隙ができるのに。
ルー師範代も満足げに一子ちゃんを見ている。
「だって高坂君に捕えられたらアタシじゃ何もできなくなっちゃうもん」
「いやはや、モモ先輩とは違った意味で根競べだね」
化け物たちと比べて非常に気楽ではあるが、やっぱり基礎がきっちり積まれた上に相性の良くない獲物ってのは厄介である。
「負けないわ! しっかりと一撃入れられればアタシでも勝機はあるもの!」
「あー、その通りなのがきついよね」
特に刃なんてまともに当たったら目も当てられない。
薙刀と言う武器は突き以外の払いの動作に円運動を乗せることで力に対抗することなくその長い間合いで相手を仕留められるという、非力な女性に好まれる武器だ。
つまるところ、組手の時のように逸らずに慎重にやられると僕からの攻撃の質がいまいちなのを見るとお互い決定力に欠ける。
「はあ、はあ……」
しかしながら、獲物を大きく振り回し続けないといけない一子ちゃんに比べて受け流す最小の動作で済む僕とでは圧倒的に僕の方が有利な状況になっている。
まあ、受けに失敗しない技量が前提ではあるんだけどね。
それに関してはあれだけ経験積んでいるんだ。
油断さえしなければしのぎ切って見せる。
「お疲れだけど大丈夫かい?」
「ッく! これで決めるわ!」
おお、焦ってくれると助かるから挑発したけど見事に乗ってくれた。
決めると宣言した一子ちゃんは頭上にて獲物を回し始める。
「川神流、大車輪。アタシの今の最高の技よ」
大車輪は先ほどまでやっていた円運動の攻撃を事前に回転で勢いをつけることで、高速での連撃にて球状になるように叩き込む技だ。
「いくわよ!」
まあ、なぜ技の完成まで呑気に見ているかと言うと、大技な分崩しが非常に効果的になってくれるんだよね。
まず来るのは袈裟懸け、これを少し跳ね除け潜るように流す。
崩した軌道に沿って柄での追撃、また流す。
再び刃の方での追撃、流す。
あとはこれの繰り返しだ。
一子ちゃんの体力が切れるまで繰り返すのも手ではあるが、すべて受け流せるかと言うと自信はあるが絶対ではない。
「来た!」
故に軌道を変えながら待ち望んでいた斬り下ろし、ここで勝負をかける。
垂直に近い軌道を横にずれることで躱し――
「せい!」
踏みつける!
「あ!?」
大技の名の通りの威力を出した斬撃は同じ向きの衝撃を受けることで本人の予想以上の力で地を叩く。
その結果が、
「獲った!」
体が僅かに流され、待ちに待った力の空白。
手首を取り、前のめりになった体をそのまま転がすように投げる。
「負けるかあああ!」
つもりであったが、一子ちゃんが投げの勢いに逆らわずアクロバティックな動きで地に刺さった薙刀を軸にして空中で回転しながら蹴りを放ってきた。
あ、まず、これ受け流せないやつだ。
「っちぃ!!]
そのけりがあまりに見事な軌道だったためにせっかく決められたと思った投げを軌道修正する。
予定していた前投げの向きから力をそらして横投げに。
結果。
「痛うう!」
「きゃん!」
丁度丹田あたりかすめるというには深く、えぐるように蹴られ、投げの流れが不完全だったために一子ちゃんには受け身を許してしまう。
「あ! マズ!」
しかし、無駄ではなかったようで、一連の流れから一子ちゃんに獲物を手放させるという結果は残せた。
「今度こそ!」
「川神流地の剣!」
体制が万全ではない一子ちゃんに追撃をかけるべく間合いを詰めるが、素早く動揺から立ち直り、低姿勢を溜めとした回し蹴りで追撃してくる。
が、
「ハッ!」
蹴り足を跳ね除け、そのまま後ろに押し倒し、蹴り足だった足を捻る。
「そこまで! 勝者、高坂虎綱!」
おー、焦った。
――――
「うー、また負けちゃったわ」
「ハハ、でもあの蹴りにはびっくりしたよ。あんなにきれいに体幹狙われた時はヒヤッとしたな」
「そうだネ、あれは見ていてほれぼれとしたヨ。あの体制からピンポイントでと言うのは多分ワタシでも無理だヨ」
そう、あの受け流せなかった一撃は僕の立体的な軸を的確にとらえていた。
受け流すのに必要な円運動、そのすべての軸になる球体の丁度軸、人間でいう臍の下、丹田あたりを的確にとらえていた。
間合いがあればまだ手段があったが、投げの間合いと言う超至近距離であれやられてはどうしようもない。
絶対に受け流せない一撃を入れられたのは久しぶりだ。
てか、化け物どもでもそうできんぞあれ。
「へ? そんなにすごいことやってたの? 投げられそうだったから無我夢中だったわ」
「「へ?」」
あー、たまたまですかそうですか。
まあ、あれだけ崩された中で正確にってのは確かにムリゲーだが、それで、あわや手痛い一撃をもらうっていうところだったから笑えない。
僕とは違う地力を上げることにこの十年必死だったのは伊達ではなく、完全に入ったわけではないのにかなり痛い。
僕単体の力じゃあ出せんぞ、この威力は。
「ま、まあ、ともかく、モモ先輩でも爆発以外ではできなかったことをやったんだ。すごいと思うよ」
「そうネ、偶然でもなんでも咄嗟に体が動いてくれたのは普段の鍛錬の賜物だヨ。よくやったヨ一子」
「おおー! べた褒めだわ!」
「うん、モモ先輩と戦う前に一子ちゃんとすごくいい戦いができてうれしかったよ」
お互いの成長を見せあえたのはすごく楽しかった。
大勝負の前にこう言うイベントがあるとモチベーションも上がるというものだ。
心して戦える。
「…………」
ん?
なんか一子ちゃんがすがるような目で見ているぞ?
どしたんだろ?
「どうしたの一子ちゃん?」
「……高坂君、死んじゃうの?」
「は?」
え? え?
なにが?
「そう言うセリフって死亡フラグっていうんでしょ? 戦いに行く前に言うと死んじゃうって大和が言ってたわ」
オイ、オイ!
シャレにならないこと言わんでくれ!
普通に死にかねない相手なんだからさ!
「ハハハ、大丈夫だヨ?」
「本当? この前もものすごいことになってたし心配だわ」
「へ、平気だよ。ね? ルー師範代?」
「エ? あー……、そうだネ。大丈夫だヨ。……多分ネ」
うわ、この前の有様思い出してたんだろうルー師範代の不安丸出しの返事が心に響く……。
僕、武神との戦いの後生きてられるのかなぁ……。
非常に楽しかったが、後のことが非常に不安になった夜だった。
以上です。
何気に相性よくない相手が一子の薙刀使いだったというお話です。
ダメージ量はともかくとして辰子さん当たりなんかより苦戦しております。