せめて、せめて一勝を   作:冬月 道斗

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ども、珍しい時間に投稿です。



第三十四話 お悩み相談室番外編

 『小僧、今日の15時に仲見世通りにある仲吉に行け』

 

 電話に出てみると開口一番これである。

 九鬼の暴力執事は相変わらずのようだ。

 しかもおそらくこっちの予定なぞ粗方把握した上でだろうから断れん。

 と、言うわけで指定の時間に仲見世通りをうろついている。

 目的の店にたどり着くと幼女……、いや、見た目だけね、がパフェを突っついていた。

 あー、間違いない。

 あの爺に言われて居るのが紋ちゃんならこれが呼ばれた理由だな。

 

 「やあ、紋ちゃん元気?」

 

 白々しいなー。

 なんか妙に沈んでるもんなー。

 

 「む? 高坂か。うむ、我は変わらずであるぞ」

 

 いやいや、バレバレですがな。

 気を使うっていうか読むだけならそうそう負けはしないしね。

 

 「まあ、座るがよい。ここに来たということは高坂もくずもちを食しに来たのであろう?」

 

 あれ?

 さっきの反応と合わせて紋ちゃんは僕が来るの知らなかったんかね。

 おそらく相談にでも乗れってことだと思うんだけど、僕の話術じゃ本人から持ちかけられるんならともかく自分からとか自信が全くないんだが。

 

 「おー、じゃあ失礼して。おばちゃーん、くずもちとほうじ茶お願い」

 

 とりあえず紋ちゃんの対面に座る。

 さて、どうやって切り出したもんか。

 

 「紋ちゃん元気ないけどどうしたの?」

 

 はい、話術も糞もあったもんじゃないね。

 どーすんだよこれ。

 あ、ちょい殺気を感じる。

 いやはや紋ちゃんが一人でこんなとこにいるわけないよねー。

 

 「フハハ……、直球であるな。うむ、分かってしまうか」

 

 おや?

 意外と好感触?

 流石は九鬼だね。

 

 「いやまあ、紋ちゃん素直だからね」

 

 「そうか……、しかしこれは我自身が考えることだ。ヒュームやクラにもそう言われているしな」

 

 いえ、そのヒュームさんに言われて此処にいます。

 あのじじい、突き放す振りしといてかなり過保護だよ。

 自分で相談のってやれよ。

 

 「ふーん、何に悩んでるかも聞かない方がいいの?」

 

 「ふむ、お前も部外者と言うわけでもないし、隠しておくというほどでもないが……」

 

 「ぜひ聞かせてください!」

 

 いや、俺の身の安全のためにも真剣で。

 

 「ふむ、そんなに心配するほど表に出ておったか……、よかろう。話して何かわかることもあるかもしれんしな」

 

 いやまあ、多少は心配していますがそれより正直店の外から送られてくる殺気が怖いんです。

 てか、ここまでのモノを紋ちゃんや他の客に気が付かれないように俺だけに充てるって……。

 一応悩み話してもらうとこまでは行ったんだから少しは殺気引っ込めてくれませんかね?

 

 「そんなに難しいことではないのだがな。自分のやったことについて悩んでおるのだ」

 

 「やったこと?」

 

 「ああ、松永燕だ。知っておるだろう? あ奴は九鬼の依頼で武神を倒すために戦ったということを」

 

 「あー、そう言ってましたね」

 

 「あれを依頼したのは我だ」

 

 「なるほど。それで失敗したから悩んでるのね」

 

 てか、あれ紋ちゃん主導だったんだ。

 おもにヒュームさんから話聞いてたからあの人主導だと思ってたよ。

 なんか一度折れておくのが好ましいとか言ってたし。

 

 「まあ、そうと言えばそうなのだが……、悩んでいるのは別のことだ」

 

 「別のこと?」

 

 他に何が?

 あれか、あの兵器の実用性とかそう言う話か?

 

 「我は姉上のために川神百代を倒そうとしていたはずなのだ」

 

 「ん? どういうこと? もうちょい詳しく聞いてもいい?」

 

 揚羽さんのためってどういうことだってばよ?

 そして、はずとは?

 

 「姉上は川神百代に負けておる。それなのに川神百代はそれ以来負けも知らずに過ごして居るのだ。それが悔しくてな。川神百代が負ければ姉上も喜んでくれると思っていたのだが……」

 

 「あー、なるほど。それが失敗して寧ろ喜んでいたって所か」

 

 「わかるか? 失敗したその場に居ても姉上は悔しがるどころか本当に嬉しそうに見ていたのだ。そしてその理由が我にはわからんのだ」

 

 なるほどねー。

 

 「でもそれヒュームさんなら一発で理由とか教えてくれるんじゃない?」

 

 うわ、少し収まっていた殺気がまたきやがった。

 

 「うむ、しかし先も言った通りヒュームもクラも自分で理解するべきことだと言ってな。だから我も悩んでおるのだ」

 

 それで僕を繰り出してたら世話ないと思うんだがな。

 

 「あー、参考までに僕の意見聞く?」

 

 「む、だがそれでは……」

 

 「いや、僕も揚羽さんの気持ちが完全に分かるってわけじゃないし、武人としての考えみたいなとこあるから紋ちゃんがそんなに根詰めても答えは出ないかもよ?」

 

 おお、悩んでる。

 多分身内に頼って答えだして欲しくなかったんだろうね。

 実際僕ってヒュームさんたちにとって都合良い存在だったんだろうな。

 近すぎず遠すぎず、この件についてお話しても紋ちゃんに影響与え過ぎないし。

 

 「……聞かせてもらえるか?」

 

 よしきた。

 ていうか小さい子の上目使い庇護欲MAXです。

 は! 僕はロリコンじゃない!!!

 

 「あれだよ、たとえ松永先輩が勝ってても満足できるのは揚羽さんが一番であってほしいと思ってるファンと今までモモ先輩に負けてるチンピラくらいだったんだよ」

 

 「身もふたもないな……」

 

 はっきり言い過ぎた?

 おお、紋ちゃんのテンションと反比例して殺気が増してる。

 ちょっと面白い。

 てか、こういう風になること理解して僕よこしたんだろ?

 我慢しろよ。

 

 「うん、まあ、その感覚理解できないみたいだからちょっと砕いて言うとね。例えばトーナメント、真面目にやってる人だったら自分に勝った人にはせめて優勝してほしいとか思うだろう? 多少の打算として自分が負けたやつは最強っていうのは慰めにもなるし。まあ、揚羽さんはそう言う打算出す人だとは思わないけど」

 

 「うむ」

 

 「それをどっかからプロ連れてきて凹ったところで胸がすくってのは不真面目な選手か、その勝った選手がよほど卑怯な手段使ってるかって所だろうさ」

 

 「だが、少しはスカッとするのではないか? それに川神百代を地に付けた人間がいると言うのが励みになったり……」

 

 ああ、なるほど。 

 意地って部分が理解できてないのか。

 

 「それはまあ、間違いではないけどさ。でも結局他人事になるんだよ。揚羽さんは真面目に武人やってたでしょ?」

 

 「ああ、姉上はとっても強いし川神百代なんかよりずっと真面目に鍛錬もしていた!!」

 

 うお!

 すごい食いつきだ。

 でも納得できるねー。

 なるほど紋ちゃんは真面目な揚羽さんファンだったってことか。

 そりゃあ苦労してるの見ていてそうでもないのに負けて、しかも揚羽さんがかばうくらいな状況じゃあ悩みもするか。

 

 「だからこそだよ」

 

 「む?」

 

 これは僕にも言えるから間違いないだろう。

 そもそもの話が武神が誰に負けようともはや関係ないんだよね。

 それでも

 

 「モモ先輩の練習態度はともかく、自分に土付けた人間がやられているところを外側から眺めている何て我慢できない。寧ろさ、なんで自分はその舞台の上に立っていないのか。って、空しくなるだけさ。揚羽さんは引退するらしいけどきっと変わらないよ。やるんならば自分で、ってことさ」

 

 「……そうか。そういうものなのか。……しかし高坂よ、お前ちょっと怖いぞ?」

 

 おっとしまった。

 少し興奮しすぎたかな?

 

 「まあ、厳しいこと言っちゃったけどね? 多分揚羽さんは紋ちゃんのことせめもしなかったんじゃないかな?」

 

 「ああ、叱ってくれればわかりやすいのだが寂しい目で見られてな。それでどうするべきなのかわからなくなったのだ」

 

 「実際気持ちは嬉しかったんだと思うよ? 自分応援してくれてる人見て邪魔だと思うような人じゃないし。多分モモ先輩倒すのが紋ちゃん本人だったら手放しで喜んでくれたと思う。でも」

 

 「ああ、なんとなくわかった。わざわざ部外者を連れてきて倒そうとしたのがいけなかったんだな」

 

 そう、なんだかんだ言っても勝った負けたの結果は受け入れるしかないんだ。

 だからこそ僕のことは応援してくれてるし。

 紋ちゃんの失敗は意志を持たない人を外から持ってきてしまったことだろう。

 だから、結果いかんではやるせない気分になったことだろうな。

 

 「うむ、高坂よ、礼を言うぞ。参考になった。川神百代については納得できそうにないが我が横やりを入れるのは筋違いだったということか」

 

 「そう言うことだね。何かしたいんなら、自分自身で当事者になるべきだったね」

 

 そう言ってついつい紋ちゃんの頭を撫でててしまう。

 やってからまずいと思った。

 ほら見ろ、殺気が増した。

 いや、この見た目だとつい撫でちゃうって。

 これで紋ちゃんが嫌がれば……。

 ああ、せっかく治ったのにまた怪我か?

 また戦うのが遅くなりそうだぜ……。

 

 「む?」

 

 「ご、ごめん! 元気でたのを見たらつい……」

 

 さあ、僕の運命は如何に?

 

 「いや、まあ良い。家族以外に撫でられるのは新鮮で戸惑っただけだ」

 

 うおおおおお!!

 助かった!

 流石九鬼!

 寛容だぜ!

 

 「高坂よ、今日の礼はまた何れさせてもらう。ついつい話し込んでしまったが我の休憩時間もそろそろ終わるのでな。また会おう」

 

 そう言って笑顔で出ていく紋ちゃん。

 最近僕のコミュ力がめきめき伸びている気がする。

 相談解決率高いな、向いてるのかな?

 

 「小僧、ならば相談なのだが。主に馴れ馴れしくした男を俺はどうすればいいと思う?」

 

 「……いや、寛容な心で許すべきかと」

 

 「残念。解決失敗だな」

 

 ハハハ、執事的にはやっぱりNGでしたか、そうですか。

 

 「なに、力になってくれた分を加味して後に残らぬようには心がけてやろう」

 

 ……ああ、この人絡むと結局こうなるのね。




以上でした。
予定ないと安心していて目が覚めたら昼近くだったでござる。

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