せめて、せめて一勝を   作:冬月 道斗

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どうも。
前話の感想が少し多くて嬉しいです。
ちょっと悶えながらもかっこつけて書いてよかったー。
ああいうのやりすぎるとメアリースーってバッシング受けるだろうなーとちょっと不安でした。



第三十三話 若獅子達の世代交代

 僕復活!!

 とりあえず足も違和感なしに動けるようになった。

 あとは調整だな。

 体の調整と武神対策の小細工、さてさて思いついたはいいけど通用するのかね?

 

 「あ! 高坂!」

 

 夏休みと言うこともありリハビリがてら組手を増やした帰り、おそらく特別授業帰りの直江がこっちに向かってきた。

 

 「おーす。どしたの? なんか妙に力入ってるけど」

 

 「お前なにしたんだ? なんか姉さんの様子がおかしいんだけど」

 

 ん?

 

 「いや、モモ先輩がおかしいのはいつものことじゃない?」

 

 あの化け物が普通なはずないだろう。

 

 「お前……恐ろしいことを……。いや、そうじゃなくてなんか怖いんだよ」

 

 「だからいつものことじゃん」

 

 手から波動が出るような奴が怖くないはずがない。

 

 「あー……、まあ、そうなんだけどさ……。そうじゃなくて、なんかこの前から妙に覇気が出ててさ、そうかと思ったら急にしおらしくなるし」

 

 なるほど、確かに少しおかしいかもしれないね。

 でも

 

 「なんで僕に聞くの?」

 

 「いやな、覇気溢れさせているときには『フフフ、トラ……』ってギラギラしてて、しおらしいときには『トラか、確かに気持ちのいいやつだが……、いや、でも……』とか呟くんだよ」

 

 うわ、わかりやす!

 そりゃあ僕に聞くよな。

 

 「あー、覇気の方は心当たりあるかな?」

 

 「ほう、なにしたの?」

 

 「ちょっとばかし宣戦布告を」

 

 「なん……だ……と?」

 

 うお!?

 すげー!!

 漫画でしか見ないような劇画調な顔だ。

 

 「おまえ、すごい、いのちしらず」

 

 「落ち着け。ほら、深呼吸。……しゃべり方は安定したか?」

 

 「スー、ハー。……すまん。取り乱した」

 

 いやまあ、芸にすれば飯食っていけるものだったよ。

 

 「いやすごいな。姉さんのこと知ってる人間でそんなことできるなんて……、勝算はあるのか? 最近似たようなことした燕先輩は負けたけど」

 

 「知らん」

 

 「は? 知らんって、勝てると思ったから挑んだんじゃないのか?」

 

 ふむ、わかってないね。

 

 「まあ、勝つ気ではいるけどさ、勝算とかどうでもいいんだよね」

 

 「ふーん、武人としての意地ってやつ? 意外だな、お前はそう言う熱いこと言うやつだとは思ってなかったよ」

 

 「まあ、それもあるけどさ。そんなに難しいものじゃないよ。僕は別に何も背負ってないんだ。負けて失うのは最悪でも自分の命だけだから気軽なものだよ」

 

 「……え?」

 

 「そのために今まで何度も修羅場をくぐってきた。だからやるんだ。命がけなんて陳腐な言葉だけどさ、今まで何度もそうしてきたんだ。だからやる、勝つまでね」

 

 「命がけって……」

 

 おや、直江は少し引いてるな。

 

 「あー、この際だからちょっとだけアドバイスしといてあげるよ。人脈作りとかにいそしんでるみたいだけどさ、もうちょっと考えて立ち回った方がいいよ? この程度の人間なんて僕たちの周りにはいくらでもいるんだからさ」

 

 「は? そんなわけないだろう。そんなこと考えるような奴は……」

 

 「いるだろ。最たる例として家のクラスには軍人なんて奴もいるんだ」

 

 「あ……」

 

 「それに一子ちゃん、あの子の進もうとしている道に早々都合よく命の保証なんてあると思わない方がいい」

 

 そう、その危険を減らす方針があろうと所詮は武の総本山、修業中いつ命を落としてもおかしくはない環境に身を置いているのが身内に居るんだ。

 由紀江ちゃんだっておそらく命のかけどころ位心得ているはずだ。

 

 「……確かにちょっと軽く見ていたかもしれないな。考えてみたらキャップもそう言うところあるし……。うん、気を付けるよ」

 

 「そうしときなよ。そう言う人種は直江が求めているよりはるかに重いことをしでかしかねないからね」

 

 軽い気持ちで助け求めてー、なんてことになったら気の毒だしね。

 

 「それで、姉さんが覇気溢れている理由は大体分かったけど、急にしおらしくなるのはどうしてなんだ?」

 

 「それはわからないなー」

 

 なにがあったんだろう?

 

 

 

 ――――

 

 

 

 今日も今日とて川神院。

 組手を終えて帰ろうかと言う時に鉄心さんに呼び止められた。

 

 「高坂よ、今夜時間はあるか?」

 

 じじいに言われたくないセリフだな、おい。

 

 「はい、大丈夫ですよ」

 

 「うむ、それでは今日の稽古が終わるころに来てもらおうかのう」

 

 「わかりました」 

 

 なんじゃろ?

 宣戦布告もしたし向こうから仕掛けてくるんかね?

 それもまたいいかなー。

 

 

 

 

 などと考えていたら今夜の川神院は世紀末だったでござる。

 

 「うむ、皆よく集まってくれたの」

 

 川神院総代、川神鉄心。

 

 「フン、俺も暇ではないんだ。さっさと済ませるぞ」

 

 九鬼従者部隊序列零番、ヒューム・ヘルシング。

 

 「まあまあ、これも次の世代の子たちに必要なことですヨ」

 

 川神院師範代、ルー・イー。

 

 「オウオウ、俺ん時はここまで大仰じゃあなかったのになぁ」

 

 天神館館長、鍋島 正。

 

 「あー、どうでもいいから始めましょうや。ったくよー、弟子のお守りとはいえまたここに来ることになるとはなぁ」

 

 元川神院師範代、釈迦堂 刑部。

 

 「いやはや物騒な面子と言い、放っとけねぇわな」

 

 元川神院門弟にして現総理。

 

 「これは……、我らのことながら壮観だな」

 

 無比なる護衛力を誇る鉄家が娘、鉄 乙女。

 

 「フハハハ! 物騒な顔ぶれであるな!! ああ、橘のはまだ療養中だ」

 

 九鬼家長女、九鬼 揚羽。

 

 「いいなぁ~! どいつもこいつも歯ごたえありそうだなぁ」

 

 武神、川神百代。

 

 「あわわわ! 何て恐ろしいところに来てしまったのでしょう」

 

 「まゆっち落ち着け! 黛流は狼狽えない!」

 

 剣聖の娘にて黛流の後継者、黛由紀江。

 

 「うわー、ここは今世界で一番恐ろしい場所だね」

 

 西の雄、松永 燕。

 

 「う~ん、眠たいな~。トラ君、何かあったら起こして~」

 

 眠れる龍、板垣 辰子。

 

 

 ………………………。

 なにこの空間!

 すぐにでも逃げだしたい。

 いや、わりと真剣で。

 世界でも征服するつもりかこの化け物ども。

 ゴ〇ラまでなら縊り殺しそうな面子だぜ。

 

 「ふむ、各々旧交を温めたい気持ちもあるじゃろうがまずはことを済ませてしまおう。鉄乙女、九鬼揚羽、橘天衣、川神百代、この四名をもって武道四天王としていた。これは若い世代の武人の頂の四人に与えられる称号じゃ。しかし、百代以外の三人が故合ってその座から離れることとなった」

 

 「ああ、武の道を外れる気はないが私は教師と言う職に就くことになった。ついてはこれも機会と思い純粋な武人としては引退をすることにした」

 

 「我もこれからは九鬼のものとして世界を動かさねばならん身だ。正直この座に座り続けられるほどの鍛錬は積めなくなってきた。橘のについては幾たびかの敗北に次いで重傷を負ったために降りることとなった」

 

 「そこで、新しい四天王を選出することとなった。皆も記憶に新しいであろう若獅子タッグマッチトーナメント。あれほど規模を大きくした理由の一つじゃ」

 

 「そして最後まで候補に残ったのがお前ら四人だ」

 

 ふーん、四人ねぇ。

 ……四人?

 

 「まずは、橘を打倒して居る黛由紀江。トーナメントでもその実力に間違いのないことを見せてくれた。次に松永燕。こちらもトーナメント優勝及びエキシビジョンにて問題のない実力を見せた。次に板垣辰子。全くのノーマークであったが、まだほとんど磨かれていない身でありながら確かな実力を持っておった。現時点他のものより一段落ちる実力じゃがその可能性は計り知れん」

 

 そろいもそろって化け物です。

 本当にありがとうございました。

 

 「最後に高坂虎綱。先のトーナメントに於いては裏方として戦わずの棄権であったが、現四天王である鉄、九鬼の両名を打倒するという結果を見せておる」

 

 あああああ!!

 それで呼ばれたのか!!

 畜生!

 明らかに場違いなのによく考えたらここにいる四天王さんと候補の半分倒しちゃってるじゃん。

 そりゃあこんな地の果てにも呼ばれるよね!

 

 「この四人の中から最終的に三人を決めるために今日は集まってもらった。そこで、まずは現四天王を打倒しておる両名は確定と……」

 

 おいおいおいおいおいおいおいおい!

 待って待って待って待って!

 

 「辞退させてください!!」

 

 「して残り一人を協議……ふぉ!?」

 

 全員の目が僕に向けられた。

 いや、これ半端なく怖ーよ。

 

 「いや、無理っす! 場違いっす! こんな化け物たちと並べてみられるのは僕の胃が持ちません!!」

 

 「「「「「「ほう」」」」」

 

 あ、やべ。

 眠ってる辰子さん以外の女性たちの目が世にも恐ろしいことになってる。

 

 「ふむ、そうかそうか。私たちは化け物か」

 

 あ~、乙女さん超笑顔だ。

 この人怒るとき笑う人なんだよなー。

 ナイススマイル!

 この刺すような殺気がなければホレてたかも。

 

 「フハハハ! 場違いと言ったな? どれ、それが本当なのか少しばかり試してやろうではないか」

 

 うわーい。

 流石は人の上に立っているお方だ。

 この威圧感をカリスマっていうんだろうなー。

 決して一人に向けるものじゃないよ。

 

 「いい考えですねー、揚羽さん。一応私と戦うことになっているんで後に残らないようにしましょう」

 

 てめー!

 確かに宣戦布告はしたけどこんな大人数で囲って恥ずかしくないのか!

 後に残さないようにって、ヤンキーかよ!

 それでも武神か!?

 

 「アハハー、ひどいなぁ。こんなに美少女そろってるのに言うに事欠いて化け物って。おしおきだべー」

 

 うわー、一番感情は荒ぶってないけど面白半分できてる。

 スゲー楽しそう。

 実は一番えげつねぇよこの人。

 けど確かに眼福な面子だね!!

 

 「松風? 私はどうするべきでしょうか?」

 

 「決まってるだろ! GO TO HELL!!」

 

 うん、一人芝居じゃあもう結論決まってるね。

 ていうか松風に聞く前に刀抜いてたじゃん!

 やめて!

 いつもの優しいまゆっちに戻って!!

 

 「あー、今からごめんなさいっていうのは?」

 

 

 ―――ニコ

 

 全員が笑ってくれた。

 ……けど状況変わってねーなー。

 こんな時は無駄に鍛えた観察眼が恨めしい。

 

 「「「「「もう遅い!!」」」」」

 

 アハハー、さいしゅうちょうせいにはちょうどいいなー。

 ……死んだかなこれ?

 援軍を求めて大人組の方を見る。

 

 

 

 

 

 「はあ……。まあ、本人がああ言っておるんじゃ。新四天王は決まりでいいかのう?」

 

 「ククク、ああ、それでいいだろう。あいつの強さはそう言う肩書背負うのには向いていないからな」

 

 「元気でいいな。俺が四天王だった時のことを思い出すぜ」

 

 「おうおう! 若いのが育っているようで何よりじゃねぇか」

 

 「コラー!! あんまりはしゃぎ過ぎちゃダメだヨ!! ……はぁ、全然聞いてないネ」

 

 「これで終わりですかい? なら寝てる辰子運んで帰らせてもらおうかねぇ」

 

 「zzz」

 

  

 

 ……ああ、こりゃ駄目だな。

 

 

 

 こうして若い世代の頂点の世代交代が行われた。

 因みに僕は怪我はしないように優しく甚振られた。

 この晩で僕はたとえ地獄に落ちても鼻歌交じりで対処できるんじゃね?と言う自信をつけることができたお。




以上です。
高坂君が四天王になったらひょんなことで負けてすぐ引きずり落とされそうww

高坂「あ、やべミスった……ぐあああ!!」

挑戦者「え? 一撃?」

みたいな。

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