せめて、せめて一勝を   作:冬月 道斗

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帰りが遅かったのでこんな時間に投稿です


第十六話 敗北 その後

 目が覚めると知らない……わけじゃないな。

 川神院の治療室の天井だった。

 全身が痛くてしようがない。

 てか、負け……たんだよなぁ。

 

 「ああ……、まだ届かないか……」

 

 うん、まあでも何もできなく地に伏せられた頃よりはましだと考えよう。

 

 

 「失礼しまー……!! じいちゃーーん!! 高坂君起きたよーー!」

 

 声をかけられ、返事をする前に襖が開けられたと思ったら、一子ちゃんが駆けていった。

 何と言う早業!! 

 てか、暗いな、決闘は午前中だったから……八時間くらいは寝てた?

 思わずあっけにとられていると、数人の気配が近づいてきた。

 

 「目を覚ましたようじゃのう」

 

 「体は大丈夫かイ?」

 

 「大丈夫? 動かない所とかない?」

 

 戻ってきたら一斉に声をかけられた。

 ずいぶん心配されているようだ。

 

 「おはようございます。 うん別に動かない所は……あれ?」

 

 ちょ!? 待って! 立てないどころか体起こせないんですけど!!

 

 「無理をするでない。ぶっちゃけ治療する前はワシでも死んだと思ったのじゃからな」

 

 「そうだヨ、何とか後遺症はないようにできたと思うガ……多分ネ」

 

 「あわわわわ、ランニングから帰ってきたらとんでもない高坂君が……。怖かったわ~」

 

 え? ちょっとそんなに酷かったの?

 いや、確かにあの時はもう痛みなんか超越してたんじゃないかってくらい興奮してたけどさ!

 ていうか一子ちゃん涙目の範囲超えてね?

 

 「ち、因みにどんな状態だったんですか……?」

 

 おっかなびっくり聞いてみると

 

 ――ピシ!!

 

 全員固まってしまった。

 

 「「「聞きたい(の かイ かのう)?」」」

 

 あ、これは怖い。

 

 「いえ、やめておきましょう。うん、それがいい」

 

 怖気づきました。

 

 「それがいいじゃろ。なに、川神院の総力を結して何とか元通りになるようにできているずじゃ」

 

 ああ、鉄心さんでも不安になる惨状だったんですね。

 流石紙装甲、少しでも気を抜いたらミンチだね!

 いや、笑えねーよ。

 

 「あー、モモ先輩は?」

 

 この話題を続けると怖くてしょうがないのでそらしてみる。

 

 「うむ、モモも流石に自爆技を回復なしで使うのは堪えたみたいでの、今は部屋で療養中じゃ。なに、あと数時間もすれば気が回復して瞬間回復でも使うじゃろ」

 

 おお、相手も無傷とはいかなかったようだ。

 ……でもすぐに回復できるってのはやっぱり卑怯すぎると思うんだ。

 

 「お主も夜が明けるころには立ち上がるくらいはできるようになるじゃろう。死ぬほど痛いじゃろうけど……」

 

 「ゆっくり休むといいヨ。そうダ、食事でも持ってこさせようカ。固形物は無理だろうけどネ……」

 

 

 「うう~、死んじゃったかと思ったわ~」

 

 ちょいちょい不安になることを言わないでほしい。

 てか、一人トラウマになってないか?

 感覚自体は……うん、死ぬほど痛い。

 よかった、動かなくなるってことはなさそうだ。

 

 「ありがとうございます。とりあえず動けるようになるまで休みますね」

 

 「そうしなさい」

 

 「それじゃ、食事ができたらもってくるヨ」

 

 「早く元気になってね?」

 

 そう言って出ていく三人。

 いや、最後の自爆は確かに死んだかと思ったけどやっぱり危なかったようだ。

 

 

 ――――

 

 そうして、夜が明けたころには、何とか動けるようにはなっていた。

 動けるようには……

 

 「なんじゃこりゃ!!?」

 

 トイレに行って鏡を見ると、モンスターだった。

 これ僕生きてるよね?

 まあ、痛みさえ我慢すれば動けるから生きてるんだろうけど。

 

 「なんだ!!?」

 

 叫び声に反応したのか武神が飛んできた。

 てか、本当に回復しやがったこのアマ。

 理不尽だ。

 

 「っと、高坂か、どうした? どっか不具合でもあったか? 一応後遺症は残らないとは言っていたが……」

 

 この人も人を心配したりするだな。

 

 「いえ、体は動くみたいですが、起きて初めて自分を見たらUMA見たいなのがいて……」

 

 「あー……、確かに今のお前そんな感じだなぁ。まあ、私の攻撃を最後まで受け続けたんだ、そうなってもおかしくないだろう」

 

 こんにゃろう、ドヤ顔ムカつく。

 

 「いや、それにしてもこの差は不公平でしょう……」

 

 「ハハ、まあこの私だからな! ……とは言っても、私だって気がある程度回復するまではひどいもんだったぞ? 両の手はぐにゃぐにゃで、自爆したせいでぼろぼろだ。ああ……、美少女としてあるまじき姿にさせられてしまった」

 

 最後は演技がかった仕草で泣き崩れた。

 うん、平常運転だ。

 だってこの人目が笑ってるんだもん。

 

 「はいはい、びしょーじょびしょーじょ」

 

 こんだけ、通常通りの姿を見せられては罪悪感も糞もわくわけがない。

 

 「なんだよー、あんなことしといて冷たいぞー! 責任とれよー!」

 

 あ、ちょっとすねた。

 責任……、責任ねぇ?

 改めてこの武神を見てみる。

 顔、うん自称するだけはある、美少女だ。

 胸、けしからん、流石武神けしからん。

 腰、てかなんでごっつくないんだろう?

 尻、名は体を表すとはこのことか!

 足、……実は僕、脚フェチなんだ……。

 総評、まあ、普通にありである。

 

 「う、ま、まあ、なんだ。あれだけ出し切ったのは久しぶりだったぞ? 実に楽しかった。またやろうじゃないか!!」

 

 露骨に見過ぎたのか、照れてしまったらしい。

 明らかに話題を変えてきた。

 照れるんならやんなきゃいいのに。

 

 「はい、こちらから頼みたいくらいです。で、いつやります? いつでもいいですよ。ちょうどいいしこのあとやりましょうか?」

 

 まあ、話にのってやるとしよう。

 

 「ちょ? おま、この後って? 普通に満身創痍じゃないか!?」

 

 「ははは、体が動くんなら問題ないですよ。死ぬほど痛いけど」

 

 もともと、化け物たちと比べたら大したことのない身体能力だ、このくらいなら誤差もいいところ、幾らでもやってやろうではないか!

 

 「い、いや、流石の私でもこんな状態の相手と戦いたいとは……」

 

 「大丈夫大丈夫、さあ、外行きましょうか?」

 

 「え? ちょ? 本気かお前? いや、引っ張るなよ……、じじいーー!! じじーー!!!」

 

 おお、珍しく助けを求めているぞこの人。

 さあ、頑張ろうか。

 

 「どうしたんじゃモモ。朝から騒がしいのう」

 

 「あ、おはようございます鉄心さん」

 

 「いいから何とかしろじじい! こいつこの状態で戦おうとしてるんだ!」

 

 「……ふぉ? 正気か?」

 

 む、失礼な。

 

 「はい、まあ気が乗らないというなら組手でも……」

 

 「いや、そういう問題じゃないからな! 死ぬぞお前!!」

 

 「大丈夫大丈夫、ほら行きましょうよモモ先輩。っく、ほら、少しだけだから」

 

 「いや、お前! なんかおかしくなってるからな!? ちょ、じじい! いつまで呆けてる!? 何とかしろ!!」

 

 はあ……はあ……、いつも自分から誘ってるくせになんでこんなに抵抗するんだこいつ?

 

 「……ッは! 落ち着くんじゃ高坂よ!」

 

 「そうだ、落ち着け、昨日負けたばっかりだろう? そんな状態でやってもしょうがないだろう、な?」

 

 あ、それ言っちゃう?

 気にしてないとでも思ったのか!!

 

 「く、いいだろう! ならば決闘だ!! ほら、大丈夫だから! 先っぽだけだから!!」

 

 「おい、なんか卑猥になってるぞ!!」

 

 「むう、高坂よ、許せ。川神流 秘穴突き!!」

 

 「甘い!! 怪我をしているとはいえそう簡単に食らってやるもんか!!!」

 

 向かってくる鉄心さんを受け流す。

 

 「お前! すごいけど、確かにすごいけど!」

 

 「さあ、行きましょうかモモ先輩!!」

 

 「ック! ルー! ルー!! 協力するんじゃ!!!」

 

 

 

 

 この後、ルー先生も加わってしまって、流石に取り押さえられてしまった。

 

 

 

 

 「……なあ、じじい」

 

 「……なんじゃ? モモ」

 

 「ちょっと私、精神修行もするようにするわ……」

 

 「ああ……、わかってくれて何よりじゃ……」

 

 後日、少しは戦闘衝動を抑えることに前向きになったモモ先輩がいたらしい。

 なにがあった?




以上です。
ちょっと武神と親密になったというお話でした。

それではまた次回。

この作品は一人称の練習も兼ねているのでよろしければ批評をお願いします。

三人称での練習としてなろうで「妖怪って厨二病の華だと思うんだ。」という作品も連載しているのでよろしければそちらの批評もよろしくお願いします。

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