せめて、せめて一勝を   作:冬月 道斗

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どうも、今回はちょっと前に作っていたフラグの回収回です。

それではどうぞ。


第十三話  通常の三倍親馬鹿

 さてさて、改めて学校にやってまいりました。

 今回は通学中に悲鳴をあげられることもなく、いたって普通の通学路だった。

 

 「おはよう」

 

 「おう、おはようさん。今度はちゃんと治してきたな」

 

 「おはようございます。それにしてもそんなに短期間で治る怪我ではなかったはずなのですが……」

 

 このくらいの異常、川神に居れば日常茶飯事であるからか、この前のような反応ではないが、真面目な葵は少し考え込んでしまっている。

 

 「いやいやそこは川神補正ってやつで気にしなくていいんじゃない?」

 

 「……そうですね、医者の息子としては納得しがたいことではありますがそうしておきます」

 

 「それで、ここしばらくのノートとか貸して欲しいんだけどお願いできる?」

 

 「おう、それくらいなら大丈夫だぜ。それよりもお前さんがいない間に転校生が来たんだぜ?」

 

 「へー、それはそれは S組に転校してくるってことは優秀な人なんだろうね」

 

 「ええ、とても素敵な方でしたよ」

 

 普通ならここで女子だと判断するんだが、両刀の言葉だとどちらかわからんな。

 

 「で? どんな人なの?」

 

 「おう、それがな……」

 

 「おはようございます」

 

 ……は?

 いやいや、なんか法治国家日本じゃあめったに見ることのないものが見えた気がするんだが。

 キノセイダヨネーネボケタヒトノミマチガイダヨネ―。

  

 「おや? そちらは誰ですか? 答えなさい、準」

 

 「おおう……、噂をすればってやつか。こいつはけがで休んでた高坂虎綱だよ。んで高坂、こいつがさっき言っていた」

 

 「マルギッテ・エーベルバッハです。栄えあるドイツ軍所属の少尉です。よろしくしなさい」

 

 「えっと、GUN? ARMY?」

 

 「はい、Armeeです」

 

 おおう、通りで軍服だ。

 

 「えっと……失礼ですがご年齢は?」

 

 「無論年上です。この学園には護衛任務の一環で来ました。なるほど、あなたが高坂 虎綱ですか」

 

 「はあ、そうだけど……何か?」

 

 「いいえ。直にわかるでしょう。もう始業です。軍人は時間に正確であるべきだ」

 

 そう言って自分の席に戻っていくマルギッテさん、まあ同級生だし呼び捨てでいいかな?

 てか護衛ってなんだよ?

 とりあえずは、

 

 「……いや、僕民間人なんだけど……」

 

 どうしてだろうか? 

 すごく疲れた。

 ふと視線を感じてそちらを見てみると井上が仲間を見るような目でこちらを見ていた。

 護身とかそういうの全部うっちゃけてブン投げたくなった。

 

  

   ◆◇◆◇

 

 あれから何事もなく放課後を迎え、学園長室にお邪魔していた。

 

 「ふむ、完治したようで何よりじゃ。して、モモとの仕合の件かの?」

 

 「はい、怪我も治りましたのであとはそちらの都合を調整していただきたくて参りました」

 

 「よかろう。それでは明後日でよいかの? ちょうど休みじゃしのう」

 

 おお、話が早い。

 事前に申し込んでいただけあって待たされることもないか。

 

 「はい、それではよろしくお願いします」

 

 そう言って学園長室から出ていくが、やはり実際にカードが組まれるというのは感じるものがあって、僕の内心はいつになく昂っていた。

 

 

  

 その下校途中のことだが、妙な視線を感じて煩わしかったので、人のあまりいない原っぱに行くことにした。

 

 「出てきてくれないかな? 今、すっごく興奮していてさ、そんな挑戦的な目で見られてたら迷惑なんだ。気が静められないじゃないか」

 

 

 「ほう、我が精鋭たちに気が付くとは中々ではないか」

 

 そう言って出てきたのはまたもや軍服。

 しかし、その男は年かさで、雰囲気からお偉いさんだとうかがえる。

 そして男の周りについて、先ほどまで同じ教室にいたマルギッテを始め二十ほどの軍人が付き従っている。

 

 「んで、何者ですか? ついでに急ぎでないなら後日に回していただきたいのですが」

 

 軍に狙われる覚えなどないからして。

 

 「いやいや、そう言わずに少し時間を作ってほしいのだよ。私はフランク・フリードリヒと言うものだ。ドイツ軍中将をやらせていただいている」

 

 驚きの将官であった。

 なんでそんなお偉いさんがこんなとこにいるんだよ?

 

 「なんでそんなお偉いさんがそんなとこにいるんだよ?」

 

 あ、しまった。

 口に出してしまった。

 

 「貴様! 中将に向かって! 口を慎みなさい!」

 

 「あ、すみません、つい驚いて思っていることをそのまま言ってしまって……」

 

 「止すんだ少尉。いや、構わないよ。確かに普段からこうして普通に出歩いている立場ではないからね」

 

 自覚してんのかよ。

 

 「それで、何かご用でしょうか?」

 

 「ああ、話と言うのは私の娘のことなのだが」

 

 娘?

 どういうことだろう?

 

 「ふむ、娘と言うのはクリス、クリスティアーネ・フリードリヒのことだよ」

 

 「ああ! あの転校生の親御さんでしたか。……それで、こうして部隊を連れているということは決闘の敵討ちと言うことですか?」

 

 それなら丁度いい、この昂ぶりを静めてくれる!!

 いや、竜兵の真似はなんか嫌だ。

 なんか昂ってた心も少し落ち着いた気がする。

 なんて考えながら少し警戒を強める。

 

 「いや、確かにクリスは負けはしたがそれは競い合ってのことだ。流石に介入しようとは思わないよ」

 

 なんだ、違うようだ。

 んじゃなんだろう?

 

 「問題はそのあとでね。クリスが君のことをよく報告してくるようになったのだよ。なんでも武士として不殺の信念を持った好漢であるそうだね」

 

 「えっと、そこまで大げさかどうかはともかくとして、護身の武術に誇りは持っていますが……」

 

 なんか褒められた。

 これを言いたいためにわざわざ部隊を連れてきたのか?

 じゃあ護衛ってことかな?

 

 「うむ、素晴らしい。それでなのだがね、最近収まったようなのだが、娘は直江大和君と言う男と少し反目していてね。なに、悪い男ではないのだが、主義主張が合わないようでね、彼と対比するように君のことを報告していたのだよ」

 

 「はあ、まあ、それは光栄で?」

 

 いや、直江お前なにしたんだよ?

 嫌われない様ってのがお前の十八番じゃなかったのか?

 まあ、それにしても話が見えないな。

 

 「それでだ、一つ聞きたいのだよ。そんなことは決して、億に一つもあり得ないとは思うが、思うんだが一応確認しておきたいのだが……」

 

 !!?

 雰囲気が変わった?

 なんだ、何を聞く気だ!?

 

 「わが娘に手をだそうだなんて考えていないだろうね!?」

 

 ……ああ、なるほど。

 全てつながった、この人ただの親バカだ。

 なんか一気に力が抜けたなぁ……。

 

 「いや、大丈夫ですよ。少なくとも今はそんな気はこれっぽっちもありませんから」

 

 「娘に魅力がないとでもいうのか!!!!」

 

 どうすればいいんだよ?

 っと、これ銃を出そうとしてないかこのおっさん!?

 

 「うわ!?」

 

 と言うことで咄嗟に距離を詰めて、銃を取り出そうとしている手を掴み、そのまま足を払う。

 

 「ぬ!?」

 

 そして、膝をつかせて手を後ろ手にして拘束する。

 

 「ちょっと落ち着いてくださいよ。銃なんてシャレにならないじゃないですか!?」

 

 そうやって正論を吐いたつもりなのだが、

 

 「貴様!! 中将殿から離れんか!!」

 

 忠誠心の高いらしいクラスメイトはこちらに迫ってきた。

 流石に中将人質にした形で相対するのはまずい。

 なにがまずいかって社会的にまずい。

 第三次世界大戦なんて大惨事の引き金になんかなりたくない。

 

 「いや、落ち着けよ!?」

 

 「Hasen Jagd!」

 

 なんか眼帯とって襲い掛かってきてるんですけど?

 

 「少尉! やめ……な!?」

 

 そんな様子に中将さんは落ち着いたようでマルギッテを止めようとしてくれたようだが、既に迫ってきている武器、トンファー、それを避けて彼女の腕の裾を掴み、その生地を捻る。

 すると、腕が動く力と言うのが服に拡散され、向かってくる力に空白が生まれる。

 そのできた空白の間に、腕の内側から外側にくぐるように動く。

 するとさっきの中将殿の焼回しのような体制の出来上がりである。

 その出来事に中将さんは止めようとした言葉を飲んでしまったようだ。

 

 「……っく!! Hasen Ja……」

 

 「!! 少尉! やめないか!!」

 

 そのせいでまだ抵抗しようとするマルギッテであるが、流石に今度はしっかり止めてくれた。

 

 「は!」

 

 「ふう、さて、高坂君、冷静さを欠いてすまないことをした。謝罪しよう。それで、重ね重ね申し訳ないのだが部下を放してはくれないだろうか?」

 

 「はあ、もう暴れないなら放しますが……」

 

 そう言って、手の中の彼女を見る。

 

 「軍人にとって命令は絶対です」

 

 と、言葉のとおり抵抗する様子もないので放してやる。

 この人、制したの怪我覚悟で抜けようとしていたよな。

 化け物一歩手前ってことか、怖い怖い。

 放してやると迷いなく中将殿の護衛の位置に戻って行った。

 

 「うむ、護衛たちに反応もさせずに私を制するとは、流石クリスに勝っただけはあるね。その手腕も素晴らしい」

 

 「それはどうも、それで? 話を続けるようであればせめて武装解除していただきたいのですが?」

 

 「いや、こちらも熱くなってしまったし、今日はここまでにしておきたい。この失礼の詫びは後日しっかりさせてもらおう。それでは失礼するよ」

 

 そう言って軍人たちを引き連れてさって行った。

 ついでにマルギッテからは非常に好戦的な視線をもらってしまった。

 いや、まさに嵐のような人たちであった。 

 




ありがとうございました。
恋愛フラグ? いやいや襲撃フラグですよ。

フランクさんって対応できる人間相手だとこんな流れになっちゃう人だと思うんですが如何でしたでしょうか?

軍服ってのは、様々な理由から少しブカっとしていますが、力量によってはすっげぇ投げやすそうですよね。

それではまた次回。

この作品は一人称の練習も兼ねているのでよろしければ批評をお願いします。

三人称での練習としてなろうで「妖怪って厨二病の華だと思うんだ。」という作品も連載しているのでよろしければそちらの批評もよろしくお願いします。

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