赤蜥蜴と黒髪姫   作:夏期の種

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第83話「大地の支配者」

 木場が告げた第一候補は校舎裏の一角。

 聞いて納得の定番スポットだったが、何で気づかなかったのやら。

 漫画やエロゲーでお馴染み。ヘビーユーザーの俺なら、真っ先に浮かんで然るべきだろうに。

 

「誰も居ないか」

 

 果たして間に合わなかったのか、それとも単純に外れなのか。

 俺とアーシアが到着した時点で周囲に人影は無い。

 但し、無駄足という訳でもなさそうだ。

 見つけたのは、中心に空いた穴から波紋状に破壊された地面という異変。

 誰かがやらかした痕跡と言うか、何らかの戦いが勃発している紛れもない証拠だったからだ。

 

「イッセーさん、やっぱり何かが起きています」

「ウチの学校は人外も多いし、別件の可能性もあるけどな」

「いえ、爰乃さんの力特有の痕跡が残っています。つまり、事件の渦中に巻き込まれていることは確定です」

「俺には全く分からんが、そんなの分かるの?」

「実は治療することが多い人の場合、バイオリズムを整える副産物なのか感覚で何となく分かるようになりました。ですのでイッセーさん、ヴァーリさんの魔力も見れば判別できますし、特に回数の多い爰乃さんに至っては間違えようがありません」

「そ、そうか。アーシアは多芸だな」

 

 さらっと流されたけど、何気に凄い能力じゃないか?

 患者さん限定っぽいのがアーシアらしいが、使い方次第で化けそうな気がするぞ。

 

「私のことより敵です、敵! 爰乃さんは本気を出せる相手と戦っています!」

「確かに一般人相手にコレはないか」

「です」

「ふと思ったんだけど、電話するのが早いんじゃね?」

「……あ、そんな手もありましたね」

「お互い冷静じゃなかったってことだな。では早速っと」

 

 別に珍しいことじゃないが、鳴りはしても繋がらない

 個人的には偶然と切り捨てたいし、この惨状を見る限り片付いているとも思う。

 しかし、この胸のわざつきは誤魔化しようのない俺の本音。

 本人に話を聞いて、スカッと解決しなきゃ寝覚めが悪くてたまらんな。

 

「駄目、ですか?」

「電波の届く範囲には居るらしいけどな」

「心配です……」

「こうなりゃ乗り掛かった舟だ。まだ校内に居ると信じて、ここからは二手に分かれて探そう。但し何か見つけたら即連絡な。絶対に一人で対処するなよ?」

「どちらかと言うと鉄砲玉気質のイッセーさんの方が不安ですけど……とりあえず分かりました。私は屋上から始めて、校舎内をぐるっと見て回りますね」

「なら俺は外を攻めるわ。つっても学校の結界が無事というか平常運転だから、大事にせずこそっと動く方針は継続で。ゼノヴィアはともかく、フリーダムなヴァーリは抑えられる自信がない」

「……学校の平和を脅かす最大の脅威が身内って」

「……腐ってもアイツは魔王の魔力を兼ね備えた白龍皇。グレモリー&シトリーが束になっても勝てるか怪しい最強クラスだからなぁ」

「……出来るだけ目立たないように注意します」

 

 魔王様に聞いた話を信じれば、堕天使の総督が張り切って整備した結界は完璧らしい。

 曰く絶霧でも直接転移は不可能。不法侵入? やれるならやってみろとのこと。

 おまけに唯一の入り口である校門には多様な機能を備えた監視カメラが幾つも設置され、不審者が紛れ込んでいないか24時間チェック中の鉄壁さ。

 その証拠に、あの弦さんが検知されてお縄になったんだぜ? 鉄壁過ぎるだろ。

 つまり敵が何処からか進入してきた可能性は皆無。単純に相手は生徒だと思う。

 それらを踏まえて最悪の事態を想定すると

 

 嬉しそうに呼び出しに応じた → 気のある相手で害意なし。

 じゃあ手合わせでも     → 口説く相手の好みは当然把握しているので了承。

 バトル開始         → 足場が崩れたし、河岸を変えよう。

 

 の流れが現在進行形で進んでいるのではなかろうか。

 

「ぐぬぬ、ある意味最悪のパターンだ」

 

 想像通りであれば、非常によろしくない。

 呼び出しに応じたことさえショックなのに、おそらく互角以上の強さも備えている。

 うん、あれだ。先ずはお友達からの騒ぎじゃないな。

 俺があいつに勝てる未来が見えないから告白出来ないでいるのに、知らない男がそれを成し遂げつつあるとかどんな罰ゲームだよ。

 

「実はワンパンで決着がついていて、お眼鏡に適わなかったルート……」

 

 空しいから希望的観測は止めよう。

 名探偵に言われなくても真実は一つ。いやでも、観測するまで確定しないのでは?

 走り出したアーシアがうっかり転ぶ姿を見守りながら、微妙に現実から目を背ける俺だった。

 

 

 

 

 

 第八十三話「大地の支配者」

 

 

 

 

 

「先鋒はこの俺、土田竜司である」

「あれ、セオリー通りなら風からでは?」

 

 例えるなら八卦的な意味で。 

 

「土属性は地味だから、率先して目立つ努力をしないと……」

「ま、まあ全員倒すので順番はどうでも」

「くくく、既に勝った気になっているようだが、貴様は土属性を甘く見ている。確かに不遇扱いが多いことは認めよう。しかし、地面に埋まっているものは全て土管轄! そう、星の重さから発生する重力さえも内包しているのが我が力!」

 

 なるほど、言われてみれば土属性は最強かもしれませんね。

 土は大地で地球。極論すれば自然の力を全て含んだ星属性こそがその本質。

 例えば地震。世界中の核兵器をかき集めても及ばない破壊の力は言うに及ばず、地球最大の熱量を秘めた火山だって神様に匹敵する力でしょう。

 でも私的に一番怖いのが鉱石、つまり鉄を操れそうなところ。

 もし血液中の鉄分に干渉可能だった場合、呼吸困難からの酸欠で即詰みです。

 

「欠点の見当たらない、無敵かつ万能じゃないですか」

「その通り。極めれば最強だというのに、土は泥臭いというイメージだけで敬遠される悲しさよ……」

 

 口ぶりから察するに、最低でも黄金の風準拠の体内からハサミやら釘を生成する回避も防御も不可能なインチキ程度は鼻歌交じりのはず。

 宜しい。どうせ定石通り防御もガチガチでしょうし、相手にとって不足なし。

 私の無属性と土属性、どちらが優れているのか尋常に勝負っ!

 

「それでは始めるぞ」

「いつでも」

 

 立派な体格だけを見るなら、相手も私と同じ近接格闘型だと思う。

 でも、それはブラフかもしれない。

 何せ敵は究極のオールラウンダー。重力さえ自由自在に操る汎用型に思い込みは厳禁です。

 ここは焦らず初手は受け。先ずは様子を伺い、チャンスを待つとしますか。

 

「見よ、これが二つ名 ”土竜” の所以だ!」

 

 すると土田さんが選んだのは、予想の斜め上の行動。

 足元の硬い土を砂でも掻き分けるようにして穴を掘り、移動しながら埋め直して痕跡を消していく。

 そしてあっけに取られた私が我に返るころには、すっかり地中へと姿を眩ませてしまっていた。

 あれ、これは色々とマズイのでは。

 思わぬピンチに気付いた私は、スカートの裾を押さえて目線を先輩に移動。眉を潜めつつ、首を傾げた責任者に対してクレームを入れる。

 

「まさか地面に潜っての死角狙いに驚きを隠せません。でも年頃の乙女にとして、先に一言欲しかったところですね。先輩はその辺をどう考えてますか」

「いやその、別に彼は下着を覗くために消えた訳では。彼の名誉の為に擁護するけど、不可抗力で他意はないから。ほんと、マジで! セクハラとか考えてないよ!」

「下心がないなら結構。でも命がけの真剣勝負なら兎も角、お互い空気を読むことが前提な腕試しの場合ですよ? さすがに守るべき一線を越えられると困ります」

「配慮不足は謝るし土田にも後でよく言い聞かせておくけどさ、ぶっちゃけ深読みしすぎだからな?」

 

 さすがの私もスカートの中身はできる限り守りたい。

 特に名前しか知らない異性は……って?

 

「ボチボチネタ晴らしをすると、土田の馬鹿は潜るだけで上がって来れない」

「は?」

「いやだから、誇張なしで事実だけを述べるなら生き埋め。悪いんだけど、救出作業の手伝い頼める?」

「ちょ、ちょっと話が違いませんか? 土田さんって、メタリカとホワイトスネークを足して割ったような凄い能力者ですよね?」

「あいつは厨二全開で、基本的に全て妄想乙」

「ちょ」

「実際に出来るのは片道切符のディグダグだけ。そもそもビックマウスが本当なら、学園最強を通り越して世界でも指折りの強者だろ?」

「た、確かに」

「こんなお遊びサークルに納まってる時点でお察し。正直、真に受けてると知って驚きを隠せないわ……」

「だ、騙された!?」

「はっはっは、まさかのドッキリ大成功! で、こんなこともあろうかと準備したスコップがここに。今なら同じ物がもうワンセット!」

「慣れた手つきとMCですね……」

「自爆は土田の持ちネタだからな」

 

 体は無傷でも心を折られた側は、果たして勝者なのか敗者なのか。

 判断の難しい初体験に、軽く混乱を隠せない私です。

 

「ちなみに放っておくと、明日の朝刊を謎の窒息死体が飾る」

「嫌な脅迫を……」

「そんな訳で手を貸して欲しい」

「……はぁ、私一人で十分です」

 

 トントンと足踏みをしながら、気をソナー代わりに放って地中を探る。

 あ、見つけた。少し斜めに掘り進んだのか、初期位置より気持ち右側に反応あり。

 

「ていっ!」

 

 目星をつけた場所に拳を当て押し付け、一転に集中した全身の力に神器の加護を上乗せ。

 前にイッセー君にも教えた拳技、龍吼を用いての救出活動を開始した。

 力が地面に伝わる中、私が抱いた感想は脆いの一言。

 全然本気を出していないのに地面には予想より大きい穴が開き、しかも想像以上に手応えが無い不思議な感触だけが残っている。

 

「……暴行傷害ならともかく、殺人罪は執行猶予さえ難しいと思うんだ。だから忘れないで欲しい。俺達は普通の人間。君が普段相手にしている悪魔の類と違い、簡単にあの世に送られてしまうことを」

 

 私的にも想定外の破壊力ですが、コントロールは出来てますからね?

 ほら、底の方に土田さんの足がにょきっと。

 範囲を誤差の範疇に収めた以上、完璧な仕事ではないでしょうか。 

 

「大丈夫です。天国に送られたなら天使長とのコネがありますし、仮に地獄でも魔王様に頼み込むのでドンと来い」

「違う、そうじゃない! 君は気遣いの方向がおかしいな!?」

「あ、仏教でしたか?」

「仏教は速攻で輪廻転生だ! 死後の世界の概念がそもそもねぇよ!」

「落ち着きましょう先輩。可愛い冗談じゃないですか」

「真顔だったような……」

 

 そのツッコミの切れ味、私は結構好きですよ。  

 

「それはそれとして、今は土田さんを」

「くっ、その妙な交流関係含めて絶対に後で問い詰めるからな!」

「前向きに検討します」

 

 穴に下りていく先輩を見送る私は、玉虫色の回答でお茶を濁すのだった。


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