赤蜥蜴と黒髪姫   作:夏期の種

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やっと次回で決着。
ジャンヌの仕込みはバレバレかもですが、予想を裏切りたいなーと思う作者でした。


第76話「カウンター・カウンター」

 ジャンヌは強い。忌々しいが、それだけは認めよう。

 おそらく万全の彼女には、英雄派の総掛かりでも勝てまい。

 何せこの自称聖女の強さとは、地球上で人間だけが持つ特別な性質のものだ。

 一説によれば、人間とは本気の犬や猫にも劣る弱い生き物らしい。

 にも関わらず、生態系の頂点に居られるのは何故か?

 答えは簡単。弱さを自覚するが故に、臆病だから。

 ジャンヌは正しくその権化だろう。

 全ての敵は自分より強いと定義し、例え赤子でも決して侮らない。

 事前調査で相手を丸裸にするのは序の口。

 傾向と対策を練り上げ、弱みを握り、罠を張り巡らせてやっとスタート地点。

 ”勝てる” と確信しない限り、土俵にさえ上がってこない筈だ。

 これがどれだけ恐ろしいことなのか、分かるだろうか?

 英雄最強の看板を掲げるこの俺に、勝つ算段が付いていると言うことだぞ?

 

「殴り倒した……もとい居眠りした朋友が風邪を引く前に終らせたいので、フルコーラスを歌い終えるまでは待てない。そろそろ再開しても構わないな?」

 

 骨の一本や二本は、自業自得と納得しろよ朋友達。

 恨むなら簡単に操られる、自分の心の弱さを恨んでくれ。

 

「どうせ借り物の曲だし、全然おっけー」

 

 石突を足元に打ち付けて音を鳴らし、気持ち良さそうに歌い続ける敵が振り向くのを待つ。

 本来であれば無防備に晒された背中に仕掛けるべきなのかもしれないが、これまでの流れを鑑みるに九分九厘の確立で罠に嵌めるための誘いだろう。

 故に俺は、あえてチャンスを見過ごす。積極的にマイナスを発生させるより、プラスにもマイナスにもならない現状維持こそ最上の手だと判断して。

 既にこの思考すらも誘導されている感は否めないが、絡まる蜘蛛の糸は未だ俺の全身を縛りきっては居ない……と思いたい。

 

「さて、歌姫の美声を聞かせて貰った以上、何か返礼しないと言うのも無粋。素人芸で拙いが、他では見られない隠し芸を披露してやろう」

「目の肥えたジャンヌちゃんなので、中途半端な見世物はちょっと……」

「そう言わずに見ていろ。禁手 ”極夜なる天輪聖王の輝廻槍”!」

 

 ここまでの流れで、ジャンヌの持ち味が直接的な殴り合いに無いことは確定。

 ならば、勝ち筋は在る。

 ありとあらゆるデバフを無効化する槍の効力により、俺はジークのように操られることも無ければ、未だ効果の怪しい聖旗の干渉すら受けることも無い。

 この前提条件がある以上、最終的に物を言うのは圧倒的な力。

 猪口才な仕掛け程度、純粋な暴力で打ち砕いてくれるわ!

 

「ちょっ、直近のルシファード襲撃時は先祖伝来な対神魔特化の禁手 ”真冥白夜の聖槍” で無双してた筈でしょ!? ドラゴンボール召還への仕様変更は初耳なんですけどっ!?」

「その通り。これは本舗初公開の亜種禁手さ。まだまだ調整中で未完成ではあるが、君程度ならこれで十分踏み潰せる。どうせ存在は遠からずバレていただろうし、怨敵の驚き顔を見られたなら元は十分に取れたさ」

 

 やっと狼狽したな、ジャンヌ。

 この天竺由来の天輪王思想を拡大解釈して開発した新型は、特殊能力を備えた七つの宝玉を発現させ、多様なスキルを組み合わせて敵を封殺するテクニックスタイルだ。

 純粋に破壊力特化の ”真冥白夜の聖槍” に比べると一撃は軽いが、敵に回した時のやり難さは段違い。制御可能な宝玉が半数に満たない現状でも、オーソドックスな槍使いが万に一つも勝てる可能性は無いと断言しよう。

 

「……いじわる」

「悪いが僕は君のファンじゃない。狐や狸が舌を出しながら泣き真似をしても心には響かないし、決して手も緩めないことをお忘れなく」

「もう、可愛くないなぁ。そんなんじゃ、爰乃ちゃんに嫌われるよ?」

「この程度で愛想を尽かせる女に懸想するとでも? 妲己も真っ青な性悪女が、鉄芯入りの折れず曲がらずな彼女を語るとはお笑いだ」

「傾国の美女と賞賛されても、ジャンヌちゃんはみんなのアイドルなの。御免なさい、曹操とはお付き合いできません」

「話を捻じ曲げるなぁっ!」

 

 悔しいが、どう頑張っても役者はジャンヌが一枚上だ。

 まんまと乗せられていることを分かっていながら、容易く平常心を乱されてしまうのがどうにも口惜しい。

 

「やれやれ、これ以上は付き合いきれん。俺は言葉よりも槍で語るのが流儀。例え一方通行の会話であろうと、四の五は言わん。尋常―――ではないかもしれないが、俺も自由気ままにやらせてもらおうか!」

「……開き直られるのは、最悪のケースなんだけどなぁ」

 

 方向性が決まったからなのか、普段と比べて妙に体が軽い。

 よもや対魔王級を想定して練り上げた新禁手で仕留め損なうとも思わないが、油断は禁物。決着が付くその瞬間まで、決して慢心だけはしないぞ。

 

「お褒め頂き光栄の至り。行け ”女宝” 」

 

 何気なく放った女宝は対異性戦の切り札。それが龍族だろうが、悪魔だろうが、性別が女である限り、全ての異能を封印する波動を放つ宝玉だ。

 これだけ聞けば最強と思うかもしれないが、実際のところ封じられる時間は僅か七分のみ。しかも一定以上の強者には防がれたりと、叩けば埃がポロポロ落ちる不良品なのが実情だったりする。

 しかしこの欠陥、短期決戦で実力下位のジャンヌ相手なら何も問題あるまい。

 

「さあ、お望み通りの全力だ。思う存分データ収集に励めよ?」

 

 心底嫌そうな表情のジャンヌに対し、穏やかな笑みを浮かべる俺だった。

 

 

 

 

 

 第七十六話「カウンター・カウンター」

 

 

 

 

 

 ”真冥白夜の聖槍” を前提条件にした戦術を練り上げていたジャンヌちゃんにとって、曹操の繰り出した新手は寝耳に水の超絶イレギュラー。

 いやホント、用意した勝ちパターンの崩壊はマズイ。

 またしてもスタート地点に戻って不確定要素に頼るガチンコ勝負? ないなー、それだけはないなー。

 かと言って、保険の伏せカードが発動するにはもう少し時間が必要だし……うーん?

 

「……冷静に考えると、君は俺と同じく神器頼りの非能力者型。ビームが通常弾のグレモリー眷属と違って ”女宝” は無意味だったか」

「ひょっとしてコレの効果は特殊能力対策? だとすると、英雄ですらないふつーの人間なジャンヌちゃんには無駄手間。戦士にマホトーンを撃つ空しさだと思います」

「しれっと偽ジャンヌであることを認めた!?」

「あれ、フランス娘から聞いてない?」

「初耳なんだが」

「それはそれとして、必殺ジャンヌちゃんホームラン!」

 

 速さはそれほどでもない宝玉の芯を食わせ、旗槍をフルスイング。

 これで1/7クリア、そう思った矢先だった。

 

「残念、その程度の揺さぶりは想定内だ」

「ほんとーに可愛くない!」

 

 ふと嫌な予感に導かれて視線を足元に向けると、そこには高低差と速度差を使い一球目をブラインドにして知覚をすり抜けた宝玉がっ!

 ヤバッと思うも、バッティングにより体勢を崩しているジャンヌちゃん。

 これはもう逃げられず、避けられない。

 もしも獲物がバットだったら、最低でも足の一本は持って行かれていたと思う。

 しかーし、私の武器は37インチの物干し竿より長い槍。咄嗟に引き戻した柄を無理やり軌道上に割り込ませ、人類の至宝を殺す気満々の悪意を滑らせるようにして受け流す。

 

「さらに、ここで変化」

「この人でなしっ!」

「君にだけは言われたくないっ!」

 

 曹操が指を鳴らした瞬間、宝玉が槍状に変化するクソゲー。

 もしも ”天閃” で反射速度を底上げしてなかったらお腹を引っ込めるのが間に合わず、マニア垂涎の可愛らしいおへそが大穴に変わっていたよ! 遊び心の足りない男はこれだから嫌だよね!

 

「……咄嗟の判断力にも目を見張るものがあるが、やはり一番の驚きはその神器だな。さすがは聖槍と同じ聖遺物。武器破壊に特化した ”輪宝” を用いても、傷一つ付けられないとは思いもしなかった」

「それって間接的に ”俺の槍、超SUGEEE” って自慢してるだけなんじゃ!?」

「さてさて? そら、口を開く余裕があるなら次をどうにかして見せろ」

「戦略的撤退っ!」

 

 幸い曹操は宝玉を飛ばすばかりで距離を詰めて来ないし、行動指針が固まるまでのらりくらりと時間を稼ぎながら逃げ回るが吉っ!

 幾ら技量で劣っていても、聖剣の加護を受けたジャンヌちゃんの足は木場きゅんにも劣らぬ一級品。この速力で徹底的に受けに回れって、何か後ろで光った?

 

「やあ、ジャンヌ。俺は君のことが大嫌いだが、どうしても抱擁を交わしたいと言うのなら致し方ない。女に恥を欠かせないのも男の務め。我が愛憎を思う存分抱きしめろ」

「!?」

 

 ん? あれ? どうして全力後退した筈が曹操と目と鼻の先に?

 返事をする暇も無く吹き抜ける銀閃を辛くも受け、パニックを理性で押さえ込む。

 同時に旗パーツを大きく広げて視界を塞ぎ、負けじと槍を横薙ぎに振るうことで窮地を脱出っ。

 おーけーおーけー、パニクる前に状況証拠から検証してみよう。

 曹操がモチーフにした神様は、時間属性とは無縁の天輪王。ファンタジー相手に常識を語ると足元を掬われるけど、元ネタと無縁の能力を発現させることは不可能ってのがパパの出した結論だった筈。

 つまり、ジャンヌちゃんはポルナレフされた訳じゃない。

 周囲の気流も乱れてないし、超スピードで階段を降ろされた訳でもない。

 正攻法大好きな曹操の性格上、催眠や洗脳の可能性もゼロ。

 よーし、何となく消去法で答えは分かったぞぅ。

 多分、ジャンヌちゃんは転移させられたんだ。

 

「その真顔が見たかった」

「に、にぱー」

「作り笑いよりも、凛々しい表情の方が魅力的だと思うがね」

 

 お、閑話休題カウンターのチャンス見っけ。

 

「そーそーさんや」

「何だい?」

「今、言い逃れできない感じにジャンヌちゃんを口説いたよね?」

「社交辞令だぞ?」

「でもさ、普通の女子高生が……特にギャルゲー的な意味で攻略中の女の子が聞くとマズイ会話だと思わない?」

「……軽い男と思われる危険性は高いな」

 

 一瞬の動揺を見逃さず、倒れこむようにして胴回し回転蹴りぃぃぃっ!

 

「一芸に特化しないオールラウンダーらしい奇策だが、惜しい。残念賞」

「思惑通りだよん。その仰け反った視線の先をよーく見て。あれ、どこかで見た顔が居るよ? あの子は香千屋さんちの爰乃ちゃんに瓜二つだと思わないかにゃー?」

「!?」

 

 繰り出され続けた手も痺れる重い連撃がピタリと止まり、ジャンヌちゃんと天空のお姫様を交互に見ては、雑多な感情が混ざり合った複雑な表情を浮かべる純情ボーイさん。

 これぞジャンヌちゃんの真骨頂。

 物理の刃は届かずとも、言葉の矢は防御を無視して心にダイレクトアタックなのさ!。

 

「ご紹介致しましょう。彼女は心の友にして、ユニットの相方候補。何気に私より胸の大きい―――あいた!?」

 

 ジャンヌちゃんの頭に投げつけられたのは、勿体無いことにメイドさん手作りのクッキー。

 しかし、お菓子と侮ること無かれ。ピッチャーの手で鋭い回転を付与された小麦粉の塊は、立派な手裏剣にエボリューション済み。

 と言うかコレ、当たり所が悪ければ地味にダメージ大きかった気が。

 少しばかりの個人情報を流出させたからと言って、ツッコミがセメント過ぎじゃないかなっ!

 

「か、仮にも貴様は愛や恋を詞に込めて歌うアイドルだろ! 他人の恋路を遊び道具にする姿勢は、幾らなんでもファンに申し訳ないとか思わないのか!?」

「はっはっは、曹操は漢字圏の癖に知らないのかなぁ?」

「?」

「人の夢と書いて儚い。じゃあ人の夢の結晶な偶像は、時に夢と希望を全力デストロイするのも義務ですよーだ」

「その論法はおかしい! 精神科へ行け!」

 

 おー、予想よりもダメージ大きいね。

 本来の流れでは、神様も余裕で殺せる破壊力の代償として小回りの利かない ”真冥白夜の聖槍” モードを、ジャンヌちゃんの禁手が容赦なく封殺。

 秘密カリバーをブン回してフルボッコにした後に

 

 ”片思いの女の子が観戦している前で、青天井晒すってどんな気持ち?”

 

 と煽る計画だったけど、コレはこれでオーライ。

 ここで爰乃ちゃんの存在を晒すことで体面を重視する曹操は ”卑怯” な手段は選べず、自分で自分を縛るハンデを勝手に背負い込んでくれる筈。

 さっそく動揺の余り宝玉のコントロールが疎かになってるし、恋する若者はチョロいなーと思うジャンヌちゃん。

 これなら、もーちょい露骨に神器を使ってもバレないかな?

 そう判断した私は、ここが攻め時と旗の効力をMAXに引き上げてから地面に突き刺して固定。一番慣れ親しんだ長剣に変化させたエクスカリバーを抜刀し、オーソドックスに正眼の構え。

 曹操が目を丸くしたのを見計らい、ジャンピング真っ向唐竹割りぃぃぃつ!

 

「おっと、試合は続行中なのをお忘れなく」

「神器の次は、報告書にもあった真性エクスカリバーか!」

 

 計算通りわざと防がせて、鼻を突き合わせての鍔迫り合い開始っと。

 さーて、この状況なら答え合わせをさせてくれるよね?

 

「今グイグイ来られるのは……くっ ”馬宝”!」

 

 ジャンヌちゃんの頭上に移動した玉が光ったかと思えば、予想通り曹操から離れた上空に飛ばされた。

 うん、やっぱり対象を任意の場所に転移させる能力持ってたかー。

 おそらく飛ばせる範囲は近距離限定。断定は出来ないけど、障害物の存在しない空間に移動させられたことからウイザードリィ的 ”壁の中に居る” コンボも不可能と。

 

「たっだいまー」

「お呼びじゃない!」

 

 ”天閃”を起動して一気に地面に降り立ったジャンヌちゃんは、ビシっと決めポーズ。

 ここまで盤面が整ったなら、もう行くしかないよね。

 

「ぼちぼち勝利の方程式を再構築完了。ファイナルターンを宣言する!」

「奇遇だな。俺も姫君への謁見こそ急務。決着に異存は無い」

 

 多分、爰乃ちゃん達系力押し大好き組は、相性問題で曹操とは分が悪い。

 しかーし、押しても駄目なら引いてみろ派のジャンヌちゃんは違う。

 だって何処の神様の悪戯なのか、私の得意分野は彼にとっての劇薬だよ?

 

「一応宣言しておくけど、私の主武装は本来こっちだから」

「武器変更は君の自由だが、よもや槍術三倍段の格言を知らないのか? 幾らエクスカリバーが優れた武器だろうと、リーチの差は埋まらないぞ?」

「それは剣として運用した場合の話。ほらほら、答えが知りたいなら得意のビーダマを撃ってきたらどうかなっ!」

「是非も無し。行け ”輪宝”。引導を渡―――何故動かない!?」

「あれれー、おかしいぞー? 何時まで経っても攻撃されないぞー?」

 

 こう見えても敵が発動した魔法効果の奪取どころか、切欠さえあれば英雄さえ操ることが朝飯前な程に ”支配の聖剣” へ特化した神風アイドル・マジカル☆ジャンヌちゃん。

 

 Q:そんな女の子に対して、ファンネル(仮称)を放つと?

 A:サイコミュ・ジャック。NT-D!

 

 ジャンヌちゃんの前でコントロールを緩める行為は、鴨が葱を背負って現れる様なもの。

 介入する隙を与えてくれるなら、通信プロトコルへの干渉も一発でよゆーよゆー。

 あっという間に制御を奪い取り ”さあ、おいで” と念じればあら不思議。

 掌を返した宝玉は、敵を守る勇敢な騎士様に早代わりしちゃうのですよ。

 

「手始めに ”女宝”、”輪宝”、”馬宝” の支配権は貰ったよん」

 

 他を奪っても使い道が不明だし、手を広げればそれだけ集中が乱れちゃう。

 効率を考えると、今は確保を三つに絞るのがベストだと思う。

 

「……本当に俺の命令を受け付けない。さては支配の聖剣を使ったんだろうが、君はいよいよインチキの塊だな。やろうと思っても、常人に出来ることじゃないぞ」

「えっへん。ちなみに忠告。禁手を解いて再発動しても無駄だよ? どうせ曹操とはまた戦う羽目になりそうだし、宝玉を支配する手順は確立してるからねっ!」

「……そうか」

「ってことで、ソードビットっぽい ”輪宝” ゴー!」

「させんよ」

 

 曹操が宝玉を全て消しつつ槍を引いて溜めを作った瞬間、私は待ってましたと ”支配” をカットして ”天閃” に脳内リソースを全て割り振る。

 これなら何とか行けるかにゃー? そんな考えは、蜂蜜に砂糖を混ぜ込む甘さ。

 繰り出された本日最速の直突きは、効率良く人を殺す体の中心狙い。

 あ、避けるの無理だ。

 そう諦めて左肩を差し出すまでに掛かった時間は一秒未満。

 焼けるような痛みを食いしばって耐え、次に繋げるべく即座に ”破壊” を起動。聖なる波動が刀身に満ちるのも待ちきれず、既に追撃の構えを見せている覇王へ力を解き放った。

 

「散々あしらわれて気づいたんだが、実は君の弱点って単純明快な暴力だろ?」

「ノ、ノーコメントっ」

 

 余裕で切り払われたけど、立て直せたから良しっ!。

 

「手札の多さはイカサマの温床で、疑心暗鬼を生む種。そもそも君の得意分野である計略で競おうと思った俺が浅はかだった。ここからは問答無用で滅多刺しだけを考え、シンプルに唯の槍使いとしての俺を見せてやろう」

「攻略ヒロインの前で、人殺しはどうかなーなんて」

「立会いの結果は自己責任。彼女も同じ見解だと信じているさ」

「ぐぬぬ」

 

 爰乃ちゃんも鳥娘を殺す気でブン殴ったらしいから、見解は正しいのがまた……。

 でも、この流れも一応予測の範疇。

 不利なだけの禁手を解除して、力の温存を図るのは自明の理だしにゃー。

 今のところ想定外のイレギュラーは片腕死亡だけだし、後はアドリブで誤魔化そう。

 

「後はアレだ。これは見世物なんだろ? 余興ついでに究極の聖剣と神滅の槍の何れが真に最強なのか、お客様に披露しようじゃないか」

「拒否権プリーズ! ノーモア映画泥棒!」

「却下」

「扱いが雑だーっ!」

 

 最大の武器、言葉が全て流される悲しさ。

 地力勝負に持ち込まれ、策士策に溺れる。

 そんな幻聴が聞こえたような、聞こえなかったような……。


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