つまり兵士10個分とかのオーバーは無し。
じゃないと~は女王一個で足りるのかみたいな話になる予感。(公式だとタンニーンとか
祭囃子に人の喧騒。
遠くから聞えてくる心躍る音の中に。私達は混ざる事が出来ない。
何故なら、お勤め中だから。
仕事をさぼって遊びに行く真似は私が許しません。
と言っても近隣なら何処へ居ても全域が射程内のアンは、身内以外に裏の顔を見せるべきでは無いと判断したギャー夫を連れて食い倒れツアーにレッツゴー。
代わりに渋い顔で手札を睨むヴァーリと、世渡りの上手さを見せ付けて一抜けを果たした美猴を捕まえてある為、戦力低下は特に無いのです。
あ、現在の状況を説明すると、お祭り力(?)が正常に結界へ注ぎ込まれるか監視中です。
と言っても過去に一度も問題が起きた事のない安定したシステムとの事ですし、与えられた役割も万が一の保険なだけ。
なので、前日に引き続いてのトランプ大会を開催中だったりします。
種目はまたも大富豪。今回こそ上位を狙う!
「さて、私のターンだな。置き土産を残して上がらせて貰うぞ」
そんな事を言いながらゼノヴィアが打った一手は、まさかの革命!
ま、まあ大丈夫。こんな事もあろうかと3を二枚セットで残してあるし。
「貴様、俺に恨みでもあるのかっ!」
「はっはっは、全域に影響を与えてこそ戦略。"こんな事もあろうかと”と返せない辺り、底の浅さを露呈したな白龍皇」
「くっ、三下女が……」
「おいおいヴァーリ、そのセリフはてっぺん取ってから言うもんだぜぃ?」
「一応アドバイス。カードの残り枚数と、各自の手の内を予測する事が大事だね。で、流れたっぽいから私のターン。ジョーカーが全て切れているからこれは確定」
裏返って最強となった最弱を二枚出し。
「続いて8、これもルールとして流れる。おやおや、私の手札は残り一枚。上がりっと」
「また俺が最下位……か」
「猪突猛進は駄目だぜい。戦いも含めて一手、二手先を読んでこそ強者だかんな?」
「まったくだ」
「猪にだけは言われたくないと思う……」
勝負どころを、勘で読みきるゼノヴィア。
他者の手の内を読み、最善を狙う美猴。
自分なりの勝ちパターンを貫く私。
常に相手を捻じ伏せようとするヴァーリ。
私が勝つ事もあるけど、トップを争うのは常に美猴とゼノヴィアの二人。
自分ばかり見るヴァーリでは、まだまだ相手にならないのです。
「ってもよぅ、そろそろ他のやんね?」
「黙れ、俺が勝つまで止めることは許さん」
「へいへい、女子もそれでOK?」
「付き合いましょう」
「私は一向に構わん」
「うっし続行な。早くカードを配りやがれ最底辺の王様よぅ」
「貴様ぁっ!」
龍の誇りとは何だったのか。怒りに震えながらも素直にカードを投げつけてくるヴァーリは、本当に子共だと思う。
こんな風だから手のかかる弟扱いなんだよ? 自覚ありますか?
「これをラスト一戦にすんぞー、各自接待プレイを忘れるなよー」
「ですねー」
「よく分からんが分かった」
「貴様らぁっ!」
激昂するヴァーリを尻目に、淡々とゲームを始める私達だった。
番外編その七「メジャーへの挑戦」
時刻は20時を過ぎ、懸念されていた締めの神楽も無事終了。
念の為と雇い主に確認を取り、ついに完全解放となりました。
そして今、懐も暖かく手の届く場所で一大イベントが開催中です。
まだまだ宴もたけなわ。参加するしかありませんよね!
と言う事で、別荘に急いで戻った私はお供を連れてお着替え中。
せっかくだからと髪を結い上げ、ゼノヴィアと一緒に着付けを済ませる。
柄は私が防御力重視で魔除けの菖蒲。着せ替え人形には皮肉を込め、知性を意味する水仙をあしらった浴衣をチョイス済み。
自意識過剰かもしれませんが、何処へ出しても恥かしくない装いだと思う。
余談ながら私の姿を見たヴァーリは、何故かイッセー君へ連絡した模様。
「兵藤、新しい発見だ。浴衣なる服は上品なのに腰のラインが美しく、普段見せないうなじに揺れ動いてしまいそうで恐ろしい」
『控えめに言って狂ったな! 今のお前は駄目悪魔街道まっしぐらだぞ!?』
「貴様をリスペクトしたのだから、俺を貶めるとブーメランで戻っていくぞ?」
『俺は三枚目路線だからいいんだよ! てか、お前には聞きたいことが―――』
「また連絡する」
お相手のテンションは高めで声も大きい。お陰で会話の内容は筒抜け。
でも、本人を堂々と観察しながら論評するのは如何な物か。
美猴はそんな王様に苦笑い一つ。ゼノヴィアを連れて先発済み。
どうもあの猿は、私とヴァーリを番にしようと画策している節があります。
しかし残念。イッセー君と違う意味で白を男として見ていない私です。
せめて曹操並の侠気を見せてくれないと、アウトオブ眼中ですから。
「ほらほら、女性のエスコートも出来ないの?」
「確かに紳士から切り出すべき事項だった」
ぐいっと力強く手を引いて”俺について来い”とアピールするタイプは初めて。
昔から先導するのは私の仕事でしたし、これは何とも新鮮です。
「やれば出来るじゃないですか」
「俺は陸海空全てを制覇する万能型の白龍皇。不可能は無いとも」
「泳げないと言ってたような?」
「神器と悪魔の翼は、水の中でも有効だ」
「推進力を手と足だけに絞ると?」
「俺とアルビオンは一心同体。ありえない事態を想定してどうする」
「つまり自身の力では無理、と」
「……」
「運動音痴のギャーですら半日も要らなかったので、明日の午前中に特訓しますか。まぁ、嫌だといっても拒否権は与えませんけどね」
「興が乗った―――」
「強制ですが?」
「―――分かった」
ふふふ、仮にも香千屋の敷居を潜った人間に弱点とか許されませんから。
隠れて教わっているつもりでしょうが、私はまるっとお見通し。
自分で宣言したとおり、陸海空の全てをカバーして貰いますよ。
「ちなみに夕食は作りません。屋台でお腹一杯食べて下さいな」
「元よりその腹積もり」
「てっきりジャンクフードなぞ、と怒るのかと思っていたのに……」
「俺は何処の貴族様だ。タ・コヤーキとやらにオクトパスが入っていないパターンも織り込んである。クレームはつけんから安心しろ」
「妙に偏った知識を……と、そう言えば悪魔が聖域に潜り込んでも大丈夫?」
「兵藤と同じく、概ね俺のメイン属性も龍。そもそも境内に居た筈だが?」
「確かに」
なるほど、ヴァーリもポケ○ン方式。
ドラゴンと悪魔で、都合の良い所だけをピックアップしてる感じですか。
むしろ、神仏の美猴の方が縄張り荒らし的な意味でまずい……かも?
まぁ、その辺は本人に任せましょう。
神鳥のアンが完全スルーだし、多分問題無い筈。
「先ずはぐるりと一周。お祭りの空気を味わいますよ!」
「了解した」
色気の無い会話を続け、ついに石段を踏破。入り口配置の綿菓子屋を物珍しそうに眺める弟分からイニシアチブを奪い返すべく、私は一歩前を行く。
たこ焼き、お好み焼き、ベビーカステラと定番を抑えつつ、きゅうりの浅漬けを咥えながら先へ先へと進んでいると知った顔を発見。
何をしているのかと思えば―――
「わーい、またお金もらった!」
「アンちゃん凄いなー。僕なんてまた失敗ですぅ」
ケチの付けようのない精密過ぎる出来でカタ抜きをクリアし、店主を涙目にしているのはアンだった。一方で連れのギャー介は失敗の嵐らしく、手元に砕けたカタが散乱。搾取する側と、される側をセットで体現する謎っぷりですねー。
「アンね、次はボールをだいでびょんびょんするのやりたい」
「スマートボールかなぁ……僕も細かい作業苦手だし、移動しよっか」
「うん!」
ま、まあ、楽しくやっているっぽいので放置放置。
私はゆったり見て回りたいし、子供のハイテンションに付いて行けませんので。
どうせ合流したくなったら、こちらの位置を察して向こうから来ます。
手間のかからない子供で助かりますよ、ホント。
「爰乃、果物をガラス的な物で覆ったアクセサリーらしき物は何だ」
「あれは蜜柑やら苺を飴で覆ったフルーツ飴です。個人的には紅玉を使った酸味のあるリンゴが……ちょっと待ってて」
浅漬けを一息に完食して、小振りなリンゴ飴を口にする。
果肉まで噛み砕けば、甘みと酸味が程よく舌の上に広がって大満足。
これならお勧め出来ると、同じ物をヴァーリの手に握らせた。
「これは護衛のお駄賃って事で」
「女に奢られる謂れは無いが、対価ならば受け取るのが礼儀」
どれ頂くとするか、と丸のまま口に放り込む姿はさすが男の子。
どれ一つ取ってもパワーと言うか、スペックが違い過ぎると思う。
柔よく剛を制す事が出来るのは一定比率まで。
1が10を打ち破れても、1000の力を逸らす事はかなり難しい。
「呆けてないで先へ急ぐぞ、存外時間が無い」
「はいはいっと」
時計を見れば、花火大会開始まで後少し。
デートっぽく会話が弾んだ事で、想定よりも歩みが遅くなっていたらしい。
気持ち早歩き。しかし、露天を鷹の目で伺う私達。
ちなみに途中で見つけたもう一組は、と言うと―――
「これがジャパン怪異の巣窟、お化け屋敷か。腕が鳴るな」
「お前は絶対に勘違いしてる。俺っち的には面倒ヤだから入りたくないぜぃ……」
「そう言うな。さあ行くぞ。今宵の聖剣は血に飢えている!」
「そ、そうだ、ぼちぼち合流の時間じゃね!」
「私は花火に興味が無い。戦況を知らせる狼煙の何が雅か」
「お前の価値観は歪んでるなぁ。ま、ある意味で好都合だけどよぅ……」
「安心しろ、寸止めを心掛ける」
「客が迎撃するお化け屋敷って新しいな。訴訟超怖ぇ」
駄目だこいつら、早く何とかしないと。
思わず時計に仕込んだデスノートの紙片に、ペンを滑らせたくなった私です。
いやまぁ、時計すらしてませんが。
この分だと、年少も遊びに夢中で花火の事を忘れてる可能性が大。
何やら美猴の思惑通りに進んでいる……?
お釈迦様の掌で馬鹿丸出しだった猿の末裔が、随分賢くなったものですね。
と言っても、さりとて害無し。
罠は食い破ってこそ香千屋の流儀ですが、あえて目を瞑るのも一興でしょう。
そう決めた私は、お供を連れて目をつけていた戦場を目指す事にする。
見物客も多い花火大会も、この穴場なら誰も居ない。
参道の入り口で本物の山伏が目を光らせているので、猩猩退治の仲間でもない限り通してくれない絶好の鑑賞ポイントなんですよ。
「火薬の配分だけで、こうも炎を自在に操る事が出来るのか……」
「これぞ我が国が誇る伝統芸能の力。日本人は趣味に命がけの民族なのです」
「その生き様は嫌いじゃない」
ドカドカと上がる火の玉を肴に、祭りの戦果を口へと運ぶ。
自分で作ったほうが安く、それでいて美味しい事は最初から分かっている。
それでも露天で買ったジャンクフードは特別。隣で空を眺める仏頂面も嬉しそうにパクついていますし、万国、異世界共通でお祭りは人の心に響く何かがあるのだと思う。
「アドラメレクに聞いたが」
「何を?」
「フェニックス戦で得た悪魔の駒、ついに使うらしいじゃないか」
「使うと言うか、使わざるを得ない感じかな」
「ん?」
「実は転生悪魔ですらない唯の人間に悪魔の駒を与えるのは、異例中の異例。歴史上初めてのイレギュラーらしいです。魔王様的には下手な中級悪魔より強いし、後見人も大悪魔なのだから問題無いと思って取らせた褒美が保守派に火をつけたらしいです」
一息入れてペットボトルを一口。
「ライザー撃破がフロックでないと証明する為に、上級悪魔昇格試験とやらを突破した上で、さらにレーティングゲームの参加資格を問う試合を勝つ。この条件をクリアする事で初めて公式に一人の王様として認められる……そんな状況ですから」
「お前なら一人でも楽勝だろう」
「チーム戦ならイッセー君にすら勝てませんって」
「さすがに数の暴力は無理か」
「チェス駒の数を同時に相手取って勝てる人間は居ないと思う」
「駒の候補はどうなっている」
「んと、女王にアン」
「ソレだけでいいんじゃないのか?」
「いやいや、慢心は駄目」
「お前は石橋を叩きすぎる女だよ」
褒められているのかな?
「続けます」
「聞こう」
「戦車に鬼灯。騎士に弦さんと、確認を取っていないゼノヴィアを予定」
「兵士は?」
「無理に枠を埋める必要無いし、特に居ませんね」
「そうか……」
それは悪いテストを、親へどう報告するか悩んでいる小学生の顔。
何となく言いたい事は察しているけど、助け舟を出すつもりはありません。
この程度で日和るなら、ここで見限っちゃうよ?
「白龍皇のライバルは赤龍帝だ」
「何を今更」
「競うなら同じ土俵、五分の条件で優劣をつけるべきと俺は思う」
「かもね」
「過去の継承者達の経緯やら因縁はどうであれ、俺は兵藤の命に興味が無い。ならばスポーツの観点で上位者となるのも面白い」
「良い考えです。ちなみにサッカーと言うスポーツの世界大会は、ナショナリズムをぶつけ合う国家代理戦争として有名。同様にレーティングゲームも、プライドを賭けた絶対に負けられない物と捉えて問題ないと思う」
「うむ、遊びだからそ心底勝ちたい。俺は昼間にそれを学んだ」
「男の子ですねー」
「そして今、人材を求める者の前に最強クラスでフリーの候補生が落ちている」
「それで?」
「お前が望むのであれば、兵藤と同じ兵士になるのも吝かではない」
「え、ヴァーリみたいに気難しい子は、私のチームに不要ですが?」
「なん……だと」
「私は必要なら犠牲を厭いません。なので指揮官の命令を土壇場で聞かないっぽい唯我独尊系は、どれだけレアで強くてもノーサンキュー」
レーティングゲームのモチーフは所詮チェス。
駒が差し手の意図しない動きを始めると、戦いにならないからね。
「考え直せ……ないのか」
「無理」
あのフリーダムなアンですら、お爺様の命令には絶対服従を誓っていると聞く。
だからこそ昼間と違ってここだけは譲れない。譲るつもりも無い。
「そもそも貴方は王様でしょ? 誰かの下につく事を良しとするの?」
「そう、かも、しれん、が」
「少し頭を冷やそうか」
「むぅ」
さあ、考えなさい。抜け道は幾つもあるよ?
「……時間を貰う」
「どうぞうどうぞ、リミットは花火のラストが上がるまで。クライマックス近いから、あんまり時間はないとだけ忠告しておきます」
「承知」
誰に相談するのか知りませんが、私の採点は厳しいですよ。
見事トライアルを抜け、チーム爰乃入団を果たす事を期待します。