赤蜥蜴と黒髪姫   作:夏期の種

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第四章 宿縁と吸血少年の夏祭り
第26話「夏の風物詩」


「本当に悪魔の力っておかしい」

「同感だ」

「改修工事が終わるまで休みと喜んでいたら、一晩で直しやがりますか。突貫作業にしても早すぎますよ………」

「俺も部長に”学校の再開は来年ですかね、ははは”と聞いた時に同じ顔をした。つくづく魔力ってのは万能過ぎる。一時間で完全復旧とか、世の中の工事関係者が聞いたら卒倒するんじゃね?」

「イッセー君が朝イチで来てくれなかったら、まさかの無断欠席でした。感謝として例の件は水に流してあげます。大奮発でしょ?」

「え、マジで? 土下座とかいらねぇの?」

「……君が私の事をどう見ているか分かった気が」

「いやだって、信賞必罰」

「ぐ」

「結局、俺は今回の騒動で特に何もしてねぇ。会長を説得したのは弦さん。聖剣を片付けたのも木場。コカビエルに至っては、ヴァーリがワンパン。感謝しろって言える立場じゃないんだ、これが」

 

 コカビエルさんとヴァーリの見送りがあったから起きていたものの、日が昇り始める前に家を尋ねてきたイッセー君は少しばかり落ち込んでいる様子。

 気分転換になればとランニングに来たけど、いまいち効果は薄いっぽい。

 

「私は感謝してるよ?」

「妙な慰めは止めろ」

「大体、迂闊だった私が全ての根源。それに対して、不必要なほど頑張ったのがイッセー君です。そして、コカビエルを押さえ込めたのは君の力があってこそ」

「随分と持ち上げるが、活躍したのはヴァーリだぜ?」

「部長には悪いけど、グレモリー眷属最強は赤蜥蜴さんです。手札の鬼札が通じないなら、他の誰が挑んでも結果は同じ。白が到着迄の時間を稼いだのは間違いなくイッセー君だと思う。同様にエクスカリバーも木場君に手柄を譲っただけ。違う?」

「……どうだろうな」

「仮にも堕天使の最強クラス相手に善戦した事を誇りなさい。大変な偉業なんだよ?」

「……おう」

 

 ああもう、迂闊な一言がここまで尾を引くとは。

 近々また来るらしいアザゼル先生に、文句の一つでも言わないと気が済みません。

 どうして私がイッセー君のケアまでしなければならないんですか。

 懺悔を担当するのは、シスターの仕事ですよ。

 

「己を過大評価するのもアウトだけど、必要以上に縮こまる必要も無いの。その辺りのバランスを取れるようにしないとダメ。分かった?」

「ちなみに、そんな高評価を得た俺はお前を超えられただろうか」

「百聞は一見にしかず。実際に試してみましょう」

「もしも、もしもだぞ、勝てたらどうする?」

「今日のお昼をご馳走します」

「いいな、それ。アーシア回収して一丁やろうぜ」

「なら、前哨戦にかけっこ勝負。負けた方がジュース奢りだよ」

「おうさ!」

 

 会話を楽しめる巡航から速度を切替。

 瞬発力で勝る私は、イッセー君を引き離しながら加速を始める。

 勝負事で私に勝とうなんて千年早い。

 この後の模擬戦も含めて、絶対に負けないと心に決めている。

 

「私も殺し技を使わないから、イッセー君も飛ぶとかダメだからね?」

「分かったよチクショウ! トップスピードは俺のが上、勝負はこっからだ!」

 

 前は譲らない。

 そう、これからもずっと。

 

 

 

 

 

 第二十六話「夏の風物詩」

 

 

 

 

 

 ぐーてんもるげん、皆様。香千屋爰乃です。

 堕天使騒乱から月日は流れ、何時の間にやら季節は夏。

 思い返すと、イッセー君をフルボッコにしたあの日は大変でした。

 私は純人間だというのに、容赦なく鎧を使ってきたイッセー君。

 ですが基礎スペックを上昇させようと、技術面はまだまだ雑で甘い。

 前々から取り組んでいた新必殺技の投入もあり、当然快勝ですとも。

 ちなみに木場君は薄々気付いていそうですが、地味に一撃一撃が重い。

 特に幾つか伝授した拳技なんて、英雄モードじゃなければ即死レベル。

 果たして何時まで先を走れるのか、少しだけ不安です。

 

「夏休みは俗世を忘れて、修行に打ち込もう……」

 

 で、問題はその後。

 オカ研に対する嘘で塗り固めた状況説明と、矛盾の解消が面倒で面倒で……。

 副部長がフォローに回ってくれなければ危ない所でした。

 ちなみに朱乃さん。コカさんから全部聞いてましたよコンチクショウ。

 色々話した結果、遠からずお父さんも含めた三人で会うことになったとか。

 これも表に出せない話ですし、どんどん裏に傾倒していく自分が怖い。

 アザゼル先生も聞いてないのにペラペラと知っちゃいけない機密を教えてくれるので、そろそろ引き返せない瀬戸際に追い込まれている気がします。

 

「イッセーさん、わ、私の水着……どう、ですか?」

「最高に似合っていて、お兄さん感動です!」

「えへへ、嬉しいです。小猫ちゃんも同じスクール水着なんですよ」

「マスコット的に可愛いと思う。俺にロリコン道は無理くさいわ」

「……一応お礼を言っておきます変態先輩」

「ぐへへへ、お姉様方はまだかなぁ」

 

 だらしないにやけ顔で鼻息を荒くしているのは、言わずとも分かるイッセー君。

 変態さんは、美少女達が身を包む紺色の水着に大興奮の様子です。

 対する木場君は普段と変わらず、無欲な感じ。

 彼の場合、側に居る女の子はそう言った対象に見れないのが原因とか。

 まだ姿を見せない首脳陣は上司、小猫は妹、アーシアは友達の彼女。

 確かにこのラインナップは、手を出し難いかもね。 

 

「イッセー君。花を愛でるのは結構だけど、サボらないでくれよ」

「悪い、ついつい体が勝手にだな。現役高校生のスク水を合法的に視聴出来んだぞ? これは奇跡レベルのレア体験だろ!」

「気持ちは分かる。でも、早く掃除を終えればその女の子達と遊び放題って

ご褒美を忘れてないかな?」

「しゃーない、頑張るか。とりあえず俺はアーシアとこっち側やるわ。木場と小猫ちゃんは奥頼む!」

「現金だなぁ、君は」

 

 そう、私は今プールサイドで読書中。

 他の部員は水着に着替えてプール開き前の清掃中ですが、ちょっとした連絡ミスで私だけ水着を持って来てなかったり。

 なのでパラソルの下、監督業という名目で放課後を優雅に過ごしていたりします。

 掃除は掃除で楽しそうだし、やりたくないわけじゃ無いんですけどね。

 

「少し席を外します。木場君、後は任せましたよ」

「お任せあれ、お姫さま」

 

 モップを剣の変わりに掲げ、陰の消えた笑顔を見せる騎士の人

 姫島先輩もそうだけど、木場君も色々と吹っ切れて本当に良かった。

 これだけでも頑張った甲斐がありましたよ。

 

「あら、何処へ行くのかしら?」

「ちょっと部室へって、随分と大胆な」

「そう? 朱乃も似たようなものだけど?」

「うふふ、水着が無いのなら貸しますわよ」

「趣味が違うのでノーサンキュー。まぁ、イッセー君の悩殺頑張って下さい」

 

 腰を上げたところで、丁度部長達も着替えを終えて現れる。

 部長と姫島先輩は学校なのに、揃って布面積の少なすぎるビキニ姿。

 いやまぁ、グラビアアイドルが裸足で逃げ出すお姿なのは認めます。

 でも、部長は大きな勘違いをしている。

 イッセー君は全裸より、コスプレ系が好きな萌え寄りの性癖。

 おそらく、スク水の方がポイント高い筈ですよ。

 

「部長も朱乃さんも、超エロいです! ありがとうございます、ありがとうございます!」

 

 あ、あれ、読みが外れた? 思わず振り向くと、そこには両手を合わせて鼻血を出しながら拝む幼馴染の姿。

 気持ちは分からないでもないけど、アーシアのフォローしないと後が怖いよ。

 不機嫌そうにむくれちゃって、大変ご機嫌斜めのご様子。

 ハーレム目指すなら、この辺の舵取りを学んだ方がいいんじゃないかな。

 

「ううう、私だって、私だって……!」

 

 揉め事に巻き込まれては叶わないので、フェードアウトする私だった。

 

 

 

 

 

「ついでに例の部屋へ寄って行きますか」

 

 部室を目指す最中、微妙に爪あとの残る壁を見てふと思い出した。

 所詮はオカルト研究会しか使っていない事もあり、完全復旧の新校舎と違ってそこそこしか直されなった旧校舎。

 その影響なのか、開かずの教室とされていた一階の扉がベニヤ板に変更されている。

 前は水密扉とトントンの厳重さが、今では簡単に開けられる木製の板。

 そして、特に入るなとも言われてません。

 天の采配なのか、この瞬間他の部員はプールに大集合。

 ここはレッツ探検と洒落込むべきでしょう、うん。

 

「おや、これは魔法的なロック?」

 

 ”KEEP OUT !!”と書かれたテープを剥がして扉に触れようとすると、見覚えのあるグレモリーの魔法陣が浮かび上がって邪魔をする。

 少し前までならすごすご引き返したでかもですが、私がいつまでも魔法音痴だと思ったら大間違い。

 色々と勉強して、対魔法戦術はバッチリ習得済みです。

 先生曰く、攻撃、防御、結界、封印、全て力技で押し切れば無問題とのこと。

 力こそパワー。魔力に干渉可能な神気の前に、小手先の魔法は無駄無駄無駄っ!

 

「そーれ」

 

 英雄モードで神気を高めれば準備完了。

 誰も見ていないことを確認して、スカートを舞い上がらせながら回し蹴りを一閃。

 封印を扉ごと力技で破壊しちゃう私でした。

 普段は避けられると体勢を崩したり、相手によっては足を取られるリスクが大きいので使わない足技も、ストレス発散には最適。

 うん、たまに蹴りも悪くない。

 投げと拳技に重みを置いていたけど、そろそろ蹴技も修めるべく励みますか!

 

「これは意外と綺麗で、私の部屋より可愛い感じ。部屋の主は女の子かな?」

 

 中はカーテンで閉め切られ、光源は入り口から差し込む蛍光灯の明りだけ。

 外から見たよりも間取りも小さくて、部室よりも狭い程度かな。

 置かれているのはぬいぐるみや、女の子が好きそうな小物ばかり。

 ただ、一つだけ在りえない物が部屋の隅に置かれていた。

 それは棺桶。

 実物を見るのは初めてだけど、ドラキュラのベットもこんな感じだったような。

 普通ならナイス仕込みと笑い飛ばして終わるんだろうね。

 でも、身近に悪魔やら伝説の化け物が闊歩している私は違う。

 警戒度を最大限に引き上げ、どこから襲われても瞬時に反応出来る体勢を確立。

 ゆっくりと近づいていき、棺桶を引っくり返すことにした。

 すると―――

 

「イヤァァァァアァアァァッツ!」

 

 頭がキンキンする声で中身が絶叫しながら転げ落ちて来ましたよ。

 見た目は人形みたいなおかっぱ美少女。しかし、人外の見た目なんて飾り。

 逃げようとする素振りを見せたので、とりあえず足を払って転倒させた。

 仮に吸血鬼と仮定すれば、下手に押さえ込んでも霧やら蝙蝠に転じてするっと抜け出されると考えるのが王道でしょう。

 ならば、古典に従い狙うべきは心臓。

 必殺の一撃を叩き込んで―――あれ、殺気が無い?

 

「と、突然何ですかぁぁぁっ! 何か気に触るようなことをしたなら謝りますぅぅぅ、ゴメンなさいゴメンなさぁぁぁい!」

 

 頭を抱えてガクガク震えながら丸まった姿に、さしもの私も手を止める。

 

「とりあえず黙りなさい」

「ヒィ、ゴメンなさいゴメンなさい」

「次に意味も無くごめんなさいと言ったら、その数だけ指を折ります」

「ゴメって、どうしてそんな酷いことをっ!?」

「……言葉のキャッチボールは諦めました。私の質問に一つ一つ答えなさい」

「は、はいっ!」

「一つ、貴方の名前は?」

「駒王学園一年生、ギ、ギャスパー・ヴラディです!」

「二つ、所属は?」

「リ、リアス・グレモリー様の僧侶をやってますぅぅぅ!」

「三つ、種族は?」

「ハ、ハーフヴァンパイア出身の転生悪魔……」

 

 嘘を吐けるタイプには見えませんが、部長の手駒にしては色々とおかしい。

 コカビエル戦で呼ばれなかったのは何故か。

 そもそも外部から封印された部屋に閉じ込められていた理由は?

 

「四つ、吸血衝動はどの程度? 大佐の大隊と愉快に遊べる程度とか?」

「血、嫌いですぅぅ。あんな生臭いもの、匂いだけでダメですっ!」

「まさかのトマトジュース派!?」

「あ、それなら美味しく飲めます」

「私もトマトは大好きって、それでいいんですか吸血鬼」

「……レバーも食べられない吸血鬼だって、この世に一人くらいいますよぉ」

「ま、まあ、それはそれとして」

「流された!?」

「最後の質問です。グレモリー眷属と言うのであれば、どうしてこんな狭い部屋に封じられていたのか納得のいく回答を」

 

 答え次第では無力化もやむなし。

 そう考えた私ですが、一々小動物的な少女の答えは斜め上でした。

 

「そ、外って怖くないですか? 人に会うのって苦痛じゃないですか?」

「は?」

「お仕事もパソコンを介せば出来ますし、欲しい物も通販で買って魔法で引き込めば手に入りますぅ。お外は怖いので、ここから一歩も出たくありませんっ!」

「落ち着きなさい」

「そして内鍵だけじゃ不安なので、外からもロックしてもらってるだけですぅぅぅっ!」

「引きこもり!?」

「えっへん」

 

 だめだこいつ、早く何とかしないと……。

 

「も、もういいですよね? この間の戦争がトラウマで、浅い眠りしか取れてないんですぅ。寝かせてくださいよぉ……」

「巻き込まれて死ねばよかったのに」

「酷っ!?」

 

 蔑んだ目で一瞥し、私は興味を失ったギャーさんを忘れる事にする。

 自称吸血鬼っぽい悪魔に興味が無いとは言いませんが、さすがにコレは生理的に受け付けられない。いくら温厚な爰乃さんでも、イラっとして手を出しかねないのです。

 

「どーでもいいです、それでは良い夢を。気が向いたらまた来ます」

「来なくていいですっ」

「……何か言いましたか?」

「ひぃっ、お茶とお菓子を用意してお待ちしていますぅぅぅぅ」

「私の好きなケーキはモンブラン。お茶は玉露を適切に入れなさい」

「理不尽な!?」

「あ?」

「ネットでググって満足頂ける様努力しますっ」

「返事は”はい”か”YES”のみ。次にこれを忘れたら部屋ごと爆破します」

「何でもしますからお引取りくださぁぁぁい!」

 

 そんなこんなで、短い冒険は終わりを告げる。

 本当に得る物の無い無駄な時間でしたね……。

 どっと疲れた私は、ドア周りを出来るだけ原状回帰。

 部室で鞄の回収を済ませると、メールを一本入れてそのまま帰路に着くのだった。


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