赤蜥蜴と黒髪姫   作:夏期の種

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第24話「聖剣伝説 -クライマックスフェイズ-」

 俺は腹を抱えて大爆笑。

 こんなに笑わされたのは、何世紀ぶりだろうか。

 アイツを見ていると血が騒ぐわ。

 そう、奴の言い分は全く持って正しい。

 乳に秘められた無限の可能性は、この俺が保障してやる。

 何せ超上級の天使だった俺を、あっさり堕としたんだぜ?

 正に禁断の果実。性欲を持て余すガキが夢中になったってしゃぁねぇさ。

 

「いやぁ、当代の赤龍帝は最高だな! そうは思わないかサーゼクス!」

『ああも己を曝け出せる男が居るとはね。さすがの私も脱帽だよ』

「アレはお前好みだろ」

『かなりね、彼になら妹を任せてもいいとすら思っている』

「おいおい、マジかよ」

 

 アドラメレクの僧侶が配信する映像は、サーゼクスの元にも届いている。

 時に裏方の苦労に涙し、鳥頭の気まぐれには冷や冷や。

 コカビエルの野郎、大根役者から一枚向けたじゃねえか。

 

「それにしても愉快。なぁ、次は俺達で台本書こうぜ?」

『実は手元に”魔王戦隊サタンレンジャー”なる企画があってだね』

「……お前のセンスがたまに分からん」

『”閃光と暗黒の龍絶剣”には負けると思うが』

「忘れろ!」

 

 この野郎、人の黒歴史をあっさり穿り返しやがる。

 若かりし頃は右手が疼いたり、片目に刻印を浮かび上がらせたり、今思い返すと何がなんだか分からない事を格好良いと思ってたんだよ!

 こうなりゃ、今こそ”閃光と暗黒の龍絶剣”をガチで組んでみっか。

 今や俺の手元には、様々な神器から取ったデータがごっそり在る。

 美味しい所だけパクって反映すれば、空前絶後の剣を目指せる気がするぞ。

 打倒、アドラメレクの刀。

 製作に手を貸しておいて言うのも何だが、アレは物理的にヤバイ。

 真似しようにも、モノポールの調達が無理過ぎてなぁ。

 

『これは失礼、総督殿。赤龍帝の熱に私も感化されたらしい』

 

 俺が全体像を俯瞰するのに対し、魔王様は一貫して赤龍帝に焦点を当てている。

 そして見定めた結果、下されたのが信じられない高評価だ。

 あのシスコンが、妹を喜んで譲ると憚らないんだぜ?

 いくらフェニックスの一件で内々には婿養子ルートが確定していたにしろ、諸手を挙げて歓迎されるんだ。

 現グレモリー当主夫婦がどう思っているのかは知らんが、最悪でも魔王な義兄が好意的なら苦労することもねぇよな。

 

『アザゼル、一つ提案がある』

「何だ」

『例のトップ会談、この街で行おう』

「俺も暫く滞在するし、構わんぜ」

『私も忙しい身。こうでもしなければ、彼と会う時間を作れそうも無いのだよ。それにアドラメレク氏には妹が迷惑を掛けている。一度、挨拶に伺いたくてね」

「魔王様は大変だな」

『君が自由すぎるんだ。少しは副総督を労わってやるべきだと思わないのかね?』

「前向きに検討しよう。それよりも、いよいよ終幕が近そうだぞ」

『おっと、見逃すのは勿体無い。集中させて貰うよ」

 

 コイツは割と話せるんだが、たまに説教臭くてたまらん。

 仕事をやらされて好き勝手出来なくなる位なら、俺は速攻で今の地位を捨てる。

 堕天使のスローガンは”強制されたら負け”。

 トップがそれを守れなくてどうするよ。

 

『ふむ、さすがにコカビエルは手に余るかな?』

 

 光の槍を掻い潜るのに失敗して鎧の翼を失った赤龍帝を見たサーゼクスは、少しばかり過大評価が過ぎた事にやっと気づいた様子。

 こいつ、まさかガチで勝てる可能性が有るとでも思ってるのかねえ。

 

「仮にもお前んとこの四大魔王級だぜ? まして小僧は今だ完全な禁手に至っていな―――あれ、ちょっと待て」

『アザゼル?』

「データを信じるなら、瞬間的な出力は上級悪魔真っ青だな。若干信じられん……」

『万に一つの勝機が出てきた、と』

「それでも億に一つだ。ここまでテンションが実力に直結する赤龍帝も珍しい。俺も少しばかり興味が沸いて来た。悪いが先にちょっかいを出すわ」

『但し、私の義弟と思って接する様に』

「あいよ」

 

 画面の向こうで平然と起き上がりコカビエルに飛び掛る兵藤一誠は、自分がどれだけ注目されているのか知らないのだろうな。堕天使と悪魔、双方のトップが名前を覚えている下級転生悪魔なんてお前だけだぜ?

 

『さて、もう一波乱期待してもいいと思うかい?』

「知らんがな。ま、話は後にするか。さっきの提案はシェムハザに検討させよう」

『頼む』

 

 どんな結果を迎えるにしろ、お前達は十分に株を上げた。

 だが悪魔の新進気鋭が兵藤一誠なら、堕天使にだって隠し玉はある。

 サーゼクスにすら隠して来た白龍皇ヴァーリ。

 俺のとっておき、とくと見やがれ。

 

 

 

 

 

 第二十四話「聖剣伝説 -クライマックスフェイズ-」

 

 

 

 

 

 部長の放った最大級の滅びの魔力は片手で弾かれ、間を空けずの天雷も黒翼の羽ばたき一つで打ち消されてしまう。

 通じているのは、俺と小猫ちゃんの拳骨のみ。

 つっても、完全に先読みされて稀に当たるだけなんだけどな。

 やっぱ、最後に頼れるのは純粋な暴力なんだなぁ。

 

「ははは、バラキエルの娘も中途半端に力を継いだものだ!」

「黙れっ、私をあの者と一緒にするな!」

「……頼むからそう悲しい事を言うなよ」

「え?」

「あいつな、未だに嫁さんと娘の写真を肌身離さず持ち歩いてるんだぞ。そして酔う度に、いつもいつも守れなかったと愚痴を零すんだぜ?」

「そう、なのですか?」

「お前も分別の付く年頃なんだから、あいつが悪くない事くらい分かっているだろ。全能とか舐めた事を謡う神でもうっかり死ぬのに、堕天使一人に何が出来る。奴のミスとも言えないミスは、どうしても自分にしかできない仕事の為に、少しだけ家を離れただけじゃないか」

「……それは」

「それとも父親が仕事に出る事は罪なのか? 男親は片時も家を離れないとでも?」

「……普通は早くても夕方まで帰りません」

 

 え、何これ。

 今起こったありのままを話すぜ。ガチンコでやりあい始めたと思っていたら、いつの間にか人生相談にすり替わっていた。

 要約すると―――

 

 色々あって結ばれた堕天使と人間。

 でも、それを快く思わない連中が居た。

 そいつらは、仕事で家を離れたバラキエルさんとやらの隙を付いて嫁を殺害。

 朱乃さんも堕天使の子と言うことで殺されそうになるも、父親が間に合った。

 でも、朱乃さんは母親を守れなかった父が許せない。

 父が堕天使じゃなければ母は殺され無かったし、自分も狙われなかった。

 こうして生まれた確執により、父娘の関係は破綻したらしい。

 いやぁ、朱乃さんって堕天使の血も引いてたんだなぁ。

 ハーフは美人が多いと言うけど、異種族でも適応されるんですね。

 

「もしも罪の意識から逃れられないバラキエルを哀れむなら、ほんの一歩でも構わない。娘から歩み寄ってやって貰えませんかね?」

「……父さま」

 

 いやその、凄ぇハートフルで良い話なんだけどさ。

 お願いしますから、ちゃちな催眠術だと言って下さい。

 俺も人のこと言えませんが、遠巻きに眺めるしか出来ません。

 部長なんて顔を青くして唾を飲み込んでいますよ。

 

「場所と日取りは俺がセッティングする。どんな結果になるにせよ、とにかく一度会ってやって欲しい。繰り返すが、お前の父は一日たりともお前達母娘を忘れたことなど無い。きっと腹を割って話せば分かり合える」

「……はい」

「それでこそバラキエルと朱璃の子よ」

「母をご存知で?」

「友人の嫁だからな。ちなみに俺はお前の出産に立ち会っている」

「あら?」

「アレはちょっと特殊でも良い女だったよ」

「いずれ、話を聞かせて頂いても?」

「うむ、後で名刺を―――じゃない! どうしてこうなった!」

 

 と、突然なんすか!

 つーか、懐から何かビジネスマン標準装備な物を出そうとしましたよね!?

 

「戦いの最中だった! 続けようぜ赤龍帝!」

「お前が言うなぁっ!?」

「俺は悪人、理不尽で何が悪いっての」

「ボスを気取るなら空気をしんみりさせんなよ! さすがの俺もテンション下がったわ!」

「それはそれ、これはこれ。心機一転、気合入れて行こうぜ!」

「あんたのキャラが分からなくなって来た俺です。口調も砕けたと言うか……」

「あ、うん……ゴホン。ならば、逆に問おう」

「何だよ」

「赤龍帝、お前は友人の愛娘を殴れるか?」

「きつい」

「まして、家庭内不和で昼ドラな薄幸美少女ならどうだ」

「無理っす」

「これ以上の問答は必要ないな?」

「おう!」

「……納得するんですね」

 

 おや、小猫ちゃんはご不満の様子。

 

「お父さんとの和解機会を、小猫ちゃんは奪えると?」

「……それを言われると辛い所です」

「どうせ時間制限も無いんだし、少し寄り道をしたっていいじゃねえか。ほんの僅かな時間を割くだけで朱乃さんが幸せになれるかもだぜ?」

「……まぁ、済んでしまった事です。これ以上は問わない事にします」

「コカビエルさんも忘れて再開しよう、って言ってくれてる。仕切り直そう」

「……何時の間にさん付けをする間柄に」

 

 部長は呆然と消沈した朱乃さんのフォローに動いてるし、アーシアはおろおろ。

 さすがの俺も何しに来たのか見失いつつあるよ。

 これでもカウンセリングが始まるまでは、死闘に相応しい戦いしてたんだぜ。

 見ろよこの鎧の破損、至る所にひびも入ってボロボロよ?

 極太の光槍を逸らしたり、ドラゴンショットで応戦したのは何だったのか。

 悔しい事にダメージを受けているのが俺達だけなので、コカビエルさんは新品同様。

 全て幻覚だったとか言われたら信じそうな俺です。

 あ、ゼノヴィアは開幕速攻でKOされました。

 車田先生の勢いで放物線を描いて退場とか、何しに来たのか分からん。

 

「……そちらの要望を聞いたのですから、私の質問にも答えて欲しい」

「良かろう」

「……先輩を攫った時に連れていた騎士は何処に?」

「そ・れ・を・聞・く・か」

 

 ああ、そんなの居たな。

 確かに分かりやすくラスボスの片腕なのに、まだ出て来ないのはおかしい。

 さすが小猫ちゃん、伏兵を見逃さない出来る子です。

 

「……で?」

「……じ、実家の母が危篤で」

「?」

「と、とにかく、我が名にかけて奴の出番は無いと宣言しようではないか!」

「……はぁ」

 

 どんなけグダグダなんだよ堕天使勢力。

 さすがにその理由でお帰りになるとか在り得ないだろ……

 

「細かい事を気にするんじゃない! いいな、絶対にだ!」

 

 そう言いながら焦ったように光の剣を手に作り出すコカビエルさん。

 良く分からんが追い詰められているらしい。

 

「待ってくれ、寄越せと言うならデュランダルを渡す。だから私にも質問のチャンスを!」

「どういつもこいつも……まぁ、仲間はずれも哀れ。聞いてやろう」

「誰も気にしなかったが、神がうっかり死んだというのは?」

「……お前はおかしいと思ったことは無いのか?」

「な、何を?」

「かつての大戦で魔王と上級悪魔を大幅に失ったのが悪魔だ。対して神側はアドラメレクにウリエルを討たれた程度で、その他の上層部を温存出来たとされている」

「ああ」

「なら、どうしてここぞとばかりに滅ぼしに行かない」

「そ、それは……何故だろう」

「待て、その頭は飾りなのか!? 少しは悩めよ!?」

「……ずっと剣を振ることしか考えてこなかったのでな」

「何故にドヤ顔!? ま、まあいい。ここまで来たら最後まで教えてやるさ」

「すまない」

 

 ゼノヴィアの空気読まなさがヤバい。

 さっき迄寝てたのに、飛び起きてきて聖剣差し出すとか逆に怖いわ。

 

「答えは神が魔王と相打ちにより死亡、攻める所の話では無いからだ。おまけに魔王と違って、神は天使が継げる様な物じゃない。故にどれだけ時が過ぎても空位が続き、未だに上は混乱の渦中」

「……嘘だろ?」

「俺はその場に居合わせた生き証人。そもそも嘘をつくメリットが何処にある」

「う……あ?」

「だが安心しろ。神の守護も愛もこの世に存在しないが、神が使っていたシステムをミカエル達が何とか回している。存命の頃に及ばずとも、最低限の祝福は受けられるぞ」

 

 つまり、本来の奇跡もシステムとやらが叶えていたって事か。

 それなら、上層部がそれを使いこなすようになれば元通り。

 その話が本当なら、天界に時間を与えると悪魔的にヤバくね?。

 って、ゼノヴィアがショック受けるなら、ウチのシスターは大丈夫か?

 さすがにこの状況で攻撃してこないだろうと、アーシアの元に駆け寄る。

 すると、そこには平然とした少女の姿が。

 

「ショッキングな情報だけど、平気か?」

「はい、大丈夫です。私は元々代価を求めてお祈りしてませんし……」

「強いなぁ」

「それに、私を救い出してくれたのは悪魔でしたから」

 

 片目を閉じてお茶目に舌を出す仕草が超可愛いです。

 

「それに主が居ても居なくても、私の信仰心に変わりはありません。悪魔が何をと笑われるかもしれませんが、これから先もずっと、ずっと、祈り続けようと思います!」

「頑張れ!」

 

 杞憂でよかった。さすがは俺の女神様だ。ブツブツ呟きながら幽鬼の如くフェードアウトしていった青髪とは違うな!

 

「今の話は各勢力のトップと、極一部の者だけしか知らない機密だ。迂闊に言いふらすと消されるので、取り扱いには注意しろよ?」

「命のやり取りをする相手の心配って、意味が分からないっす」

「細かい事を気にするな。大事な事だからもう一度言うが、忘れるなよ!」

「はいっ!」

「ってことで、本当の本当に今度こそバトル再開!」

「おうよ!」

 

 馴れ合いの連続で忘れそうになるが、俺達は敵同士。

 ちゃんと頭を切り替えないとマズイ。

 ここまでのパターンだと先ずは衝撃波が来る、今の内に体勢を整えねぇと!

 

「―――聖魔剣よ」

 

 俺が身構えるよりも早く、親友の声が響く。

 するとアンに誤爆した技の応用なのか、コカビエルを芯に鋼の花が咲いた。

 堕天使を包囲するのは光の加減で、白とも黒とも取れる不思議な色の剣。

 作り出したのはウチが誇る騎士様か!

 

「遅れて済まない。ここからは僕も混ぜて貰おうか」

 

 涼しい顔してピンチに現れるとか、持ってる奴は違うぜ。

 颯爽登場した木場だけは、何が起きていたかを把握していない。

 つまり一人だけシリアスを続行し、ガチで戦える訳でして。

 

「そっちは片付いたのか?」

「お陰さまで復讐心は全て消化出来たよ。もう、思い残すことは無いね」

「……死ぬのはダメです」

「新しい目的と約束が出来たから、そう簡単には死ねないよ。勘違いさせちゃったならゴメン。これからも僕は小猫ちゃん達と一緒さ」

「……ならいいです」

 

 前に聞いた感じだと、木場と小猫ちゃんは朱乃さんに負けない古株だ。

 恋愛感情は無いと揃って断言されたけど、家族愛的な物はあるらしい。

 二人とも幼くして家族を失った経験者。

 最新の身内を失う事に恐怖しても、しゃぁないと思う。

 

「これで囲ったと思うなら大間違いだ」

 

 木場に感化されたのか、出会った時と同じ威圧感を纏い始めるコカビエルさん。

 あんたやれば出来る子だよ、その調子で頑張―――俺は何を!?

 鋼花を砕いて空へと舞い戻る姿に、思わず喝采しそうな自分が怖いです。

 

「くっ、まさか僕の聖魔剣がこうもあっさりと……だけど!」

「……連携で追い込みましょう。チャンスは必ず来ます」

「おうよ、第二ラウンド開幕だ!」

 

 負けじと蝙蝠の翼で追撃する木場に小猫ちゃんも続く。

 さすがに朱乃さんは戦闘意欲を失っているけど、部長はそうでもない。

 本来なら遠距離も担当する僧侶は、ウチの場合攻撃力ゼロ。

 部長がその役割を果たすしか無い訳で、倒す事よりも空での自由を抑制する様な魔力攻撃を心掛けてくれているのが頼もしい。

 

「……例のコンビネーションで行きましょう」

「了解」

 

 回転蹴りを放つ小猫ちゃんだが、コカビエルには通用しない。逆に足首を捕まれれ、自ら窮地に追い込まれてしまう。

 しかし、これは思惑通り。

 右腕に関節技を仕掛けて気を引けば、僅かなラグの後に騎士が飛び込んで来た。

 

「油断したね」

「悔しかったら本気にさせて見ろ」

「その余裕が命取りさ」

 

 堕天使の幹部は空いている左の指二本で剣を受け止め、まだまだ涼しい顔。

 だけどそれはこっちも負けてない。

 実体が在るのか無いのか曖昧なのが、木場の持つ神器の特性だ。

 あっさり捕まれた魔剣を見限って、瞬時に同じ物を構築。

 円を描くような連続攻撃は俺から見ても隙がない。

 が、それでもコカビエルさんはその上を行く。

 

「貴様がここに居ると言うことは、バルパーは敗れたか。しかし、それで慢心して身の丈を見誤ったか? この程度のコンボでどうにかなると思われたなら大変心外である」

「水滴ですらいつか石に穴を穿つ。僕は届くまで諦めない!」

「所詮は聞いた通りの失敗作。夢物語はあの世で―――くぁっ!?」

「……腕、ゲットです。仙気をたっぷりと流し込んだので、回復は出来ませんよ」

「ナイスだ小猫ちゃん!」

 

 技量で上回るも木場の猛攻に集中を切らしたコカビエルさんは、隙を突かれて右肘を小猫ちゃんに破壊されてしまった。

 正に今が好機。そう思ったのは木場も同じ。

 置き土産に爰乃が使う様な掌をお見舞いした小猫ちゃんが離れるのに合せて、ここぞとばかりに斬りまくる。

 が、それでも堕天使は不動。無事な腕と翼を併用して二剣を押さえ込み、決定打を絶対に通さない構えだった。

 このまま正攻法を続けても無駄と察した親友は、ついに剣術から逸脱を開始。

 どこぞの海賊剣士と同じく三本目を口に銜え頭部を狙い、同時に足元に追加した魔剣を蹴り飛ばす無茶苦茶っぷりだ。

 これにはコカビエルさんも困り顔。

 つうか、こんだけやって頬に薄い切り口一つってインチキすぎるぜ。

 

「面白い、面白いぞグレモリーの騎士! もっと俺を楽しませて見ろ!」

「悪いが僕の出番はここまでだ。やってくれ、イッセー君!」

「何っ!?」

 

 そして、ついに俺のターン!

 

『Boost Boost Boost Boost Boost !!!』

 

 今まで限界だと思っていた力を超えて、手に浮かべた魔力球を増幅。

 コントロールの甘さで篭手の表面が融解を始めているが、もうちょいいける。

 これはもう合宿で山を吹っ飛ばした時の比じゃない。

 何がどうなるのか俺にも分からん。

 

「任せろ、時間稼ぎご苦労さんっ!」

 

 コカビエルさんが、俺に気付くも遅すぎる。

 だって俺はワインドアップからの投球モーションを終えているんだ。

 全体重を乗せて加速した魔力球は、あっさり音速を超過。

 慌てて翼をはためかせた獲物に、狙い違わず着弾する。

 

「逃げるよ小猫ちゃん!」

「……はい」

 

 コカビエルに触れた瞬間、球体は極大に膨張。

 赤の光で堕天使諸共周囲の空間を飲み込むと、鎧が無ければ鼓膜が破れそうな大音響で大爆発を引き起こす。

 ライザー戦までのフリーザ様みたいなデカイ魔力攻撃って、広域破壊が出来る代わりにダメージが分散しちまう。

 だから勉強した。爺さんに教わったのは、外側に力をばら撒かず、内に向かって無駄なく力を使い切る必殺の理論。

 頭の悪い俺はドラゴンショットでしか応用できないし、使うにも時間がかかる。

 だけど、爺さんにすら傷を負わせられたんだぜ?

 お前はどうよ、コカビエル。

 

「やったか?」

「そのセリフはダメだよイッセー君!」

「そ、そうか?」

「……祐斗先輩は心配性ですね」

「君達は楽観的だな!」

「余波だけでシトリーの結界パリーンって砕けたんだ。少しは期待ようぜ?」

「……これで駄目なら打つ手がありませんし、今回ばかりはイッセー先輩と同意見です」

「ああああ、どんどんフラグが強固に!?」

 

 空を覆った黒煙が晴れるにつれ、現れたのは満身創痍で翼の数を減らした男の姿。

 うわ、マジで生きてる!

 

「さ、さすがに今のは驚いたぞ。まさか躊躇無く人質を巻き込むとはな……」

「「「え?」」」

 

 俺達が慌てて爰乃の方を見ると、大変なことになっていた。

 旧校舎は、ほぼ全壊。肝心の眠り姫も、十字架に磔のまま落下している有様。

 俺はコカビエルの底知れない強さと、やらかした大失敗に愕然して固まってしまう。

 やっべ、位置関係を忘れてやり過ぎたか!?

 

「……捕まった立場で言える事じゃありませんけど」

 

 静かな声だが、そこに込められた凄みを俺は良く知っている。

 拘束が緩んだ訳ではないのか、顔だけ向けてくるのが救いかもしれない。

 そりゃ起きますよね。

 寝てる最中に叩き落されるとかブチ切れますよね……。

 

「ここぞとばかりに偶然を装い、恨みを晴らしに来るイッセー君に脱帽です」

「違うんです、釈明をさせて下さい」

「却下」

 

 おかしい、俺は爰乃を助ける為に相当の無茶をした。

 部長に逆らい、会長に啖呵を切り、勝てない相手に喧嘩を売ったよな?

 なのに、いつの間にか捕らわれのお姫様が超怒っている。

 どうしてこうなった。

 

「悪いと思っているなら、早く助けて下さい」

「へ?」

「地面は硬くて冷たい最高のベット。顔に付いた砂がジャリジャリと……」

「お、おう、任せろ!」

 

 あ、あんまり怒ってないのか?

 これ以上、機嫌を損ねないように速攻だ速攻!。

 

「……とばっちりが怖いので、早くお助けしましょう」

「そうだね。せっかくイッセー君が大ダメージを与えたんだ、回復される前に決着をつけよう。この期を逃せばもうチャンスは来なそうだしね」

「そうよ皆、もう少しだけ頑張りましょう!」

 

 割とグダグダだが、やる事は何も変わらん。

 待ってろ、今自由にしてやるからな!


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