赤蜥蜴と黒髪姫   作:夏期の種

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第20話「聖剣伝説 -ミドルフェイズ-」

「……ぶっちゃけ、グレモリー&シトリー総出も余裕な俺です」

「らしいですね」

「弦さん扮する黒騎士が何人か削る予定だったにしろ”ここは俺に任せて先に行け”で、八割方は無傷で通す計画でした。じゃないと大人と赤ん坊の喧嘩ですし」

 

 私は溜息を一つ。

 

「このままだと、イッセーは鎧の力を使い切って一般人登場。他のメンツも、共倒れか相応の被害を受けてズタボロでしょうね。そうなれば、ひょっとしなくても私一人で片付くんじゃ?」

「爰乃さんなら、そもそも万全でも行けるでしょう。シトリーは良くも悪くも特化型居ませんし、各個撃破で対応可能ですよ」

「皆さん私の得意な、純人間型ですからねー」

「それだけ戦力に余裕が無いのに、何であいつら仲間割れ始めるんですかね? 特にシトリー。俺の力を恐れる割に、上級ですらない悪魔の結界は無意味と何故に理解しない。俺を簡単に張れる程度の強度で押さえ込める雑魚と、戦力を下方修正する意味が分からんとです」

 

 こっそりイッセー君に仕掛けたアレイ印の盗聴器から流れてくる意味不明な会話を受け、私とコカビエルさんは頭を抱えていた。

 両の指で収まる数しか居ない堕天使の幹部を相手にするというのに、会長は熱血を乗せたスーパー系必殺技を減算バリアで無効化出来ると見積もる始末。

 この余裕は何処から来るのか。

 コカビエルさんならずとも、私も問い詰めてみたいです。

 

「……潰すなら、モブ扱いの会長ですよね」

「ええ、主役はグレモリーの騎士。彼を如何にして輝かせるかが焦点となりますから。それに爰乃さんの身を案じると言う理由付けも考慮すると、やはり退場するのはシトリーが妥当でしょう」

「決まりですね。加減が出来て、空気も読めるとなると……弦さん、頼めますか?」

「御下命、確かに承りました。ある程度は加減しつつ、シトリー眷属を無力化するとの認識で宜しいのでしょうか?」

「それで構いません。状況に応じ、適切な設定をでっちあげる方向でお願いします」

「御意」

 

 そう言い残すと、霞のように姿を消す弦さんは何度見てもおかしい。

 隠蔽術の一端すら見破れない私が未熟なのかと思い隣の堕天使に尋ねると、やはりこちらも感知できていないとのこと。

 近づいて斬るしか出来ないと本人は言うけれど、敵に察知させずに移動できる時点で凶悪過ぎる力の持ち主だと思う。

 

「姫様姫様、アンのお仕事まだー? ひまなのー」

「出番になったら召喚してあげるから、学校内を探検するのはどうかな?」

「たんけん!」

「これはゲームだよ。誰にも見つからないようにマッピングを終えられたらアンの勝ち。ご褒美に甘いケーキを焼いてあげる。分かった?」

「がんばりまーす!」

 

 根城にしている校長室から目を輝かせて飛び出していくアンに一抹の不安を覚えるも、これが一番の取り扱い方だと私は確信している。

 下手に難しい指示を与えるより、最低限のルールを与えて放し飼いの方が最終的な損失は少ない筈。

 まどろんでいた鬼灯の首根っこを掴んで出て行ったし、面倒が減って助かります。

 

「ヴァーリは別室でアレイとチェスを打っているから放置。時に校庭占拠中な神父の作業進捗はどうなってます?」

「アザセルから改修した欠片も含め、遠からずエクスカリバーの再結合が完了との事。全体スケジュールの遅れが予測されるので、主役の登場とタイミングを合わせるのが難しそうです。いやー、到着と同時に完成させて高笑いからの勝利宣言したかったなぁ。今回、出来るだけ負けフラグを立てるのが俺の課題なんで超残念ですわ」

「ノルマは三つ以上、出来ますよね?」

「……頑張ります」

 

 今更ながら、私は何をやっているのだろう。

 不思議なことに、この状況を楽しんでいる自分が怖い。

 やはりあれですか、英雄力の弊害?

 将軍の関羽さんは、場を支配するのが大好きだったみたいな?

 

「いっそ梃入れに、磔にでもなりましょうか?」

「気が引けて頼めませんでしたが、受けて頂けるなら是非とも。魔をアピール出来るよう、逆十字の磔台を速攻で作りますよ!」

「それなら和服は和洋折衷過ぎるかと。手頃な着替えがあったりすると助かりますが……まさか用意してませんよね」

「……実はアザゼルから必要になるかもしれないと、純白のドレスを預かっていたり」

「……読みが深い上司を持って幸せですね。どうせ寸法は私にピッタリなのでしょう?」

「爰乃さんの身体データは知りませんので何とも言えない所ではありますが、ウチのボスはそういう細かい所で手を抜かない神経質な男ですし……おそらくは」

 

 あの人は、何処まで読んでいたのだろう。

 小賢しい小娘の浅知恵では、老獪な賢者の予想を裏切ることを出来ないのかな。

 悔しいけど、人生経験の差だけは埋めようが無いもんね。

 それに、私は搦め手よりも拳骨で押し通るタイプ。

 戦略で負けても、戦術レベルでなら予定調和を上回る事も出来るに違いない。

 

「コカビエルさん、何処かで見ている観客の為にも頑張りましょう。こうなればヤケです。恥も何もかも掻き捨てて、捕らわれのお姫様演じきりますとも。どうせ目を瞑ってぐったりするだけの簡単なお仕事ですし!」

「では俺も心を鬼にして、悪い堕天使役に入り込みます。場の空気を読んで少しばかりの怪我を負わせるかもしれませんが、必ず傷一つ残さず完治させます。申し訳ありません、我慢して下さい」

「ボスが人質に手を出すのは様式美。妙な加減は不審の元なので、致命傷になろうともやりたいようにやっちゃって下さい。但し、DIO様の如く唇を奪うとかは無しで」

「畏まりました、マイプリンセス」

「宜しい」

 

 それから詳細な打ち合わせを終えた私は、与えられたドレスに袖を通しながら外を眺める。

 眼下には初老の神父を中心にして、回収されたエクスカリバー総勢六本が神々しい光を放ちながら浮いていた。

 小躍りしながら作業を進める彼はとても楽しそうで、何とも羨ましい。

 道化ここに極まり。切り捨てられる以前の扱いと教えたら、一発で憤死するんじゃないと思う。

 

『こちら弦、これより目標を駆逐します』

 

 耳に差し込んだインカムからの淡々とした宣言は、メインイベント開始の合図。

 ここまで来たら、上手くやろうとか考えずに楽しもうと思う。

 さあ、イッセー君。この布陣を乗り越えて私を助けられるかな?

 サブイベントにも手は抜きませんからね。

 

 

 

 

 

 第二十話「聖剣伝説 -ミドルフェイズ-」

 

 

 

 

 

「助力をお願いしたのに申し訳ないとは思う。でも、やっぱり私達だけでやることにするわ。だから邪魔をしないと誓って結界の維持に努めるか、お引き取り願える?」

「……そんなに下僕の女が大切なの」

「爰乃は私の友人で、後輩で、親友の貴方に負けない大切な女の子。侮辱するなら誰であろうと容赦しない。まして、命を脅かすなら明確な敵よ」

「つまり、相容れない……そういう事ね」

「分かってくれたなら、どうするのか教えてくれないかしら」

「リアスが自らの心情に従うなら、私も同様に己の信じる道を進みましょう。憐耶、サーゼクス様へ……違うわね、レヴィアタン様に救援要請。事情を説明し、可及的速やかにコカビエルを打倒しうる上級悪魔の派遣を依頼なさい。回線はシトリーの直通を使用、私の名を出す事を許可します」

「ソーナ!」

 

 部長が腹を括った様に、会長も負けじと覚悟を決めていた。

 って、ヤバイ!

 俺は鎧精製のカウントダウン中で動けない、木場に期待するしか―――

 

「主の邪魔はさせません! いざ尋常に勝負!」

「シトリーの騎士か!」

 

 駄目だ、三人に囲まれてる。小猫ちゃんは匙の篭手から伸びた黒い触手みたいのに絡め取られてるし、部長は会長とお見合い中。頼みの朱乃さんは薙刀使いに主導権を奪われて、苦手の接近戦に持ち込まれちまった。

 アーシアは俺の後ろに居るけど戦力外。完全に押さえ込まれた格好だ。

 憐耶とか呼ばれたお下げの子は通信に手馴れてないのかもたついてるが、このままじゃ冥界に報告されるのも時間の問題だろう。

 向こうは時間を稼げば勝ちなのに、俺達は一人でもフリーにすれば終わる。

 どうすりゃいいんだ?

 遠からずチェックメイトが掛かる、そう諦めかけた時だった。

 最初に襲われたのは、木場を囲んでいた三人娘。銀閃が光る度に体の一部が宙を舞い、本人達も何が起きたか分からないまま戦闘不能に追い込まれていく。

 

「……今のは!?」

「おや、少し雑過ぎましたか。それでも僅かなりとも察知できたなら上出来です。はなまる満点を進呈しましょう」

 

 聞き覚えのある声が響いたかと思えば、匙の腕が肩の根元から断たれて神器が停止する。

 何かに気付いた小猫ちゃんは自由になると、即座にロケットのような飛び蹴りを敢行。朱乃さんを押さえ込んでいたお姉さんを一発で昏倒させる快挙を達成である。

 うーむ、フェニックス戦の時より動きが格段にキレてる。

 戦いを一つ乗り越えて強くなったのは、俺だけじゃなかったんだなぁ。

 

「イッセー君はそのまま力を温存してくれ。これなら僕らだけで行けそうだ!」

「悪い、任せる!」

 

 フリーになった木場が朱乃さんの援護を受けて縦横無尽に暴れ周り、お下げちゃんを一閃。何もさせないまま打ち倒してしまう。

 あっという間に形勢は逆転。残るは会長唯一人だ。

 って、そういやさっきの怪現象は何だよ!?

 

「リアス、私の知らない眷族を何時の間に!?」

「……私のじゃないわ」

「白々しい嘘をっ」

「未だに気づかないソーナが鈍いのか、それともその方が凄いのか……きっと後者ね」

「!?」

 

 部長と向かい合う形だった会長には見えないが、俺の目には薄っすらと笑みを浮かべる死神の姿がばっちり映っていた。

 前に見た時と同じ袴姿で背後に立ち、抜き身の刃を首に突きつけて生殺与奪の権利を完全に掌握済み。

 彼女の匙加減一つで、シトリーの王はその命を散らす事になるだろう。

 

「忠義を尽くした熊本藩には裏切られて投獄。協力を断った明治政府からも、冤罪を捏造されて死刑を求刑されました。先の見えない闇の中で仕えるべき主を見つけられず、失意のどん底に落ちた私を破格の高待遇で拾い上げてくれたのはお屋形さま」

「……何を言っているの?」

「大恩ある主がご息女に対し、見過ごせぬ暴挙を働こうとしましたね」

「香千屋爰乃の……こと?」

「コカビエルは我ら郎党を敵に回す愚を犯さない。故にこちらが約定を破らぬ限り、決して約束は違えず姫様の御身は安泰。にも関わらず、馬鹿が横槍を入れてお膳立てを台無する? 殺すぞ……小娘」

「……貴方は何者ですか」

「アドラメレク眷属が騎士、河上弦。死んで償え……と言いたい所ですが、リアス・グレモリーの姫様を第一に優先した心意気に免じて小娘の処遇を任せましょう」

 

 つ、つええ。

 初見で感じた以上に圧倒的過ぎる。

 このままだとシトリーは一人残らず全滅だが、部長はどう場を納めるんだろう。

 下手な庇い立ては、火の粉が俺たちも降りかかることは明白。

 頭を使うのはお任せします、部長!

 

「……彼女は友人ですので、命を取る事は許して頂きたく」

「けじめはどのように?」

「今回の一件から完全に手を引かせ、先ほどの行為により何らかの不利益が発生した場合は責任を取らせます」

「具体的には?」

「アドラメレク様の元に彼女の首を届けます。仮にそれが原因でグレモリーとシトリーの間に抗争が発生しようと、そちらに責任は負わせません。これで足りないのなら、私自身の命も上乗せ致しますが……」

 

 部長、そんな事言っちゃってOKなんすか?

 何といいますか、コカビエルを倒せても状況次第で冥界大戦争の予感がします。

 だってサーゼクス様もセラフォルー様も、超シスコンらしいじゃないですか。

 片方が動けばもう片方も黙っていないでしょうし、両家の魔王様大激突では……

 俺は爰乃さえ助かればいいんですけど、冥界が荒れる点でコカビエル大勝利っすよ。

 

「お屋形さまも、それならば納得して頂けるでしょう」

「では……」

「ですが、お屋形さまは信を違える者がお嫌いです。口約束と軽んじれば、相応の報いを受ける事をお忘れなく。あまり長いも出来ぬ身故、これにて失礼」

 

 嘘つきは殺すと釘を刺し、弦さんは最初から居なかったように姿を消した。

 割と目立つ格好なのに、誰も気づけないってマジ凄ぇ。

 考えて見れば有数の剣士の癖に、誰を何時何処で斬ったのか殆ど記録に無い変り種だ。

 それなのに幕末四大人斬りに名を連ねる不思議な人である。

 きっと犯人不明の殺しが起きたら弦さんの仕業、そんな感じだったのかもなぁ。

 

「ソーナ、聞いての通りよ」

「……分かりました。どうせこんな有様では、足手纏いにしかなれません。どんな結果になろうと、リアスに従いましょう」

「悪いわね。それじゃあ、やるべき事から片付けるわ。アーシア、怪我人の手当てをお願いできる?」

「リアス、ここで無駄な力を消費しては―――」

「少しでも有利に戦える様に、外から結界を張って貰う為の打算よ。傷が治っても魔力を酷使する分、ある意味地獄じゃないかしら?」

「貴方って子は……」

 

 なんか良い話に終わりそうですが、状況的には戦力半減しただけですよね。

 肉体的にも精神的にも疲れたし、シトリー頼ったメリットは何処に。

 

「木場、消耗はどんなもんよ」

「乱入者のおかげで微々たる物。他の皆も似たり寄ったりじゃないかな」

「俺も温存できたし、最悪一歩手前ってとこか」

「多分、彼女はずっと見ていたんだと思う。救出の役割を与えられた僕達に不利益が発生しそうだから介入が始まった、そうでなければ説明が付かない」

「……あの人は怒っていましたから」

「ん」

「……そうでもなければ、私に見つけられるはずがありません」

「怒りの矛先が俺達じゃなくて助かった……」

「……全くです」

 

 一斉に溜息をついた前衛部は、危うい橋を渡っているのだと改めて実感する。

 基本的にコカビエルも、アドラメレクの人たちも全員揃って格上だ。

 彼らの機嫌を損なわず、それでいて予測を裏切る難しさ。

 本当に難儀だ。逃げられるならとっくに逃げている。

 

「イッセーさん、皆さんの治療終わりました!」

「早っ!」

「特訓のお陰です」

 

 制服のあちこちに血の染みを作るアーシアは、凄惨な姿の割りに極めて普通の様子。

 まぁ、それも当たり前。

 木場とのガチンコ模擬戦で、俺や小猫ちゃんもスプラッタ祭りだったんだぜ?

 たまに爺さんに三人がかりで挑む時なんて、仲良く胴体真っ二つに四肢欠落はザラ。

 最初の頃は泣きながら必死に回復してくれたアーシアも、最近はすっかり慣れた。

 常に全力を振り絞っていたからか一度の回復量も見違えたし、頭さえ潰されなければどんな怪我でも治すと言い出す始末。

 同時に複数の対象も癒せる進化したアーシアは、今やあの爺さんすらトップクラスと認める僧侶へ進化している。

 この程度の惨状は日常茶飯事なので、取り乱すはずも無いか。

 

「文字通り、アーシアさんは僕らの生命線だね。下手をすると赤龍帝より欲しがる人が多そうなレア人材だよ。彼女が控えている限り、簡単に死ねないんじゃないかな?」

「そ、そんな、わたしなんて……」

「……先輩が居るから安心して前に出られます。謙遜せずとも大丈夫です」

「そうそう。アーシアが健在なら、どっからでも立て直せるのが俺達の強み。実際、居てくれなかったら何回死んでいたのやら」

「……お陰様で痛み耐性ばっちりです」

「……僕は慣れるまで夢でうなされたよって、それよりも治療が終わったなら学園へ急ごう。別にシトリーを倒しに来た訳じゃないんだよ?」

「そ、そうだった!?」

 

 ま、ウォーミングアップ代わりには手頃だったさ。

 自分達の力だけでもぎ取った勝利じゃないが、その辺は気にしない。

 

「……貴方の眷属って控えめに言って異常ではないかしら」

「……少し前まではそうでもなかったのよ?」

「……そう」

 

 何故か部長が遠い目をしていたが、きっと俺達の成長に感激しているんだろう。

 この調子でもう一戦、勝利の凱歌を響かせてやるぜ!


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