戦国生活日記   作:武士道

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浅井奇襲作戦

昌秀率いる千五百の手勢は、一日休息をとって次の日吉備津城へと攻め寄せた。

敵方の城主、吉備津綱貞は昌秀の軍勢を確認すると戦うこともせずわずかの供を連れて逃げ去った。

城主を失った吉備津城の五百の手勢は降伏し、昌秀の支配下に置かれる事になった。

そして、城をとった後将兵に夜まで休息を取らせた。

俺は城に入ると、城主の部屋に入って休息がてらに部屋に置いていた書物に目を通した。

 

「おっ・・・これは中々の兵法書だな。」

 

俺がどれどれと言って早速読もうとすると、且元と高虎が部屋に入ってきた。

 

「昌秀様、こちらの兵力は先程の五百を合わせて二千になりました。何故、浅井の背後を突かないのです」

「私も且元殿と同じ考えです」

 

俺は、はぁと溜め息を吐くと書物を閉じて横になった。

 

「いいか? 恐らく今頃、さっき逃げた綱貞が救援を求めている筈だ。となると、すぐにこの城を取り返しに来るに違いない。まぁ、兵力はそんなに裂けないから三千がいい所だろうな」

 

「な、成る程・・・・」

「流石殿! そこまで考えていらっしゃるとは・・・」

「ちょうどいい、お前らにこれからの指示を伝える所だったんだ」

 

俺は、手間が省けたと言いながら地図を取り出し二人の目の前に敷いた。

 

「まぁ、もう策は考えてるんだが・・・お前らは、この北と南の森に五百ずつ兵を潜めさせておけ。俺が城で機会を見て狼煙を上げる。それを合図に敵を挟撃しろ」

 

「は、はい! しかし、今夜ですか・・・? いささか、早すぎると思うのですが?」

「当たり前だ且元、恐らく敵は勝利で浮かれている俺らを奇襲で殲滅する腹だろうからな」

「分かりました。この高虎、必ずや敵を討ち果たして見せます!!」

「あぁ、頼んだ」

 

二人は失礼しますと部屋を後にすると、二人が兵に指示を出している声が聞こえた。

俺ははぁと溜め息を吐いて、夜の戦に備えて眠りについた。

その日の夜、案の定敵は三千程の兵を引き連れてやってきた。

敵は城に殺到しようとすると、城の近くで地面に大きな穴が空き、次々と兵が落ちていった。

 

「お、落とし穴じゃと!? 一体、何時の間にこんな物を・・・」

「お前らの投稿してきた兵に昼間に作ってもらったんだよ!!」

「お、おのれぇ・・・」

 

俺はそれを確認し、兵に狼煙を上げさせた。すると、北と南の森から、それぞれ且元と高虎が率いる五百の軍勢が綱貞の軍勢に襲い掛かった。

いきなり挟撃にあった浅井勢が恐慌状態に陥るのを確認すると、俺は兵に城門を開けさせるように指示した。

 

「最早敵は只の烏合の衆ぞ!皆の者、敵をなぎ払え!突撃ぃ!!」

「「「「おぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」

 

俺の突撃の合図と同時に、城門が勢い良く開き戦の軍勢が敵に雪崩れ込んだ。

綱貞率いる三千の軍勢は完全に戦意を無くし、我先にと逃げ出す始末だった。

俺は馬を走らせると、敵の大将らしき人物を見かけた。

 

「貴様、吉備津綱貞か!?」

「ひっ!?」

「あっ!?待て、この野郎!!」

 

俺が馬を走らせ後を追うと、綱貞を守ろうと五人ほどの兵が道を阻んだ。

 

「そこを退けぇ!!」

「「ぎゃあぁああ!!」」

 

俺が槍を一振りすると、道を阻んだ五人が悲鳴をあげながら吹き飛んだ。

俺は槍を持ち替え、綱貞向けて投げた。

 

「な、槍を投げ―――――――――――ぐはぁ!?」

 

俺が投げた槍は見事に綱貞の胴を貫いた。

俺は、綱貞から槍を抜くと大声で敵に告げた。

 

「敵将吉備津綱貞、この長門昌秀が討ち取ったり!!」

 

大将が討ち取られたのを知ると、ある者は投降し、またある者は自害して果てた。

この戦で、俺らは死者は出なかったものの二百の負傷兵が出てしまった。

一方、敵方は三千の内、千五百は敗走し五百は死亡、残りの千は投降するという大勝利に終わった。

 

「昌秀殿、まさかこんなに敵の動きが分かるとはまさに名将でございますね!!」

「殿、これで我らは負傷兵を除いても二千八百になりました。今すぐ、津川城を救援に行きましょう!!」

 

「あぁ、そのつもりだ」

 

昌秀はその日の夜のうちに軍勢をまとめ、五百の兵を城に残し二千三百の兵で敵の背後を突くべく出陣した。そして、翌日の昼敵の陣まであとちょっとという所で休息をとらせた。

 

「殿、何故今仕掛けないのです?」

「阿呆、今の状態で攻めても兵は疲弊しきっている。だから、夜まで体を休ませ一気に叩くつもりなんだよ」

 

俺は、兵を休ませるタイミングも重要だと考えていた。

いくら敵に早く着いて突撃しても、最高のパフォーマンスが出来ない状態では意味が無い。

 

「お前も休んどけ。夜は忙しいぞ?」

「は、はい」

 

 

 

 

一方その頃、浅井陣営。

 

「ふふふ、重秀め。とうとう殺す時が来たようだな」

「殿、敵も我等の軍勢の前では歯も立たぬ様子。ここは、一気に畳み掛けるべきかと・・・」

「たわけ。力攻めをすれば、こちらの被害も相当な物になる。ここは兵糧攻めに決まっておる」

「しかし、長戸勢は城に四千の兵しかおりませぬ。我等の兵は六千ですが、力押しすれば勝てぬ戦ではございませぬ。それに、斉藤家の援軍も気になります」

 

話しているのは、浅井の大将浅井久政と遠藤直経であった。

この遠藤直経、浅井きっての勇将で知略家としても知られていた。

久政達が話していると、陣の外が騒がしくなった。

 

「何じゃ一体・・・?」

「もしや・・・・!?」

「殿、敵襲です!長門勢が後方より奇襲をかけて参りました!!」

「な、何じゃと・・・?」

「殿、ここは撤退を殿は我らが引き受けます」

「う、うむ。任せたぞ」

 

久政が僅かな供回りを連れ逃げ去るのを確認すると、直経は手で自分の頬を叩いて気合を入れなおした。そして、槍を抱えて戦場へと向かった。

戦場に着くと予想以上に悪い展開だった、味方の兵はほぼ壊乱状態であった。

 

「皆の者、撤退じゃ!早急に撤退せよ!」

 

直経が号令すると、他の兵もそれに続いて撤退と叫び撤退し始めた。

しかし、それを長門家の兵は逃さんと追いかけた。

そして、味方の兵がやられそうなのを確認すると直経は槍を敵兵の胴へと突き出した。

 

「ごぶ・・・!?」

「何をしておる!? 早く撤退せい!」

「は、はい!」

 

助けた兵が逃げるとの確認すると、目の前に栗色の馬に乗った敵将らしき人物が居た。

 

 

 

 

「へぇ・・・浅井も中々の強者がいるな。」

「お主がこの奇襲を?」

「まぁな、俺の名は長門昌秀。あんたは?」

「わしは遠藤喜衛門尉直経。さぁ、いざ尋常に勝負!」

 

遠藤直経と名乗る男は、俺に向かって鋭い突きを放ってきた。

俺はそれを槍で受け流すと、反撃の突きをお見舞いする。しかし、直経も槍で上手く防いだ。

何十合かすると、互いに疲弊の色が見えた。

 

「ぬえい!!」

「おらぁ!!」

 

直経が槍を繰り出すと、俺も同時に槍を勢い良く突き出した。

そして、直経の胴から血があふれ出した。

 

「ぐぶ・・・わしの負けか」

「そのようだな」

「ふっ、まさか貴殿のような将がおるとは・・・知っておれば、出陣しなかったものを」

「あぁ、そうだな・・・」

 

俺はちょっと悲しそうな顔をすると、腰の刀に手をかけ思い切り抜き放った。

直経の首は空しくも地面に鈍い音を出し落ちた。

 

 


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