宮部継潤は途中、馬に乗り換え訪れた場所は、城から霧生山がある南に2キロ程行った霧生賊対策に向けて築かれた砦であった。
「ここは・・・?」
「霧生賊討伐のために私が築かせた砦でございます。ここには既に、8百の兵が駐屯しておりまする」
俺は馬から下りて、砦の様子を見ると確かに大勢の兵士達がこちらの様子を伺っていた。
「何時の間に・・・」
「昌秀殿が隠れて武芸の修行している時にですよ」
「っ!? 見てたのか!?」
「それはもう。私をはじめここにいる皆が見ておりました。ここにいる者達はほとんどが百姓なのです。」
確かに俺は、永重に目に者見せてやろうと、ここ最近武芸を鍛えてはいたが、まさか百姓達が見ていたとは・・・
「それに昌秀殿は自室で隠れて、兵法や内政の書物も見て学んでいたではないですか。私はそれを見て、正直もったいないと思ったのですよ」
「・・・もったいない?」
「そうです。貴方には才がある。そして、裏での努力も怠らずご兄弟にはうつけのフリをしている。よいですか? 貴方は、もっと自分に自身を持ってよいのです。」
俺が宮部の話を聞いていると、ズボンを誰かに引っ張られた。
誰かと下を向くと、そこにはまだ幼稚園程の子供がいた。
「昌秀殿は百姓と仲がよろしいようですね。」
宮部は子供を見ながら笑うと、砦にいた兵達がこちらに集まってきた。
「御覧下され昌秀殿、僅か一月でここまで人心を集める事は凡愚には出来ませぬ」
「・・・・」
俺が黙り込むと、宮部はくすりと笑い誰かを呼んだ。
一人は白髪が目立つが、歴戦の武士を感じさせる雰囲気を帯びた老武者。
もう一人は、黒髪のロングヘアーでパッチリとした目が印象的な女の子であった。
・・・・女の子?
「ちょっと待て、何で女の子が鎧兜を着けているんだ?」
「・・・それは私に対しての侮辱ですか?」
黒髪ロングヘアーがいきなり口を開いた。その口ぶりには怒気が感じられた。
俺も嫌な感じがしたので弁解する。
「い、いや・・・そういう訳じゃ。どういう事ですか?」
「昌秀殿、こちらの老武者は片桐直貞殿で、こちらがそのご子息である片桐且元殿です。この二人は、私と共に浅井より帰順し今は私の与力を務めている者達です」
「な、成る程・・・」
「貴方が長門昌秀殿だったんですか、本当にそんなんで大将が務まるんですか?」
「・・・何だと?」
俺が反論しようとすると、目にも留まらぬ速さで直貞が且元を頭に拳骨を入れた。
且元はフゲッ!?と情けない声を上げ、頭を押さえた。
「痛ったぁ・・・・」
「大将に何と言う口の聞き方をするか!? 此度お主は、このお方の護衛をするのだぞ!?」
「はい・・・分かりました、父上。」
・・・どうやら今回の戦は、この口の悪いが美人な女が俺の護衛をするらしい。
「それでは昌秀殿、我らも戦の準備を始めますので城にお戻りを。今日から護衛として且元を付けますので、親睦をお深めください。それでは・・・」
「お、おい!! ちょっと待ってくれ!」
宮部と直貞は、馬に乗って颯爽と行ってしまった。砦の兵達も宮部達を追って行ってしまった。
そんな中、ポツンと取り残されてしまった二人。
「「・・・・・」」
気まずい・・・非常に気まずい。それに、さっき何か怒ってたしなぁ。話しかけ辛い。
しかし、片桐且元と言えば賭ヶ岳の七本槍の一人であった筈。しかも男だ。
それがどうだ。こいつは女で、片桐且元を名乗っている。
もしや、歴史が変わっているのか?そんな事を考えていると、且元が変な顔で見ていた。
「・・・何か用か?」
「いえ、考え事をしているようだったので。とりあえず、城に戻りますか?」
「ん~そうだな。一回、城に戻るか」
俺が馬にまたがると、ある事に気付いた。且元には馬が無いのだ。
「何だ、馬を父ちゃんに持ってかれたか?」
「いえ、砦に戻ればありますので今とって参ります」
「そんな面倒くさい事してられっかよ。ほら乗れ」
「い、いえ・・・しかし―――――――きゃっ!?」
俺は一度降りて、且元を抱えると馬に無理矢理乗せた。そして、すぐさま且元の前に座り馬を走らせる。
「ちょ、ちょっと・・・」
「しっかりつかまっていろ!!」
「う、うん・・・・」
城に戻ると、既に永重が戦の準備を終わらせ出陣しようとしていた。
永重自身も全身を赤の鎧兜を着け、いつでも戦が出来る状態であった。
「永重、もう行くのか?」
「昌秀、義兄と呼べと言っているであろう。父上ももうすぐ出陣じゃ、南門に居るゆえ会って来い」
「分かった」
俺はすぐに馬を、重秀がいる南門へ走らせた。
「おう、昌秀!! 戻ったか!」
「重秀殿・・・」
「なぁに、そんな心配そうな顔をするでない。お主なら出来る、後ろにいる可愛い娘も居る事だしのう」
「・・・・・///////」
重秀の言葉に顔を赤らめている且元の性格が分かったような気がした。
「それでは城は頼んだぞ。昌秀」
「・・・・お任せを」
「がっはっは! この一月でお主も、頼もしくなったのう!! では、出陣じゃ!!!」
「「「おぉぉぉぉぉぉぉおぉ!!!」」」
重秀が大声で言い放つと、周りの将兵もそれに呼応して鬨の声を上げた。
長門重秀が率いる三千五百が津川城が出るのを見送ると、俺ははぁ・・・と溜め息をついた。
「・・・・貴方、本当に大将なの?」
「あぁ、残念ながらな・・・」
俺はとりあえず、伝令を呼び他の家臣を早速軍儀を開くため呼び寄せた。
駄文でスイマセン。
次回、やっと戦がかけそうです。