戦国生活日記   作:武士道

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浅井侵攻

 昌秀が修行を開始してから一ヶ月が経とうとしていた頃、長津の国に火急の報せが入った。

何でも、浅井がこの長津の国に侵攻しようとしているという事ある。

 

「何っ!? 浅井が進行を開始したじゃと!?」

「はっ・・・それにもう1つ、悪い知らせがございます」

 

もう1つの悪い報せというのは、重秀の先代の頃からの悩みの種である津川城の近くの山を拠点として活動している山賊もこれに同調して動いたという報せだった。

この山賊は、霧生山(きりゅうさん)と言う山に砦を築いて活動している事から霧生賊と名乗るようになった。

おまけに、築かれた砦も厄介で武器や食料なども、近江と美濃の民から強奪して貯蔵していた。

 

「兄上、近江の進行に対応するにはこちらのほぼ全ての兵力を当てる事になります。そうなると、こちらに残る兵馬は千人足らず・・・また、これらを指揮する将もおりませぬ。兄上、ご決断を!!」

 

そう言ったのは、長門重秀の弟である長門豊後守重勝であった。

 

「・・・仕方あるまい。昌秀を呼べ」

「ま、まさか兄上。あのような者にこの城を任せるつもりですか!?」

 

重勝は信じられんという表情をすると、周りの重臣達も同様に表情を曇らせた。

しかし、重秀は戸惑う事無く昌秀を呼ぶ為に早馬を出させた。

 

 

 

 

俺はその頃、永重の弟である義重に内政について、城より少し離れた別館で学んでいた。

義重は好きな事について語りだすと止まらない性格のようで、内政や外交についての話を小一時間続けていた。

 

「よいか昌秀、内政と言うものの本懐は民のためである。」

「はぁ・・・」

「民がいるから国がある。彼らの納めてくれる年貢が我等の糧となっているのだ」

 

言いたい事は分かるのだが、もうあなたの授業時間は過ぎている事を物凄く伝えたい。

何故って、後ろで次の肉体労働もとい、修行をしたがっている永重がすごい形相でこちらを見ていたからである。義重は永重を確認すると、はぁと溜め息をついた。

 

「何か御用ですか兄上? 私は今、昌秀に内政のなんたるかを――――――――」

「ええいっ! お主はだらだらと御託を並べるだけで時間を無駄に過ごしているだけではないかっ!それでは、昌秀が眠ってしまうわ!」

「いくら兄上でも、その言葉は聞き捨てなりませぬ。兄上こそ、体ばかり動かしてばかりで頭が足らないと思いますが?」

「何じゃと!? 言わせておけば・・・」

「二人ともちょっと待てぇぇぇぇ!!」

 

つまらん兄弟喧嘩に仲裁に入る俺。

このまま続けられたら、ずっとこうしているような気がしてならなかったからだ。

 

「何じゃ昌秀!? 兄の喧嘩に口出しするではない! 童は黙っておれ!」

「その通りだ昌秀、これは私と兄上の喧嘩だ。仲裁は無用、童はそこで茶でもすすっておれ!」

「誰が童だ!! このクソ義兄共ぉぉぉぉぉ!!」

 

俺ら三人が口論していると、外から俺らを呼ぶ声が聞こえた。

 

「御免!! 長門三兄弟はそろっておられるか!?」

「何じゃ!? 今、忙しい!」

「申し訳ござらぬ、火急の用件にて重秀様から伝言を預かってまいった!!」

「伝言だと? 申してみよ」

「はっ! 昨夜、近江の浅井勢がこちらに向けて進行を開始した模様。さらに、霧生賊もこれに同調して進行を開始!! お三方は早急に城に参られよとのご命令でござる!!」

 

それを聞いた二人はすぐに顔つきが変わった。

 

「霧生賊が動いたじゃと・・・・?」

「恐らく、浅井の者の仕業でしょうな」

 

二人は凄く冷静に話していたが、聞いてる俺は内心びびりまくっていた。

近江とここはメチャクチャ近い。ご近所さんがこんにちわ~と挨拶に来るようなものだ。

 

「そういうことならば致し方あるまい。行くぞ、義重!昌秀!」

「はい」

「えっ? 俺も?」

「当たり前じゃ!!」

「痛ってぇ!?」

 

永重の拳が俺の頭に鈍い音を出すと、いつの間にか義重は俺ら三人分の馬を引いてきていた。

そして、俺らは馬に乗って津川城へと急いだ。

 

 

 

 

「父上! 浅井が進行してきたとは真ですか!?」

「永重か・・・うむ、真の事じゃ」

「されば、早速迎撃にでねば・・・」

「それがのう義重。此度も奴らの軍勢は、六千程らしい・・・」

「となると、こちらの兵力はかき集めても四千五百程度。三千五百を動員し、残りの千を城の防備に当たらせるものと存じます」

「うむ、わしも同じことを考えていた。既に、斉藤家にも援軍の要請は出してある。」

「なぁに、また今度も軽く蹴散らしてやりますよ!!」

 

永重の言葉に、重臣達も『そうだ、もう一度懲らしめてやろう!!』と息巻いていた。

その空気に、重勝が口を開いた。

 

「しかし、霧生賊は如何なされるのです! 奴らの兵力は、各地の山賊を集め千はくだりませぬぞ!!」

「うむ、その事じゃが・・・」

 

重秀の言葉に皆が息をごくりと飲んだ。

俺も永重の後ろで息を飲む。すると、重秀は閉じていた目をゆっくりと開いた。

 

「霧生賊の件、昌秀に任せようと思う」

 

その瞬間、全員が凍りついた。当たり前の事である。

 

「お、恐れながら兄上。昌秀ではいささか力不足かと存知まする。まだ、修行して一ヶ月足らず実践にでるには早すぎまする」

 

重勝がすかさず反対の意見を述べた。他の重臣もそれに同調するが、重秀は意見を聞かず勝手に決めてしまった。重秀は俺の副将として、重臣の宮部継潤をつけた。

 宮部継潤・・・・元は、浅井の家臣であったが先の戦で重秀の人望とカリスマ性を慕い、長門家に帰順した僧兵である。

俺は、重秀に俺では無理だと言ったが問答無用で押し付けられた。

義兄達は、笑いながらお気の毒にと言って戦の準備に入ってしまった。

 

 

 

 俺が皆の戦の準備を石に腰をかけながら見ていると、後ろから誰かに肩を叩かれた。

後ろを見ると、ハゲのおっさんが立っていた。恐らく、この人が宮部継潤なのであろう。

 

「もしかして、宮部殿ですか?」

 

俺が他人行儀で話しかけると、宮部継潤はニコリと笑いながら気さくに話しかけてきた。

 

「成る程、あなたが殿の隠し子の昌秀様ですな。確かに、殿と雰囲気が似ていらっしゃる」

「隠し子って・・・待て、俺があの人と?」

「左様、殿があなたにこの任を与えたのは、殿があなたを信頼しているからなのです。力になれるか分かりませぬが、不肖この宮部継潤、若様に忠節を誓いまする」

 

宮部さんは、俺の足元にしゃがみこむと頭を下げた。

俺は慌てて周囲を確認する。

 

「やめて下さい。俺なんかに頭を下げるなんて・・・」

「いえ、やめませぬ。貴方を見て確信いたしました。」

「な、何を・・・?」

「貴方なら霧生賊を討伐する事が出来る事がです」

「まさか・・・軍略だって重秀さんに習ったばかりで、それをすぐ実践に使えるとは――――――」

「いえ、出来まする!! ・・・・若様、御免!!」

 

宮部継潤は力強く否定すると、立ち上がって俺を担いで走り出した。

 

「お、おい!! 一体何処に連れてくつもりだっ!?」

「今は申せませぬ。」

「はぁ・・・・」

 

俺はもうなるようになるかと腹をくくったが、ふとあることに気付いた。

 

(俺、何んであいつらの事『義兄』って呼んでんだろう・・・・?)

 

「どうなされた若様?」

「・・・少しほっといてくれ」

「???」

 

自分の予想以上の順応能力の高さに両手で顔を隠した昌秀であった。




次回は、オリジナル姫武将を登場させる予定です。
宮部継潤は史実では浅井の家臣です。

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