戸を勢い良く開いたのは、城主の長門重秀であった。
「お主、織田が今川に勝つと申したそうじゃな?」
重秀は力強い目で俺を見る。
俺は少し戸惑いながらもこくりと頷いた。
「何故、そう思う?」
「・・・今川は二万近くの軍勢で進行中なんだろ。加えて織田の兵力はざっと見て三千程度・・・となると自然と軍は気が緩みがちになるはず。そこを上手く突けば・・・あるいはと思っただけだ」
重秀は答えを聞いている途中に、最初は真面目な顔をしていたが直ぐに笑い始めた。
「いやぁ、永重が貴様を未来から来たとぬかしておったが・・・どうやら、そのようじゃのう」
「は?」
「重秀様!! 先の織田と今川の戦ですが・・・」
伝令と思われる人物は俺が居たのもあってか、伝令を伝えるのを渋った。
「構わぬ、申すが良い」
「それでは・・・織田と今川の戦ですが、結果は今川の大敗でございまする。加え、今川の大将今川義元は討ち死にし、今川勢は壊乱状態との事」
「左様か、下がってよいぞ」
「はっ!」
重秀は伝令が行ったのを確認すると、直ぐに俺に目を移した。
「どうやら、お主は未来人という事で間違いなさそうじゃのう」
「やっと信用してくれたか・・・」
「まぁ最初は半信半疑じゃったがのう。ところでお主、わしに仕えぬか?」
重秀は真剣な眼差しで俺に聞いてきた。
(まぁ、確かに今のままだとそこらへんで野垂れ死ぬのが決まってるしなぁ・・・)
俺は、そんな事を考えるとこの人に仕官するのが今は最善の方法なのではないかと考えた。
「分かりました。これから丹羽昌秀、長門重秀殿にご奉公させて頂きまする」
「そのような堅苦しい挨拶は良い。それより、今の状況を説明するとしよう」
その後、早速重秀から今の国の状況を説明された。
ここは、美濃と近江の国境境の国、長津の国。・・・全然聞いた事の無い国である。
そして、俺が所属している長門家は斉藤家の庇護を受けているとの事だった。
現在、長門家と近江の浅井家は敵対関係になっており、度々先程のような小さな戦があったりするそうだ。ちなみに織田とも仲が悪いらしい・・・
「さて、お主は武芸は出来るのかの?」
「いやぁ、本当に基礎中の基礎しか出来ない状態です」
「「・・・・・」」
そこで二人はしばしの沈黙が続く。
「何と!? 未来の日ノ本の男児は武芸も出来んのか!? それはいかん。永重!」
「父上、お呼びしましたでしょうか?」
普通に入ればいいのに長門永重は襖を壊して入ってきた。
「おおいっ!? 普通に入って来いよ! 普通に!!」
「何じゃ、兄に向かってその口の訊き方は!?」
「誰が兄だ、誰が・・・」
「む、そうじゃそうじゃ。お主、今日から丹羽姓を改めわしらの長門姓を名乗るが良い」
「何で俺が・・・」
「よいのかぁ? 長門姓はここらでは結構便利じゃぞ、それに丹羽姓のお主が他の家臣に知ったら」
「・・・分かった、分かったから」
丹羽姓の場合、織田を毛嫌いしているここの家臣どもは俺を殺そうとするのではないか・・・
そう考えると全身から血の気が引いた。
「とりあえずお主は、これから軍略、武芸、政治すべてを学んでもらうからな。担当は、軍略をわし、武芸は永重、政治、外交などは義重に任せるとしよう」
「お、おい・・・一体何を言って、ぐふぅ!?」
喋る前に、永重が俺の鳩尾にアッパーをかました。
またも、痛みで気絶する俺・・・
「弱いのう・・・よく、これで先の小競り合いを生き延びたもんじゃ」
「しかし永重、これでもこやつ、五人ほどの兵を倒しておるからのう。見込みはあると思うぞ?」
「そうですか・・・では父上、早速修行に行ってまいります」
「うむ、気をつけるのじゃぞ」
重秀は昌秀を抱えて走り去ってゆく永重を温かい目で見送った。
「どうしたぁ!? もう終わりか?」
「くっそ・・・」
永重との修行が始まり、早二週間。槍の修行から始まり、弓、剣と来て最後の長刀の訓練に入っている事だった。
永重は、練習用の長刀をいとも容易く操り、俺の攻撃をいなしていた。
「ぜぇ、ぜぇ・・・全然当たらない」
「まだまだ未熟じゃ!!」
「ぐっ・・・」
永重が放った突きを俺は、長刀で薙ぎ払おうとすると永重は咄嗟に長刀を構えなおし、新たに薙ぎ払いを繰り出す。それを防ぎきれずまともに喰らってのびる俺。それを呆れ顔で見る永重。
「全く、お主長刀は全然じゃのう・・・」
「ほっとけ、俺には槍があっからいいんだよ」
「たわけ!! 戦場では、槍だけに頼る事は出来んのじゃぞ!! もっと真面目にやらんか!」
「か、勘弁してくれぇぇぇぇぇ!!」
親父・・・・俺、あんたの言う事ちゃんと聞いとけば良かったって思ったの生まれて初めてかもしんない。
次回も修行編を書きたいと思っています。
今回は修行編が少なくてスイマセン。