戦国生活日記   作:武士道

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ども、武士道です。
最近、推理モノにはまってます(笑)


笹の才蔵 槍の勘辺衛

 長秀達率いる織田勢が近江の国境付近を抜けると、見慣れた三つ蜻蛉の旗印が緩やかになびいていた。数はざっと見て千程である。

 

「何故、長門の軍勢がこんな所に……? まさか織田の足止めのために? ……三十点」

 

「安心しろ長秀。あれは足止めのための軍じゃない」

 

 昌秀が長門軍を指差すと、長い黒髪を風で揺らしながら一人の少女が軍勢の中から現れた。

 その姿を見て昌秀が笑う。

 

「昌秀様っ!! 言われたとおりに千の軍勢を率いてきましたよっ!!」

 

「おぉ! ありがとうなっ! とりあえずお前らは、そのまま京へ向かってくれっ! 俺もすぐに追いつくっ!」

 

「はいっ! どうかご無事でっ!」

 

 且元はそう返事すると、軍に指示を飛ばして進軍を開始した。

 且元率いる霧生勢が通り過ぎるのを長秀達はポカンと見ていた。

 

「昌秀……どういうことですか?」

 

「嫌な予感がするんだ。もしかしたら、良晴の奴が危ないのかもしれない」

 

「……分かりました。その代わり、私もついていきます」

 

「は? 勝家に軍を任せんのか? 大丈夫かよ?」

 

「ご安心を。道三殿もおりますから簡単にはやられません。それに、私達が一刻も早く京から敵を一掃すればいい話です」

 

「……難しい任務だな」

 

「お使い程度の働きで済むと思ってたんですか?」

 

「まさか」

 

 二人は顔を見合わせるとクスクスと笑って、馬を反転させて京へと急いだ。

 

 

 

 

「状況は?」

 

「殿の言うとおりでした。やはり、松永勢が京へ侵入しています」

 

「まさか本当に来るとは……二十一点」

 

 昌秀達は京へ入る前に軍儀を開いていた。

 話し合っている最中、どうも且元がモジモジと動いているのが気になった。

 

「且元、どうしたんだモジモジして」

 

「今話す時では無いのですが……実は、昌秀様にお会いしたいと言う人物が二人いまして……」

 

「何だこんな時に……? どこの誰だ?」

 

 昌秀が不満げに陣幕を抜けると、編み笠を被った二人の人物が頭を下げていた。

 

「「この度はお会い出来、恐悦至極でございます」」

 

「堅苦しい挨拶は抜きだ。それで、何の用だ?」

 

 二人は顔を見合わせると、黙って頷き編み笠を外した。

 一人は黒髪短髪、真っ黒な甲冑を纏った女で、もう一人は背中に笹を背負った青年である。

 

「名前は?」

 

「……渡辺勘辺衛」

 

「某は可児吉長と申します。最近は皆から笹の才蔵と呼ばれおります」

 

 渡辺勘辺衛って確か、高虎から奉公構を出された奴だよな? でも、かなりの槍の名手だったはずだ。

 こっちの可児吉長もとい、才蔵は美濃の出で高虎と同じように主君をコロコロ変えているので有名な奴だ。こちらもかなりの槍の使い手だったような気がする。

 

 昌秀は二人の目を見つめる。

 

 ―――――――眩しい位澄んだ目だ。

 

 昌秀は二人の目を見ながらそう思った。

 思えばこの二人は始めてあった高虎と似ているかもしれない、と昌秀はフッと笑った。

 すると、勘辺衛が恐る恐る話しかけてきた。

 

「……あの」

 

「何だ?」

 

「……何か可笑しい事でも?」

 

「あぁ、いや……」

 

 昌秀はバツが悪そうに手を振ると、勘辺衛の隣にいる才蔵がクスリと笑った。

 

「勘辺衛、昌秀殿は思ったより悪いお人ではなかったようだな?」

 

「……」

 

 勘辺衛が無言で頷く。

 その様子を見て、またも才蔵はクスクスと笑った。

 

「失礼、実は我らは悪名名高い昌秀殿を試しに参ったのです」

 

「悪名名高い……か。まぁ、否定はしないよ」

 

「いやしかし、実際に会って見ると存外、もう一つの噂の方が当たりだったのかもしれないですね」

 

「もう一つの噂? 何だそりゃ?」

 

「それは昌秀殿が、『長津の謀将』ではなく、実は長津で一番優しい領主なのではないかと言う噂です」

 

「……優しい領主、ね」

 

「昌秀殿は、瀬名城の攻略の際や長門家の宮部継潤殿を謀にかけています。しかし昌秀殿は、謀略の限りを尽くしたにも関わらず霧生の民に慕われております。そんな人物が、心底謀が好きとは思えません」

 

「……お前は一つ勘違いしているな」

 

「は……?」

 

「確かに謀は好きとは言えない。だが俺は、大事な物を守るためなら何だってするだけだ。大事な物の為なら、俺は仏様だって敵に回すぞ」

 

 昌秀が無表情で呟くと、二人は黙りこんだ。

 

「……まぁそう思われるのは悪くない、かな……」

 

 昌秀はフッと笑い二人に背を向けた。

 

「お前らの目的は分かった。用件は済んだだろ? 俺は軍儀に戻る。達者でな」

 

 手をひらひらさせながらその場を後にしようとすると、黙り込んでいた勘辺衛が何時の間にか昌秀の後ろで昌秀の服を掴んでいた。

 

「……用は済んだ筈だが?」

 

「……仕官」

 

「は……?」

 

「……私、あなたに仕官したい」

 

「禄は少しで領地はやれんぞ。それでもいいのか?」

 

 勘辺衛は無言で頷く。

 後ろから才蔵も追ってきた。

 

「そ、某も昌秀殿に仕官したい。禄もいらん、領地もいらんから昌秀殿の指揮の下で槍働きをしてみたい」

 

 昌秀は最初は断ったが、二人がどうしてもと頼んでくるのでとりあえず自分の側近として雇う事にした。

 軍儀の場に連れて行くと、初めは高虎達は反対したが昌秀の説得のお陰で一先ずは納得してくれたようだった。

 

 

 翌朝、昌秀達は槍の名手として知られる。

 槍の勘辺衛こと渡辺勘辺衛と、笹の才蔵こと可児才蔵を仲間に加え京へと進軍を再開した。

 

 


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