戦国生活日記   作:武士道

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久々の更新です。
温かい目で見ていただけると助かります。


怪しい客人

「うへぇ……話には聞いていたが、これは酷いな」

 

「これは再建には時間がかかりそうですね。三十点」

 

「しかし将軍を襲うとは、松永久秀も恐れ多い事をしたものです」

 

 昌秀達は二条御所の下見に来たのだが、現在見ている二条御所は下見する必要など無い位に焼け落ちてしまっており、昌秀が見ても再建にはかなりの時間がかかると分かった。

 

「それでは下見も終わりましたし、早速報告に向かいましょうか」

 

「そうだな」

 

 昌秀が頷いて早速信奈達がいる東寺に向かおうと足を伸ばすと、長秀が昌秀の袖を引っ張った。

 

「……何だよ?」

 

「先程会ったのは、関白近衛前久ですよね? どうやら貴方を見て怒っていた様に見えたのは私の目の錯覚でしょうか?」

 

「前に言ったろ? ちょっとした問題があったって」

 

「もしやそれは、関白様と一悶着起こしたと?」

 

「……う~ん、まぁそうだな」

 

 昌秀が少し考えて答えると、長秀の平手打ちが昌秀の頬にヒットした。

 

「痛ってぇ!? 何すんだよっ!」

 

「ただでさえ京の公家衆から織田家は嫌われていると言うのに、よりにもよって関白と一悶着起こすとは何を考えてるんですかっ!?」

 

「……それについてはスマン」

 

「はぁ……まぁいいでしょう。今さら評判が下がった所で、今と大して変わらないですしね」

 

「ぜぇ……ぜぇ……そちたち、麻呂を無視するとはいい度胸でごじゃるなっ!」

 

「何だ、追ってきたのか……?」

 

「当たり前でごじゃる。あんなに綺麗に無視されて黙っているわけないでごじゃるっ!」

 

「はいはい。長秀、高虎、先に行っててくれ」

 

「……分かりました。それでは昌秀、失礼の無いように」

 

「殿、ご武運をっ!」

 

 長秀達を手を振りながら見送ると、昌秀はハァと溜め息をついた。

 

「失礼の無いように……か」

 

 チラリと関白様の方に目をやると、どうやら相当お怒りのようである。

 眉間に皺をよせ、額にうっすらと青筋が立っていて、今にも斬りかかってきそうだ。

 

「ふふふ……ここまで無視されたのは、生まれて初めてでごじゃる」

 

「そうかい。人生何事も経験から始まるっていうしな。いい経験になったんじゃないか?」

 

 その瞬間、二条御所跡地にプツンと何かが切れた音がした。

 

「き、貴様ぁ……」

 

「……それは宣戦布告と見ていいのかな?」

 

 関白の手には何処から取り出したのか、一本の日本刀が抜かれていた。

 

「一度ならず二度までも、麻呂を侮辱しおって……許せぬでおじゃるっ!」

 

 昌秀は軽く深呼吸をすると一つの結論に至った。

 ……うん、面倒くさいな。よし、逃げようと。

 そう確信した昌秀はダッシュでその場から逃げた。

 

「ま、待つでおじゃる!!」

 

 関白が後ろから追ってくるが気にしない。

 途中、突き当りの曲がり角を曲がる途中、丁度いい木の枝を見つけ引っ張って角で待機した。

 そして関白が角に迫ってくるのを見計らい、引っ張っておいた木の枝を放した。

 すると、鞭のようにしなった木の枝は関白の顔面に勢い良くヒットした。

 ギャフッ!? という声と供に倒れた関白を確認した昌秀は長秀達が待つ東寺へと向かった。

 

 

 

「あら、昌秀じゃない。遅かったわね。何かあったのかしら?」

 

「まぁ、関白様と色々とな……」

 

「あんたもあのお歯黒と何かやらかしたの? まったく、サルといいあんたといい、どうして厄介事を増やすのかしらね」

 

「その点については長秀に耳にタコが出来るほど聞いたよ」

 

「……まぁいいわ。とりあえず座りなさいよ」

 

「遠慮なくそうさせてもらう」

 

 昌秀は長秀の隣に静かに座ると、長秀が低い声で話しかけてきた。

 

「昌秀、どうやって撒いて来たのですか? まさか手を出したわけでは……」

 

「安心しろ。手は出してない」

 

「なら良いのですが……」

 

「木の枝なら思い切りぶつけてやったがな」

 

「……馬鹿」

 

 

 

 

 その夜、昌秀の部屋に一人の来客があった。

 高虎が言うにかなり怪しい奴らしい。

 しかし、自分が送っていた間者かもしれないのでとりあえず通すようにした。

 

「失礼します」

 

「入れ」

 

 襖が開かれ高虎の言う怪しい奴が部屋に入ってきた。

 成る程、確かに怪しい…………

 白いフードを被っていて、顔が良く見えない。赤い袴を見るに巫女さんであると予想した。

 

「あの、此度は長門昌秀様に拝謁できて執着至極でございます」

 

 敬語に慣れていないのか、所々つまずく喋り方に昌秀はちょっとだけ好感を覚えた。

 

「いや、敬語はよしてくれ。俺は長門家を出奔した身だからな」

 

「そう……ですか。それでは……」

 

 巫女さんはゆっくりと顔を上げると、急に立ち上がった。

 その手にはキラリと光る刃物が一つ。

 

「……はい?」

 

「殿っ!」

 

 高虎が慌てて巫女を押さえようとするが、巫女が刃物を振り下ろす方が早かった。

 


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